ライチ畑でつかまえて〜濡れたTシャツとあなたが乾くまで〜
蒼井優さん主演のドラマ「Tシャツが乾くまで」が話題を呼んでいます。

蒼井優さん演じる主人公 咲子の夫 充がある時、バスの事故に遭い行方不明になってしまうのですが、実は充はそのバスに同乗していて亡くなった女性と不倫していたのでは?と疑いを持つ事から始まるストーリー。

謎とラブが張り巡らされ、展開も興味深く、大好きな蒼井優さんがご出演されているというのもあって、毎週楽しみに拝見しています。
この「Tシャツが乾くまで」に、三島由紀夫の名作小説「愛の渇き」がたびたび登場し、ドラマにおけるキーアイテムになっているのでは?と話題になっています。
三島由紀夫の「愛の渇き」というのは端的に言うとこんなお話です。
東京育ちのお嬢様で、美しいがクールでニヒルな感性を持つ「乾いた」 女、悦子。
彼女はひとの不幸を想像する能力に欠けていました。
例えば決して裕福ではない家庭の幸せな家族団欒を見ても、「仲良し家族で幸せそうでいいわね」と思いひたすらにそれを妬み、その裏にある貧しさや苦しみには一切考えが及ばない。
ひとの幸福だけがキラキラと輝いて見え、その陰にある苦しみや不幸にまで考えが及ばない女ですから、同情心やいたわりに欠け、それもあってか夫には長く愛されず浮気されていました。
夫の度重なる浮気に精神的に痛めつけられ、その夫が病に倒れてやっと自分だけのものになったとき、悦子は密かに喜び手厚く看病していましたが、病床でも夫が愛人の事ばかり考えていると分かり、悦子の愛に飢えた渇いた心はいよいよ枯渇してしまいます💦
夫を亡くし、程なくして悦子は金持ちの舅と暮らし始め度々身を任せるようになりました。特にそこに深い理由も愛もありません。
けれど舅も年も年だし性格的にも色々と練れて「乾いて」いたので、そのうち素朴でピュアな若き田舎青年、三郎に心惹かれるようになりました。
が、よく言えばピュアで素朴、悪く言えば子供っぽく物事を深く考えない三郎は、悦子の気持ちに気づくはずもなく、軽い気持ちで付き合った女中の美代を妊娠させてしまいます。
三郎と同じく、よく言えばピュアでryな美代は三郎と結婚する流れになり、似たもの同士の二人はいかにも似合いの夫婦になりそうでしたが、ぶち切れた悦子によって身重の美代はある日突然暇を出されてしまいます。
その後、思い極まった悦子は三郎に熱い愛の告白をしますが、すったもんだの末になぜか本当によく分からないんだけど振り上げた鍬で三郎の後頭部を叩き割ってしまいます。
まだちょっと息があってピクピクしている三郎から流れ出る血潮に、悦子の渇いた心は少しだけ潤ったのでした。
めでたし、めでたし。
ってんな訳ねーだろ!!!!と読者が思わず叫びたくなる衝撃のラスト。ただの性格歪んだメンヘラお嬢だった悦子がラストでついに殺人鬼になっちゃったよぉ…
この作品、とにかく悦子の行動がいちいち謎。
例えば悦子はある時、三郎に靴下を買ってきてプレゼントしようとするのですが、「これをあげたら周りに冷やかされるかしら」「やっぱりやめようかしら」とプレゼントをあげるまでに実に5ページ分くらいずっと逡巡しています。
悦子はこうして、何か行動したくなっても誰にも相談せず、自分の中で勝手に逡巡と思案を重ね、一度はこらえ、それがある時突然変な形で暴発する。めんどくせー女なんです。
「愛の渇き」を読んで、悦子はまるでフルーツのライチみたいな女だなと思いました。
