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モデルナが「mRNAがんワクチン」開発で画期的な進展

中国経済に精通する中国株投資の第一人者・田代尚機氏のプレミアム連載「チャイナ・リサーチ」。今回は、モデルナとメルクが取り組むmRNAがんワクチン開発の画期的な進展と、バイオ医療分野で存在感を高める中国企業についてレポートする。

フェースIII臨床試験の結果を受けてモデルナ株が急騰

 新型コロナ禍を通じて一気に社会に広がったmRNAワクチンだが現在、開発テーマは予防ワクチンから治療用ワクチンへと広がっている。特に、個別化新抗原ワクチン(がん細胞だけに現れる変異由来の抗原を患者ごとに特定し、その情報をもとにオーダーメイドで設計するワクチン)が研究開発のテーマとして脚光を浴びている。

 モデルナとメルクは8月19日、共同開発している個別化新抗原ワクチンについて「1137名の高リスク・メラノーマ患者に対してフェーズIII臨床試験を実施、メラノーマの再発、拡散予防に効果があることを証明できた」と公表した。

 世界で初となる大規模臨床試験の成功であるが、この種のワクチンはメラノーマに限らず、非小細胞肺がんや、結腸、膀胱、腎、すい臓、胃など様々な部位がんへの適用が期待されている。株式市場もこのニュースに大きく反応し、モデルナ(NASDAQ・MRNA)は8月18日の株価62.96ドル(終値)から翌日は株価174.38ドル(終値)へと177%もの急騰を見せ、その後も高値圏での推移が続いている。

 個別化新抗原ワクチン治療について、できるだけわかりやすく説明すれば、まず、患者からがん組織の一部と正常な血液を採取し、実験室において両方の遺伝子を完全解読し、がん細胞だけに存在する変異(新抗原)をAIを使って予想し選定する。その新抗原の設計図を基にmRNA(ペプチド)を化学合成し、LNP(脂質の膜)で包んでワクチン化する。それを腕などに複数回(たとえば3週間ごとに最大9回)注射する。必要に応じ免疫チェックポイント阻害薬などを併用しながら、がん細胞の増殖を防ぐ。

 ちなみに、免疫システムを使ってがんを攻撃するといった点で同じCAR-T細胞治療(血液がんなどの治療)では、遺伝子改造されたCAR-T細胞ががん細胞を攻撃するのに対して、個別化新抗原ワクチン(固形がんなどの治療)では化学合成されたmRNAが体内にがんを攻撃するよう多様なT細胞の中から必要となるものを強化することでがん細胞を消滅させるメカニズムだ。

中国の新興バイオ企業・大手医薬メーカーの参入

 康希諾生物(06185:香港メインボード、688185:上海科創板)は8月26日、同社子会社である康希諾(上海)生物研開と徳普世(杭州)生物科技がmRNA個別化治療型腫瘍ワクチンの共同開発に関するストラクチャー協議を交わしたと発表した。同社は乏突起膠腫(脳腫瘍の一種)、横紋筋肉腫、子宮頸がんなどのmRNAワクチンの研究開発や、In Vivo CAR(CAR-T細胞を患者の体外ではなく、体内で直接T細胞をCAT化する技術)に関連する治療法の開発を行っている。康希諾(上海)生物研開の持つmRNAに関する技術と徳普世(杭州)生物科技のもつがん新抗原発見、設計に関する技術を組み合わせることで、早期商品化を目指す方針のようだ。

 そのほか、恒瑞医薬(01276:香港メインボード、600276:上海A株)、石薬集団(01093:香港メインボード)、雲頂新耀(01952:香港メインボード)などが個別化新抗原ワクチンの臨床試験に進んでおり、新興バイオ企業、大手医薬メーカーの参入もあり、中国全体でこの分野の研究開発が進んでいる。

 一方、康希諾生物はアストラゼネカとの間で、mRNA製造プラットフォームを活用した受託製造事業も行っている。モデルナは和鉑医薬の子会社と提携関係にあり、共同でHCAb(通常の抗体から軽鎖を除いた重鎖だけの抗体)製造プラットフォームを利用した遺伝子免疫治療法の開発を進めている。そのほか、鍵凱科技(688356:上海科創板)からmRNAワクチンのデリバリーシステム(LNP:リポナノ粒子)に不可欠なPEG誘導体の供給を受けている。

バイオ医療でも存在感を高める中国企業

 欧米のワクチンメーカーにとって中国企業は単なる競合先というだけでなく、mRNA原料などの供給元、研究開発のパートナー、受託製造元(製造能力の補完パートナー)といった関係にある。

 mRNAワクチンの開発を始めたのは欧米企業であり現在でも、個別化新抗原ワクチンにおいて先端技術で先行しているのは欧米企業であろう。ただ、中国企業はサプライチェーンの一部として原材料を供給したり、研究、製造の下請先として技術を吸収し、自らも開発を進めている。臨床前、早期臨床段階では欧米企業との差を縮めている。とはいえ、大規模、ランダム化、比較試験として行われるフェーズIIIについては依然として差は大きい。

 一方、中国には欧米で学んだ優秀な研究者がある程度揃い、政府による支援もあって開発資金も潤沢だ。人口が多いこと、医療分野のイノベーションを加速するために政府が管理体制の効率化、規範化といった改革を続けていることもあって、臨床試験の効率が高く、進展速度も速い。周辺産業に厚みがあって製造コストが安いといった優位性もある。

 コンシューマーエレクトロニクス、新エネルギー(太陽光パネル、風力発電など)、リチウム電池(電気自動車)では先行した日米欧企業が中国企業に市場を奪われた。AIでもLLMのコモディティ化により、後発の中国企業が米国企業に脅威を与えており、人型ロボット技術では既に世界の最先端にある。従来、米国の優位が揺るがないとみられたバイオ医薬の分野でさえも、中国のイノベーション力は存在感を高めている。

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