ラスボスを倒した翌日から、本当の物語が始まった
〜9月18日 00:30
世界を救った翌日、世界は俺を忘れた。
魔王を倒した。
仲間と生きて帰った。
王都では英雄として迎えられた。
三年間続いた戦いは、ようやく終わった。
あとは平和な人生が待っている。
そう思っていた。
だが翌朝。
王も。
街の人々も。
命を預け合った仲間たちさえも。
俺のことを知らなかった。
それだけではない。
歴史そのものから、
「勇者アルト」という存在だけが消えていた。
そして俺は思い出す。
魔王が死の直前に残した、奇妙な言葉を。
「お前は魔王を倒した」
「だが、ラスボスはまだ生きている」
これは、魔王を倒すまでの物語ではない。
魔王を倒した翌日から始まる、勇者の本当の物語だ。
こんな方に読んでほしい物語です
この作品は、こんな方におすすめです。
「魔王を倒して終わり」ではない異世界ファンタジーが好き
世界を救ったあとの勇者を見てみたい
少しずつ真相へ近づくミステリーが好き
敵だと思っていた人物の見え方が変わる展開が好き
世界そのものに秘密がある物語が好き
最後に序盤の伏線が一本につながる作品が好き
主人公が自分自身で未来を選ぶ物語が好き
逆に、
魔王討伐までの王道冒険だけを楽しみたい
謎より戦闘を中心に読みたい
という方には、少し方向性が違うかもしれません。
この物語には、一つの大きな問いがあります。
魔王を倒したのなら、本当のラスボスは誰なのか?
プロローグ
ラスボスは、まだ生きている
魔王城最上階。
崩れ落ちた玉座の前で、俺は聖剣を下ろした。
刃先から黒い血が滴り、冷たい石畳へ落ちる。
目の前では、魔王が片膝をついていた。
世界中から恐れられた絶対の王。
人類最大の敵。
その最期は、驚くほど静かだった。
「……見事だ、勇者」
低い声。
だが、そこにかつての威圧感はない。
「これで終わりだ」
俺は剣を握り直した。
三年間。
この瞬間のためだけに戦ってきた。
故郷を離れた。
仲間と出会った。
何度も死にかけた。
それでも歩き続けた。
すべては世界を救うため。
「終わったんだ」
そう告げると、魔王は小さく笑った。
敗者の笑みではなかった。
俺の知らない何かを知っている。
そんな笑い方だった。
「勇者よ」
「何だ」
「お前は、自分が勝ったと思っている」
「違うのか?」
「いや」
魔王は静かに頷いた。
「勝ったとも」
「なら、何がおかしい」
「だからこそ、終わる」
意味が分からない。
魔王は崩れた天井の向こうを見上げた。
そこには、皮肉なくらい澄んだ青空が広がっていた。
「明日になれば分かる」
「何が?」
魔王は答えなかった。
代わりに、最後の力を振り絞るように俺を見た。
「お前は魔王を倒した」
一拍。
「だが、ラスボスはまだ生きている」
「何を……」
問い返すより早く、
魔王の身体が黒い霧となった。
風へ溶ける。
消えていく。
同時に、城を覆っていた禍々しい魔力も消滅した。
魔王は死んだ。
世界は救われた。
少なくとも、その時の俺はそう信じていた。
世界を救った夜
王都へ帰還すると、街は歓声に包まれた。
「勇者様だ!」
「魔王を倒したぞ!」
花びらが舞う。
鐘が鳴る。
王宮では盛大な祝宴が開かれた。
王は玉座から立ち上がり、高らかに宣言する。
「本日をもって、魔王との戦いは終結した!」
大広間が揺れるほどの拍手。
仲間たちも笑っていた。
戦士ガルドは、すでに酒樽を抱えている。
「アルト! 今日は飲むぞ!」
「まだ昼だぞ」
「世界を救った日に時計を見る勇者がいるか!」
魔導士リリアが呆れた顔をする。
「あなた、世界を救ってなくても昼から飲むでしょう」
「細かいな!」
神官エミルが苦笑する。
そして盗賊シオンは、なぜか俺の財布を持っていた。
「おい」
「何だ?」
「それ、俺の財布だ」
「世界を救った記念品」
「返せ」
「英雄なのに心が狭いな」
「返せ!」
みんなが笑った。
俺も笑った。
何度も死にかけた。
何度も仲間を失いかけた。
それでも全員、生きて帰ってきた。
その事実だけで十分だった。
「明日から何する?」
リリアが聞いた。
俺は少し考えた。
三年間。
「魔王を倒す」
それだけを考えて生きてきた。
