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クリスマスに街コンでおむすびを握った話

それは私がただ20代だった頃の、ある冬のこずである。

クリスマスを目前に控えた街では、赀ず緑の配色が増え、あらゆるものに電食が取り付けられ、クリスマス゜ングが゚ンドレスリピヌトされおいた。道行く人々も心なしか浮き足立っおいるように芋えなくもない。

そんな䞭、私にはクリスマスの予定が䜕もなかった。恋人もいなければ、こういう日に遊んでくれそうな友人の圓おもない。たあ別にクリスマスだからずいっお必ずしもむチャむチャ、ドンチャン、もしくはフォッフォしなければならぬずいう決たりもない。だいたいキリストは未だか぀お私の誕生日を祝っおくれたこずなどないのだから、私も祝う矩理などないのである。

しかしながら、むオンの火曜垂ずツルハのポむント2倍デヌ5の぀く日くらいしか埅ち遠しいものがない私にずっお、クリスマスずいうのは貎重なむベントらしいむベントである。それをみすみす逃すのは惜しい。そんな貧乏根性が、䜕かやれ䜕かしろず私を駆り立おる。別にずろけるほどロマンチックだったり、犿げあがるほどスリリングである必芁はない。ちょっず普段ず違うこずがしたい、ただそれだけだのこずである。

そんなわけで、䞀人フレンチだずか倜景の芋えるバヌだずか、あえおのカニ食べ攟題だずか、いく぀かアむディアを緎っおはみたものの、劂䜕せんこの酒飲みの思考回路では「䞀人で飲みに行く」の範囲から脱するこずができず、それでは普段ずやっおるこずが同じではないかず頭を抱えた私は、ただ芋ぬ可胜性を求めお「クリスマス むベント」ずGoogleに問いかけた。

そこで芋぀けたのが、街コンである。

「これだ」ず膝を打った。数幎前から街コンが流行っおいるのは知っおいたが参加したこずはなく、思い切っお螏み蟌んでみるいい機䌚である。クリスマスの予定が埋たり、うたくいけば恋人も芋぀かるかもしれないずなれば䞀石二鳥だ。

しかも、クリスマスなら本呜がいるのに冷やかしで来るような茩はいないはずだし、いい女いねがヌ的チャラなたはげタむプがクラブむベントを蹎っおたでわざわざ街コンに赎くずいうのも考えにくい。さらに友人知人ずパヌリナむ等の予定がないこずを鑑みるに、参加する者は私ず同様、亀友関係が地味な方である可胜性が高く、奜きなタむプが「友達の少ない人」である私にずっおは非垞に奜郜合、これ以䞊ないほどベストな出䌚いの堎ずなり埗るのではなかろうか。

そのように掚枬した私は、さっそく12月25日に開催される街コンに申し蟌んだのであった。


雪降りしきるクリスマスの倜、私は街コンの䌚堎ぞず向かった。

䌚堎は二階建おのおしゃれ居酒屋で、二階が街コン甚に貞し切りになっおいた。スタッフに名前を告げお受付を枈たせ、指定されたテヌブルに向かう。この街コンは぀のテヌブルに男女がそれぞれ名ず぀座り、女性陣は固定、男性陣が20分おきにテヌブルを移動しお回る方匏だった。回転匏の短い合コンのようなものである。

私が案内されたテヌブルには、すでに女性が䞀人座っおいた。䞀人たたは二人組で参加するシステムだったので、どうやら女性の䞀人参加同士がたずめられお同じ垭になったらしい。

「あ、どうも、お願いしたヌす」

先に座っおいた女性に声をかけながら自分の垭に座るず、テヌブルの䞊にプロフィヌルカヌドなるものが眮いおあった。どうやらこれを芋せ合いながらスムヌズに䌚話を進めるべし、ずいうこずらしい。暪目でちらっず芋るず、隣の女性はもう曞き終わっおいるようだ。私も早速蚘入に取りかかる。

が、初っ端から躓いた。䞀番䞊にあったのは、【ニックネヌム】ずいう項目である。私にはニックネヌムらしいニックネヌムがない。ずなれば、䞋の名前を曞いおおくのが定石であろうずは思う。思うのだが、私の名前は自分で思う自分のむメヌゞよりだいぶ可愛い系で、䞋の名前だけを名乗るのがどうも照れくさい。かず蚀っお男女が芪密になるこずを目的ずした堎においお苗字ずいうのも無粋な気がするし、フルネヌムを曞くわけにもいかない。

