【欲望は、予約できる】
ある日、僕の端末に通知が届いた。
三ヶ月前に予約した、評判のレストランからだ。
「いよいよ明日です。当時のあなたの熱意を、そのままお待ちしております」
僕は首を傾げた。
三ヶ月前の僕は、この予約のためなら予定を空けるほど夢中だった。今の僕は、その執着だけを置き忘れていた。
しかし、キャンセルするのも面倒だし、何より三ヶ月前の自分に対して、妙な義理立てをしたくなる。
翌日、店を訪れた。
美しい皿が運ばれてくる。
一口食べた瞬間、僕は驚愕した。
これだ。
まさに今、
僕が喉から手が出るほど欲していた味だ。
僕は思わず、シェフを呼び止めた。
「なぜですか」
シェフは静かに微笑んだ。
「お客様が予約時にお預けになったものを、お返ししただけです」
「預けた?」
「欲望です」
僕は笑った。
冗談だと思った。
だが、シェフは笑わない。
「三ヶ月前のお客様は、この料理を食べたくて仕方がなかった」
そう言って彼は厨房へ戻っていった。
店を出る。
料理は完璧だった。けれど歩きながら、僕は妙な気分になる。あの感動は、本当に僕のものだったのだろうか。僕は今の自分の舌で食べたのか。それとも。
三ヶ月前の僕の欲望を、そっくりそのまま受け取っただけなのか。ポケットの中で通知が鳴った。
『ご予約を承りました』
見覚えのない店だった。日時は三ヶ月後。予約者名を見る。
僕だ。
心当たりはない。だが、署名欄には見慣れた筆跡で一言だけ添えられていた。
「その頃のあなたは、きっと今とは別人です」
僕は立ち止まる。そして少しだけ安心した。
三ヶ月後の僕もまた、
今の僕を裏切ってくれるらしい。
