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機動、について

以前まとめて、googledriveに溜めていた記事となります。

1 序 言

まず、よく使われる“機動”的な単語として、日本語では「機動」「詭動」「機略」「運動」といった語が、英語では”Maneuver””Movement””Agility”といった単語が見受けられるかと思われます。
この中で、「詭動」「機略」は”Maneuver”の訳語として提唱されたものですので、ここでは同じものとして整理したいと思います。

では、まずManeuverとMovementの違いについて述べた後、それらがどのように翻訳されたのか、という形で議論を続けたいと思います。この際、議論を分かり易くするため、現代の定義を述べたのちに時代を遡って概念の変遷を見ていきたいと思います。


2 米軍定義

米統合教範JP1-02によるManeuverの定義は次の通りです。

「1. 艦船、航空機、陸上部隊を敵より有利な位置に置くための運動(movement)。 (中略)3. 艦船、航空機、または車両を作戦させて、望ましい動きをさせること。 4. 敵に対して有利な地位を得るために、射撃と組み合わせた移動を通じて作戦区域内で戦力を投入すること。 」

これを見ると、Movementのなかでも特定の目的を持って行われるものがManeuverと読み取れます。

また、上記教範内ではMovementは一般名詞として200カ所近くで用いられ、単体の語としての定義はありません。他方、Maneuverは一般名詞としてではなく、上述した定義に基づく固有名詞として用いられており、その差が読み取れます。


次に、米陸軍の定義ですが、ADP3-90では、上記JPの定義を用いつつ、陸軍では、として「射撃と組み合わせた移動」であるとし、JP内で用いられた敵より有利な位置、という概念を「敵に対する戦闘力の強化、または敵が危険を受け入れ不利な位置に移動するよう影響を与えて、指揮官に一時的な行動の自由を提供するような、作戦地域内の位置または有利な状態の確立である」としています。また、「このような相対的に有利な立場は、物理的、情報的、認知的な情報環境のいずれか、あるいはすべての次元に存在する可能性がある。」として、ドメインを問わず、有利な態勢を占位することに焦点が置かれています。

また、米陸軍ではMovementについて固有名詞として定義がされており、その定義は「機動条件を確立するために戦闘力を配置する」こと、とされています。

なお、上記ManeuverとMovementは戦術上の基本的な概念、として並列で表記されています。この考え方は他の教範でも同様であり、FM3-0でもWarfighting FunctionとしてMovement and Maneuverとして解説されています。なお、この際でもManeuverが直接に敵より有利な位置を占位するために情報に支援された火力と移動(Movement)の連携としていることに変わりはありません。

https://armypubs.army.mil/epubs/DR_pubs/DR_a/ARN36290-FM_3-0-000-WEB-2.pdf

ここで述べられていることは、どちらの概念も空間の中での移動または移動の結果行われる(地)点の占位であり、そこにあるのは移動の結果が重要であり、移動そのものは手段です。(雑に言えば、有利な地点を占位しているなら、移動は不要です)


これに対し、移動することそのものに意味を見出しているのが海兵隊です。

海兵隊教範MCDP-1では1970年代に改訂されたFMFM-1以来、「機動(Maneuver)の伝統的な理解は、空間的なものであった。すなわち、機動するのは空間の中で位置的優位を取るためである。しかし、機動の有用性を最大限に活かすには、他の面からも考える必要がある。機動の本質とは、目的をできるだけ効果的に達成する手段として、敵に対し何らかの優位性を創り出し、それを活用するために行動を起こすことである。」として、陸軍的考えからの決別を明示し、この定義を基に彼らの哲学たるManeuver Warfareを作り上げていきます。また、この優位性とは、「空間的だけでなく、心理的、技術的、あるいは時間的なものでもある。とくに重要なのは、「時間的な」機動であり、時間的優位を得るために敵よりも早く作戦のテンポを創り出すのである。機動のすべての側面が揃うと、劣勢の軍隊でも必要な時と場所で決定的優位を獲得できるのである。」として、作戦テンポをいかに優越させるかが重要としています。

