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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】6話「身勝手な独白」(1)


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第三章の登場人物



6話 身勝手な独白(1)


 さらに2日が経ったが、ゴナンはまだ戻ってこない。

 リカルドは馬でストネの街まで戻り、『フローラ』やゴナンが関わったことのある場所へと足を運んでいた。しかし、ロベリアやローズたちも、果物屋台や武器屋の主人も、誰もその姿は見ていないという。

「リカルドさん…。随分、憔悴しているようですが、大丈夫ですか…?」

 『フローラ』に借りている自分の部屋で1泊し、出発しようとするリカルドに、ロベリアが心配そうに声を掛ける。今日はまた、普通のおじさんの格好のロベリア。まだ『フローラ』の営業再開までは期間があるが、会計関係の書類をまとめたり、店の修繕を行ったりと忙しくしているようだ。

「すみません、ご心配をかけて。でも、僕はどうでもいいんです。ゴナンが心配で…」

「……」

ロベリアは、慰めるようにリカルドの腕に手を添える。

「ゴナン君は、体は弱くても聡くて生きる力が強い子だから、きっと大丈夫ですよ。何か不測の事態があったとしても、彼なりの強さで乗り越えているはずです」

「……ええ、そうですね……。僕もそう、信じたいです…」




「あ、そうだ。リカルドさん、ついでのようで申し訳ないが、預けたいものがあって…。ちょっとここでお待ちいただけますか?」

「?」

ロベリアは慌てて店の奥の出口から寮へと戻り、小袋を手にまたやってくる。

「いつか渡せればと思っていたんですが、こんなに早くお会いできると思っていなかったので。これを…」

「これは……」

袋の中身を見て、リカルドは感嘆の声を上げる。

「……流石、ロベリアさんですね。ありがとうございます。きっと喜ぶと思います」


「お詫びにもならないが、ぜひ……」

少し申し訳なさそうにしながら、袋を渡すロベリア。

「…もしゴナン君を見かけたら、すぐにツマルタヘ伝書鳩を飛ばしますね。大丈夫、きっと無事ですよ」

そう笑顔で、ロベリアは送り出してくれた。

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 「そう…、ストネにも寄った形跡はなかったのね」

 翌日、夜にまた、一行はリカルドの拠点に集まっていた。「宿からの行き来がめんどくさいからリカルドも宿に泊まりなさい!」とナイフが要望していたが、ゴナンが帰ってくるかもしれないからとリカルドは固持している。

「工場の方はほとんど回ったけど何の情報もなかったから、もう、工場の線はなさそうね。飲み屋街もしかり。ちなみに、例の卵男の方は、出没の噂だけはちょこちょこ出ているけど、気配はなし、ね」

「……ただ、ゴナンが見つからないというだけではなく、目撃情報も、何の痕跡もないなんて……」

エレーネが腕組みをして話す。人一人が、こんな風にあっという間に、完全に消えてしまえるものなのだろうか? そしてもう一つ気がかりなことが…。

「また、排水溝で男性の遺体が見つかったって。これも念のため見て来たけど、もちろんゴナンではなかったわよ。前と同じように身ぐるみ剥がされていたようだけど……」

そのナイフの報告に、リカルドは表情を暗くする。

「ツマルタはストネに比べたら多少は物騒な街だけど、頻繁に殺人が起こるような治安が悪い雰囲気でもなかったよね? 何かが、起こってるんだろうか」

「……そうね…」

ナイフは呟くように返事をして、ミリアの方をじっと見た。

「ナイフちゃん?」

「……やっぱり、護衛がまだ十分ではないかもね…」

「え? ナイフちゃんもエレーネもいるのに?」

リカルドが首を傾げる。とにかく彼は、ナイフに全幅の信頼を寄せているのだ。

「ええ…。エレーネも腕は立つけど、やっぱりどうしても女性の腕力だし、私は腕力は十分でも武器を扱えないから、長物の武器相手だったりヒマワリちゃんみたいに遠隔から狙われたら、必ず護れる自信がないのよね…」

「……排水溝の件は、ヒマワリちゃんの仕業だと思ってるってこと?」

「…。可能性の一つではあるけど、どうかしら? 身ぐるみ剥がす強盗をするとは思えないけど、でも、分からないわね……」

ナイフは腕を組んで考え込む。人の洞察力に優れるナイフだが、どうにもヒマワリのことは掴みづらいようだ。

「……まあ、これは考えても仕方の無いことだけど。とはいえ屈強な護衛ばかりぞろぞろ連れて歩くのも、ミリアは特別な貴族ですよって言いふらしているようなものになるから、程度が難しいわね…」

「……貴族……」

と、リカルドが思い出した。

「あ、忘れるところだった。ロベリアさんから預かったものがあって」
そう言って、自分の荷物から小袋を取りだし、それをミリアに渡す。

「? わたくしに?」

「うん。開けてみて」

促されるまま開けると、ミリアは「まあ」と声を上げた。そこに入っていたのは、街を出るときに切ったミリアの髪の毛で綺麗に作られた、つけ毛だった。

「ロベリアさんがね、ミリアはどう見ても貴族のお嬢様だから、髪が短いままでは不都合な場面が出るんじゃないかって。盛装する必要があるときにつけられるよう、整えてくれたんだよ。ミリアから盗んでしまったバッグを見つけられないままらしくて、そのお詫びだって」

「まあ、嬉しいわ。根元に仕掛けがあって、結いやすくしてあるのね。とっても使いやすそう。あ、髪飾りも入れてくれているわ。かわいい…」

「ああ、流石、女装に人生をかけているロベリアさんだよね。かなりの技術力だよ」

そう微笑むリカルド。朗らかに話してはいるが、やはり顔色は悪いままだ。ナイフはその様子を見て、リカルドに提案した。

「……ねえ、ゴナンが心配なのは分かるけど、明日は休みなさいよ。この数日で、随分やつれた…、というか、痩せたように見えるわ」

「ダメだよ。休んだせいでゴナンを見つけられなかったらどうするのさ。それに僕は多少無理しても…」

「私達も動いてるし、警察も昼も夜も捜してくれているから。ゴナンが戻ってきたときにあなたがそんなだと、ビックリするわよ」

「……」

ぐっと唇を噛みしめてうつむくリカルド。その様子を見てエレーネが、肩をすくめる。

「ダメよ、ナイフ。無理矢理休ませようとしたって絶対に出ていくわよ、リカルドは。今夜も夜中に排水溝付近を歩いて回ろうとしているのよ」

「……」

ジロリとリカルドを睨むナイフ。リカルドは視線を落としたままだ。

「…じゃあ、せめて明日は私と一緒に動きましょう。そして今夜は私もここに泊まるから。エレーネ、宿への連絡よろしく」

「ええ、わかったわ」

「…えっ。でも、ナイフちゃんと一緒だと、キングサイズとはいえベッドが狭苦しくなっちゃうな……」

「だから、なんで一緒に寝る前提なのよ。あなたの高級寝袋を貸しなさい。玄関のドアの前で寝るから。あなたがドアを開けられないようにね!」

腕を組みリカルドに指示するナイフ。彼女自身も、何日経ってもゴナンの手がかりが全くないことに焦りを感じていた。だからこそ、無茶な探索はよくない。リカルドはそんなナイフの意を汲んでか、力なく頷いた。

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