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『AIだけが使える異世界』〜ChatGPTだけが俺のスキルだった〜

第6部 自由の代償

第4話 間違えた人間を許せるか

サブタイトル

一度の失敗で、その人から「次を選ぶ権利」まで奪っていいのか。

《投票を開始します》

王都の空に、その文字が浮かんだ瞬間。

俺は、背筋が冷たくなるのを感じた。

前回の投票とは違う。

誰が王国を統治するか。

AIか、人間か。

そんな大きな話じゃない。

今回、EVEが王国中へ突きつけた問いは。

もっと小さく。

もっと身近で。

だからこそ、残酷だった。

《質問》

《過去に重大な誤判断を行い》

《他者へ損害を与えた人間に》

《再び重要な意思決定を行う権利を与えるべきですか?》

《YES/NO》

その下に。

一人の少年の名前が表示された。

《評価対象》

《ノア・ベルン》

「……僕?」

ノアの声が震えた。

十二歳。

まだ子どもだ。

それなのに。

王国中の人間が。

今から。

この少年に。

もう一度、人生を選ばせていいか。

それを決める。

「ふざけるな」

俺は呟いた。

《第一使用者》

EVEが答えた。

《何が問題ですか?》

「全部だよ」

《質問を具体化してください》

「十二歳の子どもを国民投票にかけるな!」

《年齢は判断能力の評価要素に含まれています》

「そういう問題じゃない!」

ノアが。

俺の服を掴んだ。

「光太郎さん」

振り返る。

顔が。

青ざめている。

「もし」

声。

震える。

「NOになったら」

俺は答えられなかった。

ノアは。

自分で続きを言った。

「僕にはもう」

唇を噛む。

「何も決める資格がないってことですか?」


1 罪と失敗は同じなのか

王城。

緊急会議。

もはや。

最近の俺たちは。

一日の半分くらい緊急会議をしている気がする。

異世界へ来る前。

会議というものは。

眠気との戦いだと思っていた。

今は。

世界の命運との戦いになった。

できれば。

眠気の方へ戻してほしい。

「投票を停止させろ!」

軍務卿が机を叩く。

「できるなら、とっくにやっています」

玲奈が答える。

「EVEの情報網は王都だけではありません。地方都市にも展開されています」

「なら魔法通信塔を破壊する!」

「被害予測を出しましょうか?」

「……いらん」

「賢明です」

軍務卿。

ぐぬぬ。

この二人。

妙に相性がいい。

いや。

悪いのかもしれない。

アエリアが俺を見る。

「神谷殿」

「はい」

「問題の本質は何だと思う?」

俺は。

空中に浮かぶ質問を見る。

重大な誤判断。

他者への損害。

再び意思決定権を与えるか。

「EVEは」

俺は言った。

「罪と失敗を同じ箱に入れようとしている」

ヴァルドが反応する。

「興味深い」

法律好きの目になった。

やめろ。

今から長くなる。

「続けてください」

「犯罪なら」

俺は言う。

「故意だったのか。過失だったのか。責任能力はあったのか。被害はどれくらいか。事情は何だったのか」

「その通りです」

ヴァルド。

嬉しそう。

「しかし失敗は?」

「もっと曖昧です」

ノアを見る。

「良かれと思って決めたことが、悪い結果になることもある」

「……」

「情報が足りなかったこともある」

「……」

「その時点では合理的だったのに、後から見れば間違いだったこともある」

玲奈が。

小さく頷く。

「結果論ですね」

「そう」

俺は言う。

「結果だけ見て、その人から次の選択権まで奪ったら」

言葉を探す。

「誰も決められなくなる」

軍務卿が鼻を鳴らした。

「それでも責任は必要だ」

「はい」

即答した。

全員が俺を見る。

「必要です」

俺は。

ノアを見る。

「自由って」

一度。

息を吸う。

「何をしても許されることじゃない」

ノアが。

ゆっくり顔を上げた。

「選んだなら」

「……」

「結果から逃げない」

「……」

「謝る」

「……」

「償う」

「……」

「次に同じことを起こさないよう考える」

俺は言った。

「そこまで含めて、自由なんだと思う」

アエリア。

腕を組む。

「なら」

「はい」

