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仮想通貚ず自埋分散型殺人事件 第話

「ほう それでは田䞭さんがトむレに入ったずきには既にあの状態であった、ず」
「  はい、そうです」
 差し出されるたたペットボトルの氎を䞀口飲むず芖界が自然ず開けおくる。靄が薄たるなり逆に重苊しい闇が広がり、机を挟んだ先に巚倧な重圧の塊を認める。譊察官が二人、俺を芋おいた。なにもなくずも緊匵させられる盞手である。しかも今回はなにもなくはない。思わず芖線をそらせば俺は映画通のような薄暗い堎所にいた。真っ先に留眮堎が思い浮かんだ。悪いむメヌゞをかぶりを振っお远い払う。本物のそれはきっず逆にここたで暗くない。なによりここたで広いわけがない。ずなれば、ここはどこなのか。芋枡せば寒々ずした広倧な空間が広がっおいた。照明の぀けられおいる郚分は䞀画しかなく、残りは闇に芆われおいる。たるで空き猶の䞭に吞い蟌たれおしたった小人になったようだ。
「田䞭さん」
「  あ、ああ。はい。すいたせん」
 我に返っお話を聞けば俺はむベント䌚堎の䞀぀䞋の階に間借りされた仮蚭の事情聎取空間にいた。監芖カメラを制埡したり、゚レベヌタヌの動䜜を確認したり、蛍光灯の予備を保管したり。䞀䞃階はフロア䞞々すべお事務所兌倉庫のような管理フロアだった。壁や扉による仕切りはなく、筒抜けのワンフロア、すべおがだだっ広く぀ながっおいる。䜓育通のように倧きなその䞀぀箱をパヌテヌションやダンボヌルでそれぞれの担圓がそれぞれの䜜業空間に区切っお䜿っおいるようだ。既に二䞀時を過ぎおいるずあっおか、灯りが぀いおいるのは俺のいる堎所以倖には䞀か所だけだった。モニタヌを䞊べお監芖カメラの映像をチェックしおいるらしきスペヌスである。
 俺ず同じくらいの幎代の県鏡をかけた男が四人、小さな灯りに矀がる虫よろしく、モニタヌに向かっお䜜業しおいる。事情聎取の空間は圌らの䜜業空間の隣に䜵蚭されおいた。゚アコンの䜿甚は犁止らしく、暖は個々に電気ヒヌタヌで取る習わしらしい。圌ら四人が持ち蟌んで぀けおいるヒヌタヌの熱でさりげなく譊察の人間が枩たっおいる。俺はスヌツの前をあわせ、身を瞮めお保枩に努めた。駐車堎の車䞭よりはマシだけれど随分ず寒かった。備品の䞭から適圓に拝借しおきたらしき長机ずパむプ怅子で構成された即垭の空間は䞀八階の豪華なむベント䌚堎を芋おきた盎埌では殊さらみすがらしく芋え、䞀気に珟実以䞊の絶望に匕き戻された感がある。それが䜓感枩床を䞀床は䜙蚈に䞋げお感じさせおくるる。
「では、こちらの写真の方をご存知ですか」
 仄かに闇を抌し退ける空間で譊察官が俺に問う。タブレットに映されたのは、おそらくトむレで死んでいた二人目の男だ。圓然ながら俺に芚えはなく、銖を巊右にふる。
「えっ 知らない こちらのむベントに参加しおいるのに」
「えっ」
 思いもよらぬ远求に顔をあげるなり、そのたた仰け反らさせられる。幎のいった小倪りの偎の譊察官が机に乗り出すように迫っおきおいた。じっず俺の顔を芗き蟌んでくる。䞞い河豚のような顔を、ぐいっず近づけお。
「田䞭さん、もう䞀床聞きたすよ あなたはこちらの圌を知らないんですか」
「  え、ええ。知りたせん」
「本圓に」
「はい」
 䞀䜓なんだずいうのか。あきらかに含みのある口調である。手元の名刺に倧石哲幞ずある譊察官はパヌ゜ナルスペヌスが俺のそれよりひず回り小さいらしい。隣の若い男ず違っお距離がずっず近く、どうにも圧迫感がある。䞍快である、ずはっきり蚀っおしたっおよいのかもしれない。写真デヌタを映したタブレットを錻先たで無遠慮に近づけられるのも䞍愉快極たりない。
「ぞえ、知らないんですねぇ。そうかそうか。なるほどねぇ。それはそれは  」
「なんですか」
「いや、知らないんだな、ずね」
 たるで聎取でなく、犯人の取り調べだ。口調ずいい、衚情ずいい、あきらかに害意があり、さすがに腹が立぀。嘘は぀いおいない。少なくずもここに限っおやたしいこずはなにもない。譊察の思惑がどうあれ、俺がそこぞ誘導されおやらなければならない蚀われわない。
「知りたせんが、なにか問題でも」
「いやね、こちらの圌はマリナのチヌムを代衚する四人の幹郚うちの䞀人らしくおね 四倧倩䜿にちなんでアヌク゚ンゞェルずかなんずか呌ばれおいるずか 私は詳しく知らないんですが、こちらのむベントに来おいる方で知らないなんおこずもあるんだな、ずちょっず意倖に思いたしおねぇ」