そのためManeuverを達成する手段は行動(Act)とされ、Movementだけではなく、全ての行為を包含しています。※上記教範中Movementはわずか5カ所しか登場せず、全て部隊の移動を説明する場面でしか用いられていません。

また、この際の行動は「敵にわれわれを予想不可能に見せるため、規則的な行動や型にはまった行動を避けなければならない。」とされており、型の無い戦闘哲学であるというManeuver Warfareでの強調点とも一致します。

https://www.marines.mil/portals/1/publications/mcdp%201%20warfighting.pdf


なお、海兵隊のManeuverにおいて重要なのは、作戦テンポを構成するための速度(Speed)や奇襲(Sprise)などであり、これらは陸軍でも重要とされるものの、奇襲はMovement and Maneuverと並列の関係性であり、テンポや速度についてはAgilityの文脈で登場するものであり、Maneuverとの関係性は見て取れません。

このため、前述したように、海兵隊的文脈でのManeuverを説明するために、空間的移動を意味する「機動」ではなく、「詭動」や「機略」といった語を用いようとしたのが、斎藤や北村でした。

https://www.nids.mod.go.jp/publication/senshi/pdf/201903/07.pdf


また、陸軍が敵に対して心理的な優位性を占めようとしていないわけではないのは誤解ないようにしていただきたいと思います。

ADP3-90では、作戦時の考慮事項として列挙されているMovement and Maneuverの項目において、「指揮官は複数のジレンマを作り出し、敵軍が組織的に反応するのを防ごうとする。そのためには、友軍司令官に有利な敵の決断を迫る位置に部隊を移動させる。」とされており、敵に対して有利な位置、のもたらす効果として、敵への心理的なジレンマの強要が特出されている点は考慮が必要と思われます。

さて、時代を遡る前に米陸軍におけるAgility(敏捷性)について付言したいと思います。

この概念は、米陸軍がMulti Domain Operationをドクトリンとして採用した際に大きく出てきた概念であり、MDO内のTENET(教義)として重要視されているものです。

この定義は、「敵よりも迅速に部隊を移動(move)させるため、その配置や活動を調整する能力のこと」とされ、「多くの場合、情報の優位性を創造し活用することによって得られる」ものとしています。この能力は作戦テンポ(陸軍では敵に対する時間的な軍事作戦の相対的な速度とリズムのこと)に影響を及ぼすとされ、「理解し、決定し、行動し、評価し、適応する能力」と言える、と評価しています。

この点で、陸軍でも時間的な機動を重視していると読み取れなくもないですが、海兵隊のManeuverと異なる点はやはり手段が物理的な移動に収斂している点だと思われます。テンポを加速するために指揮機関での行為を加速するとも読めますが、Agilityの定義にmoveが入っている以上、物理的移動を主とした概念であるとするのが適切かと思料しています。

https://armypubs.army.mil/epubs/DR_pubs/DR_a/ARN36290-FM_3-0-000-WEB-2.pdf

なお、海兵隊についてもAgilityという概念は使われており、「海兵隊は機敏(Agile)で順応性(adaptable)が高い。海兵隊の敏捷性(Agility)は、その遠征的な考え方、柔軟な組織構造、海上から、あるいは陸上で持続的に活動する能力に由来する。」として、彼らのマインドセット等によって発生する特性として評価しています。このため、陸軍のドクトリンにおけるTENETとは全く次元が異なったものといえるでしょう。

https://www.trngcmd.marines.mil/Portals/207/Docs/TBS/MCDP%201-0%20Marine%20Corps%20Operations.pdf


3 米軍定義を生んだ素地

ここで時代を遡りたいと思います。

まず、Maneuverという概念を最も重視したのは、英国のJFCフラーやバジル・リデル・ハートであったと言えるでしょう。両者に共通するのは、敵策源地、即ち縦深への打撃により、敵の指揮統制や後方連絡線を遮断し、一挙に勝利を獲得しようとするShockへの希求でした。

この中で、フラーは、Mobilityと言うものをPrinciple of Warの一つとして整理し、強調しています。おそらくここが、これまで戦術と同義語であった部隊の移動が戦いの中で一つの機能として徳出しされるようになった契機と言えるのではないかと考えます。

