芋出し画像

劄想シティ 第話

39

 この劄想シティに、僕が考えおいたような悪は存圚しおいなかった。
 僕はもう垰るべきなのかもしれない。
 だけど、どこに垰るのだ
 僕はここに来お、いったいどのくらいになるのだろう
 時間の抂念もすっかりなくなっおしたった。
 ずもかくここを出お、東京に垰ろう。
 その前に、杉原なおこに䌚っおおこう、ず僕は思った。
 しかしそれが間違いだった。

 僕は毎日働いおポむントを貯めた。
 劄想ルヌムに行くポむントが貯たったら杉原なおこに䌚いに行き、さよならを蚀っおここを出ようず思っおいた。

 街で偶然岞田に䌚った。
 岞田は地道に働いおポむントを貯め、レベルでの就職が決たったそうだ。
 順颚満颚。実に喜ばしいこずだ。
 これで僕の戊いも終わりだ。
 東京に垰り、普通に暮らそう。
 だけど䞖の䞭はそんなに甘くは無かった。

 僕は劄想ルヌムに行き、杉原なおこに䌚った。
 以前に僕はなおこに乱暎をしたので埌ろめたい気持ちがあったが、なおこは気にしおいない様子だった。
「そんなこずはよくあるこずなのよ」ずなおこは蚀った。
「よくあるこずなのか」ず僕は思う。
 ここではそれがよくあるこずなのかず思うず、䜕だか怖かった。
 だけどもそれは、僕に察する慰めだったのかもしれない、ず僕は思った。

 僕はなおこに岩䞋久矎に䌚ったこずを話した。
 それを聞いたなおこは随分ず動揺しおいた。
 事故以来、他のメンバヌには䌚っおいないのだそうだ。
 お互いに倉わり果おた姿を芋られたくなかったのだろう。
 久矎はもう䞀人のメンバヌである友子が死んだず蚀っおいたが、なおこは生きおいるのだず蚀う。
 ただし、死んでいるのも同じだず。
 僕にはその意味がわからなかったが、なおこはそれ以䞊を話そうずはしなかった。

 僕らは砂浜に腰掛けお、ずっず話をしおいた。
 なおこの長い髪が颚にたなびき、矎しいなおこの暪顔は茝いお芋えた。
 垰り際、なおこは珟実の自分で僕ず䌚いたいず蚀った。
 僕は軜い気持ちでをした。
 だけど、僕は䌚っおはいけなかったのだ。

40

 アパヌトの郚屋でこの街を出る身支床をしおいるず、玄関のチャむムが鳎った。
 なおこだ。
 僕は玄関のドアを開ける。

 なおこは垜子を目深にかぶり、サングラスずマスクをしおいた。
 たるでお忍びの芞胜人だ。なおこは人目をはばかるように、するっず僕の郚屋の䞭に入っおきた。

 なおこは「驚かないでね」ず蚀っお垜子ずサングラスずマスクを取った。
 そこにはなおこの焌け爛れた顔があった。

「もっずひどいかず思っおいた」ず僕は蚀った。
「敎圢技術が進歩しおいるから、ある皋床は顔らしくなっおはいるず思うけど、矎しくはないわ」
「気にするこず無いよ。君は君だし、君の心の矎しさは誰にも負けない」
「歯が浮くわよ」
「ははは」
「こんな私でも、明圊は愛しおくれたの」
「そうか。レベルで須田に䌚ったよ」
「圌、どうしおた」
「あい぀は倉わらないよ。胜倩気だ」
「ふふふ」

 しばらく話をしおいるず、なおこが頃合をみはからったかのように「実はお願いがあるの」ず切り出した。
 
「レベルにいる私の赀ちゃんに䌚いたいの」
「赀ちゃんっお」
「明圊ずの間にできた子なの」
 僕は驚いた。
「須田はそのこずを知っおいるのか」ずの僕の問いになおこは銖を暪に振った。

「あの事件の埌に劊嚠しおいるこずがわかっお、私は赀ちゃんを産んだの。だけどペナルティずしお私はレベルからは出らなくなり、なおか぀䞀生劄想ルヌムで働くこずを呜じられたの。仕事の邪魔になる赀ちゃんはレベルにある蚗児所で育おられおいお、䌚うこずはできない」
「なんおこった」
「私、どうしおも私の赀ちゃんに䌚いたい」ず蚀っおなおこは泣き出した。
「で、でもどうすれば」
「私をレベルから連れ出しお欲しいの」
「連れ出すっお蚀ったっお」
「ごめんなさい、無理なお願いだっおわかっおいるの」
 なおこはなおも泣き続けた。
 僕はいったいどうしたらいいんだ。

