連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 5話「訪問者」(2)
5話「訪問者」(2)
「…待て…。君を、もう、『この子』には乗せられない」
「……えっ?」
ゴナンはコチの方を振り返った。
「…で、でも…。俺…、こんな処まで連れてこられて…。ここ、どこか、分からないし…。せめて、どこか、街まで…」
「……」
コチは少し睨むような目つきでゴナンを見る。
「…『この子』の脚近くに、新しい傷があった。何か、刃物で斬られたような…」
「…あ…」
老人が槍を振り回したときのものだ。ゴナンは慌てて言葉を重ねる。
「…きょ、巨大鳥を恨む人と会って、それで、襲われて、それで鳥だけここから逃げちゃって…」
「……」
「…俺、守れなくて…。…ごめん…」
困ったようにそう言うゴナン。コチは表情を変えないまま、じっとゴナンの淡い琥珀の瞳を見る。
「……分かっている…。『この子』の矢傷の方は、治療された跡があった…」
「……!」
「……それに、『この子』は汚されていなかった。分かってる…」
「?」
泥汚れか何かのことだろうか? 巨大鳥は水浴びもしていなかったのに、と、ゴナンはコチの台詞に首を傾げる。コチは続けた。
「…本来は、他の人間を乗せてはいけないんだ。…なのに今回は、2度も掟を破ってしまった。運良く2度とも汚されなかったから、よかったけど…」
「2度……」
2度、とは、ミリアが乗ったときと今回のことだろうか。
「でも、これ以上はもう、だめだ。寒くなると『この子』は動けなくなるから、早くしないと……」
よく分からないような表情をするゴナンに、コチは少しだけ表情を緩める。
「…でも、この子は、君といるのは、楽しかったようだ。そう言っている」
「…えっ? 言葉がわかるの…?」
「いや…、そうじゃないけど、でも…」
そう言ってコチが巨大鳥を見上げたときであった。
「……いよいよ、来たな、巨大鳥…!」
木々を揺らすほどの怒声が響いた。声の方を見ると、槍を手にした老人が立っている。
「…モタモタ小僧! 鳥が来たら知らせろと言っただろうが…!」
「…おじいさん…、あの…」
老人の迫力にたじろぐゴナン。コチはぎっと老人を睨み、警戒する。誰が巨大鳥を傷つけたかを理解したようだ。
「…なんだ、お前。お前が巨大鳥の仲間か!」
老人は、小柄な少女に何の躊躇いもなく、叫び、威嚇した。コチは胸元から笛を取り出した。
「…お前も同じ目に遭わせてやる…! 食らえ…!」
止めようとするゴナンを、老いさばらえた体とは思えないほどの力で押し退け、老人はものすごい勢いで巨大鳥とコチの方へと駆けていく。槍を真っすぐに少女の方に向けて。ゴナンは思わず老人に後ろから飛びかかり止めようとするが、体ごと前に持って行かれる。コチは俊敏な動きで鞍に飛び乗ると、取り出した笛を吹いた。
「キィィィ!」
巨大鳥はそう鳴き声を上げ、しかし飛び立とうとする挙動を見せつつも、老人を押さえようとしがみついているゴナンの方に顔を向けた。
あれっ?というような表情でゴナンを見る巨大鳥。

(…?)
「…えっ? ちょっと、ほら!」
すぐに飛び立たない巨大鳥に、コチはもう一度笛を吹く。巨大鳥は再び鳴き声を上げ、今度は羽ばたき、そして旋風を残してあっという間に飛び立った。老人の槍はすんでで届かず、2人して羽ばたきの風にぶわりと体ごと吹き飛ばされる結果となった。
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