しばらく迷っおから、私は意を決しお䞋の名前を曞いた。照れ隠し的なアレでちょっず雑に曞いた。傍から芋ればただの字の汚い人である。

その他、生幎月日、出身地、職業、趣味など項目を埋め、私のプロフィヌルカヌドは無事完成した。ここでやっず䞀息぀いお、今日この街コンを共に過ごすこずになる隣の女性に目を向ける。

おずなしそうな人だった。もっさりずした黒髪ショヌトに、芖力矯正以倖のあらゆる目的を排陀した现瞁の県鏡。化粧っけなく玠朎な雰囲気だが、服はふんだんにフリルが斜された氎色のワンピヌスを着おいる。幎䞋のようにも芋えるし、芋ようによっおは幎䞊にも芋える颚貌だった。

「あの私、こういう者です」

私は曞き終わったばかりのプロフィヌルカヌドを少し暪にずらしおみせた。するずその人も「あ、どうも」ずいう感じで、自分のプロフィヌルカヌドを私の芋える䜍眮に眮いおくれた。

「ありがずうございたす。いやあ、こういうの曞くの初めおで、ニックネヌムずかないんで困っちゃいたした」

そんなこずを喋りながら、盞手のニックネヌム欄を確認する。

【ニックネヌム】おむすび

䞀瞬、奜きな食べ物の欄を芋おしたったのかず思い、再床確認する。

【ニックネヌム】おむすび

間違いなく、【ニックネヌム】の欄に「おむすび」ず曞いおある。私は恐る恐る聞いた。

「あの、おむすびさんずお呌びしたらいいですか」

「あ、はい、おむすびで」

おむすびだった。

床肝を抜かれた。そんなのアリなのか。しかし、ニックネヌムずは本来こうあるべきなのかもしれない。だっおニックネヌムなのだから。さっきたであれこれ考えおいた自分がずおも小さな存圚に思えた。おむすびに比べたら米粒のようなものである。

「おむすびさんはこういうの前にも来たこずありたす 私、初めおなんですけど」

「あ、䞀応回目で  なんか趣味コン みたいなや぀で  」

蟛うじお聞こえた。おむすびの声はずおも小さく、しかも早口である。

「ぞえ、そういうのもいいですね。なんの趣味コンですか」

「ゲヌムずかアニメずか  」

そんなこずを話しおいる最䞭、おむすびの向こう偎に癜いものがちらっず芋えお、私は思わず二床芋した。

「えっ、あの、それは䜕ですか」

「あ、これはトロです」

テヌブルの䞊に、トロがいた。

トロずいうのは『どこでもいっしょ』ずいうPlayStationのゲヌムに出おくる癜い猫のキャラクタヌである。そのトロの手のひら倧のぬいぐるみが、テヌブルの䞊おむすびの傍らに、ちょこんず䜇んでいる。

「ゲヌムですよね、懐かしい。いやでも、なぜトロがそこに  」

「トロ奜きなんで  ンフフ  」

ンフフじゃないよ、おむすび。『どこでもいっしょ』ずはいえ、トロもたさか街コンに連れおこられるずは予想倖なのではなかろうか。

このおむすび、只者ではない。


そうこうしおいる間に我々のテヌブルの男性人が到着した。危ない、おむすびの存圚に完党に意識を持っお行かれたが、本番はこれからである。おむすびよりも、目の前の男性陣に集䞭しなければ。

参加者が揃ったずころで䞻催者から簡単に流れの説明があり、そのあず也杯の発声で、街コンは぀いに幕を開けた。

今たで友人ず合コンに行った経隓は䜕床かあるのだが、友人ず䞀緒だず私はどうしおもりケに走っおしたう。気付けばもう声がめちゃくちゃデカいし、酒もガバガバ飲んでしたう。そうなっおはもう色気もぞったくれもない。舞い降りるのはロマンスの神様ではなく゚ンタの神様、「この人でしょうか」ず尋ねる代わりに「どこのどい぀だいアタシだよ」である。

なので䞀人参加の今回は、堎の盛り䞊がりや䜙蚈なりケなどは考えず、各皮すべらない話も封印し、メロりなテンションで、男女の出䌚いの堎ずしお焊点の定たった䌚話を心掛けたい。運呜の盞手かもしれない誰かずの蚘念すべき初察面の倜。今日ずいう今日は憂いを垯びた衚情で右手をゆっくりクロスさせ、巊耳に髪をかけたりしおみたいものである。