それも今までの半生で培った教養、マナー、夫の若い愛人に悩まされた辛い記憶、元々の歪んだ性格などで構成された、何枚もの厚い皮に包まれている特製のライチ。美味しい事は間違いないけど、慣れてない人には食べにくい事この上ないライチ。
そんなライチ悦子が三郎に求愛した行為は、例えるなら山形のさくらんぼ農場にやってきてさくらんぼ狩りを楽しむ三郎の前に、突如ライチが垂れ下がってきたかのよう🍒
ライチ悦子は甘くて美味しいプリップリのさくらんぼ目当てに来場した三郎の前に垂れ下がり、「ほら、あたくしを食べてみなさいよ」とつっけんどんに言う訳ですが、「いや、俺はさくらんぼが食べたいんですけど…ライチ興味ないし…」と暗に断られます。
それでも自らの素晴らしさを信じてやまないライチは、諦めずにじりじりとにじり寄ってくる。
さくらんぼ畑のさくらんぼをどんどん鍬で刈り取って、三郎と自分とを隅に隅にと追い詰めながら。
けれどもTHE物事を深く考えない男 三郎は「まぁ、俺さくらんぼ派だけどたまには熟したライチでもいっか」と考え直し、いざライチを食べようと皮を剥こうとしたら、ライチが急に悲鳴を上げてさくらんぼ園の係員に助けを呼び、挙句に持っていた鍬を三郎めがけて振り下ろした、みたいな超展開。
マジでライチ悦子は行動がはた迷惑な上に謎。
ピチピチのさくらんぼ目当ての男には黙ってさくらんぼを食わしてやれよ。ライチみてーな高難易度のややこしいのはライチ専門家のマニアに任せればいいのよ。
そこを無理にさくらんぼ好きの若い男に「おら!!ライチ食え!!」でゴリ押しするからあんな悲劇に繋がるのよ。あれだ、ライチ畑にライチ狩りに来たマニアな舅で良かっただろ。
ただ、少しだけ悦子を擁護するなら。
確かにライチ悦子は一見愛に飢え、渇いていました。
愛した夫に愛人を作られ、その上彼が病死してしまったので生涯その愛が返ってくる事はなく、愛してもいない舅の指になぞられてもその渇きが満ち潤う事はありません。三郎は正直ぶっちゃけ悦子のその愛を迷惑だなぁとさえ思っています。
悦子の愛はいわば収穫されるだけされたのに、自分にその実りが返ってくる事はなかったのです。
悦子は本当は、誰かに自分を収穫してほしかったのではなく、自分が誰かを、誰かの愛を収穫したかったのではないでしょうか。
そして悦子は確かに一見乾いた女でしたけど、本当は誰かにその渇きを潤されるより、気づいて欲しかったのではないでしょうか。
ライチのように皮で覆って隠しているだけで、本当は自分も潤っている果実なのだと。
ライチは皮を剥けば潤いたっぷりプルプルの果肉が詰まっている果実🍒それなのに夫も舅も三郎も、周囲の人間もそれに気づかずにいる。どこかで「あいつは乾いた女なんだろう」と信じ込んでいる。
厚い皮で秘した潤いを誰にも気づいてもらえぬまま、誤ってライチ畑ではなくさくらんぼ農場に迷い込んでしまったライチ。
それが悦子のように私には思われました。
昭和の文豪が描くそんなライチな女の物語と、令和のバズリドラマが作中でこれからどんなコラボをしていくのか?楽しみでなりません。
追記:
昨日、今日と東京は珍しく涼しかったので、じっくりことことラタトゥイユが作れるくらい体調が良く、noteにも長文記事が上げられる程元気でしたが、明日からはまた気温が上がるそうで💦またしばらくは記事はアップ出来ないかもです( ՞⌓°⎞溶けちゃうから…
今後もし体調が良ければ
・細川忠興✕「推しの子」共通点考察エピソード
・「新しい下町」大井町の魅力について〜りんかい線大井町駅ホームまで遠過ぎて草〜
などなどの記事を書いていけたらと思います🙂↕️
