季節の彼方でまた会いましょう #1 プロローグ
ゆらり、と彼が顔を上げた。
目が合った。
世界から、音が消えた。
闇の中、その瞳だけが見える。
息が、できない。
どれほど時が過ぎたのだろう。
永遠のような、一瞬――。

プロローグ
小説を、書いている。
あの長く短いひとときを、もう一度辿り直すように。
波のごとく寄せ返しながら遠ざかる、それでも消えない記憶を。
画面に向かい、幾度となく書いては消し、削っては足す。
けれどいくら書き換えても、紡がれるのは同じ言葉。
これはあなたと私の物語、そして、最後の手紙だから。
恋愛小説など読みそうにないあなただけれど、
もしかすると気まぐれに、手に取ることもあるかもしれない……。
キーを打ちかけて、手を止める――名前を変えなければ。
人も、場所も、何もかも。
あなたはまだ、あの場所にいるのだろうか。
白い蘭は、今も花を揺らしているだろうか。
女神の像は、今もすべてを見ているだろうか。
あれから私は、半分だけで生きています。
それだけで、幸せです。
(続く)
※この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、地名等はすべて架空のものです。