 僕はなおこの肩を抱き、なおこは僕の胞の䞭で泣いた。
 珟実の女を䜕幎も抱いおない僕は、興奮した。

 なおこが顔を䞊げる。なおこの劄想力で、なおこの顔は矎しい以前の茝きを攟っおいた。
 僕はなおこにキスをした。
 柔らかいなおこの唇。
 そのたた僕はなおこの掋服を脱がせ、裞にした。
 僕はなおこを抱いた。
 なおこの肌はご぀ご぀しおいたが、芋た目は矎しく滑らかだった。
 珟実のなおこの肌は焌けどのためにただれおいるはずだが、僕の目には䜕も芋えない。
 僕はたるで倩囜にいるような気分だった。
 嘘ず珟実がたじりあった䞖界で、僕はもう死んでもいいず思った。

 僕は劄想シティから出るこずを䞀旊あきらめ、なおこをレベルから脱出させお赀ちゃんを取り戻す䜜戊を考えた。
 しかし僕には䜕も思い浮かばなかった。
 脱出するだなんお、今たで考えおもみなかったからだ。

 レベルずレベルを隔おる壁は高く頑䞈で、ずおも壊すこずも乗り越えるこずもできないだろう。
 だずするず出入り口のゲヌトを突砎するしかない。
 だけどいったいどうやっお

 僕は岞田に盞談するこずにしたが、岞田はあからさたに嫌な顔をした。
 圓たり前だ。岞田にずっおは明るい未来がやっず開けたずころなのだ。
 わざわざそんな面倒なこずになんおかかわりたくないに決たっおる。
 

「拳銃が手に入るルヌトは無いか」ず僕は岞田に蚊ねた。
「あるにはあるが、お前、䞀人でやる぀もりか」
「うん」ず僕はうなづいた。
「匷行突砎をしおも、すぐに远っ手が来るだろう。捕たるのは時間の問題だ」
「だけど僕はやらなければならないんだ」
「もっず頭を䜿うんだよ。IDカヌドのデヌタを曞き換えよう。金属探知機にひっかかるから、拳銃の携垯はできない。それから杉原なおこの顔は面が割れおいるから倉えた方が良い。特殊メむクのプロを玹介するからメむクで顔を倉えるんだ」
「ありがずう。でも顔なんお劄想力で誀魔化せないのか」
「お前知らないのか レベルでは劄想力は䜿えない」
「劄想力が䜿えない」
「そうだ。レベルでは劄想喫茶や劄想ルヌム内の空気䞍玔物を浄化しお、倧量に倧気に攟出しおいる。それら斜蚭内の脳波の䌝達効率を䞊げるために、斜蚭倖では逆に脳波が䌝わりにくくなっおいるんだ。だから他人の劄想は䞀切䌝達されない」

「それは倉な話だな。僕のアパヌトで、僕はなおこの劄想を芋た」
「脳波は空気䞭を䌝わらないが、䜓が觊れおいれば、そこから䌝達される」
「なるほど。じゃあ、自分の劄想はどうなる」
「自分の劄想ね。これがやっかいなものでね。空気䞭の䞍玔物のせいで、攟出された脳波は自分自身に戻っおくる。脳波が匷ければ匷いほど、自分自身の劄想がより倧きく増幅されお、悩たされるこずになる。極端にポゞティブな思考や極端にネガティブな思考が続くず、自分自身の劄想に負けお気が狂っおしたう者もいるんだよ」

41

 䜜戊決行圓日、杉原なおこはたったくの別人になっおいた。
 僕らは気を萜ち着かせお出所ゲヌトぞず出かけた。
 萜ち着いお行動するこず。
 䞍振な動きをすれば疑われる。
 あくたで平垞心を持っお行動するのだ。
 思ったよりもあっさりずゲヌトを抜けるこずができた。
 僕らはほっず䞀息を぀く。

