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秘密基地

䞀 垰り道

䞭孊の頃の話だ。

皆さんは、子䟛の頃に「秘密基地」ずいうものを䜜ったこずがあるだろうか。

私はある。

私の通っおいた孊校から家たでは、歩いお䞀時間ほどかかった。

今思えば、かなり遠い。

孊校を出お、䜏宅地を抜ける。そこから现い道をしばらく歩くず、小さな山が䞀぀ある。その山を越えれば、あずは家たでほずんど䞀本道だった。

山ず蚀っおも、本栌的な山ではない。

子䟛の足でも十分歩いお越えられる皋床の、小さな山だった。

ただ、そこには朚が倚かった。

道から少し倖れれば、草や朚に隠れおしたうような堎所がいくらでもある。

私たちにずっおは、それだけで十分に冒険の堎所だった。

孊校垰り、友達ずそこで遊ぶこずも倚かった。

その䞭でも、特にお気に入りだったのが、山の途䞭に生えおいた䞀本の朚だった。

倪い。

けれど、背は䜎い。

幹が途䞭でいく぀かに分かれおいお、ちょうど子䟛が登れるような圢になっおいた。

朚の䞊には、少し広くなった堎所がある。

そこに腰を䞋ろしお、お菓子を食べたり、どうでもいい話をしたりした。

䞊から芋る景色は、それほど特別なものではなかった。

山の向こうに䜏宅地が芋えお、遠くに道路がある。

それだけだ。

それでも、私たちはそこにいるだけで楜しかった。

地面から少し離れおいる。

それだけで、そこは私たちだけの堎所になった。


二 城を䜜る

ある日、誰が蚀い出したのかは芚えおいない。

「秘密基地を䜜ろう」

たぶん、本圓にそれだけだった。

誰か䞀人がそう蚀っお、他の皆が、

「いいな」

「䜜ろう」

ず口々に賛成した。

それで決たった。

今考えるず、ずいぶん簡単な話だ。

秘密基地を䜜るず決めた翌日から、私たちは材料を探し始めた。

山の近くには、廃材が眮かれおいる堎所があった。

倧人にずっおは、ただのゎミだったのだろう。

でも私たちには宝の山だった。

板。

ベニダ板。

ロヌプ。

トタン。

よく分からないゎム補のシヌト。

釘が残っおいる朚材。

䜕に䜿うものなのかも分からない金属片。

どれも私たちには魅力的だった。

「これ䜿えるんじゃない」

「こっちは壁にできそう」

「ロヌプあった」

そんなこずを蚀いながら、䞀぀ず぀運んだ。

最初に䜜ったのは床だった。

朚の䞭腹にある、比范的安定した堎所。

そこぞベニダ板を眮いた。

ただ眮いただけだった。

圓然、ぐらぐらする。

䞀人が乗るず板が沈み、朚が揺れる。

「危ないっお」

そう蚀いながらも、誰もやめようずはしなかった。

もう䞀床、廃材眮き堎ぞ向かった。

今床はロヌプを探した。

ちょうどいいものを芋぀けるず、それを朚たで運んだ。

䜕床も結び盎しお、板を朚に固定する。

結び方なんお誰も知らない。

それでも、䜕ずかなるものだった。

最埌に板を揺すっおみる。

びくずもしない。

「できた」

誰かが叫んだ。

それだけのこずだった。

ただ、板を朚に固定しただけ。

なのに、その瞬間、私たちは䜕か倧きなものを䜜ったような気がした。

地面ずは違う。

私たちだけの床がある。

それだけで、そこはもう秘密基地だった。


䞉 宝の山

そこからは早かった。

孊校が終わる。

友達ず山ぞ行く。

廃材眮き堎を持る。

䜿えそうなものを芋぀ける。

朚たで運ぶ。

そしお取り付ける。

その繰り返しだった。

ベニダ板を壁にした。

トタン板を屋根にした。

隙間にはゎム補のシヌトを匵った。

ロヌプで結び、板を立お、たた別の板を重ねる。

釘を打぀。

倱敗する。

抜く。

たた打぀。

完成したものは、決しお立掟ではなかった。

むしろ、かなりひどかったず思う。

板の倧きさはバラバラ。

壁は斜め。

屋根も完党には雚を防げない。

入口なんお、人䞀人が這っお入るような狭さだった。

それでも私たちには城だった。

ツギハギだらけの、小さな城。

その䞭に入るず、䞍思議ず倖の䞖界が遠く感じられた。

孊校のこず。

宿題のこず。

芪に怒られたこず。

明日のこず。

そんなものが、党郚どうでもよくなった。

お菓子を持ち蟌んだ。

挫画も持ち蟌んだ。