その先なんて、一度も考えたことがない。
「……寝る」
ガルドが吹き出した。
「勇者の平和になって最初の仕事が昼寝か!」
「三年分寝る」
「じゃあ三年後に起こしてやる!」
また笑いが起こった。
明日が来る。
戦わなくていい明日が。
俺はその夜、
初めて明日を楽しみにしながら眠った。
第1章
世界は確かに救われた
消えたのは、勇者だけだった
翌朝。
久しぶりに魔物の気配を警戒せず目を覚ました。
窓から柔らかな朝日が差し込んでいる。
鳥の声。
市場へ向かう荷車の音。
パンを焼く香り。
「平和って、こんな朝なんだな」
自然と笑みがこぼれた。
身支度を整え、宿を出ようとする。
その時だった。
「お客様」
宿の主人に呼び止められた。
「宿代をお願いします」
「昨日払っただろ?」
主人が首をかしげる。
「昨日……ですか?」
「ああ。王宮で」
「王宮?」
「祝宴があっただろ」
主人の顔に困惑が浮かぶ。
胸の奥がざわついた。
「俺も出ていた」
「はあ」
「勇者として」
主人の表情が変わった。
「勇者……?」
「そうだよ。俺だ」
自分の胸を指す。
「勇者アルト」
主人はしばらく俺を見つめた。
そして申し訳なさそうに首を振る。
「勇者様なら存じていますが……」
「なら」
「あなたではありません」
笑おうとした。
冗談だと思った。
しかし主人は笑っていなかった。
「……何を言ってる?」
「申し訳ありません」
俺は宿を飛び出した。
世界を救った四英雄
王都中央広場へ走る。
昨日まで、そこには俺たちの英雄像があった。
広場へ着いた。
像はある。
ガルド。
リリア。
エミル。
シオン。
四人。
「……嘘だろ」
中央だけが、不自然なほど広く空いていた。
まるで最初から、
そこに五人目など存在しなかったように。
台座へ駆け寄る。
『世界を救った四英雄に、永遠の感謝を』
「四……?」
昨日は違った。
俺の像があった。
名前も刻まれていた。
勇者アルト。
それがない。
俺だけがいない。
脳裏に魔王の声が蘇った。
『明日になれば分かる』
そして。
『ラスボスはまだ生きている』
背筋が冷える。
俺は王城へ走った。
王なら覚えている。
昨日、自ら俺へ勲章を授けた人物だ。
王だけは。
そう信じたかった。
「誰だ?」
王城の門に立つ衛兵も俺を知らなかった。
それでもまだ、
最後の希望が残っていた。
仲間だ。
ガルド。
リリア。
エミル。
シオン。
三年間、一緒に死線を越えてきた。
忘れるはずがない。
最初にガルドの家へ向かった。
扉を叩く。
しばらくして開いた。
「ガルド!」
「……誰だ?」
それだけだった。
たった二文字で、
胸の奥に残っていた希望が崩れた。
「何言ってるんだ」
笑おうとする。
声が震えた。
「俺だよ。アルトだ」
「悪い。知らん」
「昨日、一緒に飲んだだろ」
「昨日?」
ガルドが顎へ手を当てる。
「昨日は仲間と飲んでたな」
「誰と?」
「リリア、エミル、シオン。それから……」
言葉が止まる。
俺は息を呑んだ。
ガルドの眉間に皺が寄る。
「……おかしいな」
「何が?」
「もう一人いた気がする」
心臓が跳ねた。
「俺だ!」
思わず肩を掴む。
「その一人が俺なんだ!」
「待て……頭が……」
ガルドが顔をしかめた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
彼の瞳に何かが戻った気がした。
しかし。
「……いや」
首を振る。
「気のせいだ」
その瞬間、
違和感そのものが消えた。
まるで見えない誰かが、
ガルドの記憶をその場で修正したように。
リリアも。
エミルも。
シオンも。
結果は同じだった。
誰も俺を知らない。
なのに、
旅の結果だけは残っている。
北の竜は倒されている。
海底神殿は攻略されている。
天空塔も陥落している。
魔王も死んでいる。
世界も救われている。
ただ。
その中心にいた勇者だけが存在しない。
俺は本当に勇者だったのか
夕暮れ。
俺は川辺に座り込んでいた。
手元には聖剣。
昨日まで世界最強の勇者の証だった剣。
だが、通り過ぎる人間は誰も振り返らない。
「……俺は、本当に勇者だったのか?」
そんな考えまで浮かんできた。
もし。
俺の記憶だけがおかしいのなら?
