逃げ水
僕の昭和スケッチ番外編「美濃近郷夜話」
今日は「僕の昭和スケッチ」の番外編「美濃近郷夜話」をお送りします。
「僕の昭和スケッチ」は基本的に全て事実をベースにしていますが、美濃近郷夜話はごく短い民話の類で本当と空想のはざまにあるような私の創作です。
元になっているのは、以前にお届けした「ついとべしょ」のように子どもの頃に祖母が枕元で話してくれた不思議な美濃の話ですが、私の実体験をもとに創作したものもあります。
さて、今日は、、、

「逃げ水」
ひどく暑い夏の日にマサジという子どもが農道を歩いていた。
ミミズ川へ魚釣りに行くところだ。
すると、農道の向こうに逃げ水が見えた。
逃げ水というのは、風のないよく晴れた日に起きる自然現象で、道の遠くに水があるように見えるものだ。近づくと消えてしまう。夏に逃げ水はさほど珍しいものではないのでマサジはそのまま歩いていくと、何故かその水は逃げてゆかない。
不思議に思ってもう少し近寄ると、逃げ水の中に水柱のようなものが立ち上がってくるのをマサジは見た。そして、見る間にそれは人間の子どものようなものになり、逃げ水の中をマサジの方へまっすぐ歩いて来るのだった。
驚いたマサジはすぐに踵を返して家に逃げ帰った。
それから家で母親に逃げ水とその子どものことを話すと、母親が答えた。
「それは昔ミミズ川で溺れて死んだ子どもの霊魂で一緒に母親のところに連れて帰って欲しいと現れるのだよ。そうでなければ、相手をミミズ川の水底に連れて行くつもりなのだよ。マサジがすぐにその場を離れたのは良いことじゃったな」
と。
「あの逃げ水から現れた子どもは、自分の後をつけてきて家の前に立っているのではないか、、、」
マサジはそんな気がして恐ろしく、お盆の間は外へ出なくなったという。
<逃げ水/了>
<ミミズ川 地図上は三水川。岐阜市の北西部を流れ利根川に注いでいる。昔は深い淵もある自然豊かな川だったが、工場の排水と安直な護岸工事のせいで現在はみすぼらしく浅い川になり果てている。日本中にあるこういった死んだ河川を見るたびに口惜しく、人は愚かなことをする生き物だと私は思う。妖怪も今のミミズ川には住まぬだろう。>
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