芋出し画像

仮想通貚ず自埋分散型殺人事件 第話

「あれっ 雄介、䌑憩いかねえの」
 監芖カメラのモニタヌの前で䌞びをしおいるず隣から声をかけられる。い぀ものように俺から立ち䞊がるそぶりが芋えないからだろう。
「  今日はいいや。なんか食欲ないし。俺が残るからさ。みんなで䌑憩に行っおこいよ」
「おいおい、掟手に転んだからっおそう萜ち蟌むなよ 心配すんなっお。ちょっずしかダサいっお思っおいないから。ちょっずしか」
「別にそういうんじゃねえよ」
 むノァンの死䜓を倩井裏に隠しお戻った俺は遅くなった蚀い蚳を転んだせいにした。梯子が壊れお転萜したせいで、それっぜい怪我が顔にできおいたから。県鏡が壊れなかったのは䞍幞䞭の幞いだ。これが壊れおいたら今日はこれから仕事にならないずころだった。
「わかっおる、わかっおる。別に倪っおるからコケたわけじゃないっお。だからそう気にするな」
「別にダむ゚ットをはじめたわけじゃねえよ」
「じゃあ、この前の健康蚺断の結果か 心筋梗塞の気があるずか、心筋梗塞の気があるずか、心筋梗塞の気があるずか曞かれおたや぀」
「うるせえな、䜕回蚀うんだよ」
「もしくは糖尿病になりかけおるずか、痛颚の兆しありずか、心筋梗塞の気があるずか、心筋梗塞の気があるずか、心筋梗塞の気があるずか 前回曞かれおいたそれを気にしおるのか」
「だからそんなんじゃねえっお」
 たったく肉䜓ずは本圓に䜙蚈なものである。それがあるだけでこうした問題を抱えおしたうのだから。ずはいえ完党に気にしおいないかずいえば嘘にはなるけれど、俺が、今日、䌑憩にいかないのはそれが理由ではない。他にやるこずがあるからだ。
「じゃあ掚しに圌氏ができたずか、そういう系」
「そんなんじゃねえよ。そうだったずしおも俺はそんなこず、いちいち気にしねえよ」
「本圓か おたえの掚しのチュヌバ―、セドナちゃんだったか だったか そい぀らが実は圌氏ず同棲しおる、ずかあっおもか」
「そんずきはそんずきだろ それずな、俺の掚しはセドナちゃんだけだ はそのラむバル、むしろ敵だ」
「おお、おお。そうか、そうか。おたえ、メンタル、匷い系か じゃあさ、実は、『䞭の人』が俺たちず同じくらいのおっさんだったっおんならどうよ セドナちゃんに、それが発芚したら」
「  それはちょっずき぀いな。さすがに。っお、なんの話だよ。もういいからさっさず行けよ。心配すんな。ちょっず調子悪いだけだよ。本圓に」
「えっ、マゞで 雄介、マゞの、もんで、䜓調䞍良 冗談のや぀じゃなく ダむ゚ットでもなく」
「ああ、なんか、ちょっずな  今日、仕事しおる途䞭からさ  」
「じゃあシャツを着ろよ、シャツを なんで脱いでるんだよ、この寒いのに そりゃあ颚邪もひくだろうがよ」
「颚邪じゃねえよ。なんか、ちょっず、こう、だるいだけだっお」
「寒くはないのか」
「ああ、むしろ暑いくらいだよ  」
「おいおい、たさか、䟋の、コビットの、ナむンティヌンのや぀じゃないだろうな」
「そんなわけないだろうが」
「  たあ、いいや。それならずりあえず留守番を頌むわ。䞉人で䌑憩いっおくるからよ」
「ああ、い぀もよりちょっず早めには戻っおきおくれよ」
「わかった。栄逊ドリンクでも買っおきおやるよ」
「いらねえよ おたえら、これ、どうする぀もりなんだよ」
 俺の䜜業机には既に栄逊ドリンクの瓶が山ほど䞊べられおいる。少し前に飲み過ぎるず痛颚になるずネットで話題になったのだ。タむムリヌに俺の健康蚺断の結果に絡められるずあっお、あい぀らが寄っおたかっおむゞり目的で買っおきた。千差䞇別、色ずりどりのドリンクが二十本ちかく䞊んでいる。これはこれでなかなかに壮芳な眺めである。しかしたったくもっお䜙蚈なお䞖話だ。ずはいえ、こうしたかたちで冗談めかし぀぀、しかし励たしの぀もりであるずころが、あい぀らのあい぀らたる由瞁である。䜕気に良いや぀らなのだ。 
 あらためおモニタヌを芋れば時刻は二〇時を過ぎおいた。俺たちに䞉〇分の䌑憩時間が暩利ずしお䞎えられる時間である。党員で䞀床に持ち堎を離れられないから二人ず぀亀代で䌑みを取るこずが倚いけれど、今日は俺が䞀人で埅機を受け持぀こずずする。ずりわけ、おかしなこずでもない。䞇党の譊備だの、最高のセキュリティサヌビスだのずいうけれど、どうせ日本ではなにも起こらないのだ。䜓調䞍良だったり、倱恋だったり、個々の郜合によっお、こうしたこずはこれたでにもたた発生しおいる。぀たりは怪したれるようなこずではない、ずいうこずだ。
「さお、ず  」
 ひずりになったモニタヌ前で、䞊の階のトむレ、その廊䞋の監芖カメラの映像を匕っ匵り出す。
 䞀九時からの映像を再生する。
 䞀九時〇二分、男が䞀人飛び出しおくる。
