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【第2話】『古事記』の神々と日本人|神話を「歴史」と混同しないために

前回は、『古事記』よりも前の時代へ遡り、日本人の「祈り」の原型について考えました。

山。
海。
水。
火。
土地。
季節。

そして、人間の力では完全に制御できない自然。

そうしたものと向き合う中で、人は特定の場所に意味を見いだし、祭祀を行い、やがて「祈り」を積み重ねていったのではないか。

第1話では、

祈りとは、人間と自然、人間と土地、人間と見えない存在との「関係を結ぶ行為」だったのではないか

という仮説を置きました。

では、その「見えない存在」は、いつから名前を持ち、物語を持つようになったのでしょうか。

今回のテーマは、

『古事記』の神々

です。

712年、『古事記』が成立する

『古事記』は、和銅5年、西暦712年に成立したとされる書物です。

天武天皇の命によって稗田阿礼が誦習していた帝紀・旧辞を、元明天皇の命を受けた太安万侶が撰録したものとされています。

『古事記』は、

  • 上巻

  • 中巻

  • 下巻

の三巻から構成されています。

特に上巻には、

天地の始まり。
伊耶那岐神と伊耶那美神。
国生み。
神生み。
黄泉国。
天照大御神。
須佐之男命。
天岩戸。
八俣大蛇。
大国主神。
国譲り。
天孫降臨。

といった、日本神話の中心的な物語がまとめられています。

【史実・資料】『古事記』は「神話だけの本」ではない

『古事記』というと、

「日本の神話が書かれた本」

というイメージが強いかもしれません。

しかし、『古事記』は神話集だけではありません。

天皇の系譜や伝承、歌謡なども含み、日本の古代社会が自らの起源や秩序をどのように説明しようとしたのかを考える重要な史料です。

一方で、注意しなければならない点があります。

『古事記』に書かれている神話を、そのまま歴史的事実として扱うことはできません。

だからといって、

「神話だから価値がない」

ということでもありません。

ここが、このシリーズで非常に大切にしたい部分です。

神話は「事実か、嘘か」の二択ではない

神話を読むとき、

「本当にあったのか?」

という問いがまず浮かぶかもしれません。

しかし、もう一つ重要な問いがあります。

なぜ、この物語が語られたのか。

です。

人々はなぜ、天地の始まりを物語にしたのでしょう。

なぜ国土を「生まれたもの」として語ったのでしょう。

なぜ太陽に関係する天照大御神が重要な位置を占めるのでしょう。

なぜ須佐之男命は荒々しさと英雄性の両方を持つのでしょう。

なぜ大国主神には、国作りと国譲りの物語があるのでしょう。

そこには、

世界はどのようにできたのか。
自分たちはどこから来たのか。
この土地は誰のものなのか。
なぜ今の秩序が存在するのか。

という、人間社会にとって根本的な問いがあります。

伊耶那岐神と伊耶那美神――「国を生む」という物語

『古事記』では、伊耶那岐神と伊耶那美神が天つ神から国土を整えるよう命じられます。

二神は天の沼矛を用いて海をかき混ぜ、その矛から滴った塩からオノゴロ島ができたと語られます。

その後、二神は国々を生み、さらに多くの神々を生んでいきます。

もちろん、これは地質学的な日本列島形成の説明ではありません。

しかし、非常に興味深いことがあります。

日本の国土が、

ただ「そこにある」ものではなく、「生まれたもの」として語られている

という点です。

土地に生命的な物語を与えているのです。

【独自考察】土地を「生きた存在」として見る感覚

ここからは、『祈りの日本列島』独自の考察です。

第1話では、

聖地があるから祈ったのではなく、祈りが重なった場所が聖地になったのではないか

という仮説を置きました。

今回『古事記』を見ると、さらに一段深い視点が見えてきます。

日本列島そのものが、

「生まれた土地」

として物語化されています。

もし土地を単なる物理的空間としてではなく、

生まれ、
名前を持ち、
神と関係し、
物語を持つものとして捉えるなら、

そこには自然と、

土地への敬意

が生まれやすくなります。

天照大御神と「光」

伊耶那岐神が黄泉国から戻り、禊を行う場面から、天照大御神、月読命、須佐之男命という三柱が生まれます。

天岩戸の物語では、天照大御神が岩屋に隠れることで世界が暗くなり、神々が集まって再び外へ出てもらうための儀礼を行います。

ここには、

光が失われることへの恐れ

と、

光を取り戻すために共同体が行動すること

が物語として描かれています。

須佐之男命――「荒ぶる神」は悪なのか

須佐之男命は、『古事記』の中でも非常に複雑な存在です。

高天原では荒々しい行為を行い、天照大御神との対立を生みます。

一方、地上へ降った後には、八俣大蛇を退治し、奇稲田比売を救う英雄として描かれます。

つまり、

荒々しい=悪

という単純な構造ではありません。

破壊する側面。
秩序を乱す側面。
