連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 15話「祭」(1)
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15話「祭」(1)
「……!」
ゴナンは目を覚ました。
(…あれ、俺、何してるんだっけ…?)
はっと目を開くと、青空。少し日が傾き始めている。村で、水を運んでいるんだったっけ? いや、でも、村では、こんなに満腹になったことはほとんどない…。それに、人が少なくて静かなはずの村ではあり得ないざわめきが、たくさん耳に届く。ここは、どこだっけ…。
「…あっ。祭…!」
すぐに自分の居場所を思い出し、はっと体を起こす。眠っていたのは1時間ほどのようだった。ゴナンの周辺で一緒に寝ていたエドワードら友人達はいない。先に起きて、また屋台を回っているのだろうか?
「…あ」
と、少年が一人、戻ってきた。自分と同じくらいの年齢だが、ゴナンはぱっと名前を思い出せなかった。いや、確か、この短髪は、ルイージ…。
「みんな、あっちに行っちゃった?」
ゴナンは少年に話しかける。
「ルイージも一緒に行かなくて良かったの?」
「……。俺、お金が…」
「……!」
財布を忘れてしまったのか、もしくはお金を使い切ってしまったのだろうか? と、少年のお腹がぐーっとなる。前者のようだ。ゴナンははっと、少年の腕を掴む。
「…ゴメン、さっき、気付いてなくて…。俺、食べ物買うから、一緒に食べよう」
「いや、そんなの申し訳ないよ」
「でも…」
飢えの辛さを十二分に経験してきたゴナンは、友人がお腹を空かせるのをどうしても放っておけない。ゴナンはリカルドの祭の説明を思い出す。
「…お祭は、お小遣いで楽しむものだって聞いたよ。俺はルイージの兄ちゃんでも保護者でもないけどさ、今日はたまたま、俺の方がお金を持ってるから、俺の保護者からのお小遣いって感じで…」
「……?」
筋が通っているような、いないような話だ。
「それに、俺、お礼もしたいし…」
「お礼?」
ゴナンは、少し照れくさそうに頷く。
「…この街で、一緒に遊んでくれたこと…。エドとあんなケンカしたりしたのに、それでも仲良くしてくれてるし…」
「…」
ゴナンはルイージの腕を掴んで立たせると、引っ張った。
「行こうぜ。俺も少しお腹空いてきたし、一緒に食べよう」
「あ…、でも…」
「…ひもじいのは、辛いよ…。ね?」
そう言うゴナンの表情は少し哀しそうで、そして、なんとも言えない凄みがあった。ルイージは思わず頷く。
「…うん…。ありがとう」
受け入れたルイージに、嬉しそうに瞳を輝かせるゴナン。そのまま屋台街へと一緒に赴き、先ほど食べきれなかったり美味しかった食べ物や飲み物などを、あれこれと買う。ついつい、買いすぎてしまう。
「ね、ルイージ、これも食べなよ。これも。あっあれも買おう」
「こんなに? 食べきれないよ」
「お腹が空いたら大変だから。ほら、これも美味しかったよ」
戸惑うルイージに、ゴナンは押しつけるように屋台で買った食べ物を渡す。すぐにルイージの両手は食べ物飲み物でいっぱいになってしまった。そんな自分の振る舞いをふと振り返り、ゴナンは胸の内でちょっと笑う。
(なんか、いつものリカルドみたいだな…。リカルドはいつもこんな気持ちで、俺にあれこれ買ってくれるのかな…?)
人々の喧噪と楽団の音楽が混ざり合って、ゴナンを足元から盛り上げてくるかのようだ。ゴナンは頬を紅潮させて、ルイージに話しかける。
「ねえ、あそこのベンチで、音楽の人達を見ながら食べよう」
「あ、うん…」
会場の中央の櫓近く、楽団が音楽をかき鳴らすすぐ傍に陣取る2人。なんだかよく分からないけどワクワクする音楽に、ゴナンは自然と体を揺らす。
「ねえ、ルイージ。夜は灯りを飛ばすって聞いたけど、何時頃かな?」
「さあ…、分からない…」
「…? そう?」
そうして、モグモグと食べる2人。ルイージがほうっと息を吐いた。
「どれもこれも美味しい…。なんか、元気が出てきた」
「そうだな。ご飯を食べると元気が出るよな?」
「うん…」
そう言ってルイージは、じっとゴナンの顔を見た。
「…ねえ、お前、卵を探しているんだよね? どんな願い事を、叶えたいの?」
「えっ?」
その質問にゴナンは驚いた。この街の友人達に、卵を追っている話をしていただろうか。しかし、ゴナンは少し考えて、ひとまず問われた質問に答える。

「俺が叶えたいことは、いくつかあるけど、それは、俺が頑張ればいいだけのことだから…」
(剣術が強くなったり、弓矢が上手になったり、いろんなことを勉強したり、それは、全部、自分次第だ。あとは、リカルドとずっと一緒に旅がしたい、ということ…)
「……」
「でももっと、俺にはどうしようもないこともたくさんあって、それは、俺のことじゃなくて、俺の故郷とか、大切な人達の願い事で、それを叶えるために、俺は、卵を追ってる…」
「……他人のために? 自分の願い事を叶えればいいのに…」
「…俺には、卵は、要らないよ。もっと相応しい人がいる」
「…そのために、危ない目に遭っても?」
「うん…。だって、俺はそのために、村を出たんだから、きっと…」
「……」
「干ばつで飢えた村を見捨てて出てきたのに、こんな美味しいものでお腹いっぱいになれて、勉強や、楽しいこともいっぱいさせてもらってるんだよ。俺が自分のために卵の願い事を使うなんて、だめだよ」
「なんで? もし、お前が自分で卵を見つけることができるなら、それはお前の権利じゃないか。お前が叶えたいことを、叶えるべきだよ。そうでないと、卵を望んでも得られなかった人達に対しても、失礼になるんじゃないか?」
「…失礼…に…?」
ゴナンはっとルイージの顔を見る。そんなこと、今まで考えたこともなかった。
「…俺が、叶えたいこと…」
そう口にして、ゴナンは先ほど自分が考えた願い事を思い出し、そして閃く。
(…そうだ…! 俺が、『リカルドとずっと一緒に旅がしたい』ってお願いをすれば、それはつまり、リカルドが呪いの寿命で死ななくなるってことなんじゃないか…?)
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