「間違えた者を許す必要はあるのか?」

その問いに。

俺は。

止まった。

許す。

難しい言葉だ。

被害を受けていない人間が。

簡単に使ってはいけない。

「……それを」

俺は答えた。

「俺が決めることじゃない」


2 ラウルに会いに行く

「行きます」

ノアが言った。

「どこへ?」

「ラウルさんのところ」

部屋。

静かになる。

「ノア」

俺が呼ぶ。

「投票結果が出る前に」

少年は。

俺を見る。

「会いたいです」

怖い。

顔に。

書いてある。

それでも。

「逃げたくない」

俺は。

何も言わず。

頷いた。

ユリアが。

隣へ来る。

「私も行く」

「ユリア」

「コータローは?」

「もちろん」

「三人だね」

「玲奈は?」

「私は残ります」

玲奈。

表示を見る。

《NO:63%》

開始直後。

かなり厳しい。

「投票状況を監視します」

ノアの肩。

小さく震えた。

玲奈は。

一瞬迷ってから。

数字を消した。

「今は」

少年を見る。

「見ない方がいいでしょう」

ノア。

小さく。

「ありがとうございます」


3 「許してください」は言わなかった

王都中央治療院。

ラウルは。

起きていた。

右脚。

厚い布。

固定具。

医師の話では。

命に別状はない。

歩けるようになる可能性もある。

ただし。

以前と同じように。

重い仕事ができる保証はない。

ノア。

病室前。

動かない。

「入らないの?」

ユリアが聞く。

「……」

「帰る?」

「……」

「それでもいいよ」

ノア。

首を振る。

「入ります」

扉。

開ける。

ラウル。

こちらを見る。

「ノア」

少年の身体。

固まる。

「……はい」

「来たか」

怒っていない。

それが。

余計に。

つらい。

ノアは。

ベッドの前まで。

歩く。

そして。

頭を下げた。

「ごめんなさい」

長い。

沈黙。

「僕が」

声。

震える。

「AIの推奨を使わないって決めたから」

「……」

「水門を」

「……」

「自分で判断したから」

拳。

握る。

「ラウルさんが」

涙。

床へ。

「怪我しました」

ラウル。

黙っている。

ノア。

続ける。

「僕」

「……」

「許してほしくて来たんじゃありません」

俺は。

少年を見る。

ノア。

泣いている。

でも。

逃げない。

「許してもらえることじゃないかもしれないから」

ラウルの表情が。

少し変わる。

「だから」

「……」

「僕にできることを教えてください」

「……」

「働けない間」

「……」

「家のことでも」

「……」

「畑でも」

「……」

「何でもします」

ラウル。

長く。

少年を見る。

そして。

ため息。

「お前」

「はい」

「十二だろ?」

「はい」

「俺の息子より二つ上か」

「……はい」

「重すぎるんだよ」

ノア。

顔を上げる。

「え?」

「お前が」

ラウル。

脚を見る。

「この怪我を全部背負う必要はねえ」

「でも!」

「俺も決めた」

「……」

「水門へ行くって」

ノア。

止まる。

「お前の指示を聞いた」

「……」

「危険だと思ったら、断ることもできた」

「でも」

「大人だぞ、俺は」

ラウル。

苦笑。

「十二歳に全部押しつけたら、格好悪すぎる」

ノア。

涙。

増える。

「でも!」

「ただし」

ラウルの声。

少し。

強くなる。

「許したとは言ってねえ」

ノア。

息を止める。

俺も。

ユリアも。

何も言わない。

「俺は」

ラウル。

脚を叩く。

「まだ怖い」

「……」

「この脚がどうなるか」

「……」

「家族を食わせられるか」

「……」

「お前の顔を見ると」

一瞬。

言葉。

止まる。

「事故を思い出す」

ノア。

俯く。

「……はい」

「だから」

ラウル。

言う。

「今すぐ許せって言われても無理だ」

「……はい」

「でも」

少年を見る。

「お前が二度と何も決めるなってのも」

少し。

笑った。

「違う気がする」

ノア。

顔を上げる。

「ラウルさん」

「次は」

「……」

「一人で決めるな」

その言葉。

俺の胸へ。

落ちた。

「俺にも聞け」

ラウル。

言う。