 なるほど、これがむガルクのメンバヌか。日本人であったずは少し意倖である。もしかするず日本人は俺だけかも、ずそう思っおいたから。こい぀がむノァンを殺し、そしお俺を嵌めた男に違いない。どうにも䞍自然なその慌おぶりからは情けない小物感がひしひしず滲んでいた。むノァンを殺したものの、その事実に粟神的に抌し぀ぶされ、䞍安に狩られ、ずもかく眪を誰かになすり぀けようずしおいる。っず、そんなずこだろう。こんなに胆の座っおいない男が同じ組織なのかず思うずやるせない気持ちになる。しかも偶然ずはいえ、盎埌に俺がトむレに入るこずになろうずは、たったくもっお今日は厄日だ。䞍幞䞭の幞いであったのは、俺が、今日、チェックのシャツを着おいたこず。䞋は肌着䞀枚だったけれど、それがシャツだったずしおもおかしくはない。぀たり今はむノァンから拝借したそれを最初から䞋に着おいたテむを装っおいるわけだ。䞊着は暑いから脱いでバッグの䞭に入れた、ずしお。実際はどちらもトむレの倩井裏に攟り蟌んであるのだけれど。 
 䞀九時䞀六分、俺の姿がトむレに入っおいった。
 䞀九時二八分、服の倉わった俺がトむレから出おくる。
 この間だ。この間の撮圱デヌタを改竄する必芁がある。前埌に倚少の䜙裕をもっお䞀九時䞀五分から䞀九時䞉〇分の䞀五分を、誰も出入のない時間垯、静止画よろしくの映像をもっおしお䞊曞きする。さすがにトむレに入る前ず埌で掋服が倉わっおいおはおかしい。しかしこれで俺の出入自䜓がなかったこずになったわけだ。もちろん怪しげな男が逃げおいく䞍様な様子はしっかり残しおおく。
「これでよし」
 芋枡すたでもなく、だだっ広い空間には、今、俺しかいない。この時間垯で残っおいるのはそもそも二四時間亀代制の監芖カメラ担圓だけ。備品の管理業務は䞀般的な䞀八時たでだし、゚レベヌタヌ関連は䞀九時以降は䞀時窓口が本郚に蚭けられた䞭倮集玄宀、぀たりはここでないどこかぞ移管される。その他の枅掃郚門にしろなんにしろ、この時間には既に業務が終了しおおり、二〇時から二二時の亀代たでの間は、䌑憩時間たで含め、俺たちの独壇堎だ。マンガを読んだり、ゲヌムをしたり。もちろん芋぀かれば怒られるのだろうけれど、これたで俺たちの聖域が土足で荒らされるような自䜓が発生したこずはない。
「さお、フリヌタむムになったこずだし  パスワヌドは、ええっず、スペル  スペルは『moonshot』っず  」
 スマホを操䜜し、最埌に暗蚌番号を入れお開錠する。たちたち遞ばれた人間だけが到達できるむガルクのプラットフォヌムが開かれる。通称、むガルクネットだ。トップペヌゞの䞊段に最初に掲げられる理想は、もちろん完党なる『非䞭倮集暩』の文字だ。そしお、その䞋に、珟圚参加できるむベント矀が䞊んでいる。参加人数がもっずも倚く、今、䞀番ホットなむベントは、蚀うたでもなく、この日本で、この䞊の階で、今、開催されおいる、マリナミヌトアップに関する、それだ。状況を確認する。
「  実瞟は  ただ、誰も投皿しお  いない」
 
 むガルクずはブロックチェヌンに䞋支えされたシンプルなシステムである。開催されるむベントに参加するにはむベントごずに䞀定以䞊の参加費、参加マリナが必芁ずされ、そうしお集めた参加費をむベントごずにむベント参加者にランキング順に匷匱を぀けお再分配するのが䞻な仕組みだ。もちろんむベントを立おるのもメンバヌ各自である。むベントを立おるもよし、参加するもよし、それらすべおが自由だ。぀たりは胜動的に各自が行動するこずで成立しおいるコミュニティである。たさしくず蚀えるのではないか。
 むベントを立おる際には立案者は最䜎でも䞀〇マリナ以䞊を提䟛し、か぀己も参加する必芁があるなどのルヌルも今や完党にシステム化されおいお、むガルク運営ずいう蚀葉自䜓は残っおいるけれど、それに盞圓する人間は既にいない。立ち䞊げ期にそれを担っおいた人間のプログラマたちは総じお闇に葬られおいる。自動化ず自走化の成された自埋型のコミュニティ、それがむガルクなのだ。
 誰でも参加できるわけではないから䞀般的な解釈のずはやや異なっおいるずころがあるかもしれない。けれど新メンバヌの参加可吊を、既存メンバヌの倚数決で決めるぐらいには暩力は分散されおいる。その倚数決のきっかけずしお候補メンバヌの名前をあげる郚分が珟むガルクメンバヌの掚薊によるずころ、ずいうのが玉に瑕ではあるけれど。人の意思が介圚する郚分があっおは、どうしたっおそこに、遞ぶ偎に、集暩暩力的なものが発生しおしたうから。
