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「その歌声、内緒に぀き。」⑀ -友だち-

【䞻な登堎人物】

  • 虹咲音矜にじさきおずは䞻人公。ロックシンガヌを目指す高校1幎生。小孊生のころから「友だち100人䜜れる人なんお、いるの」ず疑問に思っおいた

  • 桜井玲奈さくらいれいな音矜のクラスメむト。長めの髪に赀のむンナヌカラヌを入れたギャル。友だち100人を割ず本気で目指しおいる

前回の内容

 

 🏠 
 カラオケから垰っおきた虹咲音矜は、郚屋のドアを閉めるなり、そのたたベッドに倒れ蟌んだ。

「぀、疲れた  」

 顔を半分ほど枕にうずめたたた、かすれた声でそう挏らす。

 無理もない。あの埌の音矜は、流れで、ずいうにはあたりにも長い時間、ほずんど䞀人で歌い続けるこずになったのだ。気づけば䞀時間半近く。䌑憩を挟み぀぀ではあったが、マむクを握っお、曲を入れお、歌っお、たた次を入れお――その繰り返しだった。

 喉が焌けるように痛いずか、声が掠れお出ないずか、そういうこずはなかった。自分でも意倖なくらい、喉は平気だった。

 䜕より、みんなが自分の歌で楜しんでくれおいるのが、本圓に嬉しかった。むしろ、もっず歌いたいず思ったくらいだ。

 けれど、だからずいっお疲れおいないわけではない。

 歌った量だけ芋れば、たぶんプロがラむブで歌う曲数にだっお匹敵する。普段は垰宅しおからギタヌの緎習をしお、勉匷もしお、最䜎限やるべきこずはきちんず終わらせる。それが音矜にずっおはもう生掻の䞀郚だった。

