深夜にしか学べない学生たち ~キューバ、長時間の停電が浮き彫りにする「島国の脆弱性」~
長い停電のあと、深夜にようやく部屋の明かりが点く。疲れ目をこすりながらパソコンを開き、急いで大学の課題に取り組む若者たちがいます。
これはカリブ海最大の島国、キューバの首都ハバナでの日常的な光景です。

政府は教育を継続するため、2026年1月に遠隔授業などの措置を発表しました。しかし、肝心の電気とインターネットが長時間にわたって遮断される環境下では、オンライン化はむしろ学習の不平等を可視化し、学生たちから学ぶ機会を奪う結果を招いています。
なぜ、カリブ海の美しい島国で、これほどまでに深刻な電力危機が起きているのでしょうか。このニュースをひも解くと、エネルギー構成の偏り、大国との地政学的な対立、そして「島国」という地理的条件が複雑に絡み合った、現代インフラの脆さが見えてきます。
🇨🇺 Cuba's students struggle with blackouts and remote learning
— AFP News Agency (@AFP) May 20, 2026
It's the middle of the night in Havana, but the power is back on for the first time in 15 hours, and Alejandro Benitez, an architecture student at the Universidad Tecnologica de la Habana, needs to get his assignment… pic.twitter.com/Vpi89VkXxn
キューバで今、何が起きているのか?
現在キューバ全土では、記録的な長時間停電が常態化しています。多くの地域で10時間、20時間と続く停電が発生し、ハバナでも市民や学生による抗議行動が起きています。
2026年5月、キューバのエネルギー鉱山相は「ディーゼルも燃料油も備蓄がない」と述べ、国の電力網が危機的状態にあることを公式に認めました。さらに東部諸州などでは大規模な電力網の障害も発生しています。
停電は単に夜が暗くなるだけではなく、冷蔵庫の食品は腐り、ポンプが動かないため断水が起き、交通機関はマヒし、病院や通信網までが連鎖的に機能を停止する重大な事象です。
教育現場への打撃も深刻であり、建築やデザインのように大容量のデータ通信や教員との密なやり取りが必要な分野では、停電と通信障害が学習の質を著しく低下させています。
深夜に電気が戻ったわずかなタイミングを狙って課題をダウンロードし、提出しなければならない学生たちの疲労は限界に達しています。
なぜ、この「危機」が起きたのか?
① 圧倒的な「石油」と「輸入」への依存
キューバの電力危機を理解する最大の鍵は、その電源構成にあります。キューバの発電はなお石油製品に大きく依存しており、IEA(国際エネルギー機関)も石油製品が発電の80%超を占めるとしています。
近年、中国製パネルなどを使った太陽光の導入は進みつつありますが、それを補う蓄電池などのインフラ不足もあり、近年の増加を踏まえても電力危機を根本から解決する規模にはまだ達していません。「海外から船で燃料が届かなければ、国中の電気が止まる」という極めて脆弱なエネルギー構造を持っているのです。
② 「近くて遠い」米国との対立と複合的要因
キューバは、アメリカのフロリダ州キーウェストからわずか約145㎞という非常に近い距離にあります。

しかし、政治的には長く対立を続けてきました。キューバ側が「燃料封鎖」と呼ぶように、アメリカによる長年の経済制裁や金融取引への圧力は、キューバが国際市場から燃料を調達する際の大きな障壁となっています。
ただし、制裁だけで現在の危機を説明することもできません。燃料輸入の減少、外貨不足、老朽化した発電所、部品不足、ハリケーン被害などが重なり、もともと脆かった電力網に強い圧力がかかっているのが実態です。
③ 燃料を詰まらせる「島内物流」の限界と国内原油の難点
島国ゆえのインフラの弱さも露呈しています。例えば2022年8月、輸入燃料の受け入れや国内産原油の処理を担う主要拠点の一つであったマタンサスの石油ターミナルで、落雷による大規模な火災が発生し、貯蔵・分配能力に甚大な打撃を与えました。
さらに、キューバ国内でも原油は採掘されますが、重質で硫黄分が多く、発電設備への負荷が大きい燃料です。

しかも国内生産だけでは必要量を満たせず、燃料の輸入が途絶えると、火力発電所やバックアップ発電機を動かす余力が一気に失われます。燃料不足がさらなる燃料の流通網を閉塞させるという、厄介な悪循環に陥っているのです。
地理・地政学的な視点 教育格差とインフラの連鎖
① 「孤立した電力網(アイランド・グリッド)」の宿命
ヨーロッパ大陸のように陸続きの国であれば、自国の発電所が止まっても、隣国から送電線を通じて電力を融通してもらうことができます。しかし、海に囲まれた島国であるキューバの電力網は完全に独立しています。
一部の発電所や送電線のトラブルが、即座に大規模なブラックアウト(大停電)に直結してしまいます。
② デジタル化がインフラ弱者の「格差」を広げる皮肉
遠隔授業やオンライン化は、電気と通信インフラが安定している先進国では「便利で柔軟な選択肢」となり得ます。しかし、キューバのような環境下では、教育のデジタル化が逆に不平等を拡大させることもあるのです。
パソコンを充電できない、ネットがすぐ切れる環境では、インフラの貧弱さがそのまま「学習機会の喪失」という教育格差に直結します。インフラと教育問題が密接にリンクしていることを、このニュースは示していると言えます。
今回のニュースが問いかけること
停電で学生が課題を出せないという事象の裏には、冷戦期から続く大国との対立、石油に依存しすぎた発電構造、そして海に囲まれた島国特有のインフラの弱さが見えてきます。この停電は、キューバの地理的条件や、外交、経済が結びついた複合的な危機なのです。
そしてこれはキューバだけの問題ではありません。
日本もまた、燃料を海上輸送に大きく依存する島国ですが、違いは、調達先の多角化、外貨調達力、港湾・備蓄インフラ、広域電力網の強さと厚みです。
キューバの停電は、島国のエネルギー安全保障が崩壊した場合に何が起きるかを極端な形で示した事例と言えます。
今回の問いは、
「国家のインフラが外部環境によって機能不全に陥った時、最も重い代償を払わされるのは誰なのか」
ではないでしょうか。
今日の地理ワード
「エネルギー安全保障(Energy Security)」
国民生活や経済活動に必要なエネルギー(電力や燃料など)を、適正な価格で、安定的かつ途絶えることなく確保できる状態のこと。キューバのように特定の燃料(石油)への依存度が高く、かつ輸入頼みになっている国は、エネルギー安全保障が極めて脆弱だと言えます。
資源を持たない島国にとっては、輸入先の多角化や再生可能エネルギーの導入などによって、この安全保障を高めることが国家の最重要課題となります。
気軽に深く知るためのヒント
地図帳で「キューバ」とアメリカの「フロリダ半島」の位置を探し、その距離の近さを確認してみる
冷戦時代に起きた「キューバ危機」とはどのような出来事だったのか、歴史を一つ調べてみる
もし自分の家で「電気が毎日15時間止まったら」どのような生活になるか、できなくなることをリストアップしてみる
キューバと同じ「島国」である日本が、発電用の燃料をどの国からどのように輸入しているか調べてみる
太陽光や風力といった「再生可能エネルギー」のメリットと、天候に左右されるなどのデメリットを比較してみる
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