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20世紀前半のエジプトの詩人が教える日本の本当の安全保障 -武器は外交によって無用の長物となり、防災費の充実は大勢の命を救う

 熊本地震を受けて、防衛予算よりも防災予算という声が上がるようになった。近年日本政府のタカ派的傾向もあって、防災費は年々削られ、防衛予算の数分の一という寂しい状態になっている。
日本が1923年に関東大震災の大惨禍に遭い、10万人余りの死者・行方不明者を出すと、この関東大震災の惨状を知ったエジプトの詩人アフマド・シャウキー(1868~1932年)は、1926年に「日本の地震」という詩を発表した。

「栄光の頂点にある東洋の帝国は、
その輝かしい威厳ゆえに人々の眼を眩(くら)ませる。
だが陸にあって鎧となる軍隊も、海上を守る艦隊も、
この帝国を〔震災から〕守ることはできなかった。
揺れ騒いだ日の晩にこの国を眺めたら、
人はそれを運命の手中にある小鳩かと思ったことだろう。」

 イギリスの帝国主義支配に苦しんだエジプトでも、アジアの小国・日本がヨーロッパ帝国主義の一角ロシアに勝利した日露戦争(1904~05年)に狂喜乱舞したが、その軍事的強国になった日本も震災には勝てなかった。熊本地震や東日本大震災を見れば、人間社会はシャウキーの言う通り「運命の手中になる小鳩」だ。

 古代から高度な文明を発達させたエジプトでは、1882年以降イギリス統治下に置かれたことによって、ヨーロッパ植民地主義に対する人々の反発が強まったことはいうまでもない。その日本がヨーロッパ植民地主義の一角であるロシアに日露戦争で勝利したことはエジプトでも日本に対する称賛の想いが沸騰した。

 ロンドンでの留学を終えた若き孫文が、帰国の途中スエズ運河を通過するためポート・サイードに立ち寄った際に、5、6人のエジプト人に取り囲まれ、「日露戦争で日本が勝ったらしいが、あなたは日本人か」と尋ねられた。孫文が「残念ながら中国人だ」と答えると、エジプト人たちは、「中国は日本の近くなのだから、どうか日本人に伝えてくれ。我々は、日本がロシアに勝ったことを我がことのように喜んでいると。我々も日本を見習って、植民地主義と戦っていきたいのだ」と語った。これは、孫文が1924年に来日し、神戸で「大アジア主義」と題する講演をした際に披露したエピソードだ。

 太平洋戦争緒戦における日本のイギリス軍への勝利は、エジプトの人々を奮い立たせることもあったが、この国でも原爆の悲劇を経ながらも経済発展で戦後復興を遂げた日本に対する敬意が生まれていった。1964年にナセル大統領は、「日本に学べ」と演説し、エジプトが日本の経済発展を模範とすべきことを説いた。また、イスラエルと親密な関係にあった米国とは異なり、日本製品はボイコットにほとんど遭うこともなく、エジプト社会に浸透していった。戦後の日本を貫いた「平和」や「民主主義」は、数次にわたる中東戦争や独裁政治を経てきたエジプトの人々にとっては憧憬の的であったことは疑いがない。


 エジプトの近現代史の対日観は、シャウキーの詩のように、国の安全が軍事だけでは保たれるわけではないことを教えている。またナセルの発言のように、日本が敬意をもたれるのは軍事大国ではなく、産業立国として発展したからだ。さらに、中東(パレスチナ)和平に公平な日本に対する信頼があったことを教えている。カイロにオペラハウスをつくったり、日本のアニメやドラマのコンテンツなどが親しまれたりしたように、文化の力も日本に対する良好な感情をつくりあげていった。

 今の高市政権の方針はこれらと逆行しているようにしか見えない。防衛予算は、トランプ大統領の歓心を買うように、GDP比2%以上になり、ガザで7万3000人もの人々を殺害し、イランにも不当な戦争をしかけるイスラエルとの防衛協力はしっかり維持している。産業立国のプライドを捨て、武器輸出も解禁し、日本は人を殺す兵器で利益を上げる恥ずかしい国になろうとしている。高市氏は、イスラムの人々が好感をもち、称賛してきた日本のイメージを放棄するようだ。元々、高市氏は日本がイスラム世界など途上国からどうして敬愛されたかなどの知識や理解を持ち合わせていなかったに違いない。

東京新聞22年6月3日の記事より https://www.tokyo-np.co.jp/article/181138


 高市政権が大量の購入に躍起となる弾道ミサイルは中国との外交をしっかりやれば、無用の長物で、誰の命を救うこともない。他方で、防災費用の充実は大勢の人々の命を救うことになる。住宅や公共施設の耐震改修が進むことで、地震による家屋倒壊や下敷きになる犠牲を防ぎ、また避難所・インフラの整備によって、避難生活での体調悪化や飢餓・脱水から人々は免れる。迅速な救助・医療体制の充実により消防や警察、自衛隊、医療チーム(公助)の装備や連携が強化され、被害者の生存率が高まる。政治家たちは政策の優先順位を間違えていないか、しっかり検討することだ。不要なものに莫大な金をかけても、国民は決して幸福にならない。


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