 たちたち冷や汗が吹き出す。そうだった。䞀぀䞊の階で開催されおいたのは界隈で勇名を銳せるマリナの蚘念すべき初むベントだ。誰でも参加できるわけでなく、これたでのコミュニティぞの貢献床の高さだったり、ブロックチェヌンや仮想通貚、、、それらの界隈でそれなりに知名床や知芋や亀流、亀友関係が構築されおいなければ招埅しおもらえない類のもの。俺のようなニワカは本来察象倖だった。マリナの幹郚ずなれば、もちろん俺以倖は皆、この写真の男が誰かを知っおいるのだろう。
「  ああ、そう  なんですね。名前を聞けばわかるんでしょうけど、顔たでは  ちょっず。むノァン・ニヌベンなら知っおいるんですけど」
「ああ、むノァンさんが䞀番有名らしいですねぇ」
 おたえはなぜここにいるのか。倧石から蚀倖にそうした思いが滲んでみえる。疑われおいる。もう既に喉が也いおいた。沈黙の間が重たい。けれど差し挟んで軜くできる蚀葉も芋぀からない。
「あの、ずころで田䞭さん、それは䞀䜓なんですか」
 そこぞもう䞀方の若い男が䞍意に軜口を挟んできた。ずっず気になっおいお溜たらず、ずいった様子で。名刺に東幞慈ずあった、すらりず背の高い譊察官だ。瞬間、河豚の眉間にぐっず皺が寄る。邪魔をするな、俺にはそう芋えた。よもやあのたた沈黙で抌し朰そうずでも思っおいたのだろうか。
「  それ、ずは」
「巊の耳に぀けおいる、それです」
「巊の耳」
「それです、それ」
「ああ、これですか」
 忘れおいた。東に指差されおようやく思い出した。なかなかの優れものだ。マスク以䞊に぀けおいるこずを忘れるほど装着感がない。䌞幞に借りた翻蚳機胜付きの片耳ワむダレスむダフォンである。英語のわからぬ俺ぞの逞別ずしお、あの悪友が俺をこの堎に送り出す前に、自ら開発を手掛けおいるずいう、その機噚を提䟛しおくれたのだ。ただ詊䜜段階のものらしく実蚌実隓テストを兌ねおらしい。
「ああ、なるほど。クラりドファンディングかなにかで䌌たようなものが支揎を募っおいるのを芋たこずがありたす。もう売り出しおいたんですね」
「いや、これもただ補品ではないみたいです」
「あっ、そうなんですね。たしか十ヶ囜語に察応しおいるずか」
「それはたぶん、高いや぀なのでは これは英語ず䞭囜語だけの察応みたいです」
「そういうのもあるんですか ぞえ。っで、粟床はどうです」
「それが驚きたした。僕は英語があたりわからないんですが、それでもニュアンスず蚀うか、现かい点をよく日本語にしおくれおいるな、ず感じられたした。翻蚳にかかるタむムラグも小さく、同時通蚳者を耳に挟んで連れお歩いおいるような感じです」
「それはすごいですね」
「英語を拟うず自動的に翻蚳がかかるんですが、巊耳から翻蚳された日本語が、右耳からはそのたたの英語が聞こえるので、ちょっず慣れるたで違和感はありたすけど」
「ああ、なるほど。でも、すごいですね」
「ええ、なかなかに。ずいっお問題はただ聞くだけ、ずいうずころなんですけど。倖囜語で行われる講挔䌚に参加する堎合には向いおいるのかもしれたせんが、こういう亀流の堎では  その、話せおなんが、なので  」
「ああ、そうか。あくたで受信偎の機胜なんですね。しかし、それでも䟿利そうです。今ではスマホでもあれこれできたすし、すごい時代になっおきたしたね」
「たったくです。僕は英語ができないので  テキストの翻蚳ツヌルやらこうしたものがないず、ずおもこちらの䞖界には぀いおいけなくお  」
「こちら ああ、クリプト界隈」
「はい、そうです」
「たしかに仮想通貚は英語のむメヌゞがありたすもんね。私も英語はできないので、だからそれ関係は門倖挢、ずかそういうのの捜査はからきしです。今回こちらに回されお困っおいるんです。手の空いおいるや぀はいないか、ず聞かれお手をあげおみたら  たさか、ここだなんお。聞き蟌みするにも倖囜の人が倚くお  」
「ああ、わかりたす。すごくわかりたす」
 むベント䌚堎ぞ着いおすぐ俺もその掗瀌を受けおいる。受付こそ日本人スタッフが倚く担圓しおいたものの、立食パヌティヌ圢匏の䌚堎内は半数ずたでいかずずも、かなりの数が倖囜人だった。翻蚳むダフォンあれど聞く䞀方ではコミュニケヌションは成立しない。どうしおよいかわからぬたたうろうろした。あちこちで英語が飛び亀うフロアで顔の芋分けも぀かず、そのうち四人に䞀人がスヌツに着替えたむノァン・ニヌベンにさえ芋えおきた。たるで自分䞀人が別の囜に迷い蟌んでしたったかのような錯芚に襲われた。逃げるように同胞の日本人を探しもしたのだけれど、䞀芋しお仲間ず芋えた䜕人かもスマヌトに英語で応じたりをしおみせ、俺を突き攟しおいった。たったくもっお居心地が悪かった。走り回っおいる子どもたちのほうが、ただしも仲良く䌚話するこずができた。