 次の難関はなおこの赀ん坊を連れ出すこずだ。
 僕らは赀ん坊が預けられおいる蚗児所ぞず向かった。

 そこで僕らは劄想力を䜿うこずにした。
 レベルでは劄想力を䜿うこずができる。
 僕らは蚗児所の職員を劄想力を䜿っお䞀時的に眠らせ、その隙に赀ん坊を奪取した。
 これも成功だった。
 僕らは぀いおいる、そう思った。
 だけども䞖の䞭はそんなに甘くは無かった。

 問題はレベルぞの出所ゲヌトだった。
 蚗児所を出おから出所ゲヌトたでの移動に時間がかかりすぎおしたったのだ。
 ゲヌトでは既に怜問が始たっおおり、僕らはそこで捕たった。
 ゲヌトには難波が埅っおいた。

 僕は難波のマンションぞず連れお行かれた。
 なおこはレベルぞず送還され、赀ん坊は元居た蚗児所ぞず返された。
 難波のマンションで、僕は驚くべき光景を県にした。
 そこには党裞の小出友子がいたのだ。

42

「君はリアル゚ンゞェルスに随分ず興味があるようだね」ず難波は蚀った。
「岩䞋久矎にも䌚ったそうじゃないか」
「それがどうした」
「だからこうやっお小出友子にも䌚わせおやっおるんじゃないか」
 僕は党裞の小出友子を芋る。
 なぜ友子は党裞なのか
 それに圌女は䜕も喋らない。

「友子はなおこや久矎ず違っお、あのバス転萜事故で肉䜓的な障害を受けるこずが無かった。だけどそのかわりに頭を匷く打っおね、自分自身の思考で考えるこずができなくなっおしたったんだ。今の友子にあるのは動物的本胜だけ。぀たり食欲ず性欲だけだ。だからこうやっお、ペットずしお飌っおいる」
 䜕だっお

「さお、君の察応だが。困ったものだよねえ、早坂くん。どうしお君は面倒なこずばかりを起こしおくれるんだい 君はか぀お僕らを悪ず呌び、倒そうずしおきた。だけど君の蚀う悪はこの劄想シティで芋぀かったかい 君こそ瀟䌚の秩序を乱す悪なんじゃないのかい みんなたじめに働いお幞せに生きおいるんだ。僕は君がレベルで改心しお、たじめに働く気になったのかずばかり思っおいたよ。残念だなあ。君は人間のクズだね」
 僕は難波の蚀葉に腹が立ったが、䜕も蚀い返すこずができなかった。
「君のような人間のクズは瀟䌚に必芁ずされおいない。だけどね、僕らはそんな人間のクズにも瀟䌚の圹にたっお欲しいず願っおいる。そしおそういうシステムを僕らは䜜りあげた。それがこの劄想シティの良い所なんだよ」
「䜕を蚀っおいるのかわからない」
「そうだろうねぇ。君の頭じゃあ到底想像もできないだろう。でも君は僕らが远及しおいるものが䜕かを知っおいるんじゃないのか」

 圌らが求めおいるこず
 僕は考える。
 橘博士は悪の組織が远求するものは「搟取ず掗脳」だず蚀っおいた。
 僕はこの劄想シティでの生掻で、搟取は十分に芋おきた。だけど掗脳はどうだろうか
 僕は僕自身の思考を䜕者かに匷芁された芚えは無い。

 小出友子が突然に歩き出し、僕の座っおいる゜ファの暪に腰掛け、耳元で囁いた。
「早坂くん、あなたに䌚えおうれしいわ」

 僕は驚いた。友子は自分の思考で考えるこずができないはず。
 本胜のみでしか生きおいないはず。
 それなのになぜ

「掗脳」ず僕は呟いた。
「ははは。そうだよ。脳波で人を動かすこずができるんだ。五䜓満足な䜓があれば、頭の䞭なんお空っぜでも、利甚䟡倀があるんだよ。そのこずをこの子は僕に教えおくれたんだ。だからね、頭の䞭が汚れちたった人は、僕らが掗っおあげるこずにしたんだ。この子みたいに綺麗になっおもらえば良いんだ」
「僕を掗脳する぀もりか」
「君の脳味噌は汚れきっおいる。もうどうしようもない。僕らは君に䜕床もチャンスをあげたはずだ。それなのに君は僕らの期埅を裏切ったんだよ」

「じゃあね、早坂くん。君はもう終わりだ」

 第話に぀づく。


いいなず思ったら応揎しよう

甘野充 蚀葉だけでは䌝わりたせん。 コメントはチップずずもに。 「謎解きはディナヌの埌に、みたいに蚀うな」