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自らの選択のもとで  book review

『呉書 三国志』
斉藤 洋・著
講談社

 中国の歴史本『三国志』は、熱心なファンが多いと聞く。ただ、書名を見聞きしていても、読んだことがない人は、結構いるのではないだろうか。私もその一人だった。

 特に歴史小説が好きなわけではないけれど、同じ著者の『白狐魔記』を読んだ時、こんな書き方があるのかと、驚いた記憶は鮮明だ。とうに成人した甥が小学生の頃、1巻をあげたら、あとは自分で順に買い揃えた。タイミングもあったと思うが、子どもが理解できて面白い。児童文学そのものだと実感した。

 本書は『白狐魔記』よりも前、1990年刊行の全3巻を、一冊に再集録した復刊だ。当時、夢中で読んだ子どもたちが大人になり、子どもたちに手渡してくれたら嬉しい。

 三国志は一般的に、魏・呉・蜀の三国の蜀の国を興した人物と、その将軍たちが主人公らしい。本書はタイトルの通り、呉の国が中心に描かれている。光をあてる場所によって、物語は違ってくる。

 政治が乱れ、各地で反乱がおこり、三国志は黄巾の乱で幕があく。この呉書は、呉の国の興亡を担う孫一族の物語だ。

 初代の孫堅は、民衆にしたわれ、諸国の豪傑が自然に集まってくるような人望を備えている。彼がリーダーとして優れているのは、他者の話が聴けること、誰に対してもフェアなことだと思う。出世欲はないが、何かあると、黙っていられない。民衆にしたわれるのは、そのためだ。だた、時として、それが災いする。怒りで血が逆流すると、何をするかわからない。その気性ゆえ、35歳の若さで戦死する。

 その後を、長男の孫策と、その弟の孫権が国を守っていく。その時、孫策はまだ17歳だった。

 孫策はもっと短命だ。25歳で世を去る。彼もまた父の気性を受け継いでいるが、同時に父をしたった有能な家臣たちも受け継いだ。孫堅亡き後も、彼らは孫策のもとを離れなかった。

 その弟の孫権は70歳まで生きた。彼が最も戦には不向きに思えるが、魏、呉、蜀の三国のうち、呉はいちばん長く続いたのだ。

 孫権が長寿だったのは、運命ではない。彼を取り巻く家臣たちは、二人の主人から学んだのだ。彼らは、孫権を出陣させなかった。陣頭に立って指揮することを思いとどまらせた。君主が死ねば全軍が敗走する。

 そして、孫権も学んだのだ。自分は武将ではない。戦は武将たちに任せ、自分は最後の決断をくだす。それが役割なのだと。

 孫一族のまわりには、有能な人材が集う。三代にわたり仕えた家臣も多い。その誰もが個性的で、必要とされる適性を備えている。組織を機能させるには、見合う人材が必要だ。戦国の世も、現代の社会も、同じだと思う。

 愚は愚を呼び、賢は賢を招く。とは言え、待っているだけでなく、孫権は自ら有能な人材を集めた。人には好き嫌いがあるが、政治には持ち込まなかった。好き嫌いは個人の感情でしかない。結局のところ組織づくりは、上に立つもので決まる。

 そして家臣たち。彼らは自ら仕える主人を選んでいる。納得し任務にあたっている。やらされているわけではない。これは本当に爽快だった。この潔さが、この解放感が、現代の組織にあるだろうか…。いつの時代も、自ら選ばない人には、得られないものがある。自らが決める、選び取る人生でありたいと、願わずにはいられない。

同人誌『季節風』掲載 2019年 秋


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