䞉児の父ずいう雰囲気が知らずず滲み出おいるのか、倖囜の子どもずは埗おしおそういうものなのか。日本人の子どもから声をかけられるこずはなかったけれど、倖囜人の子どもには随分ず話しかけられたものだ。圌らは俺の救䞖䞻だった。所圚なく氞遠にも感じられたむベント開始前の埅ち時間を、その屈蚗ない笑顔で埋めおくれた。単に巊耳に぀けた翻蚳むダフォンが気になっおのこずかもしれないけれど、それでも俺が救われたのは事実だ。ずりわけ陜垌ず同じ五歳だずいう男の子ず、そのお姉ちゃんずいう九歳の女の子ずはよく話をした。どちらも癜い肌にブロンドの髪、青い瞳が人圢のようだった。快掻ながらもしっかりずしたお姉ちゃんは、子どもらしい笑顔で子どもらしく駆け回りながらも時に驚くほど倧人めいた台詞を吐いた。「日本のゲヌムはちょっずフラグが耇雑すぎるわ。そう思わない」などず、陜葵もあず八幎もしたらこんな颚になるのだろうか。「制䜜サむドの自己満よね、あれは」なかなかに耇雑だ。俺はどうにか片蚀の英語で応じながら、女の子ずいうものに圧倒された。男兄匟の䞭で育っおいる身ゆえ、今から我が嚘をしっかり育おられるか䞍安になった。もっぱら裕子頌みになりそうである。なにはずもあれ、たずは目の前の窮地を切り抜けなくおは子育おもたたならないのだけれど。
「  僕はもう、雰囲気にビビッおしたっお。隅っこで、こう、じっずしおいたした。ずもかく気配を消しお」
「ああ、わかりたす。僕も参加者だったら、きっずそうしおたした。しかし、その、仕事だず  そういうわけにもいかないので  」
 蚀葉も違えば文化も違う。ずなれば聎取もなかなかに倧倉なのだろう。若手の東の苊劎がしのばれる。
「ずころで田䞭さん、マリナっおどんな意味なんですか」
「  カナダ むヌむット そのあたりの神話に出おくる神様の名前です。たしか、海  じゃない、それはセドナだ。倪陜の女神、だったかな そう聞いた気がしたす」
 このあたりはミヌトアップぞの代理出垭が決たっおから䌞幞に予習がおら散々聞かされおいる。あわせお出おくる公文公の話ず、セットで。それでも尚うろ芚えでしか頭に入っおいないのだけれど。「僕の代わりに参加するんだからこれくらいは芚えおくれよ」 逆に䌞幞の繰り返すその台詞だけが、すっかり耳タコである。
「  おい、東」
「ああ、すいたせん、倧石さん。぀い  」
 すっかり盛り䞊がっおいるずころ倧石が苛立ち混じりに割り入っおくる。たちたち空気が淀んで感じられた。枩床が䞋がり、暗さが増した気がした。それでも東ず䌚話したこずで最初ほどの圧は感じないで枈んでいる。
「䌚堎内はスマホは持ち蟌み犁止ず聞きたしたが、それはだったんですねぇ」
「  ああ、そういえば 聞かれれば翻蚳機だず説明する぀もりでしたが、そもそも聞かれたせんでしたね。なんでだろう」
「たあ、補聎噚ずでも思われたんでしょうねぇ。私も六〇にもなるず耳が遠くなっおきおねぇ。あれこれ調べおいるんですが、最近はお排萜なものも増えおいるみたいで。ちょうどそんなのに䌌たのも芋た気がしたすから」
「ああ、なるほど。それでか。そういった類はなかなかに質問しにくいですもんね」
「ええっず、それでね、田䞭倧茔さん。あらためお質問させおいただきたすが、あなた、新聞玙は芋られおたすか」
「しんぶんし えっ、新聞  ですか」
「田䞭さん、本圓に招埅されおここにいるんですよねぇ」
「  え、ええ。もちろんです」
「本圓に」
「え、ええ  」
「本圓の、本圓に」
 倧石の小さな目が冷たく俺を射抜いおくる。端から決め぀けおいる、嫌な目だ。小説であれば蛇のような、ずでも曞くずころだろう。けれど倪った䞞顔のせいで、やはり河豚にしかみえない。どちらも毒がある点では危険に倉わりないけれど。
「なりすたしではなく」
「  なりすたしなど䞍可胜でしょう 受付の堎でツむッタヌアカりントを本人のものだず蚌明しなければならないんですから」
 手持ちのスマホで招埅状の届いたアカりントにログむンし、ダむレクトメヌルにマリナから届いおいるメッセヌゞを開く。そこに付けられたコヌドを受付で確認しおもらう。そうするこずで入堎が可胜ずなる。もちろんその際に別で身分蚌の提瀺も必芁だ。それからスマホを預ける、ずいう運甚である。
「そうみたいですねぇ。しかし私はそのあたり疎いのでトンチンカンで。芋圓違いであれば申し蚳ないですが、最近では、あの、あれ  ほら 流行っおいるじゃないですか。なんお蚀ったけ」
「あれ あれ、ですか なんです」
「あっ、ハッキング。ハッキングです。ツむッタヌの乗っ取りずか、そういうのもあるみたいじゃないですか ねぇ」
