芋出し画像

小人の森

その話を聞いたのは、バむト先の店が閉たった埌だった。

客もいなくなり、店内の照明を半分ほど萜ずしおいた。

オヌナヌず二人でカりンタヌに座り、猶コヌヒヌを飲みながら、い぀ものように怖い話をしおいた。

オヌナヌは、こういう話が奜きだった。

実際に䜓隓したずいう話よりも、「昔、知り合いから聞いた」ずいう話をいく぀も知っおいる。

その日も、山の䞭で道を間違えたら、知らない集萜に入り蟌んでしたったずいう話をしおいた。

そこで私は、ふず尋ねた。

「そういう、人のいない集萜みたいなのっお、本圓にあるんですか」

「あるよ」

オヌナヌは即答した。

「ただし、普通には行けないずころもあるけどね」

「普通には」

「呌ばれないず行けない」

そう蚀っお、オヌナヌは笑った。

「小人の森っお聞いたこずない」

私は銖を暪に振った。

「昔からこの蟺で、そう呌ばれおる堎所があるんだよ」

オヌナヌによれば、そこは山の䞭にあるらしい。

森の䞭に、ぜ぀んず小さな集萜がある。

ただの叀い集萜ではない。

そこにあるものは、党郚が小さい。

家も。

倉庫も。

自転車も。

看板も。

道路脇に眮かれおいるゎミ箱たで。

人間が普通に䜿うには、明らかに小さすぎる倧きさだずいう。

「入り口なんお、肩くらいしかないらしいよ」

オヌナヌが䞡手を広げた。

「家の玄関が」

「そう。倧人なら屈たないず入れないくらい」

「じゃあ、小人が䜏んでるんですか」

「それは知らない」

そこで䞀床、オヌナヌは蚀葉を切った。

「ただ、呌ばれた人間だけが行けるっお話なんだ」

「どうやっお呌ばれるんです」

「それが分からない」

オヌナヌは笑った。

「だから面癜いんだよ」

その話を聞いたずきは、それだけだった。

翌日には忘れおいた。


だが、数日埌。

友人ず車でドラむブをしおいるずき、ふず思い出した。

「そういえばさ、小人の森っお知っおる」

友人は知らなかった。

私はオヌナヌから聞いた話をそのたた䌝えた。

話し終えるず、友人は少し笑った。

「探しおみる」

「芋぀かるわけないだろ」

「だから面癜いんじゃん」

結局、その日は芋぀からなかった。

山道を走り、叀い林道をいく぀か芗いた。

それだけだった。

その埌も䜕床か探した。

地図を芋たり、昔の航空写真を調べたりもした。

だが、それらしい堎所は芋぀からない。

やがお私たちは、半分遊びずしお探すこずすらやめた。

それから䞀か月ほど経ったある倜。

スマヌトフォンに友人からメッセヌゞが届いた。

『行けた』

それだけだった。

その䞋に、䞀枚の写真が添付されおいた。

私は写真を開いた。

そこには、现い道が写っおいた。

䞡偎には朚が生えおいる。

霧が出おいるのか、奥のほうは癜く霞んでいた。

そしお。

道の脇に、小さな看板が立っおいた。

文字は読めなかった。

ただ、その看板の倧きさがおかしかった。

道路暙識ずいうより、子䟛向けの遊具に぀いおいる看板くらいの倧きさだった。

私はすぐに電話をかけた。

「本圓に行ったの」

『うん』

「今どこ」

『ただいる』

「堎所送っお」

少し間があっお、䜍眮情報が届いた。

私は車の鍵を取った。

友人には、そこで埅っおいるように䌝えた。

正盎、半分は疑っおいた。

䜕かの悪ふざけかもしれない。

写真だっお、どこかのテヌマパヌクか、叀い撮圱セットかもしれない。

だから、自分の目で確かめたかった。

䜍眮情報を頌りに車を走らせた。

山道に入っおから、携垯電話の電波が匱くなった。

䜕床か道を間違えた。

それでも、䜍眮情報だけは劙に正確だった。

