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お寺と猫(猫を心から愛する人へ)

 「猫を世話するとその猫は幸せになる。さらに、その猫を世話する人は、その猫以上に幸せになる。
 私は、常時そう思っている。
 お寺に参詣すると、しばしば猫を見かける。
 猫寺として有名な「御誕生寺」では、たくさんの様々な猫が境内で寛いでいる。

御誕生寺

 お寺に猫が似合うのは、何故だろうか?
 猫がお寺を住処とするようになった経緯は、それぞれのお寺で異なるだろうが、共通していることは、ご住職が猫好きであること。
 猫の魅力は、何と言っても、自由奔放であり、自然体であること。そして、自分に正直である。
 お寺で生活をしている猫を見ていると、「心の欲するところに従えども矩(のり)を踰えず」を体得しているように感じる。七十にして、未だ心許ないわが身に照らし合わせてみると、尊敬の念を抱いてしまう。そんなことを思っていると、ここにいる猫たちすべてが「孔猫様」に見える。
 広い境内を好きな時に好きな所を歩いたり、寝転んだり、食事の時間になったら、指定の場所に集まって来る。
 あるお寺のご住職がそこに住む猫を指して「悟っている」と言われた。
 人間には、煩悩がある。その煩悩から逃れるために、悟りの状態を求めて修行する。人間にとって、生きることが終わりのない修行である。だから、「一生悟れないことが私の悟りである。」と言える。
 猫には煩悩がない。既に、成仏(悟りの状態)している。
 猫は、声聞(しょうもん)か、縁覚(えんがく)か、それとも菩薩(ぼさつ)か?※1
 ご住職の読経を毎日聞いている猫もいるだろう。その猫は声聞と言える。
 ご住職の読経をまったく聞かずに日々過ごしている猫は、縁覚なのだろう。
 しかし、どの猫も人間にとって、癒しの存在であり、忘れている心のゆとりをもたらしてくれる存在である。冒頭に、「猫を世話する人は、その猫以上に幸せになる。」と述べたが、猫は他者をも幸せに導くのであるから菩薩に違いない。
 だから、お寺に住む猫は、菩薩猫であると断言できる。
 お寺に参詣する際、仏像に合掌するとともに、見かけた猫にも合掌する。これが猫好きの作法と言える。

西明寺の猫 玄(くろ)

 先日、湖東三山の「西明寺」を参詣した。拝観の受付をするや否や青いリボンを首に巻いた黒猫がお迎えくださった。このとき、私に約束されたのは、極めて有意義な一日となることである。

蓬莱亭

 門をくぐると、池を蓄えたりっぱな庭園が圧巻である。私は、登山を趣味にしており、自然に勝るものはないと思っているが、この庭園は、自然に負けない妙味があり、見事だ。また、本堂へと続く道のりを進むと、辺り一面緑に輝く苔が実に美しく、彩色豊かな花とのコントラストを演出している。

 坂を上って、本堂に辿り着くと、国宝三重塔が存在感を顕している。屋根の反りが天から降り注ぐ光明を受け留めているかのようであり、どっしりとした本堂と鐘楼と相まって悠久の歴史に培われた佇まいに心が洗われる。

三重塔

 境内の佇まいに酔いしれながら、国宝一号指定の本堂の中に入ると、ボランティアの方が丁寧に説明をしてくださり、天井の構造の特徴を知ることができ、お寺の奥深さを味わうことができた。

本堂
本堂の正面に鎮座するなで猫 頭が人間の手あかで黒くなっている。

 ここでは、十二神将(じゅうにしんしょう)※2を干支になぞらえたお守りを提供している。私は、申年で、摩虎羅大将(まこらたいしょう)のお守りを授かった。

 不幸な「廃仏毀釈」や「戦災」を免れた歴史ある本堂内において、薬師如来に合掌することができたことに感謝するばかりであった。
 帰りには、黒猫の菩薩猫が再び姿を現してくださり、「よう、お参りくだされた。」と、ご縁を愉しんでおられるようで、ありがたいことこの上ない。

西明寺の猫 玄(くろ)

 猫は、この世で存在する最も素晴らしい生きもので、その生きものが存在することは奇跡である。
 猫の社会には、欲にまみれた犯罪も戦争もない。
 ましてや、世界を支配する大国の権力を濫用する狂った老人もいなければ、それをまともなものとして扱う醜悪なものどももいない。
 猫に学ぶことは多い。
 今日も、菩薩猫は、境内の散策を愉しんでおられる。

※1 声聞とは、仏の教えを聞いて悟りを求め、修行する者。縁覚は、独力で悟りを求め、修行し、悟りを開いた者。菩薩は、悟りを求め、さらに他者をも導き、悟りを開かせようと修行する者で、仏になる前の段階。
※2 十二神将とは薬師如来の眷属(けんぞく)である十二夜叉の総称で、別名を十二薬叉大将、十二神王ともいう。(仏尊の事典/関根俊一編)

【参考】JR河瀬駅と「西明寺」への往復は、「愛のりタクシーこうら」を利用した。往復とも要予約、時刻表あり。「西明寺」のホームページの「アクセス」に詳細な案内がある。

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