 倧石はなぜか監芖カメラのモニタヌ前に腰掛けお䜜業しおいる無関係の県鏡の四人に同意を求めた。圌らはそうしたものに詳しいはず、ず芋た目だけで決め぀けおいるようである。手前の䞀人。倧柄でロボットアニメのシャツを匕き䌞ばしお着る圌が、困ったように小さく䌚釈を返しおくる。
   あのシャツは
 ふず思い出した。どこかで芋芚えのあるものだず思えばむノァン・ニヌベンが着おいたこずを。色も同じだ。おそらく人気のロボットアニメなのだろう。䌞幞が気にしおいたし、機䌚あればアニメの名前を聞いおみようか。もしかしたら陜垌あたりは既に知っおいるのかもしれない。ずもあれ、この寒さに半袖䞀枚ずは恐れ入る。今だけで良いからその有り䜙る脂肪を少しだけでも分けおはくれたいか。芋おいるだけでこちらが寒くなる。
「田䞭さん」
「ああ、すいたせん。少し寒くお。ええっず、なんでしたっけ ハッキング  でしたか しかし、そんなこずがあれば先に倧隒ぎになっおいるのでは 乗っ取られた偎も倧人しくはしおいないでしょうし」
「ええ、そうでしょう。ですが、です。乗っ取りの発芚はしばらく遅れる堎合もありたすよねぇ 乗っ取られた偎が数日経っおから気づく、ずいうケヌスもあるず聞きたす」
「なるほど。それもなくはないんでしょうけど、そういう時のために今回はあわせお身分蚌の提瀺が必芁ずされおいるのでは」
「ええ、そうなんです。だからこそ䞍可解なんですよねぇ」
 再びにじり寄られるにあたっお今床は俺も負けじず机に身を乗り出す。䞍愉快な手合いだけれど倧石の芋立おは正鵠を射おいる。ベテランの勘なのかなんなのか。目の付けどころはさすがである。俺は、今、たしかに他人になりすたしおここにいる。䞍正を働いお。しかし䞀぀断蚀できるこずがある。俺が乗っ取りを蚎えられるこずはない、ずいうこず。なぜなら正芏の招埅者である䌞幞こそが俺にアカりントを提䟛しおいるのだから。すなわち乗っ取られた偎が共犯のような状態なのである。もちろんそうしたカタチでの代理出垭も犁止行為ではあるけれど、ずもあれハッキングなどではないのだから、ここは匷気で抌し返せる。
「随分ずあからさたに疑っおきたすね、俺のこず」
「いえいえ、そんなこずはないんですよ。私は少し甚心深いタチでしおねぇ あっ、そうそう。田䞭さんはお子さんが䞉人もいるらしいじゃないですか 今日は連れおはこなかったのですか 䞊の階には倖囜人のお子さんたち、たくさん芋掛けたしたけど」
 その瞬間は意味がわからなかった。ただの䌚話の流れ、その䞀貫ず思えなくもなかった。しかし、わかった瞬間に激しい怒りが湧く。空き猶の底の底から湧くそれよりも遥かに匷烈な、殺意に近い、それが。
「若い奥さんもいる、ずか いいですねぇ。うらやたしい」
「  そういうのっお個人情報なのでは」
 家族を人質にでも取っおいる぀もりなのだろう。思わず脇にあった折畳匏の梯子に手を䌞ばしそうになる。これで殎っおやろうか。そう思っお反射的に掎みかけたそれは掃陀甚具入れにあったものず同じ圢状だった。故障䞭の匵り玙がされおいる。既に壊れおいるのならフルスむングしお倧砎させおも問題あるたい。しかし寞でで留たれたのは思い出させられた家族の顔のおかげである。ここで挑発に乗っお県前の河豚を殎り、別件逮捕されるわけにはいかない。
「個人情報 ああ、たあ、そうかもしれたせんねぇ いや、これはこれはすいたせん」
 気に障る笑い方だ。小説やドラマの悪圹でしか芋たこずのない手合いである。本圓にこうした譊察官が実圚しようずは䞖も末だ。あからさたに粟神的に圧をかけおきおいる。恐喝しようず考えおいた俺が蚀えた立堎ではないけれど、これが法治囜家の日本で蚱されおよいのだろうか。
「  別にいいですけどね。俺にやたしいずころはないので。埌から乗っ取りが刀明したんなら、ここにある䜏所に俺を捕たえにきおください。これは正真正銘、俺の免蚱蚌ですから。停装ずかはしおいたせんよ」
 殎るこずはどうにか留たれたけれど䞀蚀返さずにはいられない。尻ポケットの折り財垃から運転免蚱を取り出し、俺はそれを倧石の県前に鋭く突き぀ける。歳のいった小倪りの譊察官は笑みを消し、片頬を匕き攣らせながらも、じっず俺の免蚱蚌を芋぀める。
「田䞭  倧茔、田䞭  ふむ」
「なんですか」
「たしかに停装ではなさそうですねぇ  」
「ちょっず、倧石さん」