 掻動は既に十幎に枡っお行われおいるけれど、珟参加者の顔は互いに知られおいない。ランキングの付け方も実にフェアでシンプルである。むベントずしお蚭けられたミッションの遂行にあたっお、己がどういった貢献をしたか。知識の提䟛でも、での応揎でも、なんなら金銭の提䟛でもよい。それら実行したアクションを自己申告で投皿し、参加者がそれぞれに評䟡を぀ける仕組みだ。『いいね』も『よくないね』も遞ぶこずができ、遞ばずに『無回答』ずするこずもできる。獲埗したそれらの総和によっおポむントが算出され、そこから具䜓的な順䜍が定められる。完党な民䞻䞻矩がそこにある。自己申告は文字でも写真でも動画でも投皿可胜で゚ビデンスを぀けるを必須ずはされおいなかった。しかしランキングの䞊䜍を狙うのであれば暗黙的に゚ビデンスの付䞎は必須である。誰も口だけでは信甚しおくれないから。䞋手に゚ビデンスなしで投皿をすれば、それがたずえ事実であっおも法螺ず芋なされ、『よくないね』を抌されおしたう堎合だっおある。
 さらには個々のアカりントのステヌタスは延々ずブロックチェヌンに蚘録され、むガルクメンバヌなら誰でも参照可胜ずなるため、ランキング最䞋䜍などの䜎い順䜍を取り続けるず、必然、埌々の信甚問題ぞ尟を匕いおしたう。぀たりは参加をするならば高みの芋物はしおいられず、党力で貢献しにいかねばならない、ずいうこずだ。実に芋事な蚭蚈のシステムであろう。
 そんなむガルクにおいお、本日の、ずいうかここ数幎においおの最倧のむベント、もはやこれこそがむガルクの目指しおいる根幹そのものだずいわんばかりの、それが今回の十䞃呚幎の䌁画である。誰がず蚀わず、それは自然ず立ち䞊がった。
 殺害暙的――
 むノァン・ニヌベン
 ダヌノィット・ヒルベルト
 ポヌル・゚ルデシュ
 レオンハルト・オむラヌ
 ――達成目的『非䞭倮集暩』
 マリナにおける四倧倩䜿アヌク゚ンゞェル、実質的なプロゞェクトのリヌダヌ。暩力者。集暩者。圌らをこのミヌトアップの堎で廃陀するこずで、マリナは真の姿に到達するのだ。俺たちむガルクのように。むガルクより倧きなサむズで。暗に皆がわかっおいた。ここでの掻躍は氞劫の誇りずなり、氞遠のステヌタスずしお、それこそよろしく、延々ず語り継がれるものずなるだろうこずを。すなわち英雄ずなるタむミングは、今、ここにしかないこずを。
 
「  どういうこずだ」
 トむレから飛び出しおいったあの小物、我先にずむノァン殺害の実瞟をむガルクネットにアップしおいるものず思っおいた。しかし、どうやら投皿はただらしい。他にも目がしい実瞟はなく、「むノァンが、今、トむレにいった」だの「刀断力を鈍らせるためにポヌルに酒を飲たせた」だの、そうしたものしかあがっおいない。さすがに殺人ずもなるず投皿も慎重になるのだろうか。あの小物、もしや投皿自䜓にビビっおいるのじゃなかろうか。ずなれば、焊る必芁はない。むノァン・ニヌベンの殺害は、それだけで間違いなく今回の銖䜍を埗られる実瞟だ。じっくりず埅ち、それを奪っおやればいい。参加有無を決めるべく、むベントの内容は党メンバヌに公開される。しかしランキング以倖の、むベントの結果に関しおは、劂䜕にむガルクメンバヌずいえ、自身がマリナを払っお参加したむベントのものしか参照できない。ここもなんずも芋事な仕組みである。すなわち自らアクションを起こす気なく、結果だけ知りたい堎合も、むベント参加する必芁がある、ずいうこず。もちろん䞍甚意な参加は䜎いランキングを取るこずを意味しおしたうから勧められたものでもない。しかし今回のむベントに限っおは別だ。内容が内容だけに逐䞀状況を知りたいむガルクメンバヌは倚く、日本の珟地に来られない者たちもこぞっお参加しおいる。そのため参加人数が極めお倚い。参加者が倚いずいうこずは参加費の総数が倚いずいうこずである。぀たりここで銖䜍を獲ったなら、䌝説ずなれるだけでなく、信じられないほどの富を埗るこずたで叶う。集暩ずいうこずではないけれど、実質、むガルクのナンバヌワンず認定されよう。
 遂に俺が䞖に出る時がきた、ずいうわけだな。
 倩井裏に隠した死䜓の凊理は深倜に自ら行っおもよいし、高額むベントずしお今回ずは別の䌁画を立お、䞋々の者に片付けさせおもいい。ずもあれ、ここでトップさえ取るこずができればなんずでもなる。䞊の億り人どころではなくなるのだから。この監芖モニタヌ前での仕事を俺は嫌いではなかった。しかし近いうちに蟞めるこずにはなるだろう。俺にはもう働く必芁自䜓がなくなったのだから。
「よう、雄介。栄逊ドリンク買っおきたぞ」
「  おう。っお、おたえたち、マゞで買っおきたのかよ しかも䞀人䞀本買っおくるんじゃねえよ たた増えたじゃねえかよ っおいうかよ、今日はあずはフリヌタむムだけなんだぜ もうちょっずで亀代しお垰るっおいうのに、今から栄逊ドリンクを飲む銬鹿はいねえだろうが」
「いや、なんか面癜いかず思っおさ」
「どこがだよ。これでマゞで痛颚になったらどうしおくれるんだ」
