適応する夫と、固まる妻
~26歳下セネガル夫とのチグハグな週末婚の記録~
夫は挑戦する。
日本食の話だ。
正月には私の実家で雑煮を食べ、餅を初体験。
回るレーンに興味津々で動画を撮り、回転寿司を楽しむ。
生卵はどうかと実験的に提供したかま玉うどんもぺろり。
「ネハネ!」(おいしい!)といいながらバクバク食べる。
見てるこっちがスカッとするほどだ。
ただ味が微妙なときの「ネハネ」は驚くほど弱々しく、非常にわかりやすい。
なんでも果敢に挑戦するが、やはりハラーム(イスラムの禁忌)には手を出さない。
アルコールと豚肉だ。
ハラームは細かくて、タツノオトシゴ・ウミヘビなど、それ食べないでしょってものも禁止されている。
焼きが弱い肉にも手を出さない。
これはハラームではなく「お腹壊すから」とのこと。
「もう食べられるよ」と勧めても、少し赤みの残った焼肉は存分に火を入れる。硬くなってもウェルダンだ。
故郷では肉の管理が日本と違うだろうし、慎重にならざるを得なかったのかもしれない。(偏見アゲイン)
ある日曜の昼。
日本そばを茹で、薬味を刻んで夫の家に向かった。
めんつゆにさば水煮缶をほぐして、大葉やミョウガなどの薬味を入れた簡単な冷たいそば。最近気に入ってよく食べる私のお昼だ。簡単に準備ができるので、夫のワンルーム極狭キッチンでもストレスがない。
薬味のクセが無理かもしれないと思い、先に聞いてみた。
「これ食べてみる?」
初めて見るミョウガ。
香りを嗅ぎ、細切りをつまんでパクリ。
「うん、大丈夫。挑戦するよ」
頼もしい返事に背中を押され、チャチャっとサバ缶そばを盛りつけた。
「日本のパスタだよ」
丼を手にした夫。
とたんに瞳が曇る。
「…これ冷たいね」
「そうだよ、冷たいそば」
「ぼくは温かい食べ物じゃないと食べられない」
えー!初耳である。
あんた、寿司だってサラダだってコンビニのおにぎりだって、温かくないものも食べてたじゃないか。
なんで今更?なんでー?
「温かくないものは、気持ちが悪くなるんだ」
拒絶された気がして、私は身動きが取れなくなった。
すると夫は、フライパンに油をひいてサバ缶そばの入った丼をぶちまけた。
マジか!
ミョウガも大葉も炒めちゃう?炒めたサバ缶の匂いが立つんじゃないか?
気持ちを立て直せず突っ立っている私をよそに、夫は素晴らしいリカバリー能力でサバ缶炒めそばを仕上げていった。
たくましい適応力…って感心している場合ではない。
サバ缶炒めそばを食べた夫が放つ。
「ネハネ!」
本当においしかったときよりトーンが低い。
(まぁ、ネハネって言うならいいか)と腹落ちさせたものの、モヤモヤは残る。
夫はそばを「火の通っていない炭水化物」と認識したのか?
パスタと説明したのに、冷たかったので混乱したのか?
冷たい麺という発想はないのか?
「寿司も冷たいけど食べたでしょ。なぜそばは温かくなければいけないの?」
「これは寿司じゃない」
わかっとるわい!
翻訳アプリを使っても、今ひとつ納得できる答えは返ってこない。
ただ、夫は「食べられない」で終わる人ではなかった。
食べられる形に変えて取り入れる。
気持ちの温度は低いが「ネハネ!」と言う。
その適応力は見習いたい。
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