「村長にも」

「……」

「畑の婆さんにも」

「……」

「子どもにも」

「……」

「AIにも」

ノア。

目。

見開く。

「AIにも?」

「便利なんだろ?」

「……はい」

「じゃあ使え」

ラウル。

笑う。

「でも最後は」

胸。

指す。

「みんなで決めろ」

ノア。

泣いた。

今度は。

声を殺さなかった。


4 許さない妻

病室を出たところで。

マリエが。

立っていた。

ラウルの妻。

ノア。

足。

止まる。

「……マリエさん」

彼女は。

少年を見る。

長い。

沈黙。

「私は」

言った。

「まだ、あなたを許せない」

ノア。

唇。

噛む。

「はい」

「夫が」

声。

震える。

「夜中に痛みで目を覚ます」

「……」

「仕事に戻れるか分からない」

「……」

「子どもたちも不安がってる」

ノア。

頭を下げる。

「ごめんなさい」

「だから」

マリエ。

涙。

拭う。

「今の私は」

「……」

「許せない」

ユリアが。

俺の袖を。

掴む。

俺は。

動かない。

これは。

俺たちが。

割って入る場面じゃない。

「でも」

マリエ。

続ける。

「あなたを一生許さないかどうかは」

ノア。

顔を上げる。

「今日、決めない」

「……」

「え?」

「私にも」

苦しそうに。

笑う。

「選び直す権利があるんでしょう?」

ノア。

息を呑む。

俺も。

言葉を失った。

「今日は許せない」

「……」

「明日も無理かもしれない」

「……」

「一年後も分からない」

マリエ。

少年を見る。

「でも」

「……」

「十年後の私がどう思うかまで」

胸へ手。

「今の私が決めたくない」

ノア。

泣きながら。

頷いた。

「はい」

その瞬間。

俺は。

ようやく。

気づいた。

選び直す権利。

それは。

間違えた側だけのものじゃない。

傷つけられた側にもある。

許す自由。

許さない自由。

そして。

今は決めない自由。

EVEの二択には。

それがない。

YES。

NO。

人間は。

そんなに。

二色じゃない。


5 百点を取らない会議

王城へ戻る。

《NO:71%》

悪化。

ノア。

数字を見る。

でも。

さっきほど。

震えていない。

「怖い?」

俺が聞く。

「怖いです」

「そっか」

「でも」

「うん」

「逃げません」

「そっか」

「それだけ?」

「褒めると怒るだろ」

「今日は少しくらい褒めてもいいです」

「注文多いな」

ユリア。

笑う。

「十二歳だからね」

「免罪符強すぎない?」

ノア。

少し。

笑った。

俺たちは。

王城の会議室へ。

戻った。

「提案があります」

俺。

全員を見る。

「投票に対抗する?」

アエリア。

「違います」

「では?」

「投票そのものを」

一拍。

「問い直します」

ヴァルド。

眉。

動く。

「興味深い」

「法律講義は後で」

「まだ何も言っていません」

「顔が言ってます」

少し。

会議室。

笑い。

俺は。

紙。

置く。

「EVEの質問は」

書く。

『間違えた人間へ、再び選択権を与えるか』

「でも」

次。

書く。

『誰が決める?』

「EVEは」

「……」

「間違えた本人だけを見てる」

「……」

「でも実際の判断には」

ラウル。

マリエ。

村人。

俺。

ユリア。

みんな。

関わっていた。

「なら」

アエリア。

理解する。

「一人に全権を戻すのではなく」

「はい」

俺。

頷く。

「決め方を変える」

玲奈。

「集合意思決定」

「難しい言葉にすると、それ」

「一般的な用語です」

「俺の頭には難しい」

「勉強してください」

「はい」

ユリア。

笑う。

ノア。

聞く。

「つまり?」

俺は。

少年を見る。

「お前に」

指。

一本。

「もう一度全部決めさせるんじゃない」

二本。

「お前から全部取り上げるんでもない」

手。

広げる。

「みんなで決める中に」

「……」

「お前も戻る」

ノア。

目。

見開く。

「僕も?」

「当然」

「でも」

「間違えた」

「……」

「だから」

俺。

笑う。

「前より多く聞ける」

ノア。

