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『現代文学風土記』の名作/吉田修一著『国宝』/西日本新聞社/長崎県長崎市

『現代文学風土記』(西日本新聞社)から現代文学の名作を取り上げて、簡潔に紹介するnote連載。
 第7回は、映画版が大ヒットした吉田修一さんの『国宝』です。作品の舞台は、長崎県長崎市で、表題は「原点回帰 主人公に自身投影」です。西日本新聞の連載では、冒頭のに登場する長崎丸山の料亭のモデルと考えられる、料亭「花月」の写真をご掲載頂きました。

西日本新聞「現代ブンガク風土記」 第32回(2018年11月4日)*記事はぼかしています

 吉田修一さんは数多くの長崎を舞台にした作品を記していますが、近年の作品になるにつれて実家の近くの長崎の丸山から遠ざかる傾向にありました。
 私にとって長崎南高校の先輩にあたる人で、映画「楽園」(原作は『犯罪小説集』)のパンフレットの解説や、『逃亡小説集』の解説は、私が担当いたしました。

『国宝』は、作家生活20年を迎えた吉田修一さんが、自己の作家の原点となる長崎の丸山に回帰し、自分自身を喜久雄の姿に投影しながら、文学という「伝統芸能」を後世に伝える覚悟を示した傑作だと思います。

『国宝』という表題は、「人間国宝」に由来するもので、歌舞伎や能、文楽などの重要無形文化財(伝統芸能等)の保持者として、文部科学省の文化審議会で認定された人物の通称です。
 吉田修一著『国宝』の概要は、下の通りです。

俺たちは踊れる。だからもっと美しい世界に立たせてくれ!

極道と梨園。生い立ちも才能も違う若き二人の役者が、
芸の道に青春を捧げていく。

芸術選奨文部科学大臣賞、中央公論文芸賞をW受賞、
作家生活20周年の節目を飾る芸道小説の金字塔。

1964年元旦、長崎は老舗料亭「花丸」――侠客たちの怒号と悲鳴が飛び交うなかで、この国の宝となる役者は生まれた。男の名は、立花喜久雄。任侠の一門に生まれながらも、この世ならざる美貌は人々を巻き込み、喜久雄の人生を思わぬ域にまで連れ出していく。舞台は長崎から大阪、そしてオリンピック後の東京へ。日本の成長と歩を合わせるように、技をみがき、道を究めようともがく男たち。血族との深い絆と軋み、スキャンダルと栄光、幾重もの信頼と裏切り。舞台、映画、テレビと芸能界の転換期を駆け抜け、数多の歓喜と絶望を享受しながら、その頂点に登りつめた先に、何が見えるのか? 朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ、著者渾身の大作。

吉田修一『国宝 (上) 青春篇』朝日文庫

 歌舞伎は、元々は戦国時代に出雲の阿国が創始した女性の芸能でしたが、その後、女性が舞台に上がることが禁じられてきた風変わりな芸能であると私は考えています。
 歌舞伎という総合芸術の最大の特徴は、女形の演技にあり、男性の役者が、男女の別を問わず様々な役柄を演じ分けることで、世界でも稀な芸能として独自の発展を遂げてきたのだと思います。

 男女平等や機会均等があらゆる場で一般化している現代社会で、女人禁制や血縁関係を重視する歌舞伎は、これから「伝統文化」として、どのような形で国際的な価値観に適応していくのでしょうか。
 この作品についての『現代文学風土記』の書き出しは下記です。

 吉田修一の最新作は、長崎のやくざ一家で生まれ育った喜久雄が、長崎・丸山の料亭の舞台で才能を見出され、上方で修行を積み、現代日本を代表する女形として「人間国宝」に近づいていく話である。丸山は、かつて遊郭街として知られ、「ヨイトマケの唄」を歌った丸山(美輪)明宏の実家があった長崎を代表する歓楽街であり、吉田の実家は丸山から坂を上った所にあり、私の実家も丸山の隣町にある。
 喜久雄の評価は若い頃から高く、「一瞬、自分が江戸時代にいるのかと錯覚したくらいですよ」「どう動いても芸品がある」と専門家に評されるほど、将来を嘱望されてきた。ただ喜久雄が女形として生きる高度経済成長期以後の時代は、芸や才能だけで舞台に客が集まるほど甘い時代ではない。映画やテレビが娯楽として台頭し、歌舞伎が低迷する時代を生き抜くために、歌舞伎役者たちは、様々な場所で「営業」の仕事をすることを余儀なくされる。

酒井信『現代文学風土記』西日本新聞社、2刷 初稿より

 吉田修一著『国宝』についての批評の詳細は、映画版も含めて下のリンクで詳しく論じていますので、ご一読頂ければ幸いです。

 小説版の『国宝』と同じ月に『吉田修一論』という本も出版しています。帯文は、「僕は長崎に生れていなかったら小説は書いてないかもしれないですね」という吉田修一さんのインタビューの一節を、ご許諾を頂き、使わせて頂きました。

『現代文学風土記』は『国宝』も含め、全国各地を舞台にした現代文学の名作180作品を取り上げた本です。吉田修一さんの作品については、最多の7作品を取り上げています。この本の帯文も、吉田修一さんの「小説は場所への興味から始まる」(新潮社「波」より)です。

『現代文学風土記』については、宇野常寛さんの「遅いインターネット会議」でもお話ししています。ご関心が向きましたら、ぜひお目通し頂ければ幸いです。

風土から考える現代日本文学|酒井信
https://www.youtube.com/watch?v=g1soOU0YQbw&t=946s

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酒井信 『松本清張の昭和』講談社現代新書『吉田修一と『国宝』の世界』朝日新聞出版 ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!