連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 7話「鋭い男」(7)
7話「鋭い男」(7)
低山を馬で上り、教えられたとおりの目印を辿って進むと、一軒の小屋がに着いた。馬を止めて木につなぎ、歩みを進めると、庭に大きな窯が見える。
(陶芸の窯……、ラギオン……。やはり……)
リカルドはその名を思い出した。そして玄関のドアを叩く。
「……失礼します、ラギオンさん。お届け物と、お尋ねしたことがあって……」
「うるせえ!」
叫び声が答えてくる。義娘に聞いていたとおりの応対だ。リカルドは肩をすくめて気にせず、玄関の扉を開けた。鍵はかかっていない。中には老人しかおらず、ゴナンの姿は見えない。
「……! やはり、ラギオン・シリーズの窯元だったのか…。すごい……」
リカルドは、家屋内の棚に並ぶ陶器を見て、感嘆の声を上げる。王都などで美術品として高い評価を受けている陶芸作品「ラギオン・シリーズ」。目の覚めるような黒と赤の発色がすさまじく、愛好家が多い。もちろん器なので食器として使用できるように作られてはいるが、鑑賞用に買い求める貴族が多い逸品なのだ。
「これは…、この発色は凄いなあ…。どうなっているんだろう…。この形、この表情も……。こんなにたくさんのラギオン・シリーズを、こんな間近で一度に見られるなんて……」
そう呟きながらそわそわと棚を見て回るリカルド。老人ラギオンはまんざらでもない様子で、黒髪の長身の男に叫ぶのを止め、静かに訊ねた。
「……一体何の用だ? 作品の買い付けにでも来たのか? 黒ずくめ」
「あ、いえ……。これを。娘さんから預かったものです」
そう言って、綿入れの上着を手渡すリカルド。中身を確認し、ふん、としかめ面で息を吐くが、ラギオンは素直に受け取る。
「それと、お尋ねが…。ここに、ゴナンという少年がいるのではないかと…」
「……」
「あの…。ここから赤と白の煙が上がっていたと聞いて…。あれは、僕らが仲間同士で決めていた狼煙の合図なんです。きっと、ここに居ると知らせるために、煙を上げ続けていたのではないかと…」
「……」
ラギオンはリカルドのその言葉を、興味深そうに聞いていた。そして、ボソボソと呟いた。
「……そいつは、泉の妖精で……」
「えっ?」
「……、巨大鳥の見張り番で、野生児で、ブルブル凍え野郎で、干し肉屋で、知りたがりの、もったいない坊の、ひょろっこいあいつのことか? 名前は知らねえが」
「ブルブル凍え…? え、ええ、多分、その子です。どこにいるんですか?」
やっぱりここに居た。泉の妖精やらブルブル凍え野郎やらはよく分からないが、その他はゴナンのことを指しているように思う。リカルドはラギオンに飛びつく勢いで尋ねた。

「ゴナン、ゴナンは? 僕の助けを待っているはずなんです……!」
「もう、ここには居ねえよ」
ラギオンは鬱陶しそうにリカルドを放すと、言い捨てるように答えた。
「えっ?」
「というか、そもそも、ここには居なかった。少し離れた泉の近くに勝手に棲み着いてやがっただけだ。煙もそこから上げていた。随分な期間いたが、孫が営む行商隊の馬車に乗って行ったぜ」
「行商隊…? それは、いつの話ですか?」
「もう3日前かな?」
「3日……」
リカルドはその日数を聞き、後悔する。せめて自分が例の発作で動けなくなったあの時間が1度だけでも少なければ、追いつけていたかもしれない…。ぐっとうつむき、苦渋の表情になるリカルド。
「……ゴナンがどこに向かったか聞いていませんか?」
「いや、聞いてねえな。行商隊と一緒に行くとしか」
「……」
追いついたと思ったのに、また離れて行ってしまった。リカルドは力を失い、その場で膝から崩れ落ちた。その様子を、少し不思議そうに見るラギオン。
「…ただ、孫の行商隊の目的地はシャールメールだ。そこに得意先がたくさんいるんだそうだ。いつもこの周辺地域とシャールメールを行き来している」
「シャールメール……」
ア王国第二の都市・シャールメール。そこなら自分の拠点もあるし、知り合いの情報屋も多い。少し物騒な区画もあるが、腰を据えて人捜しができる。
「…シャールメール…。よし……」
リカルドは瞳に力を込め、立ち上がった。止まっている暇はない。巨大鳥の行方はさておいて、まずはゴナンだ。リカルドはラギオンに礼を述べた。
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