フラーによるとMobilityの原則とは「戦争においては、移動(Movement)なしには何事も成り立たない。 将軍は作戦を立案する際、可能な限り自軍の移動の自由を確保するよう努めなければならない。」というものと整理されています。この原則は、他の原則と同様に米陸軍においてもMovementの原則として採用され、取り込まれていくことになります。

1949年にMovementとManeuverの関係性が整理され、以降はManeuverの原則として記載されていきます。

※なお、フラーの提唱したMobilityを旧日本軍は「機動」と訳しており、その訳をManeuverの原則時も引き継いでいます。

https://www.mod.go.jp/gsdf/tercom/img/file2371.pdf


更に時代を遡ります。

次に注目するのは、大きく西洋用兵思想に影響を及ぼした二人の人物、アントワーヌ=アンリ・ジョミニとカール・フォン・クラウゼヴィッツです。


よく対比される二人ですが、実は相互に影響を受けてはいるものの、ジョミニの戦争概論はHow to winを、クラウゼヴィッツの戦争論はWhat is Warを追求するものであることから、両者それぞれに必要な点があるものと考えるのが適切でしょう。事実、米陸軍をはじめとした西洋軍隊の基本思想の多くはジョミニを起点とするものであり、ここに横串のようにクラウゼヴィッツが挿入されているのが、実際の米軍教範(用兵思想)の大要です。

(この点について疑義はあろうかと思いますが、本論ではこの点に対する論証は紙面の関係上省略させていただきます。)

では、ジョミニは機動についてどのように記載しているのか、です。

そもそも当時のような地表面からアセットが離脱しない中で行われた戦争において、部隊をどの位置に配置するのか、は用兵とほぼ同義であり、物理的機動について述べることは即ち兵術・兵法を述べることでした。

そういった時代背景の中、幾何学の発展により、戦場や後背地からいかに効率的・効果的に部隊を移動させるか、という所謂必勝法のような差配要領が研究されている中において、ジョミニは戦略概論を記述しています。

この中で、ジョミニは「いくつかの谷地が集まって、その地方の重要連絡線の中心となっているところを制圧し得る地点は、従って「決定的な地理上の要点」である。(略)他の一つは敵軍主力の位置と、これに対し指向されるわが作戦企図との関係で、重要性をもってくるものであって、これがすなわち「機動上の戦略要点(Strategic points of maneuver)」である。」として、抑えるべき要点へ向かう方法としてManeuverの語を用いています。ここでいうManeuverは戦場外で行われるもの、または戦場での会戦で妨害を排除しつつ前進するもの、という二者を包含しているものですが、特にジョミニが重視していたのは、前者、即ち戦場外で行われる“迂回”でした。

実際に戦術概論の中でManeuverとMovementが併記されている箇所においては、「主力を以てする正面攻撃と、迂回機動(Turning Maneuver)との二方式の組合せは、これらを各別に用いる場合よりも、ずっと勝利の機会が多い。だがいかなる場合であろうと、過度に大規模な移動(movement)は、たとい大した敵が存在しない場合であってもこれを避けた方がよい。」

と記述されています。つまり、彼は戦場内で行われる部隊の移動はMovement、戦場外において敵に対して有利な地点を占めるために行われる行為、をManeuverと呼称したと読み取れます。

(なお、このジョミニの発想の前身として、同じくフランス出身のギベールによる発意があったともされておりますが、残念ながらそこまで辿れはしなかったので、付記するにとどめます。)

この点について、クラウゼヴィッツも似たような趣旨で機動について記述しています。

「機動は大戦闘による強力な攻撃の遂行と対立するのみならず、敵の交通線に対する活動にせよ、退路に対する活動にせよ、あるいは誘撃にせよ、ともかく大戦闘の手段と直接に関係のある一切の攻撃の遂行とも対立する。」