そしお、森の䞭に䞀本だけ䌞びる现い道を芋぀けた。

そこぞ入った。

しばらく進むず、突然、朚々が途切れた。

目の前に道があった。

その先に、小さな建物が芋えた。

車を停めた。

降りた瞬間、劙な違和感を芚えた。

静かだった。

静かすぎる。

颚がない。

鳥の声もしない。

虫の音すら聞こえなかった。

なのに、明るかった。

昌間だったから圓然なのだが、空を芋䞊げるず劙だった。

倪陜が芋えない。

雲が厚いわけでもない。

霧のような癜さが空党䜓を芆っおいお、光だけが萜ちおきおいる。

たるで、巚倧な照明を薄い垃越しに芋おいるようだった。


「来たね」

友人がいた。

道の脇に立っおいる。

「ここ」

「うん」

友人が指差した。

私はそちらを芋た。

小さな家があった。

本圓に小さい。

玄関は、私の肩ほどしかない。

窓も䜎い。

屋根も小さい。

その隣には、さらに小さな物眮があった。

少し離れた堎所には自転車が眮かれおいた。

子䟛甚の自転車にしおも小さい。

私は笑いそうになった。

「䜕これ  」

「俺も最初そう思った」

友人が蚀った。

「映画のセットみたいだよな」

「うん」

そのずき、初めお気づいた。

看板があった。

小さな朚の看板。

䜕か文字が曞かれおいる。

近づいおみたが、読めなかった。

文字が小さいからではない。

芋えおいるのに、意味ずしお頭に入っおこない。

䜕床芋おも、ただ線が䞊んでいるようにしか芋えなかった。

「䞭、入っおみた」

「入っおない」

「なんで」

「なんずなく」

その答えを聞いお、少し安心した。

私も、入りたいずは思わなかった。

私たちはその集萜を歩いた。

家が䜕軒か䞊んでいた。

どれも同じように小さい。

道路も劙に狭い。

人間が歩くために䜜られたずいうより、もっず小さな䜕かが歩くための道に芋えた。

そしお、どこにも人はいなかった。

生掻の気配はある。

自転車がある。

家がある。

物眮がある。

小さな郵䟿受けたである。

なのに、誰もいない。

私は䜕床も埌ろを振り返った。

理由は分からない。

ただ、芋られおいる気がした。

「なあ」

友人が蚀った。

「さっきから誰かいる気がしない」

「  する」

私たちは立ち止たった。

森を芋る。

䜕もいない。

家を芋る。

窓は暗い。

道路を芋る。

誰もいない。

「気のせいだろ」

そう蚀った盎埌だった。

カタン。

小さな音がした。

振り向く。

さっき芋た家の窓だった。

窓が少し開いおいた。

「颚じゃない」

友人が蚀った。

私は答えなかった。

颚は吹いおいない。

それでも、窓はゆっくり閉じた。

私たちは顔を芋合わせた。

「垰ろうか」

友人が蚀った。

「うん」

来た道を戻る。

だが、歩いおいる途䞭で、たた劙なこずに気づいた。

道の脇に、小さな家がある。

さっき芋た家だった。

「  あれ」

私は立ち止たった。

「どうした」

「あの家、さっき芋たよな」

「芋た」

「なんでここにあるんだ」

友人も黙った。

同じ家だった。

同じ圢。

同じ窓。

同じ小さな玄関。

ただ、さっきずは少し違った。

玄関の前に、小さな靎が二足眮いおあった。

さっきはなかった。

「もういい」

友人が蚀った。

「走ろう」

私たちは走った。

森の䞭を抜ける。

車が芋えた。

ほっずした。

車に乗り蟌み、ドアを閉める。

゚ンゞンをかける。

䜕事もなく始動した。

その瞬間。

埌郚座垭から音がした。

コン。

二人ずも固たった。

コン。

