連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】7話「大きな男」(4)
<<第三章 7話(3) || 話一覧 || 第三章 7話(5)>>
第一章 1話から読む
7話 大きな男(4)
(一生、ここで、働く…。出られない。お金も、もらえない……)
ゴナンは小さく震えていた。恐怖で足を踏み出せない。自分は何という過ちを犯してしまったのか。でも、もうどうしようもない…。
「おい、お前も早く行け!」
「…あ…、あの……」
震えながらゴナンは、グレイに尋ねる。
「本当に…、一生、ここに……? お金も……」
「あぁ?」
ゴナンを怒鳴りつけようとしたグレイだったが、横から食堂で話した男がそっと耳打ちした。その話を聞き、グレイはニヤリと嫌な笑顔を浮かべる。
「…ああ…。お前は若いからな。一生懸命頑張れば、報酬を貯めることもできるかもしれないな。働きに応じて評価が変わるのは、世の中では当たり前のことだ。な?」
「…はい……」
「まずはしっかり仕事を覚えて、先輩達以上の仕事ができるようになりな。報酬も、ここから出るのも、お前の頑張り次第かもしれねえぞ。な? ただ、他の奴等には言うなよ。お前を見込んで、お前だけにこの話をしているんだ。な?」
「……」
その言葉に、ゴナンはきっと顔を上げた。そして「頑張ります」とペコリと頭を下げて、作業場の方へと駆けて向かう。その後ろ姿をニヤニヤと見送る二人。
食堂で話した男は、ゴナンの素直でまっすぐな性格と、世慣れしてない雰囲気をグレイに伝えた。より作業のパフォーマンスを上げてもらうためのアメだ。といっても、もちろん報酬を与えたりここから出すなんてつもりは、毛頭ない。
この男達は、食堂のように人が多く集まる場所で、わざと大声でおいしい話をして振りまき、それにかかってくる者を攫ってはこの鉱山のような場所へ売りつける、人攫いの集団だった。話に引っかかってきても、腕が立ちそうな者や身持ちの確かな者、すぐに家族などに捜索されそうな人間は断る。世の中から消えても困らないようなワケありや身寄りのない人間を選別して、売って回っているのだ。
さらに言えば、先ほど私兵に殴られていた50代の男も、この仲間である。制裁で死んだふりをすることで、攫ってきた男達に恐怖を植え付けるための茶番であった。しかし、効果は絶大だ。
(鉱山…。ミリアが言っていた、ツマルタの近くに鉱山があるって。ここが、そうなのかな……)
そもそもゴナンには、鉱山がどのような場所なのかがよく分かっていなかった。ただ、働いている人を見ると、何かの石を穴から運び出しているようだ。
(わからないけど…、とにかく、頑張って働けば、ここを出してもらえるかも、報酬ももらえるかも、しれない…。頑張らないと……)
ゴナンはグレイの嘘を真っすぐに信じ、作業場へと向かった。
========================================
大きな岩山の横穴へ入ると、中には大空間が広がっていた。ここで、数十人の男達が働いている。坑内の随所に発光石の照明が置かれており、そこそこ明るさはあるが、話し声も聞こえず雰囲気はどんよりと暗い。
「……おい、お前はこっちだ」
指示役の男が、穴の最後部にゴナンを呼ぶ。そこは30mほどの幅の岩壁で、たくさんの男達がツルハシを手に岩を割っていた。皆、片足に足枷をはめられ、鎖につながれている。武器に成り得るものを手にしているから、仕事中だけ彼らはつながれると説明される。
「お前は、こいつらが掘り出した岩を、こっちの広場に運ぶんだ」
大きなザルをゴナンに渡し、抗の中心部にある広いスペースを指す。そこでは、複数の男達が石を選別している。黒い石と、それ以外の石を分けているようだ。
「…ああ、ドズに挨拶をしておけ」
そう言って指示役は、岩を掘っている者達の中から一人の男を呼んだ。呼ばれた男はのっそりとやってくる。彼だけは足枷が着けられていない。
(……大っきい……)
ゴナンはそのドズと呼ばれた男をぐっと見上げた。身長はリカルドよりも高い。そして岩のように厳つい筋肉を纏っており、リカルドよりも何倍も大きな体に見える。岩を掘る作業をしているからか、体中から熱気が沸いている。茶色い髪もひげも伸び放題で顔はよく見えず、年齢も分からないが、鋭い眼光が覗く。
「ドズ、今日からの新入りだ」
そう言われて、ドズはジロリとゴナンを見た。そして良く通る低い声で指示役に尋ねる。
「…ここは子どもも働かせるのか?」
「……18歳だとよ。しっかり指導してやってくれよ」
「…あ…、よろしく…、お願いします……」
ペコリと頭を下げるゴナン。ドズはその様子を見て、すっと顔を背けた。
「指導も何も、特にない…。励めよ」
そう言って、持ち場に戻っていくドズ。指示役はゴナンにささやく。
「どこかのギャングの親玉だったって話だ。人をたくさん殺してここまで流れてきたらしい。逆らうとひどい目に遭うぜ」
「ギャング…」
ゴナンはそう呟きながら、また一心不乱に岩を掘り始めたドズの後ろ姿を見た。体にはたくさんの傷跡がある。そして、隙なく鍛えられているらしい筋肉が、一振り、一振り躍動している。ナイフよりもはるかに大きい後ろ姿だ。
「……あの人の道具だけ、他の人より大きい」
「ああ、あの通りの怪力だからな。特注で大きなツルハシを用意してやったんだ。あいつはこちらには逆らわないから、武器にされる心配もないしな。あれで収量が恐ろしく増えた。すごいもんだぜ」
そう言ってゴナンを小突く。
「ひ弱なお前は石拾いだ。さあ、働け」
ゴナンはうつむいて、岩を掘る男達の足元に溜まっていく石をザルに入れ始めた。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
