食べないのに痩せない。我慢してる人へ
近所でカフェを営む店主は、60代の栄養士だ。
常連として通ううちに、栄養士という共通点もあってか、よく話すようになった。
彼女の悩みは、何をしても痩せられないこと。
健康診断では毎年、栄養指導の対象になる。
けれど、受けない。
栄養士だから、指導の内容は大体わかっている。わかっているから、受けない。
彼女の食事を聞いてみると、こうだった。
太らないように、油は調理のごま油だけ。
バターもチーズも生クリームも避けている。
お昼は忙しくて、店内のパンをつまむか、食べる時間すらなく抜く。
そして帰宅後、どか食いになる。
あるいは「食べると太る」と思って、そのまま抜いてしまう。
深刻だったのは、義母へのストレスもあったこと。
健康診断ではずっと「体重を落として」と言われ続けている。
それでも、落ちない。
なぜ、「知っている」はずなのに、変えられないのか。
油を減らすことは、本当に正解なのだろうか。
まず気になったのは、油を極端に控えていることだった。
主食を減らすと、相対的におかずの割合が増える。
おかずが増えると、実は食事全体に占める脂質の割合はむしろ増えてしまう。
「油を控えているつもり」が、逆の結果を生んでいることがある。
もうひとつは、夜を抜くこと。
夜食べずに朝まで長時間あくと、睡眠の質が下がりやすい。
そして朝食後、血糖値が上がりやすくなる。
「食べない」ことが、体にとっては別の負担になっていた。
そこで、資料にまとめて渡した。
伝えたかったのはひとつ。
ごはんは、食べても太らない。
コツがある。
よく噛んで、口の中で甘く感じられるくらい、ドロドロの状態にすること。
次の食事の前に、適度な空腹感があること。
おかずは、多くなりすぎないこと。
彼女はそれから、試してみたそうだ。
歩くことも、あわせて始めた。
しばらく経った頃、こう聞いた。
「ヨガをやる時に、お腹が苦しくないの」
体重も、落ちていた。
あんなに落ちなかったのに、数字が動いた。
急激にではない。じわじわと。
代謝を落とさないためには、その「じわじわ」が大事なのだと思う。
そして今では、甘いものがあまり欲しくなくなったという。
我慢しているわけではない。
楽しみとして、時々食べている。
「食べても太らないんだね」
彼女がそう言った時、伝えたかったことが、行動に変わったのだとわかった。
栄養士という専門知識を持つ彼女ですら、「知っている」と「体でわかる」は別のものだった。
理屈で説明するだけでは、人は動かない。
けれど、理屈と、寄り添う声かけが揃った時、体は少しずつ応えてくれる。
血糖値が安定すると、甘いものへの欲求すら変わってくる。
これは、意志の強さの話ではなかった。
何より一回り顔が小さくなり、食を楽しんでいる姿が嬉しい。
さと🫧