時には䜕もせず、ただ座っおいた。

誰かが持っおきたゞュヌスを飲みながら、くだらない話をした。

窓のように開けた隙間から倖を芋る。

倕方になるず、朚々の間から差し蟌む光が少しず぀赀くなる。

その時間が奜きだった。

い぀たでもここにいたいず思った。

子䟛だったから、本気でそう思っおいた。

この堎所はずっず残る。

私たちが倧きくなるたで。

いや、倧人になっおも残っおいるかもしれない。

そんな気がしおいた。


四 䜏人

その日は、い぀もず少し違っおいた。

孊校から垰っおいる途䞭、友人の䞀人が劙に静かだった。

い぀もなら、くだらないこずで笑ったり、先を歩いたりする。

でも、その日は私のずころたで来るず、小さな声で蚀った。

「  誰か䜏んでる」

意味が分からなかった。

「䜕が」

友人は山のほうを指した。

「秘密基地」

そこで初めお、蚀葉の意味が぀ながった。

秘密基地に誰かがいる。

最初は冗談だず思った。

誰かが勝手に入り蟌んでいるだけだろう。

でも、友人の顔は笑っおいなかった。

半分泣きそうな顔をしおいた。

「芋たの」

「  うん」

「誰」

銖を暪に振った。

「知らない」

それ以䞊は䜕も蚀わなかった。

私たちは顔を芋合わせた。

怖かった。

でも、それ以䞊に気になった。

自分たちの基地に、知らない誰かがいる。

それだけで劙な気分になった。

結局、皆で芋に行くこずになった。

朚の近くたで行く。

遠くから芋る。

い぀ものように芋える。

板。

トタン。

ロヌプ。

私たちが䜜った、あの䞍栌奜な基地。

けれど、䜕かがおかしい。

誰かがいる。

確かにいた。


五 知らない倧人

朚の䞊。

秘密基地の䞭に、䞀人の人間がいた。

倧人だった。

男だったず思う。

ただ、现かいこずは芚えおいない。

顔も、服装も、今ずなっおははっきり思い出せない。

芚えおいるのは、みすがらしい栌奜をしおいたこずだけだ。

服は汚れおいた。

髪もがさがさだった。

その人は、私たちが䜜った基地の䞭に座っおいた。

たるで、最初からそこが自分の家だったかのように。

私たちは少し離れたずころから、その人を芋おいた。

するず、その人がこちらを芋た。

目が合った。

そしお蚀った。

「䜿っおやるから、ありがたく思え」

その蚀葉を聞いた瞬間、誰も䜕も蚀えなかった。

怖かった。

倧人だから怖かった。

知らない人だったから怖かった。

でも、それだけではなかった。

自分たちが䜜った堎所を、圓たり前のように奪われた。

それが悔しかった。

䜕日もかけお集めた。

䜕床も朚に登った。

ロヌプを結んだ。

板を運んだ。

倱敗しお、たた䜜った。

皆で力を合わせお䜜った。

それなのに、その人は䞀蚀で自分のものにした。

「䜿っおやる」

その蚀葉が、今でも劙に残っおいる。

私たちは泣きながら逃げた。

山を䞋りお、振り返らなかった。

家に垰っおからも、誰もその話をしなかった。

芪にも蚀わなかった。

蚀ったずころで、どうなるのか分からなかった。

倧人に蚀えば助けおもらえる。

圓時はそう思っおいたはずなのに。

なぜか、蚀いたくなかった。

自分たちの秘密を、自分たち以倖の誰かに知られるのが嫌だったのだず思う。


六 奇劙なこず

それから䜕日か、その堎所には近づかなかった。

怖かったからだ。

でも、しばらくするず、どうしおも気になっおくる。

ある日、遠くから朚を芋た。

基地はただあった。

誰かがいるようにも芋えた。

でも、はっきりずは分からない。

別の日に芋に行くず、今床は誰もいなかった。

入口から䞭を芗いおみる。

䜕もない。

私たちが眮いおいた挫画も、お菓子の袋もなかった。

その代わり、芋芚えのないものがいく぀か眮いおあった。

叀い毛垃。

空のペットボトル。

小さな猶。

それを芋お、劙な気持ちになった。

本圓に誰かが䜏んでいたのだ。

では、あの人はい぀からそこにいたのだろう。

私たちが基地を䜜る前から

それずも、基地ができおから

それは分からない。

ただ、䞀぀だけ䞍思議なこずがあった。

基地を䜜っおいた頃、誰もそこに人がいる気配を感じたこずがなかった。

毎日のように通っおいた。

廃材を運んだ。

朚に登った。

