🎹【本選編・第9話】「何百時間弾いてもできなかったのに、本番3時間前に“わかった”と言い出した。」—— ピアノ歴3年、12歳の奇跡
本選まで、カウントダウン。
神セブン先生の「耳をひらけ」という処方箋を手に、娘の格闘は続いていました。
けれど、現実はそんなに甘くありません。
毎日、朝から晩までピアノに向かっているのに。
お守りのチョコミントで、なんとか心を繋止めているのに。
音は濁り、指は焦りで空回り。
不調の波は、容赦なく娘を飲み込んでいました。

■ 週末の聖地、グランドピアノスタジオ
そんな娘を横目に、母の私は今年もまた「ある儀式」に勤しんでいました。
仕事の休みを利用して、グランドピアノが弾けるスタジオをハシゴする日々。
そう、今年も盛大に「諭吉」が飛んでいきます。
「グランドピアノの響きじゃないと、耳が育たないから!」
自分に言い聞かせながら、次々と予約ボタンをポチる指。
軽くなっていく財布と、重くなる心。
正直、焦りはありました。
でも、ピアノ歴3年の彼女がここまで来た。
もう結果じゃない。
「ステージに立てばいい」
そう言い聞かせて、ただ娘の背中を見守っていました。

■ 終わらない「音探し」
スタジオに響く、ベートーヴェンとブルグミュラー。
娘は、黙々と鍵盤に向かいます。
先生に言われた
「耳と指をリンクさせる」
それは、答えのない問いのようでした。
どんな音を出したいのか。
その音は、今出ているのか。
一音弾いて、止まる。
また一音。
指を動かすだけじゃ、音楽にならない。
霧の中を、手探りで進むような時間でした。

■ 本選当日、午前中の奇跡
結局、手応えも確信もないまま、本選当日の朝を迎えました。
「ああ、もう楽しんで弾いてくれればいい」
半分諦め、半分祈るような気持ちで見ていた、その時。
本番数時間前。
自宅で最後の音出しをしていた娘が、手を止めました。
「……わかった。」
え?
「できた。今、わかった。」
あんなに霧がかかっていた顔が、一瞬で晴れました。
理想の音と、自分の指が、一本で繋がった瞬間。
音が、変わった。
何百時間の練習でも届かなかったものが、
本番直前に、突然降りてきたのです。

さあ、準備は整いました。
迷走の果てに、自分で光を見つけた12歳の侍。
あとは、その「わかった」を
ステージの上に置いてくるだけ。
母の財布は空っぽですが(笑)
娘の心は、今、満たされています。
いざ、本選の舞台へ。

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