連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 12話「声」(1)
12話「声」(1)
翌日、もう一つの遺跡を改めて調べようとした一行。壁画の遺跡から徒歩1分も掛からない場所だった。しかし入口付近まで行くと、石の扉はまた堅く閉ざされている。いろいろと手段を講じてみるが、開けられない。
「昨日、詳しく調べはしたけど、入れないとなると、もっと見たかった気もするな…」
リカルドが惜しそうに呟く。あのニセモノの卵は石でできていたが、以前、ロベリアが持っていたものよりももっと『卵っぽく』作られていた。そして台座に固定され、動かせないようになっていた。つまり、いつもシマキが背負っているものとは違うニセモノのようだった。ミルクゲートの石ではなかったが、試しに割るなどして、石の種類から生産地を予測することもできたかもしれない。
「この遺跡は、巨大鳥の陣営の設備ということだろうか」
ディルムッドも昨日のことを思い出しながら分析する。
「扉の仕掛けや弓矢の仕掛けの部分が見えず、とても我々の理解が及ばないものだったが…。どうする? 最悪、ここを壊してなんとか開くという手段もあるが。何なら、エルダーリンドの駐屯兵に助力を頼んでもいい」
「そうだね…。ただ、相当に難儀しそうではあるね。昨日ある程度調べているし、それよりも今は巨大鳥がこのエリアにいるのだから、そちらを追う方を優先させたいかな」
「そうだな。折を見て、軍にはここの調査を依頼をしておこう」
皆もそれに同意し、そしていつものように4手に分かれての探索となった。今日の午前中は、エレーネとミリアが荷物番で残ることになった。と、遺跡から少し離れた場所で解散しようとしたときに、ナイフが皆を止める。
「ね、みんな、ちょっといい?」
「?」
一旦、馬から降りるよう指示するナイフ。そしてコソコソ話を始める。
「ね、ディル。ミリアのお誕生日って冬よね、多分」
「ん? ああ、そうだが……。なぜそれを? ミリア様から聞いたのか?」
ア王国では王子王女の生まれ年は公表されるものの、誕生日は成人するまでは公にはならない。
「いいえ。でも、ミリアが生まれた日に帝国からの侵略が始まったって聞いていたから」
「ああ……」
リカルドも思い出す。ストネの『フローラ』で、ミリアが自身の『不運の星』について話していたときのことだ。
「私、その侵略のときは帝国軍側で、ア王国を攻める立場だったから、よく覚えているの。とても寒い中での進軍だったし、ひどい戦だったから……」
「ああ、そうだな…。私は違う地域にいたため、その時は交戦はしていないが」
と、険しい顔になったが、すぐに表情を戻す2人。ディルムッドは続ける。
「確かに、ミリア様のお誕生日は、銀夜月の後だ。いまが黄金月の後だから、あと1ヵ月ちょっとだな」
ア王国では、12ヵ月を6つの名称に分けて、それぞれ1ヵ月ごとに「前」と「後」をつけて呼ぶ風習になっている。白黎月の前・後、翠風月の前・後、碧波月の前・後、紅華月の前・後、黄金月の前・後、そして1年の最後の2ヵ月間、冬に当たるのが銀夜月の前・後。この順に、12ヵ月を呼ぶ。
誕生日と聞いて、ゴナンがリカルドから聞いた話を思い出し、ハッとした。
「誕生日……、てことは、お祝いをしないといけない…?」
「ええ、私もそう思ってね。ディル、お城ではお祝いはしていたのかしら?」
ナイフの問いに、ディルムッドは軽く頷く。
「成人までは大きなお祝いもできないので、国王陛下、王妃殿下、アーロン殿下、それに影武者殿とのささやかなパーティを開くのみだったな…」
「プレゼントなんかはあげてたのよね?」
「ああ、それはもう…」
こと、アーロンからやたらに大量の贈り物を毎年、ミリアに届けていたことに、ふっと思い出し笑いをするディルムッド。
「だったら、同じようにしてあげたいわね。……そういえば、ゴナンは誕生日はいつ?」
「あ……、俺、わかんない……」
ナイフに聞かれて、ゴナンは少しうつむきながら答える。リカルドがフォローした。
「北の村では、年始に皆、一斉に歳をとる風習で、個人の誕生日をいちいち記録したりはしなかったんだって。でも、お兄さんがもしかしたら覚えてるかもしれないから、手紙で訊ねている所なんだ」
「まあ、そうなのね。早く分かるといいわね」
シュンとしてしまったゴナン。ナイフはリカルドを引っ張って、ゴナンに聞こえないようにコソコソ話をする。
「リカルド。そのお兄さんからの手紙がどうかは分からないけど、ミリアと一緒にゴナンのお祝いもしてあげましょう。あの子には、そういうのが必要だわ」
「そういうの?」
「そう。自分が周りに大事にされているってことを、きちんと感じてもらうようなイベントとか、ね。きちんと自尊心を育ててあげたいのよ」
すぐ上の兄からは可愛がられてはいたようだが、それでもゴナンの自己肯定感の低さがいまだ気になっているナイフ。リカルドも頷く。
「……うん、そうだね…。どのみち、北の村の風習通りだと、次の年明けで16歳を迎えるのだから、ちょうどタイミングもいいかもね」
「サプライズにするから、バレないようにね」
そうリカルドを小突くナイフ。しかし、リカルドは「何をあげようかなあ」などと、少しソワソワし始めたようだ。この調子だとバレるのも時間の問題かもしれない。
一方でディルムッドは、渋い顔で視線を落としている。
「……ディル?」
「……、ああ、すまない。そうだな、家族で祝うように、だな…」
「……?」
「……銀夜月に入ったら、お祝いができるタイミングを模索しよう。それまでに卵を手に入れられなければ、だが」
そう口にしながら、やはりディルムッドは少し遠い目になった。
いつもはささやかでも賑やかで、幸福な時間であったミリアの誕生日。しかしミリアが15歳を迎えた日は、王妃は遠方で病気療養中であり、そしてアーロンは亡くなっていた。ディルムッドはすでに城にいなかったため、いったいミリアはどのようにその日を過ごしたのか、ただ思い巡らすことしかできなかった。

↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
