【京都の話を聞いた夜の手紙】
お母さんへ
京都から帰ってきたあなたと、食卓を囲みました。
私は家にいたはずなのに、気がつけば寺町通を歩いていました。
あなたが話してくれたからです。
寺町通にある「スマート珈琲」。
薄暗い入り口で、営業しているのかどうか迷ったこと。運ばれてきたたまごサンドが、驚くほど厚くて温かかったこと。
「焼きたてだったのよ」
そう話すお母さんは、少しだけ得意げでした。
その顔を見ていると、私まで嬉しくなります。
一緒に食べられたらよかったのに、と思いました。
今度は私がホットケーキを頼みます。半分こにしませんか。
寒さに負けて入ったという「京 梅園」。
俵形のお団子を注文してから、お腹がいっぱいだったことに気づいたという話には、思わず笑ってしまいました。
しかも隣にいた若いカップルに、「よかったらどうぞ」と声をかけたなんて。
お母さんらしいなあ、と思います。
私だったら、たぶん持ち帰るか、頑張って食べます。
でも、お母さんは誰かに渡してしまう。
そういうところが昔から変わりませんね。
いちばん笑ったのは551のお話です。
焼売は六個セットなのに、「二個だけ売ってもらえませんか」とお願いしたこと。
豚まんは一個買うから、と交渉までしたこと。
店員さんの困った顔が目に浮かびます。
当然のように断られたのに、お母さんはまるでいたずらが失敗した子どもみたいに笑っていましたね。
その様子を想像して、私も声を出して笑いました。
京都駅で見つけた「松風」も、ありがとう。
最初に食べた松風のことを思い出しながら、二人でいただきました。
「モキュッ、モキュッだね」
なんて笑いながら。
あんなに地味なお菓子なのに、不思議ですね。
噛んでいるうちに、寺町通も、梅園のお団子も、551で店員さんを困らせていたお母さんも、少しずつ目の前に現れてきました。
私は京都へ行っていないのに、なぜか京都から帰ってきたような気持ちになりました。
お母さん。
あなたの話を聞いていると、行ったことのない場所まで懐かしくなります。
次は、同じ席で、同じものを食べましょう。
それだけで十分な気がしています。
あなたの娘より