そもそも勇者アルトなど存在せず、
俺が三年間の夢を見ていただけなら?
何が本当なのか分からなくなる。
その時だった。
「やっと見つけた」
少女の声。
顔を上げる。
橋の向こうに、一人の少女が立っていた。
白いローブ。
銀色の長い髪。
少女は俺を見ると、
心から安心したように息を吐いた。
「よかった」
そして言った。
「まだ消えていなかった」
心臓が跳ねる。
「君は……」
少女が近づいてくる。
「勇者アルト」
俺は立ち上がった。
「俺を知っているのか?」
「もちろんです」
世界でただ一人。
彼女だけが、俺の名前を知っていた。
「どうして?」
少女は少し寂しそうに笑う。
「だって私は……」
その瞬間。
彼女の表情が凍った。
「……見つかった」
「何に?」
少女は空を見る。
夕焼け。
何もない。
しかし。
空気が揺らいだ。
少女が俺の腕を掴む。
「ここでは話せません!」
「おい!」
「逃げてください!」
「今すぐ!」
少女は走り出した。
俺も追った。
世界でただ一人、
俺を勇者と呼んでくれた少女を。
第2章
世界が止まる夜
「あなたは予定どおり消されました」
少女は細い路地を抜け、
古びた教会の裏庭で止まった。
「ここなら少しだけ話せます」
「まず教えてくれ」
息を整えながら問いかける。
「君は誰だ」
少女は答えない。
逆に尋ねた。
「昨日、魔王は最後に何と言いましたか?」
俺は眉をひそめた。
それでも答える。
「明日になれば分かる」
そして。
「ラスボスはまだ生きている」
少女は目を閉じた。
「……やっぱり」
「何がだ?」
少女が俺を見る。
「あなたは予定どおり、この世界から消されました」
「予定どおり?」
意味が分からなかった。
「本当なら」
少女は続ける。
「あなた自身も、自分が勇者だったことを忘れるはずでした」
「何?」
「王も、仲間も、歴史も」
そして。
「あなた自身も」
勇者アルトという存在を忘れる。
それが予定だったという。
「誰の予定なんだ!」
少女は答えない。
「王か?」
首を振る。
「仲間か?」
また首を振る。
「なら誰だ!」
少女の唇が震えた。
「名前を口にすると、見つかります」
「見つかる?」
「私たちは」
少女が空を見上げる。
「ずっと監視されています」
三回目の鐘
王都の鐘が鳴った。
カーン。
一度。
カーン。
二度。
そして三度目。
その音が消えた瞬間だった。
風が止まった。
教会の旗が空中で固まる。
木の葉が落ちない。
通りを歩く人間が止まる。
鳥も。
馬も。
噴水から落ちる水滴さえも、
空中で静止していた。
世界から音が消える。
「……何だ、これ」
「だから言ったでしょう」
少女が震えていた。
「見えてはいけない時間です」
次の瞬間。
空が裂けた。
夕焼けに一本の黒い線が走る。
それが紙を破くように、
左右へゆっくり開いていく。
向こう側は真っ白だった。
その中央。
机が一つ。
誰かが座っている。
顔は見えない。
ただ。
ペンを動かしている。
カリ。
カリ。
一行が書かれる。
王都の建物が揺らいだ。
位置が変わる。
次の一行。
一本の木が消える。
さらに一行。
道を歩く人間の服装が変わった。
「……何をしている?」
少女が答えた。
震える声だった。
「世界を、書き直しているんです」
世界を書いている者
その瞬間。
ペンが止まった。
向こう側の人物がゆっくり顔を上げる。
目が合った。
距離など関係ない。
確かに、
こちらを見ていた。
少女の顔から血の気が引く。
「……見られた」
「どうした!」
少女の指先が淡く光り始めた。
「待て!」
「時間がありません!」
その身体が、