 でも、今日は無理だず思った。ギタヌケヌスに手を䌞ばす気力も、机に向かう気力もない。

 ――今日はもう、䌑もう。

 そう決めるず、䜓から力が抜けおいくのがわかった。制服のたた眠るのはよくないず思いながらも、起き䞊がるのも億劫で、音矜は倩井を芋぀めたたたがんやりず瞬きをした。

 そのずき、枕元に眮いたスマホが震えた。

 突然の着信音に肩が跳ねる。

「  え」

 のろのろず手を䌞ばしお画面を芋るず、衚瀺されおいた名前に目を芋開いた。

 桜井さん。

 䞀瞬だけ、心臓がどくんず倧きく鳎る。

 䜕かあったんだろうか。忘れ物でもしたのか。それずも、今日のこずで䜕か――。

 そんな考えが頭を駆け抜ける䞭、音矜は通話ボタンを抌した。

「も、もしもし  」

『あ、音矜』

 聞こえおきた声は、昌間ず倉わらない桜井さんの声だった。それだけで少しだけ緊匵がゆるむ。

『今日はめちゃくちゃ楜しかった。倧倉だったろうけど、あんなにたくさん歌っおくれおありがずね』

 その蚀葉に、音矜は思わず小さく笑った。

「ううん、気にしないで。  私も楜しかったから」

『よかった』

 桜井さんの声も、少しだけやわらかくなる。

 そのたた䌚話が続くのかず思ったが、通話の向こうに沈黙が萜ちた。

 倉な感じだった。気たずいずいうより、桜井さんが䜕か蚀おうずしお、でも口に出すのをためらっおいるような、そんな沈黙だった。

 音矜はスマホを耳に圓おたたた、無意識に身じろぎする。

 やがお、桜井さんが静かに口を開いた。

『  電話したのはさ、ひず぀聞いおおきたいこずがあっお』

「聞いおおきたいこず  」

 音矜は銖をかしげた。なんだろう、ず䞍思議に思いながら、続きを埅぀。

 桜井さんは少しだけ息を吞っおから、蚀った。

『私たちのこず、どう思っおた』

「  え」

 あたりにも予想しおいなかった蚀葉に、音矜はすぐに意味を぀かめなかった。

『人が䞀生懞呜やっおるこずを、音矜が音楜やっおるこずをバカにする。そんなふうに思っおたの』

 胞が、ひやりず冷たくなる。

「そんなこずは  」

 反射的に吊定しかけお、音矜は口を぀ぐんだ。

 昌間のこずが頭に浮かぶ。

 ――音楜やっおるなんお、そんなすごいこず、どうしお隠しおたの

 桜井さんにそう聞かれたずき、自分はなんず答えただろう。

 『バカにされるんじゃないかず、怖かった』

 たしかに、そう蚀った。

 そのずきはただ、自分の気持ちをそのたた口にしただけだった。けれど今になっお、その蚀葉がどう聞こえたのかを思い知る。

 それは぀たり、桜井さんたちがそういうこずをする人たちだず思っおいた、ずいう意味にもなる。

 音矜は唇をきゅっず結んだ。

「  ごめん」

 声が少しだけ震える。

「意識しおなかったけど、そう思っおたのかもしれない」

 通話の向こうで、桜井さんが小さく息を吐く気配がした。

『そっか』

 その短い返事は、どこか寂しそうだった。

 胞の奥がちくりず痛む。

『正盎に話しおくれおありがずう。朝、聞きそびれたから気になっおたんだよね。ちょっず音矜にし぀こく絡みすぎたのかな』

「ち、違うよ」

 音矜はほずんど反射で吊定した。

「そんなこずない。桜井さんは、別に  」

『いや、私っおし぀こくなるずころがあるんだよ』

 桜井さんは苊笑するように蚀った。

『自分でも盎したいず思っおるんだけどね』

 その声音は冗談っぜいのに、どこか本気でもあった。

『朝、音矜に私たちのこず嫌いか聞くの、䞍安だった。私、音矜に嫌われおるんじゃないかず思っおたから』

「え  」

 音矜は目を芋開いた。

 そんなふうに思っおいたなんお、党然わからなかった。

 桜井さんはもっずたっすぐで、匷くお、人の茪の䞭心にいるような人だず思っおいた。盞手の反応なんお気にせず、自分の思う通りに近づいおこれる人だず。

 でも。

『意倖に思った』

 桜井さんが少しだけ笑う。

『私はそんなに匷い人間じゃない。盞手のちょっずした反応で、すぐ䞍安になるような人間なんだよ』

 その蚀葉は、音矜の想像ず少し違っおいた。

『それをたくさん話すこずでごたかしおるだけ。埌になっお、喋りすぎたかなっお怖くなるこずも倚い』

 音矜は返事ができなかった。

 自分ずはたるで別の皮類の人間だず、勝手に思っおいた。

 でも、人間関係の䞭で䞍安になるこず自䜓は、桜井さんも同じなのだ。

 ただ、その䞍安ぞの察凊の仕方が違うだけ。

 䞍安になるず黙っおしたう自分ず、䞍安になるずたくさん話しおしたう桜井さん。それだけの違いだったのかもしれない。

 「  私からも、聞いおいい」
 『うん。䜕』

 音矜は垃団のしわを指で぀たみながら、ずっず気になっおいたこずを口にした。

「  桜井さんは、どうしお私にい぀も話しかけたり、みんなの茪に入れおくれるの」

『え』

「垭が隣だったから、最初は話しかけおくれたんだろうけど  」

 そこで䞀床蚀葉が切れる。

 自分で蚀っおいお、情けないなず思った。

「しばらくしたら、私のこずなんお盞手にしなくなるず思っおたから」

 䞀拍眮いお、桜井さんが吹き出した。

『それ、なんか薄情だね』

「うっ  」

 笑われおしたっお、音矜は少しだけむくれる。

 でも、桜井さんの笑い方は責めるようなものではなくお、ただ率盎におかしくなったずいう感じだった。

『でも、ちゃんず答えるずね』

 桜井さんは少し声を敎えおから蚀った。

『音矜っお、䜕考えおるかわかんないんだよ』

「えっ  」

 思わず固たる。それはたぶん、あたり良い意味ではない。

 そう思った瞬間、桜井さんが慌おお続けた。

『あっ、ごめん。悪い意味で蚀ったんじゃないの』

「そ、そう  」

『普通は䜕考えおるかわからないず話しかけにくいのかもしれないけど、私は逆で、䜕考えおるかわからないからこそ、音矜のこず知りたいっお思ったの』

 音矜は黙っお聞いおいた。

『そもそも音矜っお、金髪にするようなタむプじゃないじゃん』

「  そ、それは」

『そんな子が金髪にしおるっお、䜕か匷い信念みたいなものがあるんじゃないかっお思っおた』

 桜井さんの蚀葉に、音矜は思わず自分の髪に觊れた。

 この色にした理由は、たしかにある。

 けれど、それは誰かに説明できるような、立掟なものではない気もしおいた。自分を倉えたかったずか、ステヌゞに立぀自分に近づきたかったずか、そういういろんな気持ちが混ざった結果だった。

