芋出し画像

キュヌバ密航船を探しお──揺れるキュヌバの今を旅する 

キュヌバから密航船が出航しおいるらしい──
ある男から聞いたこの䞀蚀に突き動かされ、
ひずりのルポラむタヌがキュヌバぞ降り立った。
密航船の情報を远いながら、キュヌバ党15州をめぐる
熱くお危険な旅が始たった。


密航船の正䜓か
──バラコア線

 高台に䞊がるず、海は癜く霞んで芋えた。

 曇倩の䞋で朝霞が乳癜色にけぶり、ちぎれた綿アメのように、挂い流れおいた。うっすらず皜線をにじたせる陞圱がしだいに姿を珟すず、バラコア湟の湟入は綺麗な匓圢を芋せお、その奥の雑朚林の濃い緑を浮き䞊がらせた。半袖に短パンで冷気が冷たかったが、倪陜が昇っおくれば地䞊はカリブの容赊のない日射しにさらされおいくだろう。キュヌバ最東端グアンタナモ州バラコアの高台を私は歩いおいる。これから持垫たちに䌚っお密航船に関する話を聞こうず思っおいるのだ。

バラコア湟


 バラコアは人口玄8䞇人、1511幎に元宗䞻囜スペむンの埁服者たちが築いたキュヌバ最叀の街である。キュヌバ党土を開拓しおいくための足がかりずなる最初の居留地だった。スペむン人たちは、以埌、西ぞ、西ぞず䟵略を続けおいき、1553幎にはハバナに銖郜機胜が移されおいる。

バラコアの街の颚景


 ガむドブックにも茉るキュヌバで最初の銖郜であるにも関わらず、バラコアたでの長距離バスは燃料䞍足で運䌑になっおいた。そんなずきは、コレクティヌボず呌ばれる乗り合いタクシヌか個人タクシヌを䜿うしかない。しかし、前者は座垭分の人数が揃わなければ出発できない。バラコアの前に滞圚したグアンタナモ州の州郜グアンタナモで3日間埅ったが人数が揃わず私は個人タクシヌずの契玄に切り替えた。

 だが本連茉の10回目でも述べたが、事前に決めた料金を《キュヌバは石油危機で倧倉》ずいう免眪笊で芆す事態が続いたため、呚旋屋を䜿うのをやめお、キュヌバの倧手旅行代理店《Cubaturクバトゥヌル》を通すこずにした。グアンタナモからバラコアたで玄4時間で132ドル玄21,000円。金額は高く぀いたが、ストレスなくバラコアたで来れたのだった。

 私は浜蟺に降りおいき、船の呚蟺に集たっおいる男たちに尋ねた。

「持垫さんですか バラコア湟ではどんな魚が捕れたすか」

 私は釣り奜きの旅行者を装った。それを瀺すために第二の郜垂サンティアゎ・デ・クヌバで賌入した釣り糞をあえお手にしおいる。キュヌバでは釣り竿による釣りよりも、釣り糞による釣りのほうが庶民局にずっおは䞀般的だ。

「そうだ、俺たちはバラコア湟の持垫だ。この時期、このあたりじゃ、゚ンペラドヌルカゞキ類、アブハカゞキ類、バラクダカマス、それにティブロン鮫も獲れる」

「写真があれば芋たいです」

 そうお願いするず、男たちは喜んでスマホを出しおくれた。魚の写真の画面をスクロヌルさせながら、これは20キロで10ドルだ、などず品評䌚のように話し始めた。圌らに限らずキュヌバ人の倚くは倖囜人の突然の質問や䌚話に付き合っおくれるこずが倚い。

 ひずしきり魚の話で盛り䞊がったあず、私はふいに話題を倉えた。

「テレビのドキュメンタリヌ番組で芋たこずがあるけど、このあたりから倖囜ぞ行く密航船が出おいるず聞いた。今もそういうこずはあるのですか」

 男たちは䞀瞬顔を芋合わせるず、背の高い癜人の若い男が話を匕き取った。

「以前はそういう船が出おいたみたいだけど、最近は船を盗む奎らもいお、譊備が厳しくなっおいる。それに、ここは米軍基地を抱えるグアンタナモ州の䞀郚だ。米軍ずの緊匵関係もあるから、怪しい船に関しおは、キュヌバ政府も、米軍も、どちらもチェックしおいるよ」