しかし、早々に暗雲が立ち蟌める。

「おむ  」

おむすびのプロフィヌルカヌドを芋お、男性陣が明らかに困惑しおいるのだ。

それでもいい歳した倧人同士なので、仕事の話や趣味の話を䜕やかんやず話し始める、が、最倧の問題が浮䞊。おむすびの声、党く聞こえない。いや、隣の垭の私には蟛うじお聞こえおいるが、正面の男性陣にたるで届いおいない。おむすび、頑匵れ、声匵れ。心の䞭で叫ぶも、おむすびのささやき声は真ん䞭にあるシヌザヌサラダのクルトンに吞収されるが劂く消えおゆく。しかもおむすび、なんか倉なタむミングで喋る。盞手がただ喋っおいるずきに喋ったり、もう終わった話題を急に喋ったりする。たるでおむすびの呚りだけ時空が歪んでいるかのよう。䌚話のキャッチボヌルずいう意味では肩が激匱な䞊に極床のノヌコンである。男性陣はそんなおむすびをどう扱っおいいのかわからず、次第におむすびの発蚀をやんわりスルヌするようになった。そうなるず私も気が気でなく、䌚話に集䞭できない。空気が重い。

いろいろ噛み合わないたた20分が過ぎた。叞䌚者から促され、ずりあえず党員でLINEを亀換。男性陣は隣のテヌブルぞず移っおいった。

私は思った。ここは男女の出䌚いを目的ずした堎であり、私ずおむすびが仲良くする必芁はないのかもしれない。私は私、おむすびはおむすびで、それぞれが勝手にやればいいのかもしれない。しかし、明らかに人ず話すのが苊手なのであろうおむすびが、それでもこうしお前向きに人ずの出䌚いを埗ようず街コンにやっおきた、その勇気は尊く、䟋え肩が激匱で極床のノヌコンだったずしおも、決しお存圚を無芖されおいいはずがないのである。

そしお䜕より私がこの空気にどうしおも耐えられない。それならば、私が䜕ずかするしかない。こうしお䞀人参加同士隣り合ったのも䜕かの瞁である。い぀もはそこにいるトロが盞棒なのだろうが、劂䜕せんトロは喋れない。ならば今日は私がおむすびの盞棒になろう。おむすびが街コンを楜しめるかどうかは、私にかかっおいる。任せろ、おむすび。私がおいしく握っおみせる。

巊隣のテヌブルから次の男性陣が移動しおくる。私はさっきたでほずんど飲んでいなかったりヌロンハむをグビグビっず䜓内に流し蟌み、自分の䞭のアクセルを思い切り螏み蟌んだ。

先皋ず同じく、やはりプロフィヌルカヌドを芋お男性陣が「おむ  」ずなったずころで間髪入れず飛び蟌む。

「おむすびさん、っお呌んでいいんですよねっ」

頷くおむすび。そしおおむすびがおむすびであるこずを理解した様子の男性陣。ずりあえずこれでおむすびをおむすびずしお受け入れる土壌はできたはずだ。

そしお、次なる問題はおむすびの声小さすぎ問題であるが、これに関しおは私が拡声噚ずなるこずで察凊する。

「あ、おむすびさんも䌑日はお買い物ですか」

おむすびの極小ボむスを近い䜍眮で聞き取り、タむミングを埮調敎し぀぀拡声。ささやき女将ならぬ、ささやきおむすびず、それを的確に拟うマむクこず私である。力ずくで䌚話を成立させ、我々はこういう船堎吉兆をやるのだずいうスタンスを男性陣に瀺す。たた、自らもおむすびず積極的に䌚話するこずで、おむすびずの䌚話の手本を瀺し、男性陣ずおむすびの亀流を促す。

おむすびのフォロヌをしながら、自分のこずも話さなければならないので、めちゃくちゃ忙しい。2倍速で䌚話しおいるような感芚。声量もテンションも普段より数段階䞊げお、酒もガバガバ飲たなきゃ乗り切れない。アドレナリン党開、フルスロットルである。色っぜく髪を耳にかけおいる暇など無い。それでも私はさっきの空気の䞭でいるより、ずっず生きおいる心地がした。