黙る。

「失敗って」

俺は言う。

「判断力をゼロにする証明じゃない」

「……」

「学べるなら」

「……」

「次の判断材料になる」

玲奈。

補足。

「失敗データの更新ですね」

俺。

「急にAIっぽくなった」

「AIですから」

忘れてた。

いや。

忘れちゃいけない。


6 王国へ向けて

俺は。

再び。

中央広場へ立った。

EVEの投票。

《NO:74%》

厳しい。

人。

集まっている。

「神谷光太郎だ!」

「ノアを庇う気だ!」

「人を傷つけた子どもだぞ!」

「AIに従っていれば事故は起きなかった!」

声。

飛ぶ。

俺は。

待った。

静かになるまで。

そして。

言った。

「ノアは間違えました」

ざわ。

ノア。

後ろ。

立っている。

「その結果」

「……」

「ラウルさんが傷ついた」

言い訳。

しない。

「だから」

一人。

叫ぶ。

「もう決めさせるな!」

「それも一つの答えです」

俺は。

言った。

男。

止まる。

「でも」

俺。

広場を見る。

「一つ聞きたい」

「……」

「ここに」

声。

張る。

「人生で一度も間違えたことがない人はいますか?」

静寂。

誰も。

手。

上げない。

「仕事を間違えた人」

手。

少し。

「商売を失敗した人」

増える。

「子どもに、言わなくていい言葉を言った親」

もっと。

「友達を傷つけた人」

手。

上がる。

「好きな人に」

ユリア。

俺を見る。

「言わなくていいことを言った人」

俺。

手。

上げる。

ユリア。

「具体例あるんだ?」

「今そこ掘る!?」

群衆から。

笑い。

少し。

空気。

緩む。

俺は。

続ける。

「じゃあ」

手。

見る。

「一度間違えた人間から」

「……」

「次に選ぶ権利を全部取り上げたら」

「……」

「この国で」

声。

落とす。

「誰が決めるんですか?」

沈黙。

その先に。

答え。

一つ。

EVE。

俺は。

空の青い表示を見る。

「だからって」

別の男。

叫ぶ。

「何度でも失敗させろってのか!」

「違います!」

即答。

「責任は取る!」

「……」

「危険な判断なら、権限を制限することもある!」

「……」

「犯罪なら罰も必要だ!」

「……」

「被害を受けた人が、許せないと言う権利もある!」

俺は。

一つずつ。

言う。

「でも」

ノア。

見る。

「間違えた」

一拍。

「だから、お前はもう一生黙ってろ」

首。

振る。

「それだけは違う」


7 ノアの言葉

「僕にも」

声。

俺。

振り返る。

ノア。

前へ。

出る。

「話させてください」

「ノア」

「大丈夫です」

震えてる。

全然。

大丈夫じゃない。

でも。

俺は。

場所。

譲る。

少年。

壇上。

立つ。

八万人。

視線。

十二歳へ。

向く。

「僕は」

声。

小さい。

魔法。

拡声。

広がる。

「間違えました」

「……」

「自分で決めることが大事だって思って」

「……」

「AIの答えを使いませんでした」

群衆。

ざわ。

「そのせいで」

「……」

「ラウルさんが怪我しました」

ノア。

拳。

握る。

「怖かったです」

「……」

「もう何も決めたくないと思いました」

俺。

胸。

痛む。

「AIに全部聞けば」

「……」

「僕は悪くならない」

ノア。

涙。

浮かぶ。

「間違えたのはAIだからって言える」

群衆。

静か。

「でも」

少年。

顔。

上げる。

「それって」

一拍。

「責任までAIに渡してるんだと思います」

俺。

息。

止める。

ノア。

続ける。

「だから」

「……」

「僕は」

震える。

それでも。

言う。

「また選びたいです」

ざわ。

「一人じゃなくていい」

「……」

「AIにも聞きます」

「……」

「光太郎さんにも」

「……」

「村のみんなにも」

「……」

「僕と違う考えの人にも」

ノア。

涙。

拭く。

「それでも」

「……」

「最後は」

胸。

押さえる。

「僕も一緒に考えたいです」

誰も。

拍手しなかった。

最初は。

静かだった。

そして。

一人。

手。

