映画評「サブウェイ」(1985年/フランス)

映画評「サブウェイ」(1985年/フランス)
1985年/フランス/104分 監督:リュック・ベッソン 撮影:カルロ・ヴァリーニ 音楽:エリック・セラ 出演:クリストファー・ランバート/イザベル・アジャーニ/リシャール・ボーランジェ/ジャン=ユーグ・アングラード/リシャール・ボーランジェ/ジャン・レノ
冒頭に、綺麗な映像でスリリングなカーチェイス。その後も、ローラースケートで滑り、ドラムスティックで壁を叩く。動きにリズムがある。音楽ビデオのように編集リズムで見せている。音楽にも力がある。延々と警察官たちが地下鉄への階段を降り続けるシーンで流れるBGMがとても良かった。無機質な世界の中で、このエリック・セラの音楽があることによって、生命のうごめきを感じることができる。この音からは映画自体の品質を一段引き上げる魔法を感じる。殺風景で無機質な地下鉄だが、幾何学的な構図で、統一された色調で、整然と綺麗に、クールでスタイリッシュに、考え抜かれて撮影されている。撮影監督のカルロ・ヴァリーニの照明技術が地下鉄の冷たい金属と温かな人間性のコントラストを際立たせている。階段を降りてくる、美しい衣装を着たエレナ役のイザベル・アジャーニ。フランス映画らしい華やかさを感じる。アジャーニの魅力は表現力の豊かさ。冷静で洗練された外見の下に隠された複雑な感情を、微細な表情の変化や視線の動きで表現する技術。特に、フレッドとの関係が深まるにつれて見せる心の揺れ動きや、自分の本当の気持ちに気づいていく過程での演技は印象的だった。ベッソン監督特有の美的センスと相まって、アジャーニの美しさが際立つ。モヒカンスタイルのヘアアレンジやメイクが似合っていた。地下鉄という無機質で暗い空間の中で、彼女の存在は光や花のような役割を果たし、映画全体に詩的な美しさを与えている。主演のクリストファー・ランバートにも独特の魅力がある。地下鉄という閉鎖空間にいながら常にどこか別の世界にいるような独特の浮遊感を持っている。単なる犯罪者でもない複雑な精神性。現実と非現実の境界線上にある地下鉄世界の象徴的な住人として機能していた。ストーリーは、犯罪者の逃亡劇からバンドでの演奏へとシフト。単なる犯罪者ではなく、自分の夢を追うロマンチックな若者へ。この、個性の転換はそれほど効果を発揮していない。シナリオの展開や性格描写がとても浅い。結末も、何がなんだか全く理解できない。あえて余地を残す。というか、残ってしまう。物語の帰結よりも、この映画では、なんと、音楽的クライマックスの方が重要なのだ。MTV文化とシネマ・デュ・ルック。型にはまらない自由な作風、既存の映画に挑戦する実験的な姿勢、社会のルールに縛られない反骨精神が作品全体に満ちている。ストーリーの整合性よりも、映像、音楽、キャラクターの魅力といった直感的な要素が優先されていて、衝動がそのまま画面に出ている。未完成さや荒々しさも含めて、瑞々しく抑えきれない創造欲求が凝縮されている。不完全で未完成な部分を残しながらも、後年の作品に見られる個性的でスタイリッシュな映像感覚の才能はこの映画でも充分に発揮されている。

