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同期の昇進を、人事異動票で知った朝

その名前だけ、二度見した

月曜の朝、社内に出た人事異動票を上から眺めていた。
部長、次長、課長。
見慣れた名前が並ぶ中で、あんたの指が一度止まった。

同期の名前の横に、新しい役職がついていた。
見間違いかと思って、PDFを少し拡大したでしょ。
間違いじゃないと分かってからも、なぜか元の大きさに戻して、もう一度その行を見た。

「へえ、上がるんだ」

口から出たのは、それだけだった。
周りに誰かいたわけでもないのに、ずいぶん他人事みたいな言い方をしたわね。

先に出たのは「おめでとう」じゃなかった

同期が昇進した。
本当なら、まず「おめでとう」でしょうよ。
長く一緒に働いてきた相手なら、なおさらね。

でも最初に浮かんだのは、そんな立派な言葉じゃなかった。

「聞いてなかった」

たったそれだけ。
役職に目が行ったはずなのに、胸に引っかかったのは、知らせ方のほうだった。

もちろん、正式発表の前に言えなかったのかもしれない。
内示を誰にも話すなと言われていたのかもしれないし、あんたが先に知っていると思っていた可能性もある。
そこは分からない。

だから責めるほどの話じゃないのよ。
「なんで言ってくれなかったんだ」なんて聞いたら、こっちが面倒くさい人みたいじゃない。
四十五にもなって、同期に“先に教えてほしかった”だなんて、ずいぶん可愛らしい話よね。

でも、可愛らしいからって、なかったことにはならないのよ。

同期という言葉に甘えていた

入社した年が同じというだけで、ずっと同じ距離にいられるわけじゃない。
配属も変わる。
任される仕事も、評価も、給料も変わる。
家庭ができれば、仕事の話をする時間だって減る。

そんなことは分かっていたはずなのに、「同期」という言葉だけは別だった。

普段は連絡を取らなくても、何か大きなことがあれば本人から聞ける。
うれしい話も、格好悪い話も、正式に決まる前の少し曖昧なところで話せる。
あんたはどこかで、そう思っていたんじゃない。

別に約束したわけじゃない。
毎週飲みに行っていたわけでもない。
それでも「あいつとは、ほかの同僚とは少し違う」と勝手に席を一つ近く置いていた。

人事異動票で知らされたのは、昇進だけじゃなかった。
あんたが思っていた二人の距離と、相手が思っていた距離が、同じではなかったかもしれない。
その可能性まで、一枚のPDFに載ってきたのよ。

悔しいだけなら、もう少し楽だった

同期に先を越された。
そう言ってしまえば、話は単純よ。
自分も昇進したかった。
評価の差を見せつけられて悔しかった。
それなら、まだ分かりやすい。

でも、たぶんそれだけじゃないのよね。

あんたは、その人が上がることを本気で嫌だったわけじゃない。
仕事ができることも知っている。
面倒な案件を抱えていた時期も、上司と折り合いが悪かった時期も見てきた。
昇進するだけの理由があることくらい、あんたには分かっている。

だから余計に、気持ちの置き場がない。
祝いたいのに、少し傷ついている。
うれしいはずなのに、自分との間に一本線を引かれたような気がする。
そんな自分を認めると、相手の昇進に水を差す小さい人間みたいで嫌になる。

いや、違うわね。
小さいと思われるのが嫌なんじゃない。
あんた自身が、自分をそんな男だと思いたくなかったのよ。

同期の成功くらい、気持ちよく祝える人間でいたかった。
なのに人事異動票を見た瞬間、祝福より先に「俺には言わなかったんだ」が出てきた。
その順番に、自分でがっかりしたのよね。

欲しかったのは、役職じゃなく一本の連絡だった

もし発表の前に、短いメッセージが一本来ていたらどうだったか。

「今度、上がることになった」

たぶん、少し悔しかったとは思う。
自分の仕事や評価を考えなかったとも言えない。
でも、それでも今ほどは引っかからなかったんじゃない。

先に知りたかったのは、情報通になりたかったからじゃない。
自分はその話を預けてもらえる側だと、確かめたかったからよ。

あんたが引っかかったのは、肩書より順番だったのよ。

本人の口から聞く。
そのあとで人事異動票を見る。
あんたの中では、ずっとその順番だった。

でも現実は逆だった。
会社の正式な紙が先で、本人の言葉はまだない。
その順番が、二人の関係にまで正式な辞令を出したように見えたのよ。

祝う言葉が嘘になるわけじゃない

昼前、同期の席の前を通った時、目が合う。
あんたはきっと、いつもと変わらない顔で言うのよ。

「見たぞ。おめでとう」

相手は「ありがとう」と返すかもしれない。
「まだ実感ないけどな」と笑うかもしれない。
その会話はたぶん、ほんの数十秒で終わる。

その時の「おめでとう」は嘘じゃない。
先に浮かんだ寂しさがあるからって、祝う気持ちまで偽物になるわけじゃないのよ。

ただ、祝福の横に、言えなかった一言が残るだけ。

「おまえの口から、先に聞きたかったな」

人事異動票を閉じても、その一言だけは、しばらく画面の真ん中に残っている。

仕事の話なのに、仕事だけでは終わらなかった本音をここでは書いてるわ。
また誰にも言えない一言が残ったら、読みに来られるようフォローしておいて。

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neneco|誰にも言えない40代男の本音 読んで、少しでも楽になったならそれで十分よ。それでも何か置いてきたいって人だけ、どうぞ。 無理しなくていいのよ。缶コーヒー1本ぶんくらいの気持ちがあれば、それで。