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 「え?! ウソ!! 本のタイトルって著者に決める権限がないんですか?」と、しばしば驚かれます。

 50冊近くの本を書いてきました。
 毎回、悩むのが、本のタイトルです。
 原稿が、おおかた書きあがった頃、編集者さんから、
 「タイトル案をいくつか考えて送ってくださいね」
と言われます。
 なにしろ、自分が書いた本に名前をつけるのですから、一生懸命に考えます。
でも、どの出版社の編集者さんからも、「それでいきましょう!」と、即答された
ことがありません。
 「これなんか、いいでしょ」
と、アピールしても、
 「それでは売れません」
 「奇をてらいすぎます」
 「読者に中身が伝わらないでしょう」
 「営業がウンと言いません」
などと、一蹴されます。
 そうなのです。
 本を書くのは、もちろん作家の仕事。
売れる本を編むのが、編集者の仕事。
本を売るのは、出版社の営業の仕事。
 つまり、営業の意見が重要になる。
 だから、タイトルの決定権は出版社にあるのです。

中には、営業さんや編集者さんが、知り合いの取次店(トーハン、日販など)
の担当者さんやカリスマ書店員さんに「こんなのどうですか?」と意見もらうこともあるそうです。
 編集者さんが著者や社内の意見を参考にして最終案をとりまとめて決定します。

 にもかかわらず、しばしば、
「今度の本のタイトルがいいね。さすが志賀内さんだ」
と、言われます。
 どう返事をしてよいのやら。
 でも、タイトルを褒めてもらえるというのは、担当編集者さんの腕を褒めても
らえたということ。そういう腕のいい編集者さんに担当してもらっている本だか
ら、嬉しいことは嬉しいのですが、戸惑ってしまいます。
「出版社さんで考えてもらったので・・・」
と、ぼそぼそと答えると、たいてい、
 「え?! ウソ!! 本のタイトルって著者が付けるんじゃないの?」
と、驚かれます。
 そこで、前述の説明をすると、誰もが「なるほど」と納得してもらえます。

 さて、2025年9月10日発売の「明日は必ず虹が出る」(PHP研究所)のタイ
トルの話です。
 実は、遡ること6年ほど前、PHP研究所の担当編集者さんとカフェでおしゃべ
りをしていて、なにげなくこんな提案をしました。
 「自分の病気や、カミさんの介護のことを書いた本を出したいんです。今、つ
らい人たちを励ますためのなる本です」
「いいですねぇ」
と言われたので、タイトルを言いました。
 「『あなたも病気になりなさい』です」
 「え~? それはダメです。そんなの書店に並べても誰も手に取りませんよ」
 「そうかなあ~インパクトがあって、いいと思うんだけど」
 「病気になりたい人なんて、いないでしょ」
 「でも、病気には人生における大切な『気づき』と『学び』あります。私は、病気になったおかげで、『今、幸せだ』と言えるようになりました。病気や介護で、今、つらい思いをしている人たちに、きっとこの先にいいことがあるよ、『あの時』があったから『今がある』んだと思える日が来るよ、と励ましたいんです」
 「でも、病気で悩んでいる最中の人が、『あなたも病気になりなさい』なんてタイトルの本を手に取りたいと思いますか? 不快に思われますよ」
 「う~ん・・・たしかに」

 ということで、ボツになりました。

 ところが、です。
 その後、毎日新聞さんから、「エッセイの連載を」という依頼をいただきました。そこで、「PHP研究所さんで通らなかった企画がありまして・・・」と内容を説明すると、「それで行きましょう!」と言われ、連載が始まることになりました。
 
 ところが、またまたです。
 タイトルを決める段になって、
 「『あなたも病気になりなさい』にしたいのですが」
と申し出ると、
 「それは難しいです。誰もこのコラムを読みたくなくなってしまいます」
 「う~ん」
 「何かほかに考えてください」
 書きたいことが山ほどあるので、連載はしたかった。やむをえず素直に従い、代々案をいくつか提出しました。
 その中の一つの、
 「虹を待つ午後」
を気に入って下さり、タイトルが決まったのでした。
 それは、映画や歌のようなタイトルにしたいと意識して考えたものでした。

 そして、4年が過ぎたある日、あのPHP研究所の編集者さんから連絡がありました。
 「毎日新聞さんで連載中のコラム、なかなかいいですねぇ。うちで本にしませんか?」
 ヤッター!と思いました。
 今度は、先方から本にしたいという申し出です。
 これは、ひょっとして著者の意見が通るかもしれないぞ、と思いました。
 「タイトルですが・・・」
 しかし、そんなに甘くはありませんでした。
 「以前、言いましたよね。『あなたも病気になりなさい』というタイトルでは誰も手に取ってくれません」
「じゃあ、『病気になると幸せに気付ける』とか『病気が教えてくれた幸せになる方法』ではどうでしょう」
「それも似たようなものです。タイトル案はこちらで考えますね」
 と。
 がっくり。
 でも、大切なのは売れること。
 この本で、今、つらい思いをしている人の力になりたいと思っていました。
それこそ、自ら命を絶つのをくい止めたい。
 ストレスで心が冒されそうな人に光を届けたい。
 生きる勇気を持ってもらいたいと。
でも、買ってもらえなければ、人を救うことはできません。今度は納得して、
 「わかりました」
と、答えました。

 
 そうして、編集者さんから届いたタイトルが、
「明日は必ず虹が出る」
でした。

「いかがですか?」 
「あっ! いいと思います」
私、即答していました。
「特に、『きっと』ではなく『必ず』と言い切っているところがいいです」
本の中身。
私が伝えたいこと。
それが、「病気」という言葉を使わずに、ストレートに表されていました。

50冊近くの本を書いてきて思うこと。
どうやら私は、タイトルとかキャッチコピーを考えるのは、苦手なようです。

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