「任せる」と「放任」を履き違えた。人が育たなかった頃の話
「人を育てるためには、仕事を任せることが大切だ」
これは間違っていないと思います。
経営を続ける中で、私もスタッフや役職者に仕事を任せてきました。
任せた以上、細かく口を出さない。
自分で考え、自分で判断してもらう。
それが信頼であり、成長につながると思っていた時期があります。
しかし、今振り返ると、私が「任せている」と思っていたものの一部は、任せることではなく、ただの放任でした。
■「任せたのだから、自分で考えてほしい」
仕事を任せた後、なるべく口を出さずに見守る。
一見すると、相手の主体性を尊重しているように見えます。
しかし、
何のために行うのか
何をもって完了とするのか
どこまで自分で決めてよいのか
いつまでに、どの状態まで進めるのか
どの段階で報告や相談が必要なのか
こうした基準が曖昧なまま「任せたから、あとはよろしく」と伝えても、任された側は動きようがありません。
それでも仕事が思うように進まないと、
「なぜもっと自分で考えないのか」
「なぜ早く相談しなかったのか」
「役職者なのだから、そこまでやってほしい」
そう感じてしまうことがありました。
ですが、今考えれば、相手の主体性だけの問題ではありません。
判断するために必要な目的や基準を伝えず、途中の確認もせず、結果が出てから指摘する。
これでは、人を育てているのではなく、相手に正解の分からない試験を受けさせているだけです。
■「任せる」と「放任」は何が違うのか
私が考える「任せる」とは、仕事を丸ごと渡して終わることではありません。
目的と責任範囲を明確にしたうえで、相手が自分で考え、決め、行動できる状態をつくることです。
一方、放任は、
「任せたのだから、自分で何とかしてほしい」
と、必要な支援まで手放してしまうことです。
任せる場合、行動のすべてを細かく指示する必要はありません。
ただし、
目的
期待する成果
期限
完了基準
判断できる範囲
相談が必要な基準
途中確認のタイミング
ここまでは、任せる側が明確にする必要があります。
その枠組みの中で、方法を本人に考えてもらう。
これが「任せる」ということだと思います。
■人が育たなかった原因は、任せ方にもあった
人は、仕事を渡されるだけでは育ちません。
自分で考えて行動し、その結果についてフィードバックを受け、次の行動を修正する。その繰り返しによって成長します。
ところが、途中の確認や対話がなければ、
自分の判断が合っているか分からない
間違えることが怖くなり、動けなくなる
問題を抱えたまま相談が遅れる
結局、上司の指示を待つようになる
という状態が起こりやすくなります。
これを見て、「主体性がない」と判断してしまえば、さらに細かく指示するか、逆に突き放すかのどちらかになってしまいます。
でも本来必要なのは、管理を強めることでも、完全に手を離すことでもありません。
自分で考えられるだけの基準を渡し、必要なタイミングで対話することです。
Gallupのマネジメント研究でも、成果を出すマネジャーの基本として「期待を明確にする」「継続的にコーチングする」「責任を明確にする」の3点が挙げられています。任せた後の継続的な関わりまで含めて、マネジメントなのだと思います。
参考:Gallup「Manager Development Strategy」
■今、仕事を任せるときに意識していること
現在は、仕事を任せる際に、少なくとも次のことを意識しています。
1.最初に「目的」と「完了状態」を合わせる
何をするかだけでなく、なぜ行うのか、どの状態になれば完了なのかを確認します。
2.判断できる範囲を明確にする
どこまで自分で決めてよいのか、どこから相談が必要なのかを伝えます。
3.途中確認の期限を決める
問題が起きてから確認するのではなく、途中で方向性を確認します。
4.すぐに答えを教えすぎない
相談されたときも、まずは「自分はどう考えている?」と聞きます。考える機会を奪わず、必要な部分だけを支援します。
5.最終責任は任せた側が持つ
仕事を任せても、責任まで相手に押しつけてよいわけではありません。
結果が出なかったときには、本人の行動だけでなく、自分の任せ方に不足がなかったかを振り返ります。
■任せるとは、相手を信じて関わり続けること
口を出さないことが、信頼ではありません。
何でも細かく管理することも、育成ではありません。
相手が自分で考え、判断し、行動できるように必要な基準を渡す。途中で対話し、失敗したときには一緒に原因を振り返る。
そのうえで、次は一人でできる範囲を少しずつ広げていく。
それが、人を育てるための「任せる」なのだと思います。
事業や店舗が増えるほど、経営者一人がすべてを判断することはできなくなります。
だからこそ、人に任せる力は、組織を成長させるうえで欠かせません。
ただし、任せるとは、手を離すことではない。
相手の成長に責任を持ちながら、関わり方を変えていくことです。
私自身、今でも任せ方に迷うことはあります。
それでも、人が育たなかった理由を相手だけに求めず、
「自分は、本当に任せられる状態をつくれていたか」
と問い続けることは、経営者やマネジャーに必要な姿勢だと考えています。
