世界猫の日に考える 「ノネコ」、「イエネコ」、「ノラネコ」の違いとは?
本日は、「世界猫の日(International Cat Day)」です。
国際的な記念日で、現在はイギリスの猫福祉団体 International Cat Care が運営・調整を担っています。もともとは、2002年に国際動物福祉基金(International Fund for Animal Welfare)によって始められたとされ、猫への関心を高め、その健康や福祉、適切なケアについて考える日として、世界各地でさまざまな取り組みが行われています。
そんな「世界猫の日」に、かねがね注視していたニュースについて、触れてみたいと思います。
「ノネコ」→「イエネコ」改定案は撤回
環境省と農林水産省は現在、「生態系被害防止外来種リスト」の見直しを進めています。正式名称は、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」。
もとは2015年3月に環境省と農林水産省が作成したもので、2023年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」で、リストの見直しが行動目標に位置づけられたことを受け、有識者による検討が続けられてきました。
そして2026年4月2日、環境省と農林水産省は改定案を公表し、パブリックコメントを実施しました。
今回、注目されたのが、猫の扱いです。
これまで「ノネコ」として扱われてきた猫について、改定案では「イエネコ」として掲載する方向が示されました。ただし、「生態系被害防止外来種リスト」は、外来生物法による法的規制の対象そのものを示すリストではありません。環境省は、このリストを、外来種の適切な取り扱いについて理解を促すとともに、防除や侵入経路管理、調査研究など、総合的な外来種対策を進めるためのものと位置づけています。
したがって、
「リストに掲載された=飼い猫まで直ちに捕獲・駆除の対象になる」
という制度ではありません。
一方で、どの名称で、どの範囲の猫を掲載するのかは、自治体や市民による受け止め方、さらには今後の対策にも影響し得ます。
8月7日付けのニュースでは、環境省は、野生化した猫だけではなく、人に頼って生活する野良猫などまで含めて「イエネコ」として掲載する方向で最終調整していましたが、方針を見直し、従来どおり野生化した猫を「ノネコ」として掲載する方向になったと報じられました。
そもそも「ノネコ」とは何なのか
ここで気になるのが、
「ノネコ」と「ノラネコ」は何が違うのか
ということです。
環境省は現在、ノネコを端的に、
「野生化したネコ」と説明しています。
環境省の資料には、1964年に林野庁が示した「ノネコ」についての考え方も掲載されています。そこでは、ノネコとは、山野において野生の鳥獣などを捕食しながら生息している猫とされています。
さらに、ノネコとイエネコは動物学上は同じ猫であり、イエネコが野生化したものがノネコである、と整理されています。
一方、市街地や村落を徘徊している猫については、この意味での「ノネコ」には当たらないとされています。
「飼い猫」
「飼い主のいない猫」
「地域猫」
「ノネコ」
「イエネコ」
これらは、別種と考えられるのでしょうか。
いいえ。
基本的に生物学的には、いずれもイエネコ(Felis catus)です。
異なるのは、人間による管理の有無、人との関係、生活環境です。つまり、猫そのものではなく、人間との関係性や生活実態により、異なる名称で整理(区分け)されているのです。
「地域猫」は単なる「野良猫」ではない
ここでもう一つ考慮しておきたいのが、「地域猫」問題です。
環境省の『住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン』は、「飼い主のいない猫」についても扱っています。人と犬や猫が調和して暮らせる居住環境をつくり、人と動物が共生できる地域づくりを図ることを目的としています。
地域猫活動では、地域住民の理解と合意のもと、不妊去勢、給餌、ふん尿の管理などを行い、飼い主のいない猫を地域で適切に管理していくことが前提になります。
したがって、「屋外にいる猫」をすべて同一として扱うことはできません。
飼い猫なのか。
飼い主のいない猫なのか。
地域で管理されている猫なのか。
それとも、野生化したノネコなのか。
その違いを丁寧に見る必要があります。
そして、その境界は外見だけでは分かりません。
環境省も、ノネコを捕獲する場合には、飼い猫との区別が重要であるとしています。猫が山中にいたからといって、必ずしも人との関係を失ったノネコとは限りません。反対に、人の生活圏から離れて狩りによって生きている猫も存在します。
「飼い猫」「飼い主のいない猫」「ノネコ」という区分は、猫の見た目そのものではなく、人間との関係や生活実態を含めて慎重に判断されるべきものなのです。
なぜノネコが問題になるのか
ノネコによる生態系への影響そのものは現実に存在しています。
環境省は、ノネコがアマミノクロウサギやヤンバルクイナなどの希少な哺乳類・鳥類を捕食することを紹介しています。また、海鳥についても、卵やヒナへの捕食が繁殖に影響を及ぼすことが問題となっています。ただし、ノネコは自然界にもともと存在していた別種の動物ではありません。
ノネコは、人間のペットだったネコたち。
人間とともに暮らしてきたイエネコが、野外で野生化したものです。
突然自然界から生まれたわけではありません。そう考えると、これは単なる「猫対野生動物」の問題ではないことが分かります。
人間が、猫といういのちあるものをどのように飼い、どのように管理してきたのか。その結果として生まれた問題でもあるのだと思います。
今回の議論は、一見すると、
「ノネコ」「イエネコ」という名称の問題に見えます。
しかし、実際にはもっと複雑です。
どの範囲の猫を行政上の対策対象として捉えるのか。
飼い猫や地域猫と、野生化した猫をどのように区別するのか。
猫の福祉と希少種の保全をどう両立させるのか。
そして何より、
ノネコを生み出さないために、人間は何をすべきなのか。
そうした問題が、背景にあります。
猫は、ただそこに猫であり続ける
調べれば調べるほど、これは単純な話ではないことが分かります。
猫の福祉。
飼い主の責任。
地域社会との共生。
希少種の保全。
生物多様性。
これらは、別々の問題のように見えて、実際にはつながっています。
本日、世界猫の日。
猫をただ愛でるだけではなく、
猫と、どのように末永く暮らしていくのか。
そして、
猫と人間、野生生物が共存していくために、私たちには何ができるのか。
そんなことを、少し深く考える日にしてみてもよいのではないでしょうか。
【参考資料】
・環境省・農林水産省「『我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(案)』に対する意見の募集(パブリックコメント)について」
・環境省「希少種とノネコ・ノラネコ」
・環境省『住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン』
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