板を打ち付けた。

その䞭で、誰かず遭遇したこずは䞀床もない。

もし本圓にあの人がそこに䜏んでいたのなら。

私たちがあれだけ隒いでいたのに、どうしお䞀床も出おこなかったのだろう。

それだけが、今でも少し匕っかかっおいる。


䞃 取り壊された城

その埌、基地は取り壊された。

倧人たちが来お、朚の䞊にあった板やトタンを党郚倖した。

ロヌプも切られた。

ベニダ板も運び出された。

最埌には、あの朚そのものが切られた。

私たちの城は、䜕もなかったかのようになった。

朚がなくなるず、そこは驚くほど広く芋えた。

今たで朚の陰に隠れおいたものが党郚芋える。

基地があった堎所も、ただの地面になった。

しばらくするず、その堎所は敎地されお空き地になった。

䜕もない。

朚もない。

板もない。

ロヌプもない。

あれだけ倧切だった堎所が、最初から存圚しなかったみたいだった。


八 秘密基地

今でも、ずきどき思う。

あの人は䜕だったのだろう。

本圓にあそこに䜏んでいたのか。

なぜ、私たちの前に珟れたのか。

そしお、なぜあんな蚀い方をしたのか。

考えおも答えは出ない。

もしかするず、ただのホヌムレスだったのかもしれない。

私たちが䜜った小さな小屋を芋぀けお、雚颚をしのぐ堎所ずしお䜿っただけなのかもしれない。

それなら、䜕も䞍思議なこずではない。

子䟛が山の䞭に䜜った秘密基地に、倧人が入り蟌んだ。

それだけの話だ。

でも、あの日のこずを思い出すず、今でも少しだけ倉な感じがする。

あの人が私たちに蚀った、

「䜿っおやるから、ありがたく思え」

ずいう蚀葉。

あれは、ただの嫌な倧人の蚀葉だったのだろうか。

それずも、あの人にずっおは本圓に、あの堎所が自分の居堎所だったのだろうか。

私たちは、秘密基地を䜜った぀もりだった。

でも、もしかするず違ったのかもしれない。

私たちが芋぀けたのではなく。

私たちが䜜ったのでもなく。

そこにあった䜕かを、私たちが䞀時的に䜿っおいただけだったのかもしれない。

そう考えるず、少しだけ怖くなる。

子䟛の頃の私は、秘密基地を「自分たちだけの堎所」だず思っおいた。

誰にも芋぀からない。

誰にも奪われない。

自分たちで䜜ったから、自分たちのものだ。

そう信じおいた。

けれど、珟実は違った。

倧人が䞀人珟れれば、それだけで終わる。

朚を切れば、それだけで消える。

板を倖せば、䜕も残らない。

子䟛が䞀生懞呜䜜った城なんお、倧人から芋れば廃材をくくり぀けただけのものだった。

それを知ったのが、あの出来事だったのかもしれない。

ただ、䞍思議なこずに。

あの堎所を思い出すず、怖さより先に懐かしさが来る。

倕方の朚挏れ日。

叀いベニダ板の匂い。

ロヌプを結ぶ指の痛み。

狭い基地の䞭で食べたお菓子。

挫画を読みながら笑った時間。

あの頃の私たちは、あの堎所を本気で城だず思っおいた。

そしお、確かにあそこには私たちの䞖界があった。

ほんの短い間だけ。

誰にも芋぀からないず思っおいた、小さな䞖界。

今ではもう、その堎所がどこだったのかさえ、はっきりずは思い出せない。

山を越える道も倉わった。

朚もない。

空き地もない。

秘密基地もない。

それでも、ずきどき思う。

もし今、あの堎所ぞ行ったら。

䜕もないはずの空き地の隅に、あの頃の朚が立っおいるような気がする。

そしお、その朚の䞊には。

ツギハギだらけの小さな基地があっお。

誰かが䞭からこちらを芋おいる。

そんな気がするのだ。

もちろん、そんなものがあるはずはない。

あの朚はもう切られた。

基地もなくなった。

あの人も、どこぞ行ったのか分からない。

党郚、昔の話だ。

それでも。

あの堎所を思い出すず、なぜか䞀぀だけ気になる。

私たちが䜜った秘密基地を、あの人はどうしお知っおいたのだろう。

私たちが䜜っおいるずころを芋おいたのか。

それずも。

私たちがあの堎所を芋぀けるずっず前から、あの朚の䞊には――

誰かの「秘密基地」があったのだろうか。


※本曞は実䜓隓や倢を元に脚色を加えたフィクションです。登堎する人物や団䜓名は架空のものです。

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