連載小説「オボステルラ」 番外編3「お怒りのミリアさん」(4)
番外編3「お怒りのミリアさん」(4)
夕食後、ゴナンは本も読まず、シロの対応に四苦八苦している。リビングルームに連れてきて、なんとか可愛がろうとしているが、シロはゴナンをあざ笑うかのように、近づくとさっと逃げ、諦めると近寄ってきて…、を繰り返している。リカルドはその様子を見て「ふふっ」と笑った。
「ゴナン。真剣に思い詰めない方がいいよ。ネコはあまり真面目に対応しすぎても仕方が無いから」
「…でも、可愛がらないと…」
「…まあ、その姿勢をミリアに見せることが大事だよ。ちゃんとシロを大切に扱おうとしている意気込みをね。とにかくネコは、思い通りにはならない生き物だから」
「うん…」
そう落ち込んだように頷くゴナン。リカルドは試しにシロに手を伸ばしてみるが、やはりしゃーっと警戒された。
「僕はやっぱりダメだな。こういうのには全然、好かれないんだ。犬もおんなじだよ。前に先生が飼っていたワンちゃんにも、随分と吠えられたものなあ。不思議だな」
「ふうん…?」
と、そこに、ディルムッドが通りかかった。とたんにシロは駆け寄る。
「おお、よしよし、シロ。随分、人慣れしてきたな」
「…慣れてるのは、ディルにだけだよ…」
ゴナンが少しふくれっ面になる。ディルムッドは微笑んで、脇に抱えている箱を置いた。中には砂が敷き詰められている。
「屋内飼いをするのなら、トイレの躾をする必要があるかと思ってな、持ってきた」
「ああ、ありがとう。さっき、僕の洋服におしっこをやられたんだよ」
リカルドも嬉しそうにしている。ゴナンは首を傾げた。
「トイレの躾…。どうやるの?」
「…多分、シロがトイレに行きたそうな素振りを見せたら、この箱に乗せてあげると良いだろう。何度か繰り返せば、ここでトイレをするべきだと覚えるはずだ。トイレの場所はどこが良いかな…」
それを聞き、ゴナンは屋敷の中の造りを思い浮かべる。
「…あそこがいいんじゃないかな? 水場に行く通路の手前の、棚の下」
「ああ…。しかし、なぜ?」
「…なんとなく…。落ち着いてトイレできそうかな、って…」
「……」
リカルドとディルムッドは顔を見合わせる。こういう点には、ゴナンの勘が働く気がする。と、シロの挙動を見てハッとしたゴナン。
「あ、言ってる傍から、あやしい…。連れてくね」
そう言って、トイレの箱にシロを乗せてリビングを出て、水場の通路へと急いだゴナン。なんとも甲斐甲斐しい。
「…ゴナンはああいう、小さくて守りたい感じのようでいて、実は随分と跳ねっ返りな困った女の子のお世話が得意なようだなあ。シロもメスのようだし」
ゴナンの後ろ姿を見送りながら、リカルドがそう微笑んだ。ディルムッドもふふ、と笑ったが、しかしすぐにあることに気付く。
「…その跳ねっ返り云々とは、ミリア様のことを言っているのではないだろうな?」
「……。さてと、僕はちょっとゴナンの様子を見てこよう」
リカルドはその問いには答えず微笑だけを残し、部屋を逃げ出した。

* * *
翌日になっても、シロはなかなかゴナンの思うようにはならない。しかし、昨日までの警戒むき出しではなく、ゴナンをからかい振り回しているような素振りに見える。ゴナンが「自分の面倒を見てくれる者」だと理解したかのようだ。トイレもすぐに覚えたし、傍目には十分にゴナンに懐いているように見えるが、そのネコの「ネコらしさ」がわからないゴナンは、「どうすればいいんだ…」と頭を抱えるばかりである。
(…ゴナンにとって、いきなりネコはハードルが高いかな…?)
シロに振り回されっぱなしのゴナンを、リカルドは興味深く見ている。昼食の時間、自分のご飯もそこそこに、シロ用のご飯を準備しているゴナン。リカルドの助言により、ちゃんと可愛がっている様子をミリアに見てもらえるように、ダイニングの隅にシロを連れてきて水とエサを置く。
「ほら、シロ、ご飯だよ」
器を置くと、シロはご飯に向かうかと思いきや、さっと走って、まだ昼食中のディルムッドの膝へと走ってしまう。「ああ…」とシロの方へ駆け寄るゴナン。そして、ミリアの視線を気にする。ミリアは少しむすっとした表情だ。
「…ほら、シロ。お腹は空いてないのか?」
ディルムッドがそう声を掛けながらなでると、ゴロゴロと喉を鳴らし気持ちよさそうにするシロ。ゴナンは少し、羨ましそうに見ている。
「ゴナン。シロはお腹が空いたら自分で食べるだろう。ゴナンもご飯を食べるといい。自分の分はまだ途中じゃないか」
「うん…」
ゴナンに優しく提案するディルムッド。ゴナンが応じて自分の席につくと、その途端にシロはディルムッドの膝を降り、ご飯の器の元へと走ってご飯を食べ始める。完全にゴナンをおちょくっている。その様子に、思わず吹き出すナイフとエレーネ。
「ゴナン、随分と仲良くなったようね?」
「え? どこが?」
ナイフの言葉に思わず尋ねるが、はっとミリアの方を見ると、言い直す。
「…うん…。仲良く…、なってる。俺が、ちゃんと可愛がってるから…」
「…でも、ゴナンの言うことは聞かないじゃないの」
ミリアが不機嫌そうにそう呟いて、そして「ごちそうさま」とダイニングを後にした。その様子を呆気にとられたように見送る大人達。ナイフは肩をすくめる。
「…お姫様のご機嫌は、なかなか直らないわね。珍しいこと」
「まあ、彼女のお年頃を考えたら、ああいう感情の起伏があるのも不思議ではないけど。どうだろう?」
リカルドの質問に、ディルムッドは腕を組み怪訝な表情をした。
「…いや、ミリア様には珍しい態度のように思う。私が知る限りではあるが、アーロン殿下やキールに対してすら、あのように長い時間、不機嫌な態度を示されるようなことはなかった」
「そっか…。ミリアは、何か言ってる?」
今度はエレーネに尋ねるリカルド。
「いえ…、最初に聞いた話以上のことは、特には。でも、何となくだけど、シロを可愛がりたがっているようには見えるわね」
「ふうん…? 遠慮せずにシロと戯れると良いのになあ…」
ミリアの頑な態度に、一様に首を傾げる大人達。その中でゴナンだけがシュンと落ち込んでいる。ナイフは慰めるように声をかけた。
「心配しないで、ゴナン。時間が解決するから。前にも言ったでしょ?」
「……」
ゴナンは無言で頷き、そして、ご飯を食べ水を飲むシロの方を見る。ゴナンが近づくと、またひゅっと逃げてディルムッドの方に行ってしまった。
↓次の話↓
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