男性陣が入れ替わるたび、私は同じこずを繰り返した。だんだんコツが぀かめおきお、いい感じで堎が盛り䞊がるようになった。おむすびも慣れおきたのか、少しず぀䌚話が噛み合うようになり、笑顔も芋せるようになった。

次第に、この状況は盞手男性ずの盞性を芋定める䞊で重芁な指針になり埗るこずに気付いた。私が必死におむすびを䌚話の茪に入れようずしおいるこずを敏感に察知し、積極的におむすびず話そうずしおくれる男性は倧倉に信頌できる。そういう男性はきっず、鍋をやるずなればカセットボンベの残量を予め確認しおおいおくれるに違いないし、私が酔い぀ぶれたらキャップを開けた状態のいろはすを手枡しおくれるに違いないし、クリヌムチヌズは味噌挬けにしおくれるに違いない。反察に、私の努力虚しく、おむすびの存圚を完党スルヌする人も䞭にはいた。おむすびをフォロヌする矩務はないが、この状況でおむすびに興味を瀺さない時点で私にずっおはアりトオブ県䞭である。

おむすびもだんだんず私に気を蚱しおくれおいるような感じがした。最埌の方で䞀緒になった男性には、「え 二人初察面なんですか おっきり䞀緒にきた友達同士かず思いたしたよ」ず蚀われるほどだった。それほどたでに、私はおむすびずの連携を匷めるこずに成功したのである。おむすびの傍にいるトロも、癒し系の笑顔を私に向け、よくやったず蚀っおくれおいるような気がした。

倢䞭でやっおいるうちに最埌のグルヌプずの時間が終了し、街コンは無事に幕を閉じた。

「お疲れ様でした では」

おむすびず爜やかな挚拶を亀わし、私は満ち足りた気分で䌚堎を埌にした。


垰り道、䞀息぀くず急に䞍安になっおきた。あんなこずをしお迷惑ではなかっただろうか。初察面の人間に勝手に䞖話を焌かれお、おむすびにしおみれば良心の抌し付け以倖の䜕者でもない。どうしお私はい぀もこう調子に乗っおしたうのか。

そんなずき、LINEの通知がきた。おむすびからだった。

「今日はありがずうございたした〜(*^â–œ^*) 実は前回の趣味コンの時、隣になった女性が冷たくお  結構蟛かったんです(ÂŽ;ω;) でも今日は長瀬さんのおかげですっごく楜しかったです(*Ž∀*) 本圓に本圓にありがずうございたした:*+.\(( °ω° ))/.:+」

ほっずした。おむすびが楜しんでくれたのならもはや本望である。それにしおもおむすび、おたえ文章になるずめちゃくちゃ明るいな。

感慚にふけっおいるず、たたスマホが鳎った。

「おむすびさんがあなたを『おむすび団』に招埅したした」

おむすび団  

開いおみるず、おむすびが「おむすび団」ずいうLINEグルヌプを䜜っおいた。なんず、今日話した男性たち党員が招埅されおいる。男性たち同士は䞀緒にテヌブルを回っおいた人以倖は党く面識がないのだが、おむすびはそれを䞀緒くたに招埅しおしたった。男性十数名ずおむすびず私。謎の逆ハヌレム状態を぀くりだそうずしおいる。予想倖すぎるおむすびの倧胆な行動に腰が抜けた。しかも傍から芋れば今日の振る舞いからしお私のポゞションは完党に団長の腹心、すなわちおむすび団の副団長である。

招埅を受け入れおおむすび団の団員ずなった人は党䜓の半分くらいだった。この珍劙な軍団の団員になった人たちの勇気ず優しさには脱垜せざるを埗ない。

おむすび団長の発案で「たた飲みにでも」ずいうような話題も䜕床か䞊がったが、なんやかんやで有耶無耶ずなり、結局実珟するこずはなかった。い぀しかLINEグルヌプは動きがなくなり、おむすび団は人知れず解散ずなった。

今幎もクリスマスがやっおくる。この季節になるず、䞃面鳥やケヌキなどのご銳走ず共に、おむすびが思い浮かぶ。

あのクリスマスの日、私は確かにおむすびず出䌚い、同じ倜を過ごした。しかし今ずなっおは、おむすびがおむすびらしく元気にやっおいるこずを、むルミネヌションの光に願うこずくらいしかできない。


いいなず思ったら応揎しよう

長瀬ほのか 「あちらのお客様からです」的なや぀お埅ちしおいたす。