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#229 半減期

放射性物質には半減期という値がある。原子が崩壊し数が半分になるまでの時間であり、原子の種類(核種)ごとに正確に決まっている。周囲の環境などにはほぼ影響されない。

それほど正確な半減期なのに、原子のひとつひとつで崩壊までのカウントダウンはされていない。すなわち原子は個々に時計を持っていないし、ゆえに特定の寿命のようなものはない。

1万年前からあって我々の体の中に取り込まれた放射性の炭素原子(C-14)も、たった今、大気の上層で宇宙線と反応してできた炭素原子(C-14)も、次の一秒で崩壊する確率はまったく同じだ。放射性原子は人間や機械のように老朽化することはなく、その過去を一切記憶していない。

だから、ある瞬間に崩壊する放射性原子の数は「その瞬間に残っている原子の数」だけで決まる。最初は原子が多いから、崩壊する数も多い。数が減れば、崩壊する数も減る。その結果、放射性物質は一定量ずつではなく、半分、さらにその半分へと、半分になるまでの時間を一定に保ったまま、滑らかな曲線を描いて減っていく。

では、なぜ原子は確率でしか壊れないのだろう。放射性崩壊にはいくつかの種類があるが、その仕組みは一つではない。

たとえばα崩壊(不安定な重い原子核が、陽子2個と中性子2個からなるヘリウム原子核/α粒子を放出する放射性崩壊)では、原子核に閉じ込められた粒子が、量子力学のトンネル効果によって、本来越えられないはずの壁を確率的にすり抜けることで起きる。「いつ抜けるか?」を決める時計はなく、ただ一定の確率で起こるだけだ。

β崩壊やγ崩壊も仕組みは異なるが、どちらも内部に時計を持たず、確率でしか起こらない。もし原子が几帳面で、一つひとつが「1000年で壊れる」という時計を持っていたなら、半減期のような美しい曲線は現れない。1000年目に一斉に崩れるか、時計の誤差でばらつくだけだ。

滑らかな法則を生み出しているのは、何も覚えず、何も予定せず、その瞬間ごとに確率で振る舞う無数の原子たちだ。

空気の分子もまた無秩序に飛び回っている。それでも温度や圧力は安定した法則に従う。水に落としたインクも、一粒一粒はただランダムに動いているだけなのに、全体としては必ず広がっていく。無数の気まぐれが集まったとき、その平均として無秩序の中から秩序が姿を現す。

個々の原子は、未来を決めていない。それなのに、その気まぐれが集まると美しい秩序が生まれる。あの滑らかな曲線は、時計を持たない粒子たちの、気まぐれの総和なのである。

これは原子や自然現象の話だが、自然の一部でもある自分のことを、ふと考えてしまう。

自分の一日を見れば、選択はいつも行き当たりばったりだ。就職先を決めたことも、今の場所に住んでいることも突き詰めれば、その場の気分で決めて、後から理由をつけただけだ。それでも何年分かを束ねて眺めると、そこには確かに一つの形のようなものがある。

秩序は、無秩序を抑え込んだ計画性から生まれるとは限らないのだ。


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