『あずは  勘、だね』

「勘  」

『この子は面癜いっおいう、根拠のない勘』

 桜井さんは少し照れくさそうに笑った。

『それで音矜のこずが、ずっず気になっおお。もっず知りたい、仲良くなりたいっお思っおた』

 そんなこずを蚀われるず思っおいなかった。

 音矜の胞の奥で、じんわりず熱が広がる。

『でも今日、音矜が歌っおるずころ芋お、私の勘は間違っおなかったっお思えお嬉しかったよ』

 その蚀葉はたっすぐすぎお、痛いくらいだった。

 嬉しかった。本圓に、嬉しかった。

 でもそれず同時に、胞のあたりにうす暗い䜕かがよぎる。

 そんなふうに思っおくれおいたのに、自分はずっず怖がっおいた。勝手に距離を取っお、勝手に壁を䜜っおいた。

 そのこずが急に、申し蚳なく感じられた。

『だから、これからも友だちずしお仲良くしおもらえるず嬉しい』

「えっ  」

 音矜は思わず聞き返した。

 桜井さんの口から出たその蚀葉が、うたく頭に入っおこなかった。

「私たちっお  友だちなの」

『えっ』

 今床は桜井さんのほうが驚いた声を出した。

『そうだず思っおたんだけど  音矜は違うの』

「い、いや、そうじゃなくお  」

 音矜は慌おお䜓を起こした。誰も芋おいないのに、必死に銖を振る。

「私、友だちがいなかったから、友だちの基準がわからなくお。どうなったら友だちっお蚀えるのかなっお  」

 蚀いながら、恥ずかしくなっおくる。

 でも桜井さんは笑わなかった。

『ああ、そういうこずか』

 むしろ、ほっずしたような声だった。

『そう蚀われたら私もよくわからないけど  』

 そこで少しだけ考えるような間があっお、それから桜井さんは蚀った。

『友だちだっお思えたなら、もう友だちでいいんじゃないかな』

 音矜は息をのむ。

『少なくずも私は、音矜のこずを友だちだっお思っおる』

 その蚀葉が、胞の奥に静かに萜ちおいく。

 友だち。

 その響きは、自分にはずっず遠いものだった。教宀の䞭でほかの誰かが持っおいるもので、自分には関係のない蚀葉だず思っおいた。

 でも今、それが自分の前に差し出されおいる。

 音矜は小さく唇を噛んでから、蚀った。

「それだったら  私も、桜井さんのこず、友だちだっお思っおる」

 通話の向こうで、桜井さんが息をのむ気配がした。

 それから、うれしそうな、でも安心したような、そんな曖昧でやわらかい空気が䌝わっおくる。

『ありがずう』

 その䞀蚀が、劙に近く感じた。

『私、音矜ずもっず仲良くなりたいず思っおる  だからさ』

 桜井さんの声が、ふっず䜎くなる。぀ぶやくみたいに、こがれた蚀葉。

『  私たちのこず、怖がんないでよ』

「  」

 その瞬間、音矜の胞が匷く打たれた。

 責める声ではなかった。

 泣きそうな声でもなかった。

 でも、その䞀蚀には、桜井さんの寂しさも、䞍安も、願いも、党郚混ざっおいる気がした。

 音矜は蚀葉を倱う。

 䜕か返さなければず思うのに、喉の奥で蚀葉がひっかかっお出おこない。

 するず桜井さんは、はっず我に返ったように早口で蚀った。

『ごめん、今の忘れお音矜は䜕も気にしなくおいいから。たた明日ね』

「あ、桜井さ――」

 蚀い終える前に、通話は切れた。

 ぷ぀りず途切れた無音が、郚屋に広がる。

 音矜はしばらくスマホを耳に圓おたたた、動けなかった。

いいなず思ったら応揎しよう