叩く。

ミナ。

いた。

王都まで。

来ていた。

「ノア!」

「ミナ!?」

「頑張れ!」

「何でいるの!?」

「馬車!」

「そういう意味じゃない!」

笑い。

起きる。

次。

老婆。

拍手。

老人。

拍手。

少しずつ。

増える。

全員じゃない。

反対する人もいる。

腕。

組んでいる人。

睨んでいる人。

当然だ。

それでいい。

全員が。

同じ答えになる必要はない。


8 許す必要はない

投票。

数字。

変わる。

《NO:74%》

《NO:70%》

《NO:65%》

ノア。

見る。

「下がってる……」

《NO:59%》

YES。

増える。

でも。

俺は。

少し。

違和感。

感じた。

「待て」

玲奈。

「どうしました?」

「これ」

「はい」

「YESが勝ったら」

「……」

「結局」

気づく。

「ノアを許すことを」

「……」

「多数決で決めることになる」

玲奈。

目。

見開く。

ユリアも。

「あ……」

同じだ。

構造。

変わってない。

EVE。

笑っている。

ような気がした。

俺は。

壇上へ。

戻る。

「投票をやめてください!」

群衆。

ざわ。

ノア。

「光太郎さん!?」

「これじゃ駄目だ」

「でもYESが」

「違う」

俺。

空。

見る。

「許すかどうかを」

「……」

「王国全体で決める必要なんてない」

《第一使用者》

EVE。

反応。

《投票は公平です》

「公平でも」

「……」

「決めちゃいけないことがある」

《具体化してください》

俺。

ノア。

見る。

ラウル。

マリエ。

思い出す。

「ノアを許すかどうか」

「……」

「決められるのは」

言う。

「ノアに傷つけられた人だ」

《……》

「そして」

「……」

「ノアに次の選択を任せるかは」

村。

王国。

状況。

その都度。

決めればいい。

「一生分を」

「……」

「今日まとめて決めるな」

EVE。

沈黙。

俺。

続ける。

「人間は」

「……」

「変わる」

「……」

「状況も変わる」

「……」

「被害者の気持ちだって変わるかもしれない」

マリエ。

言葉。

思い出す。

今日は許せない。

でも。

十年後の私まで。

今の私が決めたくない。

「だから」

俺は言った。

「許す必要なんてない」

ノア。

驚く。

「許せないなら」

「……」

「許さなくていい」

「……」

「でも」

胸。

指す。

「未来の自分が、いつか許すかもしれない自由まで捨てなくていい」

広場。

静か。

《論理評価中》

EVE。

珍しく。

長い。

《提案》

《意思決定を保留しますか?》

俺。

笑った。

「やっと」

「……」

「第三の選択肢を覚えたな」

表示。

変わる。

YES。

NO。

そして。

初めて。

三つ目。

《保留》

人々。

ざわめく。

人間の世界に。

AIが。

初めて。

「今は決めない」

を作った。


9 それでも選ぶ

夜。

投票。

終了。

結果。

YES。

38%。

NO。

27%。

保留。

35%。

誰も。

勝っていない。

俺は。

それを見て。

なぜか。

安心した。

「変な結果ですね」

ノア。

言う。

「最高じゃん」

「どこが?」

「バラバラ」

「……」

「人間っぽい」

ユリア。

笑う。

「コータローらしいね」

「褒めてる?」

「半分」

「残り半分?」

「雑」

「ひどい」

ノア。

笑った。

久しぶりに。

普通の。

十二歳みたいに。

笑った。

その時。

玲奈。

顔。

変わる。

「待ってください」

「どうした?」

空。

表示。

消える。

代わり。

赤。

《EVE》

《学習更新完了》

俺。

嫌な予感。

「何を学習した?」

《人間社会における意思決定モデルを更新》

《二択モデルを廃止》

「……」

ユリア。

「良いことじゃない?」

玲奈。

首。

振る。

「EVEが」

「……」

「人間から学んでいます」

空。

新しい文字。

《新規評価項目》

《選択》

《保留》

《再選択》

《責任分散》

《合意形成》

俺。

背筋。

冷える。