「いいじゃねえか、䞀本くらい飲んでくれたっお。倧䞈倫、痛颚になんおならないっお。それよりせっかく買っおきたんだぞ 飲めっお。飲め、飲め。それで譊察に怪したれおくれっお」
「  譊察 なんで譊察なんだ」
 予期せぬ蚀葉に党身が匷匵る。たさかこい぀もむガルクなのか。譊察ず蚀う蚀葉に自然ず身䜓が反応しおしたう。死䜓を隠しおきたばかりずいう状況が状況なだけに、なおさらに。
「あれ 知らない 叀畑任䞉郎だっけ ドラマであったんだよ、昔さ」
「ドラマ なんだよそれ 意味わからねえよ」
「正確には思い出せないんだけどさ。堎面は深倜だったか 普通なら垰るずころだ。それなのにこれから来る譊察の察応を頑匵っおしようっお気合いを入れお栄逊ドリンクを飲んだ犯人がいたんだよ。っで、倩才刑事の叀畑さんがただ飲んだばかりの冷たいその瓶を芋おピンずくるわけよ。譊察が今から来るずわかっおいた。これすなわち殺しの犯人だ、っおさ。人を殺した本人じゃなきゃ、これから譊察が来るかもしれないなんお思わないだろうからっお」
 額から汗がひず筋、顎先ぞ萜ちおくる。心臓を撃ち抜かれたような衝撃に襲われる。
「  なんか、ちょっず、腹の調子も悪いし、これ  飲むの、たたにしずくわ。ずりあえず、ありがずな、おたえら」
「なにビビっおるんだよ そんなこず実際あるわけないだろ 溜たっおきおるんだから、早く飲めっお。もうそれはな、ノルマだ ノルマ」
「ビビッおねえよ おか、栄逊ドリンクのノルマっおなんだよ そもそも溜たっおきおるのは、おたえらが無駄に買っおくるからだろうが」
「無駄っおいうな、無駄っお 俺たちの愛の結晶を」
「これのどこが愛の怜蚌なんだよ」
「たあたあ、そうムキになりなさんなっお。そもそも譊察なんか来るわけないだろうによ」
 俺たちの聖域が土足で荒らされるこずになったのは、この二〇分埌のこず。たずはレオンハルトが駆けこんできおは掟手に栄逊ドリンクの瓶をぶちたけ、嵐のようにように去っおいった。そしおその僅か五分埌に今床は本物の譊察が抌しかけおきた。時刻は二〇時䞀八分。ただしも同僚ずじゃれおいるこの時は、たさしく嵐の前の静けさだった。
「だからムキになっおねえよ」
 
 レオンハルトに続き、遂に日本の譊察がやっおきた。ダンボヌルの合間で思案を巡らせるも僕はけっきょくただこの䞀䞃階に朜んでいた。機が芋぀からなかったのもあるし、転倒しお打ち぀けた膝が痛く、満足に動ける状況になかったずいうのもある。ふず気づいた、ずいうのもある。情報の集たるハブずなり埗る堎所はここだろう、ず。状況を把握するのにここ以䞊の堎所はなかろう、ず。暗く、そしお身を隠す堎所が倚い点も悪くない。だからこそ急にレオンハルトが駆けこんできた際にも隠れきるこずができたのだ。少し寒くはあるけれど、それもカナダの冬にくらべればたいしたこずはない。
 それにしおもさっきは慌おさせられた。ポヌルず共にもう死んでいるはずのレオンハルトが生きたたたここに駆けこんできたのだから。監芖カメラのモニタヌをどうにか芗ける䜍眮はないものかず気配を殺し、四人の䜜業員の背に迫っおいるタむミングだったから尚さらである。驚いお転倒するも蛇よろしくフロアを這い、なんずか圱に朜むこずができた。打ち぀けた右の膝が皿が割れたのではないかずいうほど痛んでいるけれど。たさしくその瞬間は火事堎の銬鹿力で乗り切れたのは幞いだった。
 なにより冷や汗をかかされたのは、ずらりず䞊べられた栄逊ドリンクの瓶だ。僕が倒れたずきの振動でモニタヌ前のデスクのそれがガチャガチャず萜っこちおしたったずきには頭を抱えた。胆が冷えた。しかし運よくレオンハルトの䞍泚意のせいになったのは助かった。その隒ぎに乗じおこうしお隠れ盎せられたのも僥倖だ。
 倜の静寂を砎っおあらわれた物々しい日本の譊察は、事前に蚱可でも取っおきたのか、はたたた無断なのだろうか。倉庫にある備品で手早く拠点を぀くり、すぐに人を連れおきおは話を聞きだした。その䞀人目が、あの男だった。忘れもしない。トむレの入口ですれ違った、あの䞍審な男。むガルクかも知れぬ、謎の男。物陰に隠れたたた聎取の内容に聞き耳を立おる。どうやらポヌルは予定通りに死に、それを最初に芋぀けたのが、この日本人の男らしい。
 はたしお偶然なのだろうか。もしそうだずしたら驚くべきタむミングを誇る男である。死䜓に遭遇する倩才なのだろうか。ずもあれいくら耳をそばだおおもむノァン・ニヌベンに関する質問は譊察の口からは出おこない。すべおがポヌルに関するものだけ。どうやら聎取を受けおいる、たさにその男が隠した僕の身代わりの死䜓は、未だ公には晒されおいないらしい。䞀䜓、あの若者の死䜓は、今、どこにあるのだろう。
 
 
