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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 11話「やはり」(2)


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11話「やはり」(2)


 再びルチカがミリアを狙ってくる可能性も鑑みて、ディルムッドがミリアと共に屋敷に滞在することになり、他の4人は卵男の探索と危険性の周知のために街中へとやってきた。ジョージの予報通り小雨が降り始めたが、マーケットには天幕が掛けられ、多くの買い物客でにぎわっている。そこで早速、一行は街の人々に卵男の件を聞いて回った。

 そしてお昼ご飯。件の宿屋の食堂で、昼食を食べる4人。

「……」

 一様に、なんとも、少し拍子抜けの表情をしている。

「…なんだか、この街は、卵男の件は心配なさそうね…」

「そうね…。こういう街もあるのね。勉強になるわ」

 ナイフとエレーネが、肩をすくめながらそう呟く。リカルドももぐもぐとご飯を食べながら、頷いた。

「…この街に住む人のほとんどが、日々、土や自然と向き合いながら、自分たちの手で食べるものを作り出している人達だもんね…。目の前の作物が生きる術のすべてで、自然への感謝や信仰はあっても、巨大鳥や卵といった、ある意味『ご都合主義』なおとぎ話は馴染まないのかもしれないね」

 ジョージも以前言っていたが、そもそもこの街では、巨大鳥や卵の伝承を信じている者がほとんどいなかった。卵男の話を聞いて回るも、誰もが口にしていたのは、「卵のような大きな荷物を背負った風変わりな少年が街に迷い込んできている」というものだった。

「お祭の仮装かと思って、『まだ早いわよ』って教えてあげたのよ」

「あんな大きなものを背負って大変そうだから、お父さんやお母さんはいないのか尋ねたんだ」

「いったいどこから来たんだろう。見たことのない服装だったな。家族とはぐれてしまったのかな、こんな田舎で、かわいそうに」

 …聞こえてくるのは、そのような声ばかりだ。卵を得れば幸せになれるという認識がない人々ばかりだから、むろん、卵を奪おうと追いかけてくる者もいない。だから、毒矢を受けることもない様子だ。

「つまり卵男達は、巨大鳥を狙ったり卵を奪おうとする者だけに制裁を加えようとしているってことは、確定的のようね」

「そして、この街ではその目的は果たせなさそうだね」

 エレーネの分析にリカルドも同意した。ナイフは思い出し笑いをする。

「…それにしても、ツマルタでは殺人事件の容疑者でもあった厄介な人物だったけど、この街では、妙なものを背負っててちょっと風変わりのかわいそうな男の子扱いだなんて…。本人もきっと不本意でしょうね…。ふふふっ」

 そのナイフの言にリカルドとエレーネも「まったくだね」とクスクスと笑う。しかし、ゴナンは一人、神妙な表情だ。

「どうしたの? ゴナン。食欲がないの? お腹痛い? もしや、また熱が出た? 大丈夫?」

「だ、大丈夫だよ…」

 あれこれと心配性なリカルドにゴナンは大きな声で答え、そしてモリモリと慌ててご飯を食べた。不思議そうにする3人。

(…この街では、誰も巨大鳥や卵のこと、信じてない…)

 それだけを目指して故郷を出て旅をしているゴナンにとって、この街の人々の反応は心に重く響いた。自分の行いの全てがとても矮小に見えて、胸の内がモゾモゾとする。

「…ゴナン? 本当に大丈夫?」

 リカルドがゴナンの額に手を当てる。もちろん熱はない。「大丈夫だよ…」とうつむきがちに答えるゴナン。そして小さく呟く。

「…俺が卵を探す意味、あるのかな…」

「えっ?」

 その言葉に、リカルドはドキリとした。ナイフとエレーネは顔を見合わせる。リカルドはその真意を尋ねようとしたが、しかし、自分が聞きたくない答えをゴナンが口にしそうで、どう声を掛けてよいかがわからない。

「…ゴ、ゴナン…。それって…」

「…」

 その時、宿の受付の方で、聞き覚えのある元気な声が聞こえた。

「こんにちは! おじさん、父ちゃんの使いで来ました」

「おお、エドくん、ありがとう」

 見ると、エドワードが何かの野菜を宿に運んできたようだ。すぐに食堂にいる4人に気づき、ゴナンの姿を認めて気まずそうになるエドワード。

「…あ、…」

 エドワードはゴナンに何かを言いたそうな素振りを見せたが、ゴナンはぐっとうつむいてそれを拒んだ。それ以上、エドワードが近づいてくることはない。




「……」

 エドワードは少し憮然とした表情になり、宿の主人にペコリと頭を下げると、そのまま去って行ってしまった。ゴナンはうつむいたまま、じっとテーブルを凝視している。

「…ゴナン、よかったの? エドくんは何か話したそうだったわよ?」

 ナイフが尋ねるが、ゴナンは無言で首を横に振った。エドワードに何を言われても、どう返せばいいかわからない。もしかしたら何か責められるかもしれない。ゴナンは彼と話すのが怖かった。ナイフはそんなゴナンを見守り、そして戸惑った表情のリカルドを見る。

「…こちらの大きなお坊ちゃまも、何か言いたげに見えるけど?」

「…いや…、僕は、何でもないよ…」

「……」

 と、ゴナンが椅子から立ち上がった。

「…ごめん。俺、今日、もう屋敷に帰っていい?」

「……!」

 ゴナンには珍しい申し出のように思える。3人はまた、顔を見合わせた。

「ゴナン…、え、えと…」

「…そうね…。卵男が姿を現すかも怪しいし、午後は私達で回るわよ。気にせず、ゴナンは先に帰ってらっしゃい。ね、リカルド」

「あ、ああ…うん……」

 何かを考え込んでいる様子のゴナンに、ナイフがそう助け船を出す。ゴナンは「ありがとう、ごめん」と小さく頭を下げて、宿を出て行ってしまった。




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