おしゃれなカレー屋で、くしゃみを殺している

今、完全に『BRUTUS』の
カレー特集の1ページみたいになってるわ、私。
スパイスの香りが立ち込める、
古材を使ったお洒落なカレー屋。
西日が差し込み、
光が指先をかすめる。
私はそれを、
サニーデイ・サービスの
歌詞みたいな顔で見ている。
お皿の縁に、指が触れる。
……辛っ。
唇ヒリヒリすんだけど。
もう帰りたい。
あーあ、
終わったら帰りに
ファミマ寄って『たべっ子どうぶつ』買お。
あのビスケットを一個ずつ、
「LION……」
「らいおん。」
と読み上げながら食べたい。
バターの甘さで、
この口の中を中和したい。
今日のメインイベントなんだから。
邪魔しないで。
一度そう思ったら、
もう止まらない。
カルチャー気取りの
メッキがベリベリと剥がれていく。
と同時に、
最悪のタイミングで、
そいつはやってきた。
ホールのブラックペッパーを
思いきり噛み潰した瞬間、
鼻腔を直撃する凶悪な香辛料。
こみあげてくる。
一瞬、喉の奥で引っかかる。
(ウソでしょ!? 今!? 『らいおん』のこと考えてるこの空気の中で、くしゃみ!? まずいぞ! 違うの! 単純にカルダモンがキツいの!!)
全力で耐える。
くしゃみが出そうになるのを、
King GnuのMVに出てくる
モデルみたいな
「アンニュイで虚無な顔」を
必死に作りながら、
強引に鼻腔を閉じる。
顔面崩壊の危機である。
向かいでは
友人が「美味しいね」と笑っている。
私だけが、
鼻の中でブラックペッパーと戦っていた。

