食べ物は、栄養の化学式だけではない。ツユクサの粘りから感じたこと
草をつまんだ指先に、ぬるりとした感触が残りました。
水で濡れているのとは、少し違います。
茎の中に詰まっていたものが、指先へまとわりつくような、濃い粘りでした。
アグリリゾートの畑では、いま大豆を育てています。
大豆の株元には、刈った草を重ねて「草マルチ」にしています。
土の乾燥を抑えながら、刈った草が少しずつ土へ還っていく。そんな畑をつくりたいと思って続けています。
ところが、その草の層を下から持ち上げるようにして、ぐんぐん伸びてくる植物がありました。
ツユクサです。

それまでは、ただの雑草だと思っていました。
大豆の邪魔になると思えば刈り、見つければつまんでいました。
けれど、何度刈っても伸びてくる。
重なった草を押し上げ、光のある方へ茎を伸ばしていく。
そして、つまむたびに感じる、あの粘り。
「この草には、何が詰まっているんだろう」
そんなことを思いました。
食べてみたいと思ったのは、栄養を知ったからではなかった
先に栄養成分を調べて、「身体によさそうだから食べよう」と考えたわけではありません。
順番は、その反対でした。
草マルチを持ち上げる姿を見て、茎の粘りに触れた。
その生命感を、身体の中でも味わってみたくなったのです。
「これ、食べられないのかな」

そう思って調べてみると、ツユクサの若い葉や茎、花を食用とする資料がありました。
そこで、場所の状態を確かめ、ツユクサだと判断できたものだけを摘み、料理してみることにしました。
さっと茹でて、醤油麹で和える。
酢醤油でも食べてみる。
胡麻和えにもしてみる。
どれも、一般的な青菜とは少し違う、野草らしい風味がありました。
そして、触ったときに感じた粘りが、口の中にも残ります。
「ああ、やっぱり、この草は濃いな」
それが、最初に浮かんだ感想でした。
数字で知る食べ物と、出来事ごと味わう食べ物
私たちは食べ物を見るとき、つい栄養成分から考えます。
たんぱく質が何グラム、ビタミンがどれくらい、カロリーはいくつ。
もちろん、身体をつくる栄養は大切です。
科学的に確かめられることを、丁寧に知ることも必要だと思います。
ただ、同じ「葉を食べる」という行為でも、受け取り方は一つではありません。
たとえば、栄養表示を見てホウレンソウを選ぶとき、私たちは身体に必要な成分を考えています。
一方で、畑でツユクサが草マルチを押し上げる姿を見て、その粘りに触れてから食べるとき。
そこでは、成分だけでなく、植物と出会った出来事まで一緒に味わっています。
どちらかが正しく、どちらかが間違っているわけではありません。
数字は、食べ物の大切な一面を教えてくれます。
けれど、数字だけではこぼれ落ちるものもある。
土の中で根を伸ばした時間。
光のある方向へ葉を広げた時間。
暑さや雨の中で、それでも生き続けてきた時間。
食べるということは、その命を化学式へ分解して取り込むだけではなく、
その命が生きてきた時間や、生きようとした力までいただくこと
ではないかと思うのです。
「意志がある」と断定するのではなく、身体が受け取ったものを大切にする

もちろん、植物に人間と同じ意味での意志がある、と断定したいわけではありません。
草マルチを持ち上げたことも、粘りがあることも、植物の構造や生理として説明できるでしょう。
それでも、生きているものに触れたとき、こちらの身体が受け取るものがあります。
私は、それを無理に科学の言葉へ置き換えず、「生きようとする力」と呼んでみたいのです。
ツユクサの粘りは、私にとって、その力を指先で感じる出来事でした。
そして料理して食べたことで、畑で感じたものが、自分の身体の中へつながっていくように思えました。
食卓の上だけでは、見えないものがある
野菜を買って、料理して、食べる。
それだけでも、私たちは十分に命をいただいています。
けれど、ときどき、その食べ物がどんな土に根を張り、どんな光を受け、どんな時間を過ごしてきたのかを想像してみる。
それだけで、一口の意味は少し変わるのかもしれません。
今日食べたものは、どんな場所で生きてきたのでしょう。
そして、私たちはその食べ物から、栄養と一緒に何を受け取っているのでしょう。
ツユクサを食べながら、そんなことを考えました。
締めの文章
「雑草」と呼んだ瞬間には見えなかったものが、触れ、味わうことで見えてくることがあります。
ツユクサの粘りは、畑の中にある小さな命と、自分の身体がつながる入口でした。
野草を食べる際の注意
野草を食べる場合は、種類を確実に見分け、農薬、排気ガス、動物の排泄物などによる汚染の可能性がある場所を避け、十分に洗ってください。初めて食べるものは少量から試します。
ツユクサについては、若い葉・芽・花を生または加熱して食用とし、粘液質の食感があるとする資料があります。Plants For A Future、University of Minnesota Extension