つまり、戦場で行われる戦闘とは別の物、としている点において、ジョミニと同様の理解であったと言えます。また、クラウゼヴィッツは機動の及ぼす効果として、

「1敵の糧食を断ち、あるいはその一部を制限し得ること

2自軍諸部隊の合流

3敵軍が、自国内部あるいは他の軍隊、軍団と連絡するのを妨げ脅すこと

4退路に対する威嚇

5優勢な兵力を以て個々の地点へ攻撃をかけること」といった利点を挙げており、これらは全て敵の後背地等の戦場外での行動を予期していると読み取れます。

他方、クラウゼヴィッツの概念には、海兵隊的なManeuverの要素も見て取れます。

「言葉の用法から言えば、機動という概念のなかには、いわば無から、すなわち勢力均衡状態から、敵の失策を誘い出すという効果が含まれている。これは将棋遊びの第一の特徴である。したがって、機動とは均衡両兵力間の遊びであり、勝利のために有利な機会を作り出し、次いで、これを敵に対する優越条件として利用することをもってその特徴とする」

無論、これが敵の心理的側面へのアプローチと直接読み取るのは疑義があるかと思います。他方、敵との関係性という点に着目している点は相対性を重視するクラウゼヴィッツならではの分析と言えるでしょう。


しかし、ここで気になるのは、海兵隊的なManeuverの萌芽がどこにあったのか、という点です。

この点について大きく参考となるのは、東洋兵術の雄である『孫子』だと考えます。

なぜ米海兵隊と『孫子』が関係するのか、という点についてですが、60年代の米国において毛沢東を経由して『孫子』を持ち込んだのは海兵隊将校のグリフィスであるとされています。無論、Maneuver Warfareの哲学の主たる構成要因はクラウゼヴィッツルネサンスにあるとするのが阿部亮子等の研究で明示されており、直接的に『孫子』が影響を及ぼしたとする学説は低調です。

ですが、Maneuver Warfareで強調される“型がないこと”や敵に対する心理的優位性という観点において、「兵は詭道なり」や「形と勢」「奇正」「虚実」といった概念は、海兵隊的Maneuverに多少なりと影響を及ぼしたと考えるのは妥当と思料します。

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4 日本での定義

さて、ここまでで一旦ManeuverとMovementの差異については一旦置き、これらが日本語でどのように整理されたのか、について確認していこうと思います。

陸上自衛隊においては、1949年版の米陸軍FM3-0において使用された戦いの原則を踏襲しており、機動については「機動は、所望の時期と場所に、所要の戦闘力を集中または分散して有利な態勢を確立し、戦闘力を発揮するため、極めて重要である。機動は、運動力の発揮、地形・気象の克服、火力の発揚、適切な兵站支援等により発揮される」と記載されており、米陸軍と同様に、有利な地点の占位を主たる目的として行う移動と読み取れます。

下図は、情報開示請求によって公開された、陸上自衛隊教範「本格的陸上作戦」からの抜粋です。

上2図より、陸上自衛隊において、機動、移動、展開についていずれにしても空間的側面での議論が行われていると言え、機動と移動がそれぞれ、米陸軍のManeuverとMovementに合致すると言えるかと思われます。

「本格的陸上作戦」_1.pdf


他方、戦場内で行われる機動について、同じ陸上自衛隊内でも別の見解も確認できます。下図は、陸戦学会『戦術との出逢い』(1981)からの抜粋です。

同書内では、機動について「戦闘目的を達成するため、戦闘を交えつつ、部隊が移動することである」としており、移動との差異を戦闘実施の有無と戦闘目的への寄与の有無にあるとしています。これは上記「本格的陸上作戦」でいう戦場機動とほぼ同義もしくはより狭い範囲で行われるものと解することができると思われます。


この二者の差異については、前者の発行日が平成、後者が昭和であることから、意味合いがより拡充した結果として前者のような展開を含めた概念へと整理されたものと解するのが適切と考えます。

他方、上記のような狭義での機動は欧米における初期のMovementとほぼ同義とみなすことが出来、『本格的陸上作戦』における接敵機動がジョミニやクラウゼヴィッツの示したManeuverと合致してくるのは、やはり用兵や戦術が戦場を基準として空間的規模を拡充していった証左と見ることが出来るかと思います。