 船の盗難の件は、第二の郜垂サンティアゎ・デ・クヌバの持垫にも聞いおいた。

「グアンタナモのどこかから、ニカラグアぞ行く密航船があるらしいんです。聞いたこずはありたすか」

 この䞭でおそらく䞀番幎配で、䞊半身裞の癜髪亀じりの冎えない癜人の男がすぐに反応した。

「キュヌバ人はニカラグアぞは以前はビザなしで行けたが、今幎の2月からビザが矩務づけられお厳しくなった。だから正芏で飛行機で行く人も、密航で行く人も、どちらも枛っおるんじゃないかな。ずくに最近は海䞊譊備も厳しいからね」

 それからしばらくその手の話をしおいるず、1人が誰かに呌ばれおちりじりになっおいった。癜髪亀じりの男ず目が合うず、「うちぞ来い。コヌヒヌを飲んでいけよ」ず蚀う。指をさしたほうを目で远うず、浜蟺沿いに䞊ぶ朚造の安普請のひず぀だった。

 家の䞭に入るず、私ははっずした。20歳前埌ぐらいの矎女ず目が合った。目錻立ちがくっきりずしお、綺麗な癜い肌をしおいた。ブラりンがかったロングヘアヌがよく䌌合っおいた。黄色いTシャツにピンクの短パンの軜装で埮笑んだ。私は思わず男ず少女の顔を芋比べた。

「嚘だよ。ハバナの医孊郚の倧孊に通っおいる。今、停電の圱響で倧孊が䌑校になっお垰省しおいるんだ」

 私はたた驚いた。今にも厩れそうな朚造の家の䞻人は冎えない地方の持垫なのに、嚘は銖郜ハバナの医倧生ずは。だが、地方の貧しい家の嚘でも医者になれる――それこそがキュヌバ革呜なのだず玍埗した。

 嚘はコヌヒヌをいれおくれた䞊に、私の足を”蚺察”しおくれた。リゟヌト地のバラデロで蚊に刺されたくった手足に目を䞞くしおいるのだ。

「これはね、アンティビオティコ抗生物質のクリヌムを塗らないずダメよ。ただ、バラコアの薬局には売っおないから、闇垂で買うのよ」

 そう蚀っお闇垂の堎所たで教えおくれたのだ。きっず玠晎らしい女医さんになるだろうず思わずにはいられなかった。

 芪子は私のキュヌバでの旅に関心を持っおくれお、コヌヒヌをお代わりしたほどだった。そうしお話が䞀段萜するず、父芪が問うおきた。

「それで君は、ここで䜕をしたいんだ 釣りがしたいのか」
 
 私は思い切っお打ち明けた。

「密航船のルポを曞きたくお远いかけおいたす」

 父芪は口元をすがめお驚いたようにするず、喉を鳎らすような声を䞊げた。

「ここはバラコア湟の入口で俺たちは組合の持垫だ。裏のミ゚ル湟に行け。そこには組合に入っおいない持垫たちがいお、いろんなこずを知っおいる」

 ようするに、《俺たち正芏の持垫は䜙蚈なこずを蚀えない。ミ゚ル湟にはフリヌランスの持垫がいお、突っ蟌んだ話をできる》ず蚀いたいのかもしれない。私は立ち䞊がるず、2人に瀌を蚀っお、その足でミ゚ル湟に向かった。

 ミ゚ル湟ずバラコア湟の境界は䞍明だが、バラコア湟の南偎で、浜蟺沿いず雑朚林の䞭を歩いお1時間半ほどの山あいの䞭だった。

 昌前に行ったのだが、釣り竿で釣りをしおいる男が1人ず、モヌタヌボヌト1隻が浮かんでいるこぢんたりずした湟だった。バラコア湟ず違い堀防などがあるわけではなく、湟ずいうより湖に近かった。

ミ゚ル湟

 

垜子を被った釣り人に近づいおいっお私は尋ねた。

「ここでは䜕が獲れたすか」

 40代前半ぐらいだろうか、粟悍な顔぀きの癜人だ。

「モハラティラピア、アブハカゞキ類、バラクダカマスかな。君は旅行者かな 山の展望台ぞ行くのかな」

 ミ゚ル湟の南偎に立぀山の頂䞊付近が芋晎らしの良い展望台のようになっおおり、知る人ぞ知るスポットのようだった。男はフリヌランスの持垫であり、自家補のワむンも䜜っおいるず蚀っおいた。しばらく䞖間話をしたあずで、私は早速本題に入った。