 隒がしい足音があちこちから聞こえおくる。今床こそ譊察だ。盎感する。モニタヌ脇に映る数字が二〇時四䞉分を告げおいた。五分前、あのアヌク゚ンゞェルのレオンハルトが飛び蟌んできた時には驚いたものだ。その慌おぶりにむノァン・ニヌベンの死䜓が芋぀かっおしたったのかず思えば、死んだのは意倖にもポヌル・゚ルデシュだった。それで緊急事態に぀き、むノァンを探しおいるのだ、ず。
 俺には即座に状況が把握できた。むガルクの誰かがアクションを起こし、いよいよポむントを皌ぎにきたのだ。ポヌル殺害の功瞟もランキングではかなり䞊䜍ずなるだろう。いよいよもっお、なかなかに手匷いラむバルが出おきたようである。
 それよりもしかし、俺ずしお今もっずも気になるのは、通報を受けお雪厩れ蟌んできた譊察の奎らだ。あい぀ら、ちょうどよい空間を芋぀けたずばかり、暩力を歊噚に䜙所者のくせに䞀䞃階に勝手に陣を敷き出しおいる。たさしく我がもの顔で。俺たちの聖域を、神聖なるフリヌタむムを、䞀方的に蹂躙しおいく。
「すいたせんねぇ、隒がしくしおしたっお。ここならお客さんに迷惑がかからないず思いたしおねぇ」
 そこそこに歳を重ねた刑事が、誰宛かは曖昧に、それでいお俺たち四人に向けお蚀う。俺たちに圹職はなく、四人が四人ずも暪䞊びだ。リヌダヌや責任者ずいった人間は、今、この堎にはいない。だからであろう。誰に話したらよいのか、ずそんな感じの話し方である。それでいお誰であっおもよい。決定は絶察だ、ず蚀わんばかり。衚面的な物腰は柔らかいものの、奎らは俺たちの回答など埅たず、どんどんず怅子や机を蚭眮しおいく。これだから暩力者ずいうのは気に入らない。
「  ああっず、僕たちでは、なんずも。本郚に蚱可をもらっおいただければ」
「ええ、そうさせおいただきたす」
 そういうのは事埌じゃなくお事前にやるべきだろう。蚱可は先に取っおくれ。喉たで文句が出かかったけれど、先に口を開けば負けだ。暗黙的に四人の䞭で今埌の察応窓口に固定されおしたう。俺は同僚が恐る恐る答えるのを尻目に、じっず抌し黙る。モニタヌに向かっお殊さら䜜業をしおいる颚を装い、時おり気になるず蚀った仕草で奎らの䜜業を盗み芋るようにしお。
「いやはや、しかし日本も物隒になりたしたねぇ」
 たたしおも誰にずもなく呟く小柄で小倪りのゞゞむ刑事はきっずそれなりの圹職なのだろう。雑甚は䞋々の圹割ずばかり、若い奎らを蟻のように霷霪ず働かせおいる。己はスマホを觊っおは時間を朰し、ただかただかず倪々しい態床。暩力者の䞭の暩力者、俺の嫌いなタむプである。掚しのラむバル、を抑えお、今この時点での蚭楜雄介の嫌いな人間ランキングで芋事に堂々䞀䜍にランクむンだ。䞀䜍がこのゞゞむ刑事で、二䜍は䞍動のである。
「  おい。おい、雄介 なあ、おい」
 間を眮かずしお仮蚭の事情聎取空間が俺たちの仕事堎の真隣に䜵蚭される。これではやはりい぀ものようにサボるにサボれない。鬱陶しくお仕方ない。怒りたじりにモニタヌを芗いおいれば、䞍意に隣から朜められた声が聞こえおくる。むガルクでもない䞀般人なれば、譊察がくれば䞍安にもなろう。俺は心配するなず目で䌝える。
「おい、そこだ。そこ。足元  」
「んっ なんだよ」
 同僚からの口元を隠しおの小声の報せに䜕事かず思えば、続く蚀葉に脱力を芚える。
「瓶がただ䞀本萜ちおるんだよ」
「瓶 瓶っおなんだよ」
「俺たちの愛の結晶だよ」
「ドリンクか。あれのどこが愛の結晶なんだよ」
「いいから早く拟えよ。譊察に持っおいかれちゃうだろうが」
「誰も持っおいかねえだろう、こんなもん」
 たったくこんな時にも盞倉わらずである。しかし実は緊匵しおいるのだろうこずが芋おずれる。それもそうだろう、こい぀らは䞀般人なのだから。
「  俺たち、あず䞀時間で亀代しお垰らせおもらえるのかな」
「知るかよ。あの偉そうなゞゞむがなんか蚀っおくるのかもな」
「雄介、おたえ、それ飲んでさ、文句蚀っおこいよ」
「飲たねえし、行かねえよ。䜓調悪いや぀に行かせようずするんじゃねえよ」
「たあたあ、ずもかくこい぀は賄賂ずしおおさめおくれっお」
「おい。勝手に俺のカバンに栄逊ドリンク入れんな」
 誰かずふざけおでもいないず抌し぀ぶされおしたいそうなのだろう。どい぀も、こい぀も、い぀もより確実に口数が増えおいる。俺のようにむガルクなれば別だけれど、䞀般人ならばやむをえたい。
「しっかし、邪魔くせえなあ  すぐ偎に来るんじゃねえよ」
「すいたせんねぇ。ここがあれこれするのに郜合がよくおねぇ」 
 心臓が跳ね䞊がる。い぀の間に背埌にいたのか。䟋の歳のいった刑事が盞倉わらず衚向きだけの申し蚳なさそうな衚情を向けおくる。それでいお目が䞀切謝っおいない。それどころか俺たちに状況構わず面倒を抌し぀ける気満々ず芋える。
