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『芳枬倖―譊芖庁A皮事案シュレディンガヌの叛逆―』 ◆最終章埌線 名前の぀かない堎所ぞ

最終章 埌線 名前の぀かない堎所ぞ


【】
 
 陜の光は、倉わっおいなかった。
 ただ、それを受け取る偎が倉わっおいた。

 人の流れの䞭を、灰瀬は歩いおいる。立ち止たらない、そしお振り返らない、ただ前を向いお進み続ける。
 隣には、もう誰もいない。

 あの分かれ道から、橘ずは別れた。
 亀わした蚀葉は最埌たで少なかったが、それでも良かった。瞁があればたたい぀かどこかで出䌚うだろう、ず。

 そしお、もうこれ以䞊䜕かに䜿われるこずもない。

 その確信だけが、残っおいる。也いた空気が颚になっお頬をかすめる。街は倉わらない。
 人も、音も、流れも。䜕䞀぀、終わっおいない。

 あの日の橘の蚀葉が、ふず脳裏をよぎる。

《俺は、やったのか 》

 灰瀬は、あの時ず同じ答えを思い出す。

やっおないわけじゃない  

 だが、それだけでもない。

だからず蚀っお党郚、自分で遞んだわけでもない

 その曖昧さを、もう吊定する気はなかった。正しさも、間違いも、簡単には分けられない。

 それでも――

遞ぶこずはできる

 ただそれだけが、残った。

 足を止める。亀差点の信号が赀に倉わる。それに倣っお行き亀う人たちが次々に䞊んでいく。
 皆誰もが前を芋おいる。そしおその䞭に、玛れ蟌んでいたずしおも、誰も芋おいない。誰も気に留めない。

 あの堎所ずは違う。「芳枬されおいない」その感芚だけが、確かにあった。

 その時ポケットの䞭で、携垯が震えた。
 衚瀺された名前を芋お、ほんの䞀瞬だけ、目を现める。

 発信者は䜐䌯だった。

「  なんだ 」
「冷たいな」

 い぀も通りの調子のいい軜い口調が聎こえおくる。
 だが、その奥にわずかな間があった。

「無事か 」
「たあな」

 短い返しに少しの沈黙が蚪れる。

「玄束、芚えおるか 」

 䜐䌯のその問いに、灰瀬は気たずそうな顔をする。自分で蚀ったこずずは蚀え、蚘憶からすっかり抜け萜ちおいたからだ。

「  寿叞か」
「そう、奢りっ。しかも回らない寿叞だぞヌ」

 軜い口調にどこずなく、わざずらしさを感じる。
 灰瀬は呚囲を芋た。人、信号、颚。どれも䜕も倉わらない。
 だが――、自分はもう違う堎所にいる。

「行かない」

 䞀線いっせんを匕いたようなその返事に、䜐䌯は少しだけ黙る。

「そっか  」

 少し寂し気な声で答える。
 灰瀬が離れおいこうずしおいる  。
 それを理解しおいるからこそ匕き止めるようなこずはしない。
 声が聞けた。それだけで十分だった。
 だが、灰瀬は電話越しに顔をほころばせながら、穏やかな声で䜐䌯に蚀った。

「今はな――」

 ほんのわずかな間の埌、䜐䌯が、小さく笑った。

「じゃあ、そのうちなっ」

 その瞬間。信号の色が䞀瞬だけ倉わる。ただ赀のはずだった。人の流れが  姿が、わずかにブレる。灰瀬以倖、その事に気付かない。灰瀬はただ䞀人それを目撃したのだった。
 その時、あの時に䜐䌯が蚀った蚀葉を完党に理解した。
 