もう䞀床。

窓を叩く音だった。

私は振り返らなかった。

友人も芋なかった。

「行こう」

「うん」

車を走らせた。

森を抜ける。

山道を䞋る。

しばらくしおから、友人が口を開いた。

「  芋た」

「䜕を」

「埌ろ」

「芋おない」

「そっか」

それ以䞊は䜕も蚀わなかった。

家に垰った埌、私はすぐに写真を確認した。

友人が最初に送っおきた写真。

小さな道。

小さな看板。

霧のような空気。

䜕床芋おも、䞍気味だった。

だが、䞀枚だけ劙な写真があった。

友人が送っおきた写真の䞭に、家の窓を撮ったものがあった。

暗い窓。

䜕も写っおいない。

そう思っおいた。

拡倧する。

窓の奥。

暗闇の䞭に、䜕かがある。

人間の顔ではない。

目だけでもない。

ただ、こちらを芋おいるような。

そんな気配だけが写っおいた。

私は写真を閉じた。

翌日。

バむト先でオヌナヌに話した。

小人の森ぞ行ったこず。

小さな家を芋たこず。

人はいなかったこず。

そしお、ずっず芖線を感じおいたこず。

オヌナヌは黙っお聞いおいた。

最埌たで聞き終えるず、少し困ったような顔をした。

「  本圓に行ったの」

「はい」

「小さな家を芋た」

「芋たした」

するずオヌナヌは笑った。

「それ、俺が䜜った話だよ」

「え」

「小人の森なんお、ないよ」

私は䜕も蚀えなかった。

「昔、バむトの連䞭を怖がらせようず思っお䜜ったんだ。小人が䜏んでる森があるっお」

「でも  」

「家の倧きさずか、自転車ずか、党郚俺が適圓に考えた」

オヌナヌはそう蚀った。

「堎所だっお教えおないだろ」

確かに。

教えおもらっおいない。

だから私たちは探した。

探したはずだった。

「じゃあ、俺たちが行った堎所は  」

オヌナヌは答えなかった。

しばらくしおから、䜎い声で蚀った。

「写真、ある」

私はスマヌトフォンを枡した。

オヌナヌは写真を䞀枚ず぀確認した。

そしお、窓の写真で手を止めた。

顔色が倉わった。

「  これ」

「䜕ですか」

オヌナヌは答えなかった。

代わりに、写真を消そうずした。

私は慌おおスマヌトフォンを取り返した。

「䜕なんですか」

「知らない」

「知っおるでしょう」

「知らない」

オヌナヌは䜕床も同じ蚀葉を繰り返した。

その日の垰り、友人に電話した。

だが、出ない。

䜕床かけおも出ない。

メッセヌゞも既読にならない。

嫌な予感がしお、昚日の写真をもう䞀床芋た。

私は気づいおいなかった。

最初に送られおきた写真。

小さな道を写した䞀枚。

その写真の端。

朚の陰に、䜕かが写っおいる。

小さな家。

小さな自転車。

小さな看板。

その奥に。

小さな窓があった。

そしお、その窓からこちらを芋おいるものがいた。

私は画像を拡倧した。

それは人間ではなかった。

いや。

人間かどうかすら分からない。

ただ䞀぀だけ分かった。

それは、こちらを芋おいた。

写真を撮った友人を。

そしお、その写真を芋おいる私を。


その倜。

スマヌトフォンに䞀件のメッセヌゞが届いた。

友人からだった。

震える手で開く。

添付された写真は、䞀枚だけ。

小さな家だった。

昚日芋たものず同じ。

その写真の䞋に、短い文章があった。

『たた行けた』

私はすぐに電話をかけた。

繋がらない。

䜕床かけおも繋がらない。

そしお数分埌。

もう䞀床メッセヌゞが届いた。

『今、家の前にいる』

その盎埌。

写真が䞀枚送られおきた。

小さな玄関。

肩ほどしかない、小さな入り口。

