映画「モーターサイクル・ダイアリーズ」〜若き日のゲバラ 南米縦断の旅
本作は、革命家 チェ・ゲバラになる以前の若きエルネスト・ゲバラが、オートバイで南米を縦断するロードムービーだ。
2004年の作品なので、私もまだ日本に住んでいた筈なのだが、不覚にもなぜか見逃していた。
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ブエノスアイレスの裕福な家庭に育ったエルネスト(ガエル・ガルシア・ベルナル)は、友人であるアルベルト(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)と彼の所有するバイク・ポデローサ(怪力号)で、南米を4ヶ月かけて周る計画を実行する。それは、行く先をあらかじめ決めない、行き当たりばったりの旅だ。
埃っぽい荒野の一本道を、交互に運転を代わりながら二人乗りのオンボロ・バイクでひた走る風景は、荒々しくも旅情に溢れぐっと心を掴まれる。
ダンスと口が上手く、女好きで陽気な俗物のアルベルトに比べ、忖度などできずバカ正直で正義感が強く、不器用なほど真っ直ぐなエルネスト。
対照的な二人は時にぶつかり合いながらも旅をする。
旅の序盤でのエルネストはまだ、家族の愛情に恵まれ育ちのよさが滲み出たようなお坊ちゃんという印象もあるが、若い冒険心と情熱を持ちアルベルトと共に向こう見ずなエネルギーで突き進んでゆく。
それまでエルネストの周囲には、旅の相棒である生化学者のアルベルトはじめ、ガールフレンドのチチーナ家族など、どちらかというと上流階級の人々ばかりだったのが、旅に出てからは、それまでの人生では出会うこともなかったような層の人々と触れ合ってゆくことになる。
アルゼンチンを出発してからは、暴風雨でテントが飛ばされ野宿する羽目になったりと、様々なハプニングに見舞われながらも、アンデス山脈を超え、霧が立ち込めるフリアス湖をオートバイごと小舟に乗りチリへ渡ると、夏なのに凍えるほど寒く雪が降り積もる猛吹雪の山中にエルネストとアルベルトは入り込む。動かなくなったバイクを押しながら懸命に前へ進もうとする彼らの姿を見ていると、愉快なだけではない旅の過酷さがひしひしと伝わってくる。
その後もペルー、コロンビア、ベネズエラと南米大陸の厳しい気候を肌で感じながら、警察から逃れ職を求めて放浪する共産党員の夫婦、鉱山労働者、土地を奪われ貧困に苦しむインディオ、ハンセン病患者に出会い、人々の話に耳を傾け、自分自身の目で現実を見て感じる中で、エルネストとアルベルトの顔つきがどんどん精悍になってゆく様子にも目を見張った。
土にまみれ生活感に溢れた市井の人々の風貌と街の情景、雲海に包まれ天空に浮かぶような苔むしたマチュピチュ遺跡は、どこか懐かしく郷愁を誘う。
「俺はインカ人と結婚してインディオ党を結成し革命を起こす」と語るアルベルトに、「銃なき革命?成功するわけがない」と返したエルネストからは彼の数年後が透けて見えたような気がした。
"この文明を築いたのも滅ぼしたのもー
僕たち同じ人間なのです"
旅の中でエルネストが綴る日記は思索に富み、日毎にその深みを増してゆく。
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ポデローサ号が使い物にならなくなった後2人は、ヒッチハイク、船などで移動し、懇意にしている博士の紹介でアマゾン川沿いにある診療所に辿り着く。
川を隔てて南側にハンセン病患者の療養所、北側に医師と看護師のいる病院はある。
エルネストはハンセン病を専門とする医大生であり、子供の頃から重度の喘息を抱えている身でもあることから、患者の気持ちに寄り添い、対話し、献身的に看護するのだった。
小舟で川を渡ったところにある療養所では、感染の危険はないのに手袋をしなければならず、教会のミサに出なかった者に食事は出さないなど、自分たちの作った規律を重んじる修道女の前でもエルネストとアルベルトは手袋をせず、患者たちに握手を求め、共にサッカーに興じ、患者から絶大な信頼を得てゆく。
修道院長の指示で食事が分けて貰えなくとも、エルネストの元には次々と患者たちが食事を運んで来るのだった。
終盤、エルネストが重症ハンセン病患者が隔離されている向こう岸まで、アマゾン川を泳いで渡る場面はとても印象に残った。
病院の医師や看護師たちに24歳の誕生日を祝ってもらった夜、あちら側でも一緒にこの日を過ごしたいと願ったエルネストは、虐げられている人々と自分の距離を推し量ったりはしない。
医師やアルベルトが無理だ!今まで向こう岸まで泳いで渡れた者はいない!と気を揉む中、ついに泳ぎ切ったエルネストを患者たちは拍手で迎え皆んなで肩を組むシーンは、心に迫るものがあった。
権威におもねることを良しとせず、社会の底辺にいる人々とも常に同じ目線に立つ、というエルネストの姿勢は生涯変わらなかったのだろう。
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走行距離1万キロを超える旅を終えた時、アルベルトはハンセン病の研究所に迎えられることとなり、一緒に働かないか?とエルネストも誘うが、「この旅で何かが変わった。その答えを見つけたいんだ」とエルネストは返し、二人はベネズエラ・カラカスで別れの抱擁を交わす。
二人の男の友情に胸が熱くなる。
この旅で、エルネストの内面は確実に変わった。
旅に出る前とは違う新たな思想が生まれ、彼の進むべき未来を決定づけることになったのだろう。
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8年後二人は再会し、旧友・エルネストからアルベルトはキューバに招かれ、医大を設立し、生涯キューバで暮らした。
ラストでは、あの日二人が別れたカラカスの空港に、年老いたアルベルト本人が佇む姿があった。
エルネストは医師として人々を救う道もあったが、キューバで革命家 チェ・ゲバラとなり、ボリビアの山中で39年の短い人生を終えることになる。
虐げられた民を開放するため権力に立ち向かう大志は、革命家となってからは武装闘争も厭わないという強行な姿勢へと変貌を遂げた。
本作で描かれた若き日のゲバラは、そうなる前の、青臭いまでに純粋な志しが生まれた時間だったのではないだろうか。
"これは偉業の物語ではない
同じ大志と夢を持った二つの人生がーー
しばし併走した物語である"
- エルネスト・ゲバラ 1952年 -
風と大地を感じさせるような、Jorge Drexler(ホルヘ・ドレクスレル)が歌うエンディング曲「Al otro lado del río(河を渡って木立の中へ)」、哀愁漂うフォルクローレのサントラも心に響く。
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