 問題になる気配を察したのか芋かねたのか、若手の東がそこたでずばかり䞊叞を匕き留めに入る。倧石は僅かに抵抗を芋せたものの、しかし殊のほかあっさり匕き䞋がった。乗り出しおいた身を退き、再びパむプ怅子にどっかり腰を萜ち着ける。河豚圓人にしおも、おかしな隒ぎにはしたくないのだろう。刑事ドラマでも芋おいる気分なのか、モニタヌ前の四人が興奮した様子でこちらを窺っおいた。俺も第䞉者ずしおあちら偎で芋おいられたのならば、どれだけ良かったこずか。こちらの偎にいお喜ぶのなど䌞幞くらいのものである。
「ああ、すいたせん。すいたせんねぇ。ただ他殺ず決たったわけでなく、事故や病気の可胜性も調べおいる段階だずいうのに、ねぇ いやいや、これはこれは倧倉倱瀌いたしたした」
 俺が無蚀で銖肯を返すず倧石が内心の読めない䞍敵な笑みを深くする。先ほどたでの匷匕な聎取を取り繕っおの笑みか、はたたた「今に芋おいろ」ずいう敵意のあらわれか。勢い䜙っお匷気に出たものの俺ずしおはしかし恐喝しようずいおいた事実は吊めない郚分もある。冷静になるず背筋に冷たいものを感じる。さらには、目䞋、心配なこずもある。入堎盎前に䞀時的に拝借した䌞幞のツむッタヌアカりントであるけれど、入堎を枈たせた埌、既に返华しおいるのだ。具䜓的に蚀えば䌞幞にパスワヌドの倉曎をしおもらっおいる。俺が再びログむンできないよう、俺の知らないパスワヌドぞず。だから今ここでダむレクトメヌルをもう䞀床芋せろなどず蚀われたら、なかなかに䞍味い状況だ。俺はもはや䌞幞のアカりントを自由に扱えない。プラむバシヌの䟵害だず跳ね陀ける以倖に察応する術がない。
「しかしねぇ。今回の件、事故にしおはどうにも腑に萜ちない点がありたしおねぇ それで少し  あっ、こういう質問、田䞭さんだけでなく、皆にしおいるんですよ ちょっず匷めに、こう  なんずいうか、ボロが出たら儲けもの、みたいな ねぇ」
「  圧迫面接、みたいなや぀ですか 誉められたやり方ではありたせんね。皆にしおいれば蚱される、ずいうわけでもないですし」
「たったくもっお、おっしゃるずおりです。私はこのずおり叀いタむプの人間でしお  いやはや申し蚳ないですねぇ」
 いやに䞋手に出おくる。あたりに急な方向転換だ。逆に䞍気味でならない。この手の類いがこうした態床に出る時は倧抵ろくなこずがない、ず小説やドラマでは盞堎が決たっおいる。ここは早めに切り䞊げるが吉だろう。
「すいたせん。そろそろ䞊に戻っおも」
「ええ、いいですよ」
「では、倱瀌し――」
「あっ、すいたせん。田䞭さん。最埌に䞀぀だけ。今ここでツむヌトしおもらえたせんか ハロヌでも、テストテストでも、なんでも構いたせんので ねぇ」
 䞀瞬、意味がわからず、狙いが芋えず、窮地ず気づくのに䞀拍の間を芁しおしたった。やられた。完党に。蚀倖に『プラむバシヌであるダむレクトメヌルは芋せなくおよいので』ずいう嫌らしい配慮が感じられる。なりすたしであればどちらも䞍可胜だずいうのに。この男は、この河豚は、やはり俺を最初から疑っおいる。
「  ツむヌトを、ですか 今、ここで」
「ええ。内容はなんでもよいので䞀぀お願いしたすよ」
 たちたち冷たい汗が吹き出す。暪目にちらりず確認すれば、頌みの綱の東は確認甚のため、倧石同様に既に己のスマホを取り出しおいる。念のためであるし、これくらいは特に問題はない。蚱容範囲、ずいうこずなのだろう。たしかにそうだ。さっさずツむヌトしお去ればよいのだから。しかしその投皿が俺にはできない。
「どうかしたしたか」
 小倪りの倧石の䞞い河豚面が満面の笑みを浮かべおいる。たったくもっお嫌なや぀だ。俺はひずたず自分のアカりントでツむッタヌにログむンし、䌞幞のアカりントをはたから眺める。今や俺が扱えない悪友の、それを。芖線の端で監芖カメラのモニタヌに匵り付いた四人の耳が、こちらにじっず向けられおいるのを感じる。ドラマや映画以䞊の臚堎感を俺で味わうのは勘匁しおくれ。
「田䞭さん どうかしたんです」
「  ああ、いや、しかし、いざ  ずなるず、なんお投皿しようか、迷いたすね。ちょっず、恥ずかしいな」
 確信を持っおいるように詰め寄っおくる倧石に逃げ堎をどんどん削られおいく。したいには東にたで「なんでもいいんですよ」ずフォロヌされる始末である。俺は、やはり、䞉流小説家らしい。投皿できない理由を、ちょうどよい蚀い蚳を、たったく思い぀けない。 どんなストヌリヌであれば、受付を枈たせた埌、ツむヌトできなくなる状態にもっずもらしい理由を぀けられようか。ここで今さら俺自身がハッキングを受けおいる、ず隒ぎ出しおも䞍自然極たりないだろう。ネット環境の問題にするのも無理がある。スマホを握る手が震える。どうにかそれを抌しずどめる。
「そんなに倧袈裟に考えずに。い぀ものように、でいいんですよ 投皿したものはすぐに削陀しおくださっおいいですし。私たちが確認できれば、それでいいので」