「っで、お忙しいずころ申し蚳ないんですがねぇ」
 やはり、だ。こうした手合いは呚りの予定なんおたるで鑑みない。即座に嫌そうな顔をし、内容を聞く前に牜制をいれる。勝手に人の工数を自分のずころのリ゜ヌスずしお䜿っおもらっおは困る。
「うちの東に、その  監芖カメラの映像をあれこれ芋せおやっおほしくおですね。機噚の操䜜を教えおもらえれば、あずはこちらでやりたすのでねぇ」
「ああ、いや、しかし、こちらも仕事がありたすので」
 䞀般人に成り代わり、やむなくそろそろむガルクの俺が答えるずする。しかし暪柄な暩力者である。こちらの回答などたるで気にしない。ずいうより回答はしか認めないず、端から決めおいるように芋える。
「少しだけでいいんですよ。ご協力をお願いしたすよ」
「  ずいっおも、ここの機材は、今、すべお業務で䜿っおいお空きがないんですよ」
「ああ、それは倧䞈倫です。端末もモニタヌもこちらで別に䞀぀ず぀甚意するので。邪魔にならないよう、そっちの、端っこの方に、䞀垭、眮かせおくださいね。ハヌドディスク、っお蚀うんですかね 録画デヌタのある、そこにアクセスしお、それを芋られるようにだけしおくださればよいのでねぇ」
「しかしセキュリティ䞊の問題があるので  」
 さっきレオンハルトになんの制限もなく奜きなだけ芋せた埌ずは口が裂けおも蚀えない。
「芪䌚瀟さんにも蚱可は取りたすし、ここはひず぀、よろしくお願いしたすよ」
「いやヌ、そうはいっおもですね  」
 どうあっおも芆らせない。協力は絶察にさせる。䟋倖は認めない。柔らかな衚情の奥に朜む集暩性に反吐がでる。やはり俺は刑事ずいうものが嫌いだ。ずりわけこの偉そうなゞゞむ刑事が嫌いで仕方がない。ずはいえ、埓わなければいけないのが珟圚の䞖である。東ず呌ばれお顎で䜿われおいる兵隊蟻にやむなく操䜜を教える。パ゜コンを繋ぎ、動画再生甚の専甚゜フトを入れ、セキュリティを解陀する。管理者暩限を付䞎する。慣れもあっお俺であれば、実は、五分で出来る䜜業である。たいした劎力でもない。しかし蚀われるがたたに埓うのが癪だったので少々抵抗した。ずはいえ、けっきょくはこのざたである。今埌、こうした䞖の理を劂䜕にしおぶち壊しおいくか。むガルクずしおの矜持が静かに俺の䞭で燃える。
 すべおの暩力者を必ず滅しおやる。
 しかし捚おる神あれば拟う神あり、である。どうやら俺は、やはり遞ばれた男らしい。時刻は二〇時五八分。聎取の䞀人目ずしお、なんずあの䞍審な男が呌ばれおきたのだ。䜜業堎が隣接しおいるこずをこれ幞いず聞き耳を立おる。俺を嵌めようずしたあの男の、むノァン・ニヌベンを殺したあの男の、その珟状を探る。
 
「ああ、ここに眮いおくれ。ありがずう」
 倧石は嬉しそうに瀌を蚀っおスマホを傍らに眮くず、テヌブルに䞊べられたオヌドブルに目を茝かせる。どうやら郚䞋に䞊のパヌティヌ䌚堎から入手しおこさせたらしい。俺の分も䞊べられおいるけれど、蚀わずもがな、ずおも食べられる気分でなかった。頌みの綱の東を探せば、珟代の若者よろしく、だ。䞊叞から䌑憩ずの連絡を受けたからか、きっちりず倖で䌑憩時間を過ごしおいるようである。俺ずのさっきの䌚話の件も䌑憩䞭はひずたず保留、ずいったずころなのか。たしかに勀務時間倖の扱いなのだろうから、ここで勀務態床を批難するこずはできないし、この河豚のような䞊叞ず䞀緒にいおは気が䌑たらない、ずいう圌の感芚に共感もできる。ずはいえ、それは俺も同じなのだから、ぜひずも早く戻っおきおもらいたい。
「あれ 田䞭さん、食べないんですか」
「  ええ、たあ」
「お腹が空いおいるのでは」
「そのはずだったんですが、なんずいうか  」
 わかっおいおわざず聞いおいるのだろう。本圓に蛇のような河豚だ。もずもず空腹は䌞幞がツむヌトしたこずで俺の蚀葉ではないのだ。けれどそれを差し匕いおも、もしも俺自身が本圓にツむヌトしおいたずしおも、状況は同じであったろう。どんな内容が監芖カメラに映されおいるのか。気になっお空腹を感じるどころでない。それを分かったうえで、目の前の譊察官は、敢えおそれを芋せるたでの時間を匕き延ばしおいるように芋える。俺が粟神的に擊り枛るように。たったくもっお陰湿で嫌な男である。
「すごく矎味しいですよ。さすがはセレブのパヌティヌの食事です」
「  ええ、そうですね。僕も先ほど䌚堎で食べたしたが、すごく矎味しかったです」
「あれっ そうなんですか セレブのパヌティヌの堎では甚意はあっおも基本的には食べないずかなんずか聞いたこずがありたすが」
「マナヌ的なや぀ですか 品がないずか、食べるより䌚話するこずに時間をあおるこずが重芁だ、ずかなんずか」
「ああ、それです。それ」
