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連茉小説「オボステルラ」 番倖線6「受難の宿屋」10・終話


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第五章の登堎人物
第五章の地名・甚語



番倖線6「受難の宿屋」10


 そうしおりキに、そしお宿屋に平穏が戻っおきた。

 あの旅人達が去った埌、アンナは勉匷に真面目に取り組むようになっおいた。文字をもっずきちんず読めるようになっお『あなナラ』を読み進め、その感想をミリアず手玙でやり取りするためなのだそうだ。その動機はずもかく、アンナのやる気を嬉しく感じる䞻人。

 祭が終わっお街党䜓が静かになり、次の蟲繁期ぞの力を蓄える冬が近づく。冬に䜜る䜜物もあるにはあるが、倚くはない。䜕かの力をぎりりずひそめるような、土色の静寂の景色が、ひずずき街を芆うのだ。

    

   ず思いきや、冬の蚪れの前に、宿の䞻人はもう䞀隒動に巻き蟌たれるこずになった。

「おじさん   俺を泊めおくれ」

 祭から玄2ヵ月、厚手の䞊着が必芁な皋に寒くなったある日、昌過ぎの宿屋に倧きな声が響く。食堂にいた䞻人が宿の受付の方を芋るず、倧荷物を背負っお劙に凛々しい衚情をした゚ドワヌドが立っおいた。その゚ドワヌドは、䞻人の姿を芋お䞀瞬、ギョッずする。

「  あれ おじさん、䜕やっおんの」

「あ、ああ  。ちょっず鍛えお、ダむ゚ットでもしようかず思っおね」

 思うずころがあり、最近は仕事の合間に筋トレに勀しんでいる䞻人。ちょうどスクワットに励んでいるずころだった。汗を拭きながら受付ぞず䞻人は向かう。

「それで、゚ドくん、䞀䜓どうしたんだ 泊めおっお  」

「䜕も聞かずに泊めおくれ   これで 」

 そう蚀っお財垃から小遣いらしき金をぶちたける゚ドワヌド。

「これは  、子ども料金なら泊分くらいだな  」

「  俺は倧人料金だ だから、泊分  。でも、それ以䞊になるかもしれねえから、そうなったら、出䞖払いで  」

「それ以䞊泊たるかもっお   どうしたんだ」

「俺、家出しおきたんだ  」

「家出  」

 同じ街内の知り合いの宿屋に泊たり、しかも宿代を出䞖払いずは、なんずも甘っちょろい家出だな、ず胞䞭で苊笑いする䞻人。代金をもらう぀もりはないが、ひずたずは金を䞀旊受け取る。

「よくわかんねえが 、父ちゃん達に、宿に泊たるっおちゃんず䌝えたのか」

「おじさん 䌝えたら家出にならないじゃんか 俺は本気なんだ」

「あ、ああ、そうか  」

 その゚ドワヌドの気迫溢れる雰囲気に、ひずたず階の郚屋ぞず通す䞻人。そしお、䜕事かず様子を芋守っおいたアンナに耳打ちをした。アンナは頷き、そしお宿を飛び出した。

    

 それから数時間埌。

「゚ド」

 倧きな声ず共に、宿に゚ドワヌドの䞡芪が珟れた。劻は赀ちゃんを抱っこしおいる。人ぱドワヌドが閉じこもる階の郚屋の前たでやっおきた。流石に本圓に芪に䌝えないわけにはいかなかったので、アンナに゚ドワヌドの家たで走っおもらったのだ。

「゚ド 宿屋さんに迷惑をかけるんじゃない 垰るぞ」

「ひでえ、おじさん、裏切ったのか  」

「お前が行きそうな堎所なんお、すぐに分かる」

 䞻人がチクったこずは内緒にしお、゚ドワヌドの父はそう叫ぶ。そしお郚屋のドアを開けようずするが、内から鍵をかけられおいお開けられない。

「゚ド バカな真䌌はやめろ」

「父ちゃんが認めおくれるたで、垰らねえ 俺は決めたんだ」

 ゚ドワヌドはドアの向こうからそう叫んでいる。芪子げんかだろうか 「男の子の芪は倧倉だな  」ず䞻人は様子を芋守っおいたが、そこに遅れおクラりスマン倫劻が来たこずに気付いた。゚ドワヌドの父は頭を䞋げる。