「  ああ、はい。わかり  たした」
 芳念しお癜状するしかないのか。ここに来おの、今さら、ずなれば、心蚌は最悪だろう。殺人犯の筆頭ずしお疑われるこず請け合いである。俺は本圓にやっおいないし、家族のためにも濡れ衣をかぶるわけにはいかない。しかし良いシナリオが思い浮かばない。沈黙で時間皌ぎするにも、これ以䞊は限界である。
「ありがずうございたす。それじゃあちょっずお菓子でも探しおきたすね」
 快掻な東の声ず倧石の小さな舌打ちが同時に聞こえたのは盎埌である。己のスマホに目を萜ずせば「お腹空いた  これ、い぀たで続くんだ」ず䌞幞がツむヌトしおいた。たさかたさか、である。これしかない、ずいうタむミングで、これしかない、ずいう内容で。持぀べきものはやはり友だ。この゚ピ゜ヌドを埌で話したならしかし「ご郜合䞻矩すぎるだろう」ずたたぞろ怒られそうである。ずおも小説には䜿えない必然性のない偶然のたたもの。文字通り奇跡。
「  ふむ。そうですか。なるほどねぇ」
 いよいよアテが倖れたずばかり癟戊錬磚のベテランが残念そうな衚情を浮かべ、むチから掚理の再構築をはじめるような仕草をみせる。俺はもう腰が抜けたような心持ちで東の持っおくるお菓子を埅った。䌞幞の間の良さに感謝しかない。どうやら神様はただ俺を芋捚おおはいないようだ。しかしそう思えたのも、本圓に、本圓の、束の間であった。
「田䞭さん、すいたせんねぇ  先ほどはもうけっこうだず蚀ったのですが、あず少し時間をもらえたせんか 東も食べ物を探しに行っおしたったわけですし」
「え、ええ  ただ、なにか」
「少し芋おもらいたいものがありたしおねぇ」
「芋る なにを」
「圌らに手䌝っおもらっお、少し  ねぇ」
 モニタヌ前の四人組がようやく出番ずばかり高揚した面持ちでこちらを振り向く。揃いのタむミングで。さながら刑事ドラマぞの出挔に緊匵する゚キストラのよう。俺に芋おもらいたいもの、ずはなんなのか。あの四人の仕事を考えれば䞀目瞭然であろう。俺はたちたち奈萜の底ぞ突き萜された気持ちになる。
「いやねぇ、トむレの前の廊䞋を映した監芖カメラの映像がありたしお、ねぇ」
 
「䌊波、たた来いよ」
「埅っおるからな」
「絶察だぞ」
 持垫町の子ずいうのはどうしおこんなに元気なのか。特に男の子は同い幎ずは思えないほど幌い。揃っお癜のランニングに短パン、アニメの䞖界の田舎の子どもそのたたである。でも枅々しくお気持ちいい。東京では去りゆく友達の芋送りに、こんな颚に集たり、こんな颚に声をあげ、こんな颚に涙しおくれる子はいないから。私からすれば䌊波がちょっず矚たしい。
「うん。ええっず  䞀、二、䞉  十  十䞃匹っ じゃあ、十䞃幎埌に 十䞃幎埌に、たた䌚おう」
 倕陜を背にした䌊波が歯を芋せお笑う。逞別がおらに受け取った党員分の今日の釣果で䞡手のバケツをいっぱいにしお。釣果ずいっおも子どもの遊び。倖道、倖道、倖道。河豚、河豚、河豚。食べられる魚は䞀匹もいない。だから私は蚀ったのだ。
「そんなものぜんぶ捚おおいきなよ」
「いや、もらっおいくよ」
 倖道ずは釣り甚語で目的倖の魚を指す。䞀匹も釣れないこずを瀺す坊䞻よりは些かマシであろうけれど、よりによっお今回釣れたのは倖道䞭の倖道ず目される緑色の河豚ばかり。草河豚は毒があり、玠人が捌いお食べるこずはできない。すなわち生ごみだ。
「本気なの 重いだけよ」
「この重いずころが嬉しいんだよ。この重さがさ。みんなにもらったものだから」
 私は䜕床も説埗を詊みた。それでも明朝にはこの門叞を離れ、カナダに発぀ずいう痩せた男の子はすべおの倖道を持っお垰るずいっお聞かない。私を芗く圌の青い目が、癜い肌が、朱に染たっおいた。思わず息を飲んだ。他の男の子ず同じ、ランニングに短パンだ。けれどどうしおか䌊波は絵になっおいた。倖囜人だからずいうわけでなく、敎った顔立ちずいうわけでもなく、しかしなぜだか。
「䌊波ぁヌ、たたなヌ」
「手玙、曞けよな」
 去りゆく圌の背に私は声をかけられなかった。ずりわけ己は東京から来た郜䌚の人間なのだからず気取っおいるわけでも䞊品ぶっおるわけでもない。ただただ声が出なかったのだ。涙が止たらなかった。䞀幎前に匕っ越しおきたばかりのずき、みんなの仲間に入っおいけない私に最初に声をかけおくれたのが䌊波だった。小孊校はむンタヌナショナルスクヌルに通っおいるずかで別で、遊び堎の堀防でしか䌚うこずはなかったけれど、私は䌊波がいたから友達ができた。「僕も半幎前に匕っ越しおきたばかりなんだ」ず蚀った䌊波は同じよそ者の私の気持ちを誰よりわかっおくれた。盞談に乗っおくれたし、みんなずの間を取り持っおくれた。それだから、いや、それでなくおも、だろう。きっずひず目芋たそのずきから私にずっお䌊波は特別な存圚だった。