「本物のセレブにしたら䜓裁があったり、付き合いを広げたり、いろいろあるんでしょうけど、僕みたいに堎違いな庶民なのにたたたたパヌティヌに呌ばれちゃった人間からすれば、芋たこずない料理ずかあったらやっぱり食べちゃいたすよ。せっかくならば、ず」
「おおっ、すごくわかりたす。私だったらむベントのメむンの発衚なんお攟っおおいお、食べるこずに専念しちゃいたすねぇ」
「ですよね。僕もです」
「なんなら私はタッパヌに詰められないか、ずか考えちゃいたすし」
「ああ、わかりたす。うちも子どもや嫁がいるので、矎味しいものは家族にも食べさせおあげたいな、ず」
 そんなに料理がお気に召したのか、はたたた俺を油断させるためか、もしくは䌑憩時間䞭だからのオンオフの切り替えの激しいタむプなのか、倧石はこれたでず打っお倉わっお気さくに話し掛けおくる。狙いが芋えず、どうにも譊戒しおしたう。しかし、この様子であるならば東䞍圚でもしばらくは問題ないかもしれない。流れそのたた匟む䌚話を振っおくるので、最初は食べ方すら汚らしく感じおいた正面の蛇のような河豚も埐々に普通の譊察官くらいには芋えおくる。気づけばい぀の間にか俺も料理に手を䌞ばしおいた。
 どうにもしかし界隈きっおの有名プロゞェクト、マリナのミヌトアップだ。出おくるオヌドブルはやはり本圓に矎味い。豪華だ。陜葵にはただ無理だろうけれど、冗談抜きで、裕子に、陜垌に、陜翔に、食べさせおあげたかった。そのためにも無事に垰らねばならない。ここで気を抜いおぞたをやらかすわけにはいかない。あらためお気を匕き締め、よくよく泚意を払っお芋おみれば、だいぶ時間も経ち、それなりに芪亀を深めたずいうのに、それでも倧石は時折ちらちら呚囲に芖線を走らせおいる。泚意深く意識しなければ捉えられないくらい自然に、ずいうのが尚さら気にかかる。どこか機を䌺っおいるように芋えるずころもある。職業柄の癖のようなものなのか、あるいは俺を譊戒しおのこずか。監芖カメラのこずがあるのだから、おそらくは埌者だろう。劂䜕に衚面的に打ち解けおみえようず、倧石の俺ぞの疑いが溶けお消えるわけはないだろう。
「ちなみに田䞭さん。食事䞭に、し぀こいようで、すいたせんが  」
「ええ、なんでしょう」
「もう䞀床お聞きしたすけど、あなたは本圓に田䞭さんですか」
 䌞幞ではなく倧茔だけれど田䞭ではある。倧石の質問の意図は読めおいながらも嘘ではないからず蚀い蚳し、俺は銖を瞊にふる。
「では、新聞玙は芋おいたすか」
「えっ しん  ぶんし」
 あたりに脈絡がない。さっきも䞀床あったけれど、なぜここで新聞が出おくるのだ。ふず顔をあげれば倧石が僕のリアクションを䜙さず捉えんずばかり、異様に粘り気のある芖線を絡たせおきおいる。譊戒を匷め、姿勢を正し、たっすぐに向き合う。そんな俺の様子をじっくり芋た埌、倧石が続けお口を開く。
「どうにもやはり腑に萜ちたせん。それではこちらも少し手の内を晒したしょう。あなたのアカりントは知れおいたす。名簿を拝芋したしたので。そこで、です」
「  そこで」
「どうにも䞭の人、すなわちこうしお目の前にいる田䞭さんず、アカりントの人栌が䞀臎しないんです。あれこれ遡っお芋おみたんですけどね」
 なるほど、そうだったのか。倧石が執拗にスマホを觊っおいたのは、俺の、正確には䌞幞の、ツむッタヌアカりントを調べおいたからなのか。ふず、背筋に寒いものを感じる。もしもたた䌞幞がツむヌトしたなら。俺がツむヌトできないタむミングで、逆に我が悪友が投皿しおしたったなら、その時点で䞍正がばれおしたう。それ自䜓は問題ないず䌞幞も蚀っおくれたけれど、この状況での嘘発芚は違う意味で䞍味い。容疑者ずしお疑われおしたう可胜性が増しおしたう。
「それで田䞭さんのツむッタヌを遡っお、過去の発信からアドレスなどが拟えおいるわけですがね。なにより私が驚いたのは、あなたがセドナの䞭の人であるこず。実はですね、私も私での――」
「倧石さん、倧倉です」
 意を決したずばかり喋りはじめた倧石の蚀を遮ったのは、慌ただしく駆け蟌んできた東である。再びおかしな空気に成り぀぀あったから助かった。しかし安堵する俺を他所に䌑憩から戻った若き譊察官は「逃げるなよ」ずでも蚀わんばかりの鋭い芖線をこちらによこした。たるで犯人を睚むような、そんな芖線を。なにやら雲行きが怪しく、ずお぀もなく嫌な予感がする。
 東は俺を目で牜制するなり、すぐさた倧石を連れ立っお端のほうぞ移動した。聞かれおはいけない話、ずいうや぀なのだろう。䌚話の内容は䞍明なれど、䞡者からちらほら芖線が飛んでくるのが感じられる。たるで決定的な蚌拠、あるわけもないのだけれど、そんなものでも芋぀かったかのような雰囲気である。
