よもやよもやな旅|1日前まで「お待ちしています」とメールをくれたホテルで起きたこと
◆はじめに
これは15年近く前のノンフィクション。
「よもや、あんなことが起きるなんて」。
妻には重度のタバコアレルギーがある。匂いが苦手とかそういうのではなく、アレルゲンを取ると鼻血が止まらなくなったり、声が数日でなくなったりする、準備していた旅先でも何度かそういったことがあるので、滞在先に「禁煙室」があるかどうかは、我が家にとって単なる希望ではなく、旅の存続に関わる死活問題だ。
だからこそ、その時も万全を期していた、そのはずだった。 3か月前、志摩スペイン村の「ホテルスペイン村」に予約を入れ、オンラインだけでは飽き足らず、わざわざ電話でオペレーターと交渉。「禁煙室確定」の言質を取り、完璧な布陣で当日を待った。当時は今と違い禁煙部屋と言うのがあまりなく、確定するのが難しかった、禁煙部屋を取れればあとは何とかなる、なので安心しきってたのだ。
宿泊の1か月前。「ご予定に変更はございませんか?」と丁寧なメールが届く。 1週間前。「来週ご予定の日ですね」と期待を煽る。 そして1日前。「いよいよご予定の日となりました。お客様のご到着を楽しみにしています」
その一通一通が、旅への期待を膨らませるには十分すぎた。
◆7時間の死闘と、深夜のフロントでの宣告
しかし、現実は非情だ。 三重までの道中は遠く、夜のガソリンスタンドが営業していないという不測の事態。慣れない土地でのガス欠の恐怖と闘いながら、ハンドルを握る手には汗がにじむ。
ようやく辿り着いたのは、出発から7時間が経過した頃だった。 疲労困憊。しかし、「やっと休める、奥様を綺麗な空気の部屋で休ませてあげられる」という安堵感でフロントへ向かった私に、スタッフは無慈悲な一言を放った。
「お客様、3か月前にご自身でキャンセルされてますよ」
……よもや、そんなバカな。
◆消えた予約、見えない画面
「1日前までメールが届いていたんです!」と詰め寄る私。しかし、ホテル側のシステムは冷徹だった。客側が見ている予約画面と、ホテル側の管理画面には「乖離(かいり)」があるという。共通のデータが更新されるのは、昼近くにならないと確認できないという。
目の前にあるのは「満室の禁煙室」と「存在するはずの私の予約」。 空腹と、長旅の疲れと、やり場のない怒り。 私が今にも爆発しそうになったその時、隣で妻が静かに言った。
「とりあえず、ご飯を食べよう。何とかするから。」
その「悟り」のような一言に毒気を抜かれ、私は一度矛を収めた。
◆「よもや」の逆転劇

食事を済ませ、隣接するパルケエスパーニャで当時まだ3歳の息子と遊び、妻と息子のおかげと想像していた以上に楽しいパークを満喫していた自分はいつの間にか怒りは収まっていた、これならもう少し冷静に話せると、午後2時。再びロビーに戻ると、光景は一変していた。
朝のフロントマンが、私を見つけるなり脱兎の如く駆け寄ってくる。 その勢いは、まさに土下座せんばかり。
「申し訳ございません!こちらのミスでした!」
妻曰く「あんなに直角にお辞儀して謝ってる人初めて見たよ」と言わしめた直角に体を曲げ、謝罪の言葉を言ってくれた。
判明したのは、ホテル側のシステムの不備と言いますか、やはり客が使うデータベースと、ホテル(系列ホテル)で管理するデータの連携が取れてない所から起きる不具合だったらしい私の予約は、しっかりと「生きていた」のだ。 そこからは、怒涛の謝罪と特別待遇。無事に確保された禁煙室。そして、何より嬉しかったのは、ホテル側の「ささやかな、でも本質的な配慮」だった。
「チェックアウト後も、お車はそのままホテルの駐車場に置いておいてください。パークの駐車場へ移動させる手間は、もう必要ありませんから」
7時間走らせてきた相棒(車)を、もう動かさなくていい。 その「疲れへの寄り添い」が、朝のトゲトゲした心をスッと溶かしてくれた。
◆終わりに:これぞ旅の「よもや話」
終わってみれば、志摩スペイン村もホテルも、これ以上ないほど楽しかった。 災い転じて福となす。あの絶望の瞬間も、今では笑って話せる「最高の思い出」だ。

最初はこの話を、ありふれた世間話のつもりで「四方山(よもやま)話」と呼ぼうと思っていた。けれど、あんなに「まさか!」が連続した旅は、やはりこう呼ぶのが相応しい。
まさに、よもやよもやな旅の話でありましたとさ。

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