連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 13話「子ども達の姿」(3)
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13話 「子ども達の姿」(3)
すぐにエドワードの自宅に着く2人。仲良さそうに戻ってきた様子をみて、エドワードの母は笑顔で迎える。
「ちゃんと仲直りできたみたいね。エド、きちんと謝ったんでしょうね?」
「当たり前じゃん! 俺たち、親友だからな! ケンカしたって、ちゃんと仲直りするんだ!」
そう言ってゴナンと肩を組むエドワード。とても嬉しそうだ。と、エドワードの大声が耳に障ったのか、ベビーベッドに寝ている赤ちゃんが泣き始める。
「ほら、あんたがうるさくするから…」
「…あ、あの…。俺、妹…さん、抱っこして、いいですか?」
ゴナンがぐずる赤ちゃんを見て、そう申し出た。
「ええ、もちろんよ。あやしてあげて」
「名前は、何ですか?」
「エミリーよ。この子のひいおばあちゃんの名前をもらっているの」
「へえ、いいなあ。ひいおばあちゃんの名前、もらえて…」
そう言いながら、慣れた手つきでそっと赤ちゃんを抱っこするゴナン。「エミリー、よしよし」とあやしている内に、すぐに泣き止んでしまった。
「まあ、上手ねえ。エドに面倒みさせても、いつもうまくいかないのよ」
「村で、妹の世話をよくしてたから…」
「ゴナンの妹は5歳年下だっていってたよな? 5歳の頃からお世話してたのかよ」
「…うん、それが俺の役割だったから…」
「じゃあ、今もお兄ちゃんっ子なんだろうなあ…。かわいいんだろ?」
そう尋ねてくるエドワード。ゴナンは、自分の腕にすっぽり収まる、小さくて柔らかで温いエミリーに、懐かしげな目線を遣る。

「…うん、でも、ミィは、ちょっと前に死んじゃったから。俺の村、ひどい干ばつで、食べ物がなくて、お腹空かせて…」
「……」
「俺も、多分、飢え死にする寸前だったし。こんな食べ物も水もいっぱいある良い街で育てば、そんなことなかったんだろうけどな。エド、エミリーちゃんのこと、可愛がってあげろよ」
「……」
「いつまでも当たり前に元気だなんて、限らないから…」
そう呟くように話して、ゴナンはよしよしとエミリーをあやす。居心地良いのか、キャッキャとご機嫌になるエミリー。「あ、笑った」とエドワードに報告しようと顔を上げたら、エドワードと母は揃って涙を流していた。
「…あ、ええと…」
「…ゴナン…。ごめんな、俺、そうとも知らず…。なんだよ。お腹空かせてって…」
「かわいそうに…。ゴナンくん…。ごめんなさいね…」
ポロポロと泣く親子に、ゴナンは少し戸惑う。
「いや、俺が話してなかったから…。ごめん、暗い話題になっちゃうから、それで、話せずにいたんだけど…」
「暗い話題なんて言うなよ…! お前の大事な妹の話じゃねえか。…ミィちゃん、かわいそうだなあ…。ゴナン、お前も、辛かったな…」
「…うん…」
涙をボロボロとこぼすエドワードの素直な慰めを、ゴナンも今日は素直に受け止めることができた。ニコニコと笑うエミリーの顔に癒やされ、少し微笑むゴナン。
「…なあ、なんでも話してくれよ。お前のこと、もっと知りたいんだ。ミィちゃんのことも話して、忘れずにいてあげようぜ。俺もなんでも話すから」
「…あなたは話題なんてほとんどないでしょ、エド。嫌いな食べ物の話くらいじゃないの?」
涙を拭きながらエドワードをからかう母。エドワードは何だよ、と母に悪態をつき、ゴナンを自分の部屋へと招いた。
「さあ、ゴナン。話そうぜ!」
「うん…、話そう…!」
* * *
今日も4手に分かれて巨大鳥の捜索に当たったが、鳥が飛翔している姿すら見かけなかった。成果なしで帰ってきた一行。屋敷へと戻ると、廊下でゴナンが出迎えに来た。表情は晴れやかになっており、そしてなんだか少しソワソワとしている。
「…おかえりなさい」
「ただいま。その様子だと、エドワードくんとのお話はうまく行った感じかな?」
リカルドはニコリと微笑む。ゴナンは、瞳を輝かせて頷いた。
「うん…、謝って、いろいろ、話せた。お互いに」
「そっか、よかったね…」
「あの、それで…」
ゴナンが少しモジモジとしている。何ごとだろうか?
「どうしたの?」
「…あの…。エドが、今日、自分ちに泊まれよって言ってくれて。泊まりに行って、いいかな…」
「ああ…」
少し申し訳なさそうに、でもワクワクを押さえられない様子で、リカルドにそう尋ねるゴナン。リカルドはゴナンの頭をなでる。
「もちろんだよ。それを聞くためにわざわざ、一度ここに戻ってきたの? ずっとエドワードくんの家にいてよかったのに」
「うん、でも、リカルドは、俺の保護者だから…。心配、かけちゃうし」
そうモジモジというゴナンに、リカルドはニッコリと微笑んだ。
「こちらは気にしないで、行っておいで。明日も探索には僕らで行くから、ゆっくりお世話になってくるといいよ」
「でも…」
「せっかく仲直りできたんだよ。ね、気にしないで」
リカルドはゴナンの頭をぐい、とかき回した。少し嬉しそうにするゴナン。
「…うん、ありがとう。行ってきます…!」
「あ、夕食は?」
「エドのお母さんが用意してくれるって!」
そう言って、玄関から駆け出していったゴナン。閉じた扉を見つめるリカルドの様子を見て、ナイフがからかうように声をかけた。
「今日は独り寝ね。寂しくて眠れないんじゃない?」
「…ふふ、ほんとだね。お酒を多めに出してもらおうかな」
「どうせ、ほとんど酔わないんでしょ? …でも、よかったの? 明日もゴナンを巨大鳥の探索に参加させないなんて…」
「うん…」
リカルドは少し目を伏せる。
「…このまま、ゴナンは巨大鳥のことを忘れてしまっていいとすら、僕は思ってるから。…その方がきっと、幸せだよ。ゴナンは、こういう普通の街での暮らしを、うらやましがっていたんだから」
「はあ?」
リカルドはそう言い残して、ナイフの疑問符には答えず、自室へと戻っていく。ナイフは腕を組み憮然として、その後ろ姿を見送った。
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