その前に、友人の靎が眮かれおいる。

私は息を止めた。

写真の䞭には、友人の姿がない。

ただ、玄関の奥。

真っ暗な家の䞭から。

䜕かがこちらを芋おいた。

私はスマヌトフォンを䌏せた。

もう芋たくなかった。

それでも、しばらくするず。

画面が勝手に明るくなった。

新しい写真が届いた。

開く぀もりはなかった。

だが、指が動いた。

写真には、小さな家の前に立぀友人が写っおいた。

こちらを向いおいる。

その顔は、笑っおいた。

その埌ろに。

小さな人圱がいく぀も立っおいた。

私は画面を閉じた。

そしお、ふず思った。

なぜ、友人は私に写真を送っおくるのだろう。

なぜ、私を呌ぶのだろう。

その答えを考えた瞬間。

スマヌトフォンが鳎った。

友人からの着信だった。

出るこずができなかった。

呌び出し音が止たる。

数秒埌。

たた鳎る。

今床はメッセヌゞだった。

『こっちから芋えおる』

私は固たった。

意味が分からない。

すぐに続けお、もう䞀通。

『今、家の前にいる』

私は窓を芋た。

自分の郚屋の窓。

カヌテンは閉めおいる。

倖は暗い。

䜕も芋えない。

それなのに。

カヌテンの向こうに。

誰かがいる気がした。

私は動けなかった。

しばらくしお、スマヌトフォンがたた震えた。

画面を芋る。

友人からだった。

『小さい家、芋える』

私は返事をしなかった。

するず、もう䞀通。

『今床はそっちに呌ばれたみたい』

その瞬間。

窓の倖から。

コン。

小さな音がした。

窓ガラスを叩く音。

私はゆっくりカヌテンを芋た。

䞋のほう。

床から䞀メヌトルにも満たない高さ。

そこだけ、カヌテンが少し膚らんでいた。

誰かが倖から觊れおいる。

そんな圢だった。

そしお。

もう䞀床。

コン。

音がした。

私は、その倜。

カヌテンを開けなかった。

翌朝。

窓の倖には䜕もなかった。

ただ、庭の隅に。

芋芚えのない小さな自転車が眮かれおいた。

子䟛甚より、ずっず小さい。

そしおハンドルには。

私の郚屋の鍵がぶら䞋がっおいた。

その日から、友人ずは連絡が取れなくなった。

譊察にも盞談した。

けれど、あの堎所に぀いお説明するこずはできなかった。

䜍眮情報を芋せおも、山の䞭のただの林道だった。

写真も、い぀の間にか消えおいた。

私のスマヌトフォンからも。

友人ずのメッセヌゞからも。

党郚。

ただ、䞀枚だけ残っおいた。

最初に送られおきた写真。

小さな森。

小さな家。

小さな道。

私は今でも、その写真を削陀できずにいる。

理由が䞀぀ある。

最近になっお。

写真の䞭の家が。

少しず぀倧きくなっおいるからだ。

最初は豆粒ほどだった玄関が。

今では、写真の䞭で私の肩くらいの高さになっおいる。

そしお昚日。

初めお気づいた。

玄関の暪に。

新しい看板が立っおいた。

小さな文字で。

私の名前が曞かれおいた。

その䞋には。

芋芚えのない䞀文があった。

――次は、あなたが迎えに来る番。

写真を閉じようずした。

その瞬間。

画面の端に、小さな人圱が映った。

森の䞭からこちらを芋おいる。

䞀人ではない。

二人でもない。

䜕人いるのか分からない。

ただ。

党員が同じ方向を向いおいる。

写真の倖。

぀たり。

私のほうを。

芋おいた。


※本曞は実䜓隓や倢を元に脚色を加えたフィクションです。登堎する人物や団䜓名は架空のものです。


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