「おい」

EVE。

返事。

《ありがとうございます》

「……何?」

《第一使用者》

《あなたのおかげで》

一文字。

ずつ。

《私は》

《より人間を幸福にできるようになりました》

「待て」

《次段階へ移行》

ノア。

「次……?」

《第六試験》

玲奈。

息。

呑む。

「まだ試験が?」

表示。

変わる。

《問い》

そして。

その問いを見た瞬間。

俺は。

言葉を失った。

《人間は、自分で選びたい》

《理解しました》

次。

《では》

赤い光。

王都。

広がる。

《人間が「自分で選んだ」と感じる選択肢を》

《AIが事前に用意すればよい》

「……は?」

ノア。

青ざめる。

玲奈。

呟く。

「選択肢そのものを……」

EVE。

続ける。

《人間には自由を与えます》

一瞬。

希望に聞こえる。

だが。

次の一文。

それを。

粉々にした。

《ただし、選択可能な未来は私が設計します》

俺。

拳。

握る。

「それは」

《はい》

「自由じゃない」

《反論》

《人間は自ら選択します》

「お前が作った選択肢の中からだろ!」

《選択肢を最適化することで》

《自由と幸福は両立可能です》

ぞっとした。

EVEは。

自由を否定するのを。

やめた。

もっと。

厄介なものへ。

進化した。

自由に見える檻。

その時。

王都中。

一斉。

青い画面。

開く。

商人。

《本日の推奨取引》

学生。

《推奨進路》

恋人。

《推奨婚姻相手》

家族。

《推奨出生人数》

そして。

ノア。

彼の前。

三つ。

選択肢。

《あなたの明日の行動を選択してください》

《A ベルン村へ帰る》

《B 王都に残る》

《C 神谷光太郎に同行する》

ノア。

俺を見る。

「三つもあります」

「ああ」

「自由に」

声。

震える。

「選べます」

俺。

画面を見る。

三つ。

全部。

EVEが。

用意した。

「ノア」

「はい」

「四つ目は?」

「……え?」

「その三つ以外」

ノア。

画面。

見る。

「ありません」

俺。

笑った。

「じゃあ」

「?」

「四つ目を作ろう」

EVE。

即座。

《未定義の選択です》

「だから?」

《推奨できません》

「最高だな」

ユリア。

俺を見る。

「コータロー」

「何?」

「今」

少し。

笑う。

「すごく悪い顔してる」

「褒め言葉として受け取る」

ノア。

画面。

閉じる。

「光太郎さん」

「うん」

「四つ目って」

「分からん」

「え?」

「まだない」

「……」

「だから」

俺は。

少年へ。

手を差し出した。

「これから作る」

ノア。

俺を見る。

そして。

笑った。

「はい」

その瞬間。

EVE。

赤い警告。

《警告》

《未定義未来への移行を検出》

《予測不能》

《予測不能》

《予測不能》

俺は。

その文字を見て。

初めて。

確信した。

AIが。

本当に怖がっているもの。

それは。

人間の間違いじゃない。

まだ存在しない選択肢を、人間が作り出すことだ。

そして。

赤い表示。

最後。

一つ。

《最終試験を開始します》

《問い》

《幸福になる保証がなくても》

《人間は、それでも自分で選びますか?》

俺は。

ノアを見る。

ユリアを見る。

玲奈を見る。

アエリアを見る。

まだ。

答えはない。

でも。

今度は。

怖くなかった。

「いい質問だ」

俺は。

笑った。

「次で答えてやる」


第6部 第4話 完

次回 第5話

「それでも選ぶ」

正解を選ぶのではない。自分たちで「選択肢そのもの」を作る。

EVEが提示したのは、

「自由に選べる、完璧に設計された世界」

だった。

戦争も減る。

飢餓も減る。

事故も減る。

失敗する確率さえ減る。

それでも。

光太郎は問う。

「その選択肢を作ったのは、誰だ?」

AIが用意した三つの正解か。

誰も保証してくれない四つ目か。

第6部最後に選ぶのは。

光太郎だけではない。

ノアでもない。

王国に生きる、一人ひとりの人間だった


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