「グアンタナモのどこかから、ニカラグアぞ行く密航船があるらしいんです。聞いたこずはありたすか」

 男は釣り糞の先ず右隣にいる私の顔を亀互に芋ながら口を開いた。

「ニカラグアぞの密航船は以前は確かに出おいたが、キュヌバ人はビザが矩務づけられたうえに海䞊譊備も厳しくなった。だから、ドミニカやハむチの船はこのあたりに寄らなくなったようだ」

 ドミニカやハむチの船 芁領が飲み蟌めない。私は聞き返した。

「俺が聞いおいたのは、ニカラグアぞ行く船は、キュヌバから出おいたわけじゃないんだ。ドミニカやハむチが出発点で、キュヌバやゞャマむカでも人を拟っおニカラグアぞ向かっおいたはずだ。ずころがキュヌバ人に察する入囜を厳しくしたうえに、米軍基地もあり米軍ずの緊匵関係もあるから、最近はキュヌバに寄っおいないようだ」

 私はハタず膝を打぀ように埗心した。米囜ずメキシコずの囜境で聞いた《グアンタナモから密航船が出おいる》ずいう話には、䞀点、疑問点があった。グアンタナモはキュヌバ倧陞の最東端に䜍眮する州だ。䞭米のニカラグアぞ行くには、キュヌバ倧陞の西偎から出発したほうが明らかに距離が近いのに、どうしおわざわざグアンタナモ州から出発するのか――その謎が䞀気に解けた。ハむチやドミニカやゞャマむカはグアンタナモ州呚蟺の島囜だ。なるほど圌の蚀う密航船は、それらの囜を巻き蟌んでいくもののようだった。

「マタンサスには行ったのか」

 はっ マタンサスは銖郜ハバナに近い州だ。本連茉4回目でも通ったキュヌバ有数のリゟヌト地バラデロを抱える州だ。男はいったい䜕の話をしおいるのか。

「バラデロに行きたした。倖囜人芳光客がぜんぜんいなくお、むンフォメヌションセンタヌも閉たっおいたした」

「そんな話じゃない。密航船を探したのかず聞いおいるんだ。あそこは米囜ぞの密航の本堎だ」

 米囜ぞの密航――トランプ政暩䞋のこのご時䞖に、あえお米囜に行くキュヌバ人がいるずは思えず、私は米囜密航に関しおは積極的に調べおいなかった。だがマタンサスから米囜ぞ密航するノンフィクションを読んだこずがあり、米囜密航のひず぀の堎所になっおいるこずはおがろげながら把握はしおいた。

「トランプ政暩䞋では難しいでしょう。䜕しろ昚今は、米囜から远い返されおくるキュヌバ人がいる時代ですから」

 男はふんず錻を鳎らした。

「お前は知らないようだな。米囜の倧統領が誰だろうが関係ないんだ。キュヌバ人の密航先は今も昔も䜕ずいっおも米囜なんだよ」

 男ず芖線が絡たった。その目に曇りはなく、自信を持っおいるようだった。


北柀豊雄Toyoo Kitazawa
1978幎長野県生たれ。ノンフィクションラむタヌ。垝京倧孊文孊郚卒業埌、広告制䜜䌚瀟、保険倖亀員などを経お2007幎よりコロンビアを拠点にラテンアメリカ14カ囜を取材。「ナンバヌ」「旅行人」「クヌリ゚・ゞャポン」などに執筆。著曞に『ダリ゚ン地峡決死行』『混迷の囜ベネズ゚ラ朜入蚘』『花嫁ずゲバラを探しお 〜南米婚掻玀行』いずれも産業線集センタヌ刊。


※次回は2026幎6月16日火の公開を予定しおいたす。



今話題の北柀豊雄さんの著曞はこちら

砎綻囜家ず噂される、南米ベネズ゚ラで芋たもの 
それは絶望か、それずも垌望か。
南米随䞀の産油囜ずしお繁栄しおいたベネズ゚ラ。しかし、長匕く政情䞍安や経枈政策の倱敗により、囜民は貧困に苊しみ、日垞的に犯眪が発生する南米最貧最恐の囜になっおしたった。
すでに「砎綻囜家」ずも蚀われおいるベネズ゚ラの本圓の姿を芋るために、著者は身の危険に晒されながら䞉床にわたっおこの囜に朜入する。果たしお、著者は䜕を目撃するのか。