「みんな、本圓にありがずね 楜しかった」
 ずろずろず迎えに来た軜トラックの傍らにバケツを眮き、小さくなったシル゚ットの䌊波が䞡手をいっぱいに振りながら飛び跳ねる。小柄でぜんぜん䌌おいない䌊波のおじいちゃんも今日は珍しく車から降りおきおは䌊波の隣で手を振った。それで本圓に最埌なのだずわかり、胞がぎゅっず締め぀けられた。
「裕子、元気でね 芋送りにいけなくおごめん」
 半幎埌、䞭孊生になるタむミングで私も東京に戻るのだ。来るのも垰るのも半幎埌。垞に䌊波に半幎分の遅れを取っおいるように思える。それで、だろうか。䞍意に蚀葉が口を぀いた。
「十䞃幎埌にね 私、負けないから」
 なんの勝負をしおいるのかはわからない。なにに負けないのかも。それでも私は匕き絞られおいた喉をこじあけ、どの男の子よりも倧きな声で勝利宣蚀をくれるこずができた。䌊波からも即座に返事が跳ね返っおくる。
「僕も負けないよ」
 がんやりずした埮睡みに包たれながら寝がけ県で芋䞊げれば時蚈の針はただ二䞀時だった。䞉人の子どもを寝かし぀けながら䞀緒に寝萜ちしおしたったらしい。今倜は仕事で遅くなるらしく、倧茔はただ垰っおきおいない。そういえばず、ふず思った。来幎の誕生日でいよいよ私も䞉十の倧代に乗る。぀たりは今幎であれから十䞃幎が経ったわけだ。それで倢に芋たのだろうか。あの頃の、小孊生の頃の、私は、そこが金策に明け暮れ、眠れぬ倜が続く未来だずは倢にも思はなかった。けれど䞍思議ず䞍幞せずは思わない。思いたくもない。こんなに可愛い子どもたちが傍らいるのだから。
 負けられない。負けない。
 なぜだか沞々ず闘争心が湧いおきた。私が䞉十になるのだから倧茔に至っおはもう四十だ。そろそろ身䜓にガタがきおもおかしくはない。い぀でも代わりに私が働けるようにしおおかなければいけない。なにがあっおもこの䞉人は立掟に育お䞊げおみせる。唐突に思い出した青い目の少幎に向け、䞀人勝手にあらためお宣戊垃告し、私は静かに戊いの日々に戻る。明日からの子育おずいう戊堎に備え、今倜はしっかりず眠らねば。それが今の私の戊いなのだから。倧きくひず぀深呌吞し、今日くらいは残っおいるすべおの家事をほっぜり出しお、そうしお再び眠りの先を目指す。眠れる時に眠らなければ、頑匵るべきずきに頑匵れない。倧茔はただ頑匵っおいるのだし、私も頑匵っお眠らなければ。
 
 負けられない。すれ違った男から、なぜだかそうした匷い意志を芋おずれた。名も知らぬ、誰かもわからぬ盞手から。圌にはなにかしら守るべきものがあるのだろう。鬌気迫る執念のようなものが连っおいるように感じられた。そういうこずであればしかし、僕だっお負けおはいない。僕はこの勝負に最初から己の人生を賭けおいるのだから。これは元より僕が消えるこずで完成するプロゞェクトなのだから。
 撃っおいいのは撃たれる芚悟のある者だけだ。
 ずあるアニメに出おきた僕の奜きな蚀葉。僕にはある。その芚悟が。゚ゎたみれではあるけれど、それでも揺るがぬ決心が。振り返らずに歩を進め぀぀、背䞭に重たい扉の閉たる音を聞く。そこで、ふず思い至る。あるいは先ほどの男は、ただひたすらに、己の、人ずしおの、その尊厳を守りたい、ずいう䞀心から緊匵を垯びおいたのかもしれない。ここはトむレだ。もしも限界ぎりぎりの末、どうにか我慢し、ここたで蟿り着いおたのだずしたら、あの気迫も頷ける。そんなこずがあるだろうか。いや違う。それが普通なのだ。
 普通でないのは僕のほう、か  。
 ただトむレにやっおきただけの男が今の僕の目にはずお぀もなく異様に映る。その事実に気が滅入りそうになる。他者は己を映す鑑だ。぀たりは、今、僕の粟神状態がおかしいに違いない。無自芚なたたに。あるいは半ば自芚しお。入れ違いでトむレに消えおいった先の男がなんずも挙動䞍審に感じられたのは、誰より僕がそうした状態だからだろう。ヘッドフォンを぀けお無意味にリズムに乗る、酔っ払いよろしくの枅掃員姿の、僕。おそらくこの空間で、今、誰よりも異垞だ。それもそのはず。僕、むノァン・ニヌベンは、今日、はじめお人を殺したのだから。続けおただ䜕人かを殺す、その予定もある。もちろん信念に基づいおの行動だけれど、だからずいっおいくら芚悟があろうずもこれを平静を保ったたた行うのは難しい。特にこの最初の殺人がもっずも粟神的に堪えた。䜕も知らない若者を、ただマリナを愛するだけの圌を、僕を厇拝しおいた圌を、僕は、己の゚ゎのためにこの手で殺したのだから。
 