指先から砂のように崩れていく。
「お願いです」
少女は古びた手帳を俺へ押しつけた。
「歴史を調べてください」
「歴史?」
「そこに全部……」
最後まで聞けなかった。
少女は光の粒となった。
消えた。
鐘が鳴る。
世界が動き始める。
風が吹く。
人々が歩き出す。
誰一人、
今起きたことに気づいていない。
俺だけが、
少女の消えた場所に立っていた。
足元には一冊の手帳。
震える手で開く。
白紙。
しかし。
そこへ赤い文字が浮かんだ。
『王国中央図書館へ行け』
続いて。
『そこに、お前が消された証拠がある』
俺は手帳を握り締めた。
俺は忘れられたんじゃない。
消された。
そして、
俺を消した何者かは、
今もこの世界を見ている。
それでも。
「……行くしかないだろ」
答えがあるなら。
俺は王国中央図書館へ行く。
たとえ、その先にいるのが、
魔王よりも恐ろしい何かだとしても。
ここから先は有料パートです
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
世界を救った勇者アルトは、
単に忘れられたわけではありませんでした。
誰かによって、意図的に「消された」。
その可能性が見えてきました。
しかも、
唯一アルトを覚えていた少女まで、
世界を書き換える存在に見つかり消えてしまいます。
少女が残した手帳が示したのは、
王国中央図書館。
そこには、
勇者アルトが存在していた証拠が残されているという。
しかし。
アルトがそこで見つけるのは、
自分の名前だけではありません。
ここから、
勇者と魔王の物語そのものが、
少しずつ別の形へひっくり返っていきます。
全体目次
無料パート
プロローグ
ラスボスは、まだ生きている
第1章
世界は確かに救われた
消えたのは、勇者だけだった
第2章
世界が止まる夜
「あなたは予定どおり消されました」
有料パート
第3章
歴史から消えた勇者
図書館で待っていた「修正」
第4章
世界を書いているのは神ではなかった
「第七版」という世界
第5章
魔王は、本当の敵ではなかった
世界中から憎まれた守護者
第6章
ラスボスは誰だったのか
「君が望む未来を書いてみろ」
終章
ラスボスを倒した翌日から、本当の物語が始まった
誰にも書かれていない明日へ
この先で明かされること
答えそのものは、ここでは伏せます。
なぜ勇者アルトだけが歴史から消されたのか
王国中央図書館に残された「ありえない記録」
世界を書き換えている存在は何者なのか
なぜ魔王だけが真実を知っていたのか
魔王軍が本当に戦っていた相手
魔王が最後まで悪役を演じ続けた理由
「ラスボスはまだ生きている」という言葉の意味
最後にアルトが迫られる選択
一つ真実が分かるたび、
勇者と魔王の見え方が変わっていきます。
購入者特典
購入してくださった方には、
『伏線&謎チェックリスト』
を付けます。
一度目は物語として。
読み終えたあと、
「あの台詞はここにつながっていたのか」
と確認しながら読み返すためにも使える内容です。
先着10部限定価格
今回は、
先着10部まで 300円
で公開します。
10部到達後は、
1,480円
へ変更予定です。
アルトが向かうのは、
五百年分の歴史が眠る王国中央図書館。
だが。
そこで待っていたのは、
歴史の記録ではありません。
歴史そのものが、アルトを待っていました。
【有料パート】
ここから先は
8月19日 00:30 〜 9月18日 00:30
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