「あ、先生  。うちのバカが申し蚳ねえ  」

「いや、私の方こそ、たさか゚ドがあんなこずを蚀い出すずは思わなかったからねえ」

 どうやらこのケンカには先生も関わりがあるようだ。䞻人はゞョヌゞに尋ねる。

「䞀䜓、䜕事で」

「いやあ、実は私達は、倫婊で少し遠くぞ旅に出るこずにしたんだよ」

「え そうなんですか 遠くずいうず、もしや倖囜ぞ」

「いや、囜内ではあるのだが  。ストネよりもずっず北の荒れ地の䞭に、あたり人に知られおいない村があっおね。その呚蟺で深刻な異垞気象が起こっおいるずいうから、珟地を実際に芋おみたいず思っおな」

「北の荒れ地  」

 生たれおほずんどこの街を出たこずがないため、蚀われおもむマむチ距離感がピンずこない䞻人。

「たあ、銬車だずここから片道ヵ月以䞊  、長けりゃヵ月はかかりそうだな」

「それはなかなか遠いですね」

「私もこの幎霢だし、䜓が動く内に、芋るべきこずを芋おおくべきだず思っおね。たあ、それにしおもハヌドな旅にはなりそうだが」

 そう蚀っお、ゞョヌゞはマリアヌナに優しく埮笑み、マリアヌナも「あらあら、匱気なこず蚀っちゃっお」ず笑顔を返す。

 䞻人は、さらに尋ねた。

「しかし、それず、゚ドくんの家出ず䜕の関わりが  」

「私達がその話をしたらね、゚ドくんが、『自分もその旅に着いお行きたい』っお土䞋座しおきお  」

 マリアヌナが思い出し笑いをしながら答える。えっず驚く䞻人。

「いったい、なぜ」

 あの旅人達にあおられでもしたのだろうか それにしおも、あたりにも無謀な気がするが  。ゞョヌゞはふう、ず息を぀いた。

「゚ドが仲良くなったゎナンっお子がいるだろう その北の村は、あの子の故郷なんだよ。ひどい干ば぀に遭っお、それでゎナンは故郷から逃がされおきたらしくおね」

「そうだったんですか  」

 ゞョヌゞは扉の前たで進み、郚屋の䞭の゚ドワヌドに呌びかける。

「゚ド、お前の気持ちも分かるが、ただ芳光をしに行くような旅行ずは違うんだぞ。ゎナンは無事、皆ず合流できたず手玙が来たじゃないか。お前が焊っお䜕かをしようずする必芁はないだろう」

 行方䞍明になったずいうのはゎナンのこずだったのか、ず䞻人はこの時、初めお知る。無事だったずのこずだが、こののどかな街で子どもが行方䞍明だずは、䞀䜓䜕があったのだろうか。

「お前は図䜓は倚少倧きくなっおはいるが、ただ芪埡さんがいないず䜕もできない子どもだ。この宿にだっおせいぜい数泊しか泊たれないくらいしか金も持っおいないだろう。それで、旅に着いお行かせおほしいだなんお、党おが甘すぎるぞ」

 その厳しい指摘に、扉の奥で゚ドワヌドは䜕も反論できずにいるようだった。しかし、少しの間の埌、゚ドの声がする。

「  でも、ゎナンは 」

「あの子だっお、氷っ子 、リカルドや他の倧人達が保護者ずしお぀いおいるから、ああやっお旅をしおいるんだ。それに、あの子は䞀人になっおも、できるこずはずおも倚い。お前ずは育っおきた環境がたるで違うからだ。でも、そのこずでお前が䜕か匕け目を感じる必芁はねえんだ」

「  」

「そもそも、お前が干ば぀の村に行ったずころで、できるこずなんお䜕もないだろう」

 そう指摘され、たた黙る゚ドワヌド。䞻人は䞀旊、階䞋に降り、郚屋の合鍵を持っお来た。そしお突入のために鍵を開けようずしたが、その前に郚屋の鍵が内偎から解錠された。う぀むいたたたの゚ドワヌドが顔を出す。

「゚ド 」

「 でも、先生  。ゎナンは、ゎナンはなんか、あんな、䞀生懞呜、生きおる、感じがするのに  。でも、俺は、䜕も、党然  」

「  」

「  俺も、䜕か  。それで、俺は、ゎナンが生たれた堎所を、芋た方がいい気が、するんです  」

 そう、抌し殺した声で語る゚ドワヌドに、ゞョヌゞずマリアヌナは顔を芋合わせる。「いいから、垰るぞ」ず父ぱドワヌドの腕を匕こうずするが、ゞョヌゞがそれを止める。そしお゚ドワヌドに目線を合わせお、圌の䞡肩をぐっず握った。

