歴史観の相違が鮮明な天皇家と高市首相 ―学校やコミュニティ、家庭で現代史を教える工夫が「高市早苗」を生まない
「文春オンライン」の記事に「『反省なんかしておりません』反戦、不戦の誓いに言及しなかった高市首相と天皇の“緊迫会談”」というものがある。
記事では天皇陛下と高市首相の歴史への姿勢の違いが鮮明にされている。高市首相は、右翼だが、自分たちの政治思想や歴史観に都合が悪い場合は、天皇陛下が戦争の反省について述べる機会まで奪うということか。実に不誠実で、姑息な印象を受ける。高市首相は皇室典範の場合もそうだが、皇室の考えに寄り添う姿勢がまるで見られない。
高市氏は、昭和100年記念式典(なんで101年目の今年催すか不明)で天皇陛下に一言も挨拶をさせず、自らの挨拶では昭和の時代に戦争があったと言うだけで、その挨拶は「先の大戦の後、昭和天皇は、全国各地を巡幸され、戦没者・戦争犠牲者のご遺族をいたわり、戦後復興に勤しむ国民の皆さまを励まされました。日本人は歯を食いしばって働きました。」といきなり戦後から具体的に話を始めた。

式典後、天皇陛下は宮内庁を通じて「過去の歴史から謙虚に学び、深い反省とともに平和を守る努力を続けることが大切」という感想を発表した。8月15日の全国戦没者追悼式でも天皇陛下は「深い反省」を口にしたが、高市氏からは反省という言葉はまったく聞かれることがなかった。
歴史観とか個人の価値観は家庭内の教育や親の考えや姿勢も重要な要素となるが、今上天皇の「反省」という想いは、上皇夫妻から引き継がれたものであることは言うまでもない。高市家では、親が日本の戦争責任を語るような家族環境はなかったということか。
皇室では上皇陛下が天皇時代の2015年に「戦後70年を迎え、過去を顧みるとき、さきの大戦に対する深い反省と共に、今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」と述べた。その翌年の1月に上皇夫妻はマニラ郊外の英雄墓地にある「無名戦士の墓」を訪れ、供花と黙とうを行った。当初は日本人戦没者のみの慰霊の予定だったが、天皇夫妻がフィリピン人戦没者の慰霊を日程に加えるよう強く希望したのだという。

日本の「フィリピン防衛戦」で日本軍の戦没者の総計は51万8000人、それに対して米軍戦死者は4万人近く、またフィリピン市民の死者はおよそ111万人と見積もられる。日本軍にとっては悪夢の戦場であったが、それ以上に日米の帝国主義間の戦争に巻き込まれたフィリピン人犠牲者たちにとってはこの上もなく気の毒で、日本人はフィリピン人に謝罪や反省をどんなに尽くしても足りないぐらいだ。
日本の占領政策を主導したダグラス・マッカーサーの父親アーサー・マッカーサーが米比戦争(1899~1902年)の指揮をとったが、その配下にあるジェイコブ・スミス将軍は「捕虜は望まない。殺害して焼き討ちせよ。殺害や焼き討ちが多ければ多いほど、私は喜ぶのだ。アメリカに敵意をもって武器をもつ可能性がある者たちはすべて殺すことを望む。」と語ったが(アメリカ・アーリントン国立墓地のサイトより)、日本軍のフィリピン占領はそのアメリカにとって代わるものだった。
上皇夫妻は、天皇時代の2005年にサイパン島、2015年に太平洋戦争の激戦地であったパラオのペリリュー島にも戦没者の慰霊に出かけた。こうした姿勢が今上天皇にも引き継がれていることは言うまでもない。

高市首相は家庭でも学校でも戦争の負の歴史を学ぶことがなかったのだろう。ドイツでは「1968年世代」と呼ばれる年代が中心になって、子供世代(第二世代)が親世代に対して「ナチス時代に何をしたのか」と問い質すようになり、家庭内でも過去の責任を暴く対話が始まったとされる。ドイツの「1968年世代」とは、1960年代末に反権威主義やナチズム批判を掲げて学生・抗議運動を主導し、その後の市民社会や政治文化を変革した世代のことをいう。学校教育の場でもドイツはナチスの惨劇を二度と繰り返さないために、加害者としての意識を忘れないための作業や努力を不断に継続している。

日本ではそのような問題意識は希薄なようで、歴史教育は古代史から順に教えるのが一般的で、そのため、授業の進行が遅れると、現代史に到達する機会が少なく、さらに大学入試でも現代史に関する出題が少ない。教員の側も社会的反発を気にして、無難な進め方をするのだというが、歴史は客観的に正しい過去の事実を語ればよく、そこで怖れることは何もない。中東研究の立場からはパレスチナ問題の歴史を語ることが多いが、正確な事実を伝える心構えをもっていれば非難や中傷が来ることはほとんどない。
サザンオールスターズの楽曲「ピースとハイライト」には、「教科書は現代史をやる前に時間切れ そこが一番知りたいのに何でそうなっちゃうの?」という歌詞があるが、学校教育の場でも現代史から教えるなどの工夫や大学入試でも現代史に関する出題を多くしたり、コミュニティの場で現代史を教える機会を設けたりすれば「高市早苗」が生まれることはないように思う。

※表紙の画像:愛子さまも上皇夫妻の歴史観を引き継ぐことだろう
戦後70年の特別企画展で説明を受けられる天皇、皇后両陛下と長女愛子さま=東京都千代田区の昭和館で2015年7月26日、代表撮影
https://mainichi.jp/articles/20190814/k00/00m/040/288000c