「同い幎で、同じく斜蚭育ちで、だからむノァンに憧れおるんです」
 圌ずのはじめおの䌚話はマリナのグルヌプチャットの䞭でだった。今でも芚えおいる。盎接䌚ったのはその二幎埌、髪型も服装も完党に僕を真䌌おいた。ファッションモデルでもなく、むしろダサい郚類に入る、この僕を。たたたた長身の痩せ型ずいう䜓型が䌌おいたこずもあり、同い幎なのにたるで兄匟、匟のようだず感じたものだ。ダヌノィットにもそっくりだず倪錓刀を抌された。偶然の共通点が倚いこずではじたったらしき僕ぞの憧れが、圌の努力によっお、さらに類䌌性を加速させおいた。圌はあきらかに僕に䌌せようずしおいた。寄せおきおいた。圌の存圚の、そのすべおを。
「日本たでの旅費を出しおもらえるんですか 僕の分を」
 チャット䞊での文字からながら、その向こうに玠盎に喜ぶ圌の顔がむメヌゞできた。返信文を綎りながら心臓が掎たれるような痛みを芚えた。
「今床のむベントで僕のそっくりさんをしお欲しくおさ。みんなを驚かせたいんだ。だからナむショで日本に来お、ナむショでむベント䌚堎に入っおほしいんだ」
「むノァンの代わりに僕がスピヌチをしお誰が最初に停者ず気づくかどうか、ずはなかなかに面癜そうな䌁画ですね。バレないように頑匵りたすね」
 少しでも長くマリナのホルダヌたちを隙しおむベントを盛り䞊げよう。そうしお意気揚々ずアゞアの島囜たでやっおきた若者は枅掃員の姿で人知れず䌚堎入りした。もちろん僕の指瀺で。僕の手配で。 最埌にせめおずたで、二人でひっそり、皆に隠れお晩逐をしたのは、ダヌノィットやポヌルらずの幹郚䌚の䌚食の前のこず。僕を前にした圌は緊匵した様子で早いペヌスで酒を煜った。
「むノァンは飲たないのですか」
「飲たないずいうか、飲めないんだよ。お酒は匱くおさ。もし、今、飲んだなら、この埌のむベントでなにも喋れなくなっちゃうくらいに。逆に君は少しくらい飲んだほうが、うたく停者をやれそうに芋えるけど」
「はい。飲んだほうが緊匵を誀魔化せるタむプです」
「しかし、ごめんね。僕の停物だなんお  」
「いや、嬉しいですよ。むノァンに䌌おいるずいう評䟡あっおのキャスティングでしょうし。なによりむノァンの圹に立おるのが嬉しいです。それが停物圹であれ、なんであれ。僕はむノァンの理想のためなら呜だっお賭けられたすから。なんでも蚀っおくださいね」
 たったく予期せず、圌の口から、今回の僕の行動が肯定されようずは思わなかった。今䞀番欲しおいた慰めの蚀葉がそこにあり、傲慢な゚ゎであっおも僕は少し救われたように感じた。
「えっ むノァン どうしたんです そんなに泣くようなこずではないですよ」
「  いや、本圓にありがずう」
「お瀌を蚀いたいのは僕のほうです。マリナは僕にずっおの信仰そのもの、宗教で、むノァンは僕にずっお神様みたいなものですから」
 そういっお歯を芋せる若者ぞ、僕は毒を盛った。遅効性の毒を。はじめおの日本食だず喜んで食べる、若者ぞ。僕に䌌た、若者ぞ。そうしおその埌、トむレの掃陀甚具入れで声をかけるたで埅機するよう呜じたのだった。毒が回り、そこで死ぬように仕向けたのだ。僕に憧れる同い幎の男を、僕に䌌た匟のような圌を、僕は隙し、人知れず殺したのだ。僕の身代わりずしお。
「あっ、これ、プレれントだよ。トむレに隠れお埅っおいる間、退屈しないよう音楜でも聎いおいおよ」
「あっ、新型の 僕、欲しかったんです」
「だず思っおさ。前に蚀っおたから。ヘッドフォンにこだわりがあるっお」
「芚えおいおくれたんですね」
 あたりに感激しおくれる圌に再び心臓が握り朰されるように感じる。頭にかぶる圢状の倧ぶりのヘッドフォンはあくたで監芖カメラに圌の耳の圢が映らぬようにするために甚意したものだ。僕が安心しお入れ替われるように。そのための、念のための、配慮だった。圌ぞの莈り物ずいった気持ちはほずんどなかった。圌の笑顔に察するその事実が、僕の胞を静かに痛め぀けおくる。雑巟を絞るように、じわじわず。
「いや、もう、嬉しくお飲みすぎちゃいたすよ」
「ああ、奜きに飲むずいいよ。ずはいえ、ほどほどにね  」
「日本食っおいうのはしかし、なかなか倉わった味がしたすね むノァンもそうは思いたせんか」
「ああ、そうだね。でも僕はこの味が奜きなんだよ。この囜もね」

いいなず思ったら応揎しよう

田䞭䌞幞@tanakas.eth 応揎よろしくお願いしたす いただいたチップは『すべお』クリ゚むタヌずしおの創䜜掻動費ずさせおいただきたす 決しおお菓子を買ったりはしたせん (たぶん  )