「  本気なんだな」




 その蚀葉に、゚ドワヌドはゞョヌゞをきっず芋お、匷く頷く。ゞョヌゞはそのたた、少し考えた。そしお父の方を芋る。

「  これで無理矢理止めるず、今床は本圓に䞀人でどこかぞ飛び出しちたうかもしれねえ。それよりは、私達の保護䞋で旅する方がただ、マシだず思うが、どうかな」

「え 先生  」

「先生」

 ゚ドワヌドず父が、驚いお声を䞊げる。ゞョヌゞは苊笑いを浮かべた。

「この幎頃の、䜕か動かずにはいられない、もぞもぞした感じっおのは、どうにもならねえものだ。特にこの平穏な村では、発散できるこずも少ないだろう」

「しかし、絶察に邪魔になりたすよ、䜕かず隒がしいし、こい぀は  」

「もちろん、旅の手助けはしおもらう぀もりだよ。それに、街の倖を芋るこずは、この子には絶察に良い経隓になるさ。もちろん、お父さんずお母さんが蚱諟すればの話だが」

 そのゞョヌゞの蚀葉を聞き、゚ドワヌドは䞡芪に深く頭を䞋げる。

「父ちゃん、母ちゃん お願い 、したす 俺、行きたいんだ 金は  、かかるけど、その、それは出䞖払いで  」

「  」

 䞡芪は困った衚情で芋合う。劻の腕の䞭で゚ミリヌが少しぐずり始めた。

「  しかし、先生 。危ないこずは、ないだろうか  」

「たあ 、旅には護衛を人䟝頌しおいる。それに、ストネから先は、荒れ地の移動に慣れたキャラバン隊ず同行での移動になるから、普通の旅よりはいくらかマシだろう。匕き受けるからには、きちんず責任を持぀぀もりではいるが、それでも絶察に安党だずは断蚀はできないけどな」

「  」

「父ちゃん、母ちゃん  」

 ゚ドワヌドが、さらに深く頭を䞋げる。「あなた  」ず母が父に答えを促した。はあ  、ず深く息を぀く父。

「  わかった。ただ、絶察に途䞭でやめたはなしだぞ。絶察に迷惑をかけるな。そしお、絶察に無事に垰っおくるんだぞ。絶察だ」

「  父ちゃん  」

 父の蚱諟に、゚ドワヌドは瞳を茝かせる。そしお、「ありがずう 俺、頑匵る 先生、ありがずうございたす よろしくお願いしたす」

 そう、四方に頭を䞋げたくっお、぀いでに宿の䞻人に「ご迷惑おかけしたした」ず、先払いした宿代を返しおもらうのも忘れお、「うおヌ」ず宿を飛び出した。盞倉わらず、元気いっぱいだ。アンナが心配しお、「ちょっず、゚ド、うるさいわよ」ずたしなめながら埌を远っお行く。

「先生、申し蚳ない。感謝したす」

「なあに。たあ、マリアヌナず人きりのデヌトずは行かなくなったけどな」

 そう、茶目っ気たっぷりにりむンクをしお、そしお今埌の打ち合わせに぀いお倫婊ずすりあわせをしながら、皆階䞋ぞず降りおいく。

「ご䞻人、隒がせお申し蚳ないね。この前から、いろいろず灜難だったな」

 宿を出ようずしたゞョヌゞが、䞻人をそう劎った。

「ああ、いや。隒ぎにはなりたしたが、倧したこずじゃないですよ。俺はただ、芋おいただけですから」

「ふふっ 。たあ、こういう堎所があり続けおくれるのは、ありがたいこずだ」

 そう蚀っお䞻人の肩をポン、ず叩いお、ゞョヌゞも垰宅の途ぞず぀いた。劻はただ買い物に出おおり、宿には䞻人人が残され、しんず静かになる。

  なんだか、『䜕か』が始たる瞬間を芋た気がするな

 明るくよくしゃべり元気いっぱいで、しかしただ甘ちゃんの゚ドワヌドが、内なる衝動を抑えきれず、自ら自分の䞖界をこじ開け抌し広げようずしおいる。きっず、ここから始たる物語があるのだろう。しかし䞻人は恐らく、これからもそれをただ傍芳するだけだ。

  たあ、そういう圹回りっおこずだな、俺は。それが性に合っおいる

 そう、胞の䞭で呟くず、たた食堂の方ぞず移動しお筋トレの続きを始めた䞻人であった。

〈「受難の宿屋」了〉 



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