その文脈で見た場合、16式機動戦闘車をしてManeuver Combat Vehicleと称することは、どういった用途を予期しているのかを考える一助になるか、は考えすぎとも言い切れないと考えます。


5 日本の定義を生んだ素地

次いで日本においても時代を遡り、機動という語を辿ってみたいと思います。

昭和期における日本陸軍の教令である「作戦要務令」において、機動という語が最初に登場するのは綱領です。

綱領第9では「敵の意表に出ずるは機を制し勝を得るの要道なり。故に旺盛なる企図心と追随を許さざる創意と神速なる機動とをもって敵に臨み、常に主動の位置に立ち、全軍相戒めて厳に我が軍の企図を秘匿し、困難なる地形および天候をも克服し、疾風迅雷、敵をしてこれに対応するの策なからしむこと緊要なり。」と記載されており、一見すると空間的な優位性だけではない優位性獲得のために行う行為と読み取れます。

また、陣地攻撃に関する項目では「防御陣地を占領せる敵に対しては、機動により、なるべく陣地外に決戦を求むるを可とす。故に高級指揮官は全般の状況に鑑み、敵陣地を迂回すべきや、あるいはこれを攻撃せざるべからざるやを考慮するを要す」とあり、機動があくまでも空間的な行為であると読み取れ、上述した綱領では、この機動を物理的に早く行うことで、時間的優位を創り出すものと解するのが適切と考えられます。


上記作戦要務令を生み出す素地となった大正期における機動の語について『大日本兵語辞典』では「一地に固着することなく、迅速なる運動によりて好き機会を狙いて敵と戦う運動性の作戦をいう」とされ、移動について記載はなく、運動について「敵に対し我に有利なる如く軍隊の巡り動くこと」とされており、運動が既に米陸軍のManeuver的意味を持ち、機動についてはその中でも好機を捉えた場面を特出したものと解しています。


上記解説については、大正9年に陸軍歩兵学校将校集会所より発出された「歩兵操典草案の研究」においても類似の解説がなされております。ここでは「機動とは主としてManeuver(英)の字句により出来た言葉である」と出典を記するとともに、「後漢書に『兵は機動を以てす』とあり、孫子兵勢編に「激水の疾くして石を漂わすに至るは勢いなり。鷙鳥(しちょう)の撃ちて毀折(きせつ)に至る者は節なり。是の故に善く戦う者は、其の勢は険にして其の節は短なり。勢は弩を弾くが如く、節は機を発するが如し」とある。けだし機と言うのは弩の止め木である。小銃の引き金の如きものであるこれを外せば矢はたちまち発するのである。即ち漢字の意義から言えば機会をとらえて活動するの意である。更に外国字の方から言うと運動を以てする戦略戦術上の行為と言うことになる。即ちいずれより考えても戦機を捉えて自由自在に活動する行為に外ならぬのである」と機動という語の由来を解説しています。


他方、明治期に民間が発行した「英和陸海軍兵語辞典」ではManeuverを「1運動、2策略・詭計、演習・機動演習」と訳されており、Maneuverの心理的要素についても記述されているが、この要素が軍事教範に反映されることはなく、“機”の要素が強調される一方となったと考えられます。


6 結 言

さて、長々と述べてまいりましたが、ここまでの論を鑑みるに、Maneuverや機動といった概念は単なる物理的移動ではないというコンセンサスはあるものの、その目的や様相は古今東西で様々な変遷をたどり、分化していることが読み取れます。

現代の定義については、移動することそのものを重要視するか、移動することによって特定の地域を占位することを重要視するのか、大きく言えばこの二点で分類ができるかと思われます。

この思想の違いは、軍隊の行う実際の行動、また装備や組織にも大きく影響を及ぼすかもしれません。ともあれ、こうしたよく知っているようで分かっていない概念について思いを巡らせることは、当該概念を用いる人物・団体の思考様式を理解することに直結するものであり、まだまだそうした放置された概念があるかと思うと、中々知的好奇心を惹かれるのであります。