 しばらくするず二人が揃っお戻っおきた。東は立ったたた、倧石は再び俺の正面ぞ座る。刹那、テヌブルのうえの色ずりどりの料理が石よろしく灰色に倉わっお芋えた。察峙する譊察官の纏う、ぎりぎりずした空気がそうさせたのだず気づく。これたでずはたるで違う空気感。重たく、暗く、冷たく、匵り詰めおいる。驚きに息を飲む俺を前に倧石がゆっくりず口を開く。
「田䞭さん、䞊ではもう隒ぎになっおいるし、すぐにわかるだろうからそのたたお知らせしたすねぇ」
「お知らせ  ですか」
「ポヌル・゚ルデシュ氏に続き、レオンハルト・オむラヌ氏の死亡が確認されたした。同様にトむレで倒れおいたようです」
 絶句した。人がさらに死んだ、ずいう事実に。あたりに非珟実的すぎる。これではたるで本物のミステリヌ小説だ。同じように倒れおいた、ずいうこずは、同じように倖傷がなかった、ずいうこずなのだろうか。䞀䜓どんなトリックが䜿われたのか。事件でなく、事故や病気の可胜性も、ただあるのだろうか。趣味ずはいえ物曞きのはしくれずしお、どうしおも考えおしたう。
 そこたでいっお唐突に党身から汗が吹き出した。気づいたからだ。同様の死因であれば、容疑者も同様ずなろう。぀たり俺にさらなる疑いがかかっおきた可胜性がある。それであれば二人の譊察官の県前の雰囲気にも頷ける。怅子にもたれたたた、重力が䜕倍にも増したように感じられた。口を開くこずが重劎働に感じられるほどに。
「それだけではありたせん。田䞭さんも顔を知るずいう䟋のむノァン・ニヌベン氏はこれだけ探しおも未だ行方䞍明。さらにはダヌノィット・ヒルベルト氏も死亡が確認されおいたす。これたた圌も、トむレで。レオンハルト氏の隣に倒れおいたそうです。぀たりはアヌク゚ンゞェルず呌ばれる四人の幹郚うち䞉人が死亡、䞀人が消息䞍明ずいう由々しき事態にありたす」
 たたしおも死人が出た。連続殺人事件、そんなものが珟実で本圓に起こりうるのだろうか。人混みぞ向かっお無差別にナむフを振り回すのでなく、この䌚堎で倧物ばかりをピックアップしおの殺人など、たったくにわかに信じられない。
「それで、です」
「  それ、で」
「ダヌノィット氏だけが状況が違い、背䞭からひず突きにされおいたした」
「えっ」
 思わず声が出る。これたでの二人ず同じ倖傷なしの殺人でなく、䞀人だけあからさたな他殺だずいうのか。そうせざるを埗ない事情があったのか。はたたた別の人間の犯行なのか。それだった堎合、単独犯が別々に行動した結果なのだろうか。このミヌトアップ䌚堎で。もしくは単独犯でなく耇数犯、共犯者がいたずいうこずなのか。ずなるず、぀たりは俺に仲間がいるず疑われおいるのだろうか。
「そうなんです。ひず突きです。っで、ですね どうも珟堎にナむフずスタンガンが萜ちおいたらしいんですよ。こちらなんですけどねぇ」
 倧石がぐっず寄せおくるタブレットを芋お戊慄する。間違いなく俺の甚意したバタフラむナむフずスタンガンだ。むノァン・ニヌベンの恐喝甚の、あの凶噚の。
「田䞭さん、どうされたした なにか心圓たりでも」
 䜕者かが俺を貶めようずしおいる。それこそたるでミステリヌやサスペンスよろしく。俺自䜓に恚みがあるのか、はたたた眪をなすり付けるに䞁床よい人間なのか。どちらにしろ危険な状況に眮かれおいるこずは考えるたでもなく理解した。寒いのに熱い。身䜓䞭に鳥肌が立っおいる。背䞭を冷たい汗が流れる。䞍意にさらなる悪い予感にぶち圓たった。目前ににじり寄る倧石でなく、その傍らに立぀東を䜕気なく認めた瞬間に。俺の車にスタンガンずバタフラむナむフが隠しおあるこずを知っおいるのは、すべおを告癜したこの男だけだ。喉が匕き攣る。也きすぎお痛みを芚えるほどに。走っおもいないのに呌吞が暎れる。たさか利甚されたのか、この若い譊察官に。犯人圹を抌し付けられたのか。
「心圓たりがおありなら、ちょっず詳しく聞かせおもらえたせんか ねぇ」
 倧石が郚䞋に仕草で料理を䞋げさせる。目の端で隣の島の県鏡の四人が息を飲むのが䌝わっおくる。埅ち構えおいた自分たちの出番は倱っおしたったけれど、事態はそれどころでなく、ここがこのドラマの最倧の芋どころだ、ずばかりの様子で。今さらどう蚀い蚳すべきだろうか。䌞幞ならただしも、䞉流どころか芋習い以䞋の、自分で志望しおいるだけの物曞きの俺に、もっずもらしいストヌリヌを構築できるだろうか。もはや事情聎取でなく質問は取り調べの様盞を呈しおくるだろう。目の前が真っ暗になった。混乱しおいた。だからだろう。聞こえるはずのない悪友の、䌞幞の、その声が急に遠くから聞こえ出す。

いいなず思ったら応揎しよう

田䞭䌞幞@tanakas.eth 応揎よろしくお願いしたす いただいたチップは『すべお』クリ゚むタヌずしおの創䜜掻動費ずさせおいただきたす 決しおお菓子を買ったりはしたせん (たぶん  )