「念のため」生きてみる~銀河の一票~
毎回名言に出会えるドラマ、というのはとても珍しい。その言葉を何度も味わいたくて、編集保存するほどでした。
「カルテット」「大豆田とわ子と三人の元夫」「エルピスー希望、あるいは災いー」といった、大好きな作品ばかりを手掛けた佐野亜裕美さんがプロデュース、脚本は「舟を編む」の蛭田直美さん。
しかもテーマは政治や選挙。「エルピス」では冤罪事件という扱いにくいテーマに果敢に挑み、政治に関して鋭く切り込むプロデューサーだと感じていたので、これはぜひ見なければ!と意気込んでいました。
果たして最終回まで、期待をまったく裏切らない、素晴らしいドラマが展開されました。そして毎回、銀河に輝く星のごとくに散りばめられた、珠玉のセリフに涙することになりました。
★「きれいごとじゃないよ、”きれいなこと”だよ。」
★「分からなくて・・・。なんのために生きてるのか。」
「念のため。あるかもしれないでしょ?また、甘いこと。ないかもしれないけど、あるかもしれないから。」
★「失敗じゃない。穴に落ちちゃっただけ。まっすぐ前見て、下向かないで、歩いてきたんだよね。だから落ちちゃっただけ。いいの、助けてもらって。穴から出れたら、また歩けるから。歩いてたら、誰かの助けてが聞こえるかもしれないよ?助けられるじゃん。知ってるんだから、どうすれば出れるか。でもその前に、できるだけ穴が開かないように。落ちたとしても、失敗だなんて思わなくていいような、穴から出れたら、また笑えるような、痛みを隠すためじゃなくて、心からわはは!って笑えるような、そんな社会、世界に。失敗なんかにさせない。そんなの誰にも思わせない。」
★「生きてよ。」
「何のために?」
「念のため。がんばるから。作れるように。誰も殺さなくていい、誰も死ななくていい世界。生きててよかったって思える世界。あなたも、私も。」
★「政治について考えるのは、政治家の仕事だと。私が背負っているのは国であって、あなたではないと。いちいち民意をすくい取っていてはきりがない。そんなものはきれいごとだと。でも、きれいな話をしましょう。きれいごとだと揶揄されることを恐れずに、諦めず探しましょう。銀河が、一つ一つの星が、輝き続けられる道を。世界と、あなたと、私の幸福のために。」
なんて素晴らしい言葉たちでしょうか。こんな台詞を紡ぎだすことのできる、脚本家の力に敬服します。さすが「舟を編む」を手掛けた脚本家。
また、「世界がぜんたい幸福にならないうちは、個人の幸福はありえない。」といった、岩手出身である宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」の言葉が随所に登場し、東日本大震災でのボランティア活動の様子が描かれたりと、東北地方への思いがベースにあるドラマでした。
そして東日本大震災から15年の時を経て、人々の意識が変わってしまったことも描かれています。あの頃はみんなで助け合い、他者のことを思っていたはず。なのにそんな思いはいつしか薄れ、自分中心の世の中になってしまっている。そこに警鐘を鳴らす作り手の思いを受け取りました。
さらには「解釈改憲」という言葉が出てきたことには驚きました。やや唐突さは感じたものの、ここで伝えておかなければ、という危機感や意気込みが伝わってきます。忖度することなくそのシーンを放送したカンテレにも、敬意を表します。
「最終的に悪い人がいないドラマだった。」とのSNSの書き込みを見ましたが、それは悪い部分だけで終わらせない、人物の描き方が秀逸だったからにほかなりません。
人は善人、悪人と簡単に分けてしまえるものではない。単純化できれば分かりやすいけれど、人とはもっと複雑なもので、善の部分も悪の部分も抱えて生きている。
だから悪いことをするかもしれないし、失敗することもある。それでも、もう一度立ち上がれる社会を作ろうという「きれいな」野望を感じました。
理想論を述べると、それはきれいごとだとか、現実的ではないとか、腰を折る人が必ずいるものです。特に私たちとその上の世代はそんな風に揶揄して、社会に諦めの空気を漂わせ停滞させてしまった罪がある。そして若い世代に負の遺産を残すことになってしまったと、申し訳なく思っています。
ドラマの中で、コロナ禍で仕事を失った50~60代のイベント関係者や、政界の因習に辟易し足を洗った秘書が、若い候補者の選挙活動を通じてキャリアを活かし、再び生きる実感を取り戻す姿が描かれました。
私たち世代はもう、自分が表に出てはいけない。若い世代を支えることに徹すればいい。そこではこれまでの経験が活きるし、生きている実感を得ることもできる。
ともすれば、負の遺産ばかり遺したことに対する罪滅ぼしが、すこしだけでもできるかもしれない。そんな私たち世代の生き方の指針まで示してもらえたと感じたのは、深読みしすぎでしょうか。
「きれいごと」を「きれいなこと」と言い切ってくれたこのドラマ。おかげで理想や夢を語り、それに向かって泥臭く生きてゆくことに、抵抗が薄れた気がします。
世界も、あなたも、わたしも、それぞれが幸せを感じ輝くことができる。でもハードルを上げすぎなくていい。「念のため」生きればいい。
なぐさめられ、はげまされ、勇気づけられたドラマでした。
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