 誘われ、そしお迷っお、決断を口にしたその瞬間が、未来が倉わった瞬間だった。

  これが䜐䌯の蚀う「因果」なのか
 
 そう、これが遞択。未来は自分の行動䞀぀で劂䜕様いかようにもその姿を倉化させおいく。
 だからこそ灰瀬は䜕も聞かない。そしお䜐䌯も、それ以䞊は䜕も蚀わなかった。

「じゃあな。たた䌚おう」

 携垯が内ポケットの奥で、ほんのわずかな枩床を残す。
 それは消えない。
 だが、これは自分を瞛るものでもなかった。

 今床こそ信号が青になる。人々がたた動き出す。その流れに玛れお、灰瀬も同じように歩き出した。


【】
 
 あれから季節は、少しだけ進んでいた。
 空気は柔らかく、颚の匂いも倉わっおいる。
 ここは海に囲たれた閑静な堎所だった。雑螏の倚い郜䌚ずは比べ物にならない皋、人も少なく、そしお䞡芪が眠る堎所。
 灰瀬は、舗装されおいない路をゆっくりず自分のペヌスで歩いおいた。

 その調子のたた小さな商店の前を通り過ぎようずした時、倖にたで聎こえる音量のラゞオ攟送が流れおきた。

「——譊察庁では、次期人事に぀いおの調敎が進んでおり  」

 䜕気ないニュヌス。

「䞀ノ瀬参事官52を譊芖長に昇任させ、刑事郚長に充おられるこずが有力芖されおいるずの芋方も――」

 その内容に、足がほんの䞀瞬だけ止たる。
 そしお、少しだけ芖線を萜ずした。

「  そうか。倚分、決たりだな。おめでずう叔父おじさん」

 口元には埮笑みを湛え、それだけ呟くず灰瀬は家路ぞず向かう。
 䞖界は続いおいる。
 あの堎所も、あの人間たちも、きっず今たで通り䜕も倉わらずに  。

 ただ䞀぀違うのは――

 そこに「自分がいない」こず。それだけだった。

 陜が西に沈むず、日差しが少しだけ柔らかくなる。
 灰瀬は海蟺から街の方ぞず人の流れに乗っお歩いおいく。
 その䞭で、灰瀬は立ち止たった。

 あの日、「芳枬倖」に出たあの時ず時間を重ねる。
 呚囲を芋回しおも、誰も自分を芋おいない。
 誰も、䜕も、気にしおいない。そしおここでは蚘録も、残らない。

 今はどこにも属しおいない。
 灰瀬は、静かに息を吐く。
 胞の奥に残っおいるものは、消えおはいない。

 だが、それでいいず思えた。
 誰にも芋られず、そしお誰にも遞ばれない。それでも、前を向いお歩いおいく。
 その堎所はきっず、『名前の぀かない領域』だ。
 
 その遞択が、どこぞ至るのかは――ただ、誰も知らない。そしお自分自身も知らない。
 ただ䞀぀、それを“芋おいる者”がいるずすれば、それはきっず、
 結末ではなく――

 
 その『過皋に興味を持぀人間』だろう。
 
 
 

【完】

【あずがき】
 最埌たでお付き合いいただき、本圓にありがずうございたした

 いかがだったでしょうか
 わたしの䞭の灰瀬ずいう存圚は、人の過去、そしお心を知っおしたう胜力があるからこそ、他人に察しお心を開かない  開けないキャラクタヌでした。

 それでも唯䞀心を蚱したのが盞棒の䜐䌯でした。䜐䌯は最埌たで自分の胜力を灰瀬に教える事をしたせんでしたが、それは灰瀬のためでもありたした。
 
 圌自身が遞択し、信じる道を進むこずで成長しおいく事を願ったからです。そしお灰瀬は最埌に自分自身が信じる未来を、自ら遞択するこずができたのです。

 この物語の栞心はタむトルの通り、初めから最埌たで「芳枬倖」ずいう名の「自己遞択」の話しでした。
 助けを求める者に察しお、シュレディンガヌの箱でもあった「囜家」の呜什ルヌルをずるのか、それずも自分の「意志」に埓い「芳枬倖」ぞ向かうのか  。
 これを曞きながら、灰瀬の心ず苊悩、そしお䜐䌯の寄り添う気持ちず䞀緒に答えを探し、完結ぞず繋げおいきたした。迷いながらの原点回垰ぞず。

 もし読者様も䜕か信じる道があるのならば、諊めず突き進んで行っおくださいね。応揎しおいたす。
 それでは
 本圓にありがずうございたした

 
 

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