そして、怪物を倒し、新たな秩序を生み出す側面。

複数の性格が一柱の神の中にあります。

大国主神――土地を「つくる神」

そして、『祈りの日本列島』で今後非常に重要になるのが、

大国主神

です。

大穴牟遅神は、兄弟神たちから迫害を受け、須佐之男命がいる根の堅州国へ向かいます。

須佐之男命から多くの試練を与えられますが、須勢理毘売の助けを受けて切り抜け、最終的に須佐之男命から認められ、大国主神として国作りを進めていきます。

ここで重要なのは、

土地をつくる

という行為です。

人が暮らす場所。
秩序。
神々との関係。
土地の所有や統治。

そうしたものを含む「国作り」の物語として読むことができます。

神々の物語は「土地の説明書」でもあったのではないか

ここで、このシリーズ独自の視点を一つ加えます。

神話には、神々の性格や物語だけではなく、

場所

が頻繁に登場します。

高天原。
出雲。
根の堅州国。
黄泉国。
三輪山。
海。
山。
川。
国。

これらは単なる背景ではありません。

神々の行動と場所が結びついています。

つまり、

「この土地には、なぜ意味があるのか」

を物語によって説明している側面があります。

【独自仮説】神話は「意味の地図」だったのではないか

ここで第2話の仮説を置きます。

> 神話とは、世界の始まりを説明する物語であると同時に、人間・神・土地・秩序の関係を可視化する「意味の地図」だったのではないか。

現代の地図には、

道路。
山。
川。
県境。
住所。

が書かれています。

しかし神話の地図には、

どこに神がいるのか。
どの土地にどんな物語があるのか。
誰がその土地を治めるのか。
どの場所が特別なのか。

という意味が刻まれています。

「地図に線を引く」前に、「物語の線」を見る

これから『祈りの日本列島』では、

鎌倉。
浅草。
江戸。
日光。
京都。
四国。
出雲。

など、実際の場所を地図上で扱っていきます。

しかし、いきなり地図に線を引いて、

「ここに結界がある」

とはしません。

その前に見るべきものがあります。

その場所と、別の場所を結ぶ物語や人物が存在するか。

です。

六層分析で『古事記』を見る

今回も、

源・地・方・時・人・祈

の六層で考えてみます。


神々の物語は、どのような古い伝承から形成されたのか。


なぜ、その物語はその土地と結びついたのか。


方角や天・地・海などの空間認識に意味はあるのか。


なぜ8世紀初頭に『古事記』としてまとめられたのか。


誰が編纂を命じ、誰が伝承し、誰が記録したのか。


その神々に、人々は何を願ったのか。

神話・歴史・信仰を混ぜない

このシリーズで、今後も徹底したいことがあります。

神話を歴史的事実として断定しない。

しかし同時に、

神話を「作り話だから関係ない」と切り捨てない。

です。

神話。
歴史。
信仰。
伝承。

それぞれは異なります。

しかし、人間の社会では互いに影響し合っています。

ある神話が土地の意味をつくり、

その土地に神社が建ち、

そこで何百年も祭りが続けば、

その神話は現実の社会や景観にも影響を与えることになります。

「物語」が土地を聖地にする

第1話では、

祈りが重なった場所が聖地になったのではないか

と考えました。

第2話では、そこへもう一つ加えます。

物語が重なった場所も、聖地になっていく。

祈り。
物語。
人。
時間。

これらが重なる。

すると単なる土地が、

「意味のある場所」

へ変わります。

ここから、



が生まれます。

【今回の仮説】

第2話の仮説は、こうです。

> 日本の聖地をつくったものは、地形だけでも、宗教だけでもなく、「祈り」と「物語」の積み重なりだったのではないか。

そして神話は、

> 日本人が世界・土地・人・神の関係を理解するための「意味の地図」だったのではないか。

この二つの仮説を持って、次へ進みます。

次回|海の向こうから「仏」がやってくる

ここまで見てきた世界は、

日本の神々を中心とした世界でした。

しかし、日本の祈りの歴史に大きな転換点が訪れます。

仏教伝来です。

日本にはすでに神々への信仰がありました。

そこへ、

仏。
菩薩。
経典。
寺院。
僧侶。

という、まったく異なる宗教文化が入ってきます。

次回、

第3話「仏教はなぜ日本に受け入れられたのか|海を渡ってきた新しい祈り」

へ続きます。

参考資料・出典

  • 國學院大學 古典文化学事業『古事記』あらすじ・本文データベース

  • 國學院大學 古典文化学事業 神名データベース

  • 国立国会図書館 レファレンス協同データベース「古事記は、いつ誰によって作られたのか」

※本記事では、『古事記』本文に記された神話、研究資料から確認できる事項、そして『祈りの日本列島』独自の考察を区別して記載しています。神話上の出来事そのものを歴史的事実として断定するものではありません。

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