〚お客をえらぶギター奏者の物語(仮題)〛通し番号140. 《歩み出す》(64)
部屋に戻り、照明を落として横になる。
まず浮かんだのは「嫌われたわけではないのだな、良かった」やはり 安堵である。
その上で考えるのは、自分が 彼女に相応しい男なのか、ということだ。
現在、職に就いていない、のも無論ある。
が、どのみち いつまでも生気を養うつもりはなく、
例えば また首都で企業に属するなら 伝手も有り、難しくはないだろう。
ギター教室を開くのも、思ってもみなかった可能性ではあるが 正直 魅力を感じている。
潤さんは 才能あふれる 本物の芸術家であり、現在でも成功している 自立した女性だ。
この時代に それは 極めてまれなことである。
俺が 彼女に結婚を申込むことにより、彼女の力になれる点は 何かあるだろうか?
彼女のお荷物になり、独りなら得られるはずの自由を 妨げるだけではないのか。
イヤならイヤ、無理なら無理、とハッキリ断わってくれそうな気もするが。
それならば むしろ良い(それは落ち込むし、他のひとと結婚する将来など とても思い描けはしないが)
俺は 気持ちが顔に出るから、あのひとが憐れに思って、うん と言ってくれるよりは、だいぶマシだ。
ああでもない、こうでもないと考えて 結局眠れぬままに短い夜が明けた。
貴方のそういう うじうじした所が嫌なの、と言われた過去も思い出されたりして情けないこと この上ない。
(この物語は おとぎ話です。登場する人びと、場所、出来ごと等 全て 架空の存在であり、モデルはありません。こんな人